魔物よけテント
「これ、どげん思う?」
パチパチと木の枝が爆ぜる音と共に、福岡鮭が誰に言うともなく呟いた。崖の窪みの中から、焚き火の煙が外へと流れて行く。
「体操着入れくらいの大きさの袋にテント3つ、手鍋、レトルトパックのカレーとご飯、2リットル水6本……。これは非常用袋ですね。凪子さんが心配して用意してくれたんでしょうか」
品川浪人が真剣な表情で答えた。
確かに武器屋のおじいちゃんがテントを奥の部屋に持って行き、しばらくしてからまた現れ、この中に入ってると渡してくれた袋だから、その時水なども入れてくれたんだろうけど……。
「それもそうなんだけど」
「それが入るっちゅうが問題ぜよ」
私の後に高知鰹が言葉を続ける。
「まあ、考えてもしゃーない」
「そうだね、これは試作品で、俺たちはその感想をギルマスに言う。それだけだよ」
大阪蛸と八王子王子の言葉にみんなが頷いた。
「じゃあどうします? えっと、1日目の昼は各自おにぎり持参、今日の夕食担当は僕です。実は今日、カレーにしようと、僕も持ってきてるんです」
品川浪人がガサゴソと自分のリュックから、ビニール袋に入れた生米と、ジップのついた袋に入った、すでに炒められた豚肉と、玉ねぎ、じゃがいも、ニンジン、カレールー1箱を取り出す。
「浪人、お前分かっとんなぁ。キャンプの夜はカレーや! レトルト見て更に口はカレーを求めてたんや!」
「生肉が傷むと思って炒めてきたのね。えらいえらい」
「カレー、最高ぜよ」
「イイね。腹減ったよ」
「ギルマスのレトルトは非常用でとっとぉとー。使わんかったら返せばよか」
「そうですね! じゃあ準備します!」
調理器具、食器担当の高知鰹が持ってきた5合炊きハンゴウ2つでご飯を炊き、大きめの鍋でカレーを作った。鍋をかき混ぜるそばから、美味しそうなカレーの匂いが漂う。
「はあ、いい匂いねえ」
グエッ……
カレーの匂いを堪能しながら、窪みの入り口で見張り番をしていると、近くでカエルの鳴き声がしてすぐ静かになった。
「……ねえ、今カエルの声がしなかった?」
「おお、米が立っとるばい! やるな、鰹」
「たまにキャンプ行くき、こんなん朝飯前ぜよ」
中を振り返り、ハンゴウの蓋を開けて感動の声を上げているみんなに確認する。
「いえ、特には! それよりできましたよバタ子さん! 食べましょう!」
大阪蛸と八王子王子が、ラップを敷いた皿にご飯をよそっていく。そうすれば皿を洗う水の節約になると、高知鰹が教えてくれたのだ。
森の茂み側も草木一本揺れないし、静かだし、大丈夫だろう。
「あ、私も大盛りね!」
窪みの入り口から立ち上がり、美味しそうな匂いのする方へ向かった。
「ギルマスが言っていたのは……。ここに魔石を入れるらしいわよ?」
焚き火を消し、テントが3つ入るよう場所は確保した。でも布でできたテントを広げても、ただの大きな布一枚。その黒い布端に小さなポケットがついていた。マジックテープで閉じられた部分をベリベリと剥がす。ポケット中をひっくり返すと、小さな模様が白く描かれていた。
「ねえちょっとこれ『魔法陣』じゃない?」
無理にひっくり返しているから歪んでいるけど、確かに円形、幾何学模様となにかの文字が描かれている。
「……ほんまや」
「『魔石鑑定器』とはまた模様が違います!」
「とにかくビッグティックの魔石を入れてみよう」
八王子王子が自分のリュックのサイドポケットから魔石を取り出し、その中に入れマジックテープを閉めた。ポケットの黒い布が一瞬だけ光った途端、ムクムクとテントが起き上がった。まるで布で隠れていた地面から、人が中に現れたように揺れている。
「黒シーツお化けみたいですね……」
品川浪人がちょっと後退し、私の陰に隠れた。
ちょっと、なんで女性の陰に隠れるのよ!?
そうしている間にもゆらゆら揺れる黒シーツは、両手を広げ中でクルクル回っているかのように広がっていき、とうとうピラミット型のテントが出来上がった。
「……ちょっと入ってみてよ、鮭リーダー」
私が呟くと、
「鮭リーダーって……」
そう言いつつ、真ん中で合わさった布をめくり、中を伺いながら入っていった。
「これはよかばい!」
テントの中から福岡鮭の嬉しそうな声がして、みんなが布をめくり入る。
中心部は高さ2メートルくらいで、3畳ほどの四角い地面はむき出しだが、持ってきたピクニックシートを敷けば問題ない。3人が寝袋を並べて寝るには丁度いい広さ。何より嬉しいのは、中が夜のように暗いことだった。
「良かった。俺暗くないと眠れないんだよね」
八王子王子がほっとしたように言う。
「私も」
ダンジョンは夜にはやっぱりならなかった。外は来たときと同じ明るさだ。私も寝る時は暗いほうが良い。
「でも確か……」
パンッ
私が手を一度叩くと、暗かったテント内が暖色系の明かりがついたように明るくなった。
「おお……光源はどこや?」
大阪蛸が辺りをキョロキョロする。
「どうやらテント自体が光ってるみたいです!」
「でも外は黒い布のままだよ」
テントから出た品川王子が、外から声をかけてきた。
もう一度手を叩くとまた夜のように暗くなる。オンとオフだわ。
「……もうわしは、驚かんぜよ」
呆然と突っ立ったままの高知鰹が、表情とは真逆の言葉を呟いた。
「僕はもうびっくりしっぱなしで、疲れちゃいました」
品川浪人が大きなあくびをする。
「そうね、もう休んで明日に備えましょう。いよいよ5階、宝探しよ」
明日は宝箱を本格的に探す。絶対みんなで見つけてやるんだから!
読んでくれてありがとうm(_ _)m 誤字報告もありがとう!




