武器は相棒
「おはようございます」
朝8時30分、カフェ店員3名、武器・装備販売員2名、受付3名のギルド職員全員がロビーに集まる。いつもこうして9時の開店前に、ミーティングをするのが決まり事だ。
「おはよう、みんな。今日は公安の人が来る予定なの。でもいつも通り笑顔で、命張ってる探索者のお迎え、送り出しをお願いね」
ギルマスがにっこりと笑ってみんなに喝を入れる。
「はいっ」
全員が声を揃え返事をした。
他のギルドは分からへんけど、この一体感、あたしは大好きやねんな。はあ、それにしても……。
うっとりとギルマスを見つめている間に、カフェスタッフの新メニュー説明が終わって解散となった。
「今日もひとみさん、綺麗だったねっ」
さっさと前を歩く、ガタイのいい同僚に駆け寄る。
「チビ助、毎朝同じこと言ってんな……」
同僚だけど年上の大地くんが、呆れたようにあたしを見下ろした。182センチ100キロの大地くんからしたら、149センチ45キロのあたしはチビ助扱いだ。
「あたしはチビ助じゃなーい。麻里よ」
「チビ助が名前呼ぶなって言ったんじゃないか」
「フルネームで呼ぶなって言っただけやん」
「……で、麻里さん、他になんか言いたそうだな」
面倒くさそうに頭をかいた。
「ん? あー、ひとみさんが言ってた公安って、なにしに来んのかなって。新しいカフェメニューを嗅ぎつけたとか?」
「ダンジョンと、それを統括するギルドの事だろ?」
険しい顔をしてまた早足で歩き出す。
そこは、なんでやねん! ってツッコミどころやろぉ? 東京出身の大地くんは腕は良いけど、ノリがいまいちやねんなぁ。
「チビ助、弓と斧と薙刀、メンテ残ってるぞ」
武器・装備販売ブースへ先に入った大地くんが、店から顔を出した。
「そうだったっ」
あたしと大地くんが働くのは、ギルド2階にあるこの20畳ほどの店だ。売っているのはダンジョン用品。ガラスケースの中には武器の見本が飾ってあり、壁沿いの上下二段、横に伸びたステンレスポールには、防刃シャツ、パンツ、ローブ、ワンピースなど、様々な種類の探索者用の洋服がかかっている。他にもブーツやグローブ、胸当て、各種素材の鎧もあった。
レジ横の棚には低級から高級までの生命力回復ポーション、魔力回復ポーション、造血剤や毒消し剤と、彩り豊かな液体瓶がところ狭しと並んでいた。
この洋服屋と雑貨屋が合わさったようなごった煮感が、探索者たちに好評だったりする。
あたしは店の奥にあるドアから倉庫部屋に入り、メンテ待ちの棚から、童話の木こりが持ちそうな斧を手に取った。
「唯さんかな? うーん渋めの作りだから定じい様作?」
「早川さんだろ」
いつの間に大地くんが後ろに来て、洗い場に剣鉈を持っていくと、低い木椅子に座った。
「早川さんかぁ。腕上げたよね」
うんうん頷くあたしに、ああと無愛想に頷くと、研ぎに集中しだした。
シュッシュッと、規則正しい、耳に心地良い音が響く。
3ヶ月前、千駄木グルーブ新部署員募集の面接で、初めて徹様に会った時も放っているオーラに驚いたが、採用されたのにはもっと驚いた。
後で分かった事だけど、鑑定と手忠実とかいう器用スキル持ちのあたしと大地くんが、定じい様と唯さん、装備のつぐみさんの所で2ヶ月の研修を終え、大阪ギルドに配属されたのが1ヶ月前。
激動の3ヶ月やったなあ……。総務で毎日パソコン叩いとったのに。募集要項がゲームやファンタジー小説好きやったから受けたけど、あれよあれよという間にここにおる。人生何があるか分からへん。でもダンジョンには二度と潜りとうないわ……。
あんなん怖すぎっ。
「なぁ、大地くんはガタイが良いんだから、探索者にもむいてるのに、なんで武器屋? やっぱり虫の魔物が嫌だったん?」
刃先を確認している大地くんの背中に、なんとなく聞いてみる。
「チビ助と一緒にするな。……ダンジョンに潜って魔物と戦って思った。銃や爆弾でヤッた方が効率的だってね。でも日本じゃどっちも一般には手に入らない」
だからチビ助じゃ……まあええわ。
「そうだよね。それが日本の良いところでもあるけど」
「ダンジョンガイドとして一緒に潜ってた人が言ってたんだ。使ってた曲剣を見せてもらった時、この剣は相棒だって。危ないところを何度も助けてもらったんだって」
刃先を確認し終わって、また研ぎだす。
「俺は、定じい様みたいに武器は作れないけど、探索者の相棒の調子見ることはできる。自分のできることで、命張ってる探索者の力になりたい。そしていつか、その人の相棒を預けてもらえるようになりたいんだ」
「……あ、ひとみさんがいつも言ってる事のパクリや」
「……バレたか?」
「デレデレや」
あたしが笑うと、
「デレデレはしていない」
と、大地くんが真顔で振り返った。
そこは、バレバレやろ! が欲しかったわぁ。やっぱりいまいちや。言ってる事はカッコええけどね。
「あたしも相棒メンテ、頑張るわ」
そろそろ探索者たちがやって来る時間だ。
読んでくれてありがとうm(_ _)mギルドにはいろんな人が働いております




