オフ会
「ふうん、ここが品川ダンジョン……やっぱり大きいわね」
平日の朝にも関わらず、ロビーには30人程の探索者がいた。ダンジョン情報をパソコンで見たり、掲示板に貼られたカフェや武器屋情報を真剣な顔で眺めている。
「高田さん、お待たせしました。お気をつけて! 行ってらっしゃい」
綺麗なギルド職員に呼ばれ、黒い革の胸当てと、同色のプロテクターを両手足につけた厳つい男が、軽く頷きカウンター横の通路に消えていく。背中には日本刀を背負っていた。
あの人ガチ勢ね。レベルも高そう。っていうか平日朝からダンジョンに潜る人は、ほぼ探索者一本に絞った人よね。
あの全身フル装備の革鎧を着た人、あれは絶対戦闘職。紺色の耐火性ローブを身に着けている人は、魔法使い? なんの魔法使えるんだろう? 火魔法だったら羨ましいなぁ。魔力量どれくらいだろ?
ふむふむと、探索者の観察をロビーのソファーでしていた私の頭上で、
「あの! 神秘!」
大きな声が降りかかる。横を見上げると黒いツナギに革の胸当てをつけた、高校生くらいの男の子がニコニコして立っていた。
「……解明」
周りに聞こえないよう小声で答える。
「やっぱり!『北海道バター』さんですね! いやあ、こんな綺麗なお姉さんとは! 僕は」
「『品川浪人』でしょ?」
「凄いです! 当たりです!」
目を見開いて本気で驚いている。
わかるっしょ? 書き込みのままだもん。
品川浪人の元気な声がロビーに響き渡ると、数人の男が近寄って来た。
「……神秘」
「解明!」
「……こん合言葉おまんか? おまんが考えちゅうが?」
「僕じゃないですよ!? 『大阪蛸』さんでしょ!?」
「俺ちゃうわ! めっちゃ恥ずかしっ! 『福岡鮭』に決まっとるやろ!?」
「なんば言うとぉ! こんなんセンスなさそうな『高知鰹』に決まっとおばい!」
「おんしゃあ、なに言うよるがー」
「なんで? いい合言葉じゃん?」
「…お前かい『八王子王子』」
「アナタたち、もう仲良くなってるの?」
呆れたように言う私を、みんなが一斉に振り返った。
「なってない!!」
「はい!」
「まあとりあえず、パーティー組みますか。私は北海道バターよ。よろしくね」
そう言って左手首をつき出す。
「そ、そうやな。よろしゅう」
私よりひとつ上の23歳。身長は高知鰹と同じ170ないくらいだろうか。ツンツン頭のややツリ目『大阪蛸』が私の手首を握った。
「わしも」
『高知鰹』はたくましい漁師のような風貌。一番初めにギルマスを雁屋二葉さんと勘違いして逃げ出したとは思えないわ……。
「よろしく」
ちょっと恥ずかしそうに高知鰹の手首を掴んだ『福岡鮭』は、面倒見の良さそうなお兄ちゃんタイプ。歳は私と一緒22歳。
「みんなイメージ通りだよ」
そう笑いながら福岡鮭の手首を持ったのは、20歳の爽やかイケメン『八王子王子』
「皆さんにお会いできて、こうしてパーティーを組めるなんて嬉しいです!」
八王子王子の手首を握り、嬉しそうに笑う19歳『品川浪人』の手首を、最後は私が握る。
「ほんとね、それにしても」
星F18/4158 タカダシュウイチ Lv16
星F19/4158 オオジソウスケ Lv15
星F20/4158 ヤマモトイチタ Lv15
星F21/4158 フジイミク Lv14
星F22/4158 スガワラアツシ Lv14
星F23/4158 イノウエサトル Lv13
「見事なFランクパーティーたい……そして俺がこの中で一番ランキングがうえっちゃ」
福岡鮭ことタカダシュウイチがニヤッと笑った。
「どうなっちゅう……わしがいっとう低いき……歳か? 歳のせいか?」
頭を抱えたのは高知鰹ことイノウエサトル38歳独身。
「俺かて大阪ギルドならトップやぞ?」
呆然とタグスクリーンを見つめ、手を離した。途端に輪になった中心に現れていたスクリーンが消え、手をつないだ大人たちが残る。ちょっと気恥ずかしくなりながら、そっとみんな手を離した。
「で、でもみんな似たりよったりよ。同じレベルでのランキングの差はほぼ無いに等しいって、ダンジョン情報にも書いてあったし。確かFランクはレベル10から19だったかな。レベル20になればEランクよ、みんな」
「そうですよ! 皆さん社会人だから、働きながら潜ってるんですよね? 潜った時間の差だと思います! 僕は浪人生だから、恥ずかしいです」
品川浪人ことヤマモトイチタの言葉に、八王子王子のオオジソウスケとタカダシュウイチが顔をそらした。
「ねえ、名前どうする? タカダさんとか、スガワラさんとか?」
「……もう大阪蛸で慣れとるから、俺は蛸でええで?」
「わしも鰹でええけ」
「俺も王子で」
「俺は鮭か……王子、羨ましかぁ」
「じゃあ私バタ子で」
「なんか聞いたことあるような名前やな……」
「僕は品川で良いです!」
「分かったばい、浪人たい」
「じゃあ名前はいいとして」
そんなーと叫ぶ浪人を置いといて、話をすすめる。これじゃあいくら時間があっても足りない。
「みんなの武器とスキルは知っておいた方がいいと思うの。これから品川ダンジョン、2泊3日の強行宝探しオフ会をするならね」
私の言葉に、全員がこくりと頷いた。
読んでくれてありがとうm(_ _)m良いオフ会だなあ




