報告会
「遅れてすみません」
「すみません。……あ、エミあそこがいいですよ」
頭をペコペコ下げながら会議室に入っていく遠野さんの前を、金色ふわふわ頭のエミーナが、とととっと駆け出し、先輩の隣の椅子にちょこんと座った。俺も最後に会議室に入り、ドアを閉める。
今日は千駄木オヤジ、長からの緊急招集で、会議室にはギルドマスターの面々、千駄木家、澤井さん、冬馬、櫻井先生、ゆん、定爺まで全員が揃っていた。
「航、美波は?」
先に座っていた母さんがひそっと話しかけてきた。
「カフェで覚えたコーヒーの入れ方をキッチンで実践中」
「そう。あの子頑張ってたから」
母さんがふふっと悲しげに笑った。頑張っている美波を近くで見られるのが嬉しいのだろう。千駄木オヤジが来い来い手招きをするので、仕方なく徹さんと千駄木オヤジの間の椅子に向かう。
「久しぶりだな、航平君。P様とマシロは一緒じゃないのかい?」
座っている面々に無言で頭を下げていると、先輩が話しかけてきた。
「ダイニングでデカいパフェを食べながら、新米探偵のDVD観てます。あ、先輩、経済ニュースの『開拓者たち』に取り上げられていたでしょ? 観ましたよ」
3分ほどのニュースに、先輩が電気事業に新たな風を起す開拓者として取り上げられていた。
「ああ、あのあと問い合わせの電話が凄くてな。でも魔石で電気作っていますなんて言えるわけがないから、躱すのが面倒くさい。今はまだ、な。……クククッ」
「気をつけてくださいよ? 良からぬことを考える輩がいるかもしれないし」
「確かに。過剰防衛にならないよう気をつける。クククッ! フゴッ。失礼」
「航平くん、座ってくれ」
千駄木オヤジが改まって俺にいった。何だか様子がおかしいような……。俺が千駄木オヤジの隣に座ると、徹さんが軽く頷き集まったメンバーを見渡した。
「ギルドが始動して2週間が経ちました。今現在の各ダンジョン探索者登録数、男女比、年齢はこの通りです」
各ダンジョンの統計が、徹さんが立つ横のスクリーンに映し出される。
「やっぱり品川が多いですね。次いで八王子、大阪。成人男性が多い都市に集中している感じですか」
櫻井先生が眼鏡を押し上げながら呟いた。
「ええ。ですが日本の18歳から40歳までの人口は男性16,002,000人、女性15,310,000人。そう考えれば品川の121人でも、まだごく少数と言えます」
徹さんがにっこりと微笑んだ。慣れている千駄木家の二人と耐性を持つ俺以外の皆が、ほうっと息をつく。……母さんまで!?
「失礼します」
トレイに大量のコーヒーカップ、オレンジジュースを乗せ、ポットを持った美波が会議室に入ってきた。……さすがランキング2位、力持ち。澤井さんがさっと動き、エミにオレンジジュースを置くと、美波と一緒にコーヒーを皆の前に置いていく。
「ありがとう、美波ちゃん。あの良いですか? 福岡は登録者34名なんですが、週末が休みの人が多くて、ダンジョンに潜られる日が土日に偏ってます。今はまだ余裕がありますけど、今後混雑してきたらどう対応しようかと」
美波にコーヒーのお礼を言ってから、二葉さんがそう手を上げると、
「北海道もそうです」
「八王子も。ぜひお伺いしたいです」
巫女姿の紅音さんと、スーツを着た遠野さんも手を上げた。
「高知はバラけてる感じがするなあ」
「大阪も結構バラバラよ?」
美津さんとひとみさんが顔を見合わせた。
「枠と間隔を設定すりゃあいいじゃん」
冬馬がつまらなそうに椅子によりかかる。
「5分あければ1時間に入れる人数は13人。前の奴と400メートルは開く。ダンジョン内なら感覚的な距離は更に開いて感じるさ。待たせるんじゃなくて、武器や防具レンタルの受け渡し、持ち込み品の確認、何でもいい。5分、ギルドスタッフが対応すればいい話」
「品川は意図して行ってるわけじゃないけど、そうなってますよ。特にクレームもありません」
母さんが冬馬を見て悲しげに笑った。
「レベルが上がり、そのうち探索者一本に絞る者が出てくれば、潜る時間も長さもばらつきが出てくるでしょう。それまでは冬馬が言った方法を、受付スタッフにも教えておいて下さい」
徹さんが冬馬に頷き、ギルドマスターたちも頷いた。
千駄木グループから選ばれた受付スタッフたちも、それぞれのダンジョンに潜って研修を行っていた。ただしタグはつけていない。受付研修から探索者に転向した人が数人いるとは聞いたが、ほとんどの人は受付スタッフのままだ。何でも給料、福利厚生が破格らしい。……羨ましい。
「では次。装備統括、報告を」
徹さんの言葉につぐみさんが立ち上がる。
「……防刃布に耐火性も加え、重さと厚みも多少改良できた。オーダーメイドのルートも構築中だ。……ゆん、定爺さんと一緒に魔鉄と鋼を使用した装備も、実用性とカッコよさ重視で今作っている。以上」
ストンと座ってから、つぐみさんがちらりと先輩を見たのを俺は見逃さなかった。
「ありがとう。次、武器統括」
「俺けえ?」
「ちょっとおじいちゃん! あたしでしょ」
立ち上がろうとした定爺を座らせ、ゆんがこほんと咳払いをする。
「今は男女共に使いやすい剣鉈をメインに作ってるけど、知り合いの鍛冶師総動員で、槍、斧、弓、日本刀、ナイフ、ソード、薙刀も作ってます。ギルドマスターたちにもそれぞれ、要望のあったものを今日持って来たので、あとで渡すね」
「俺が丹精込めてー」
「以上です」
定爺の口を押さえながら、ゆんがニカッと笑った。
「じゃあ次は、医療統括」
「今は各ダンジョンから大怪我を負った人は出ていないんでね。特にないかな。ただ品川は地下1階でもうポイズン系の魔物がいるらしいから、毒消し剤、増血剤の携帯をギルドとして勧めていった方が良いね。レベルアップ前にやられたら、5分も保たないよ?」
櫻井先生が眼鏡を押さえながら、母さんを見る。
「ええ、航から聞いて、たくさんストックしておきました。それと、私の一存で無料でお渡ししてます。使用したら支払いをと。使わないのが一番ですけど」
母さんが悲しげに笑うと、櫻井先生が参ったというように頭に手を当てた。
「失礼しました。ギルドとしてはどうかわかりませんが、医療統括としてはありがとうと言いたい」
櫻井先生がペコッと頭を下げ、着席する。
「まあいいでしょう。凪子さんがそうしたいのであれば。品川ダンジョンの特色にもなる」
千駄木オヤジが軽く頷くと、全員を見回した。
「さて、最後は俺から報告がある。その前に」
言葉を切り、俺を見る。
なんだ? 俺の報告は生命力回復ポーションが1本売れれば、手元に500円入ってくるけど、まだ12本しか売れていません。皆さん頑張って売ってください! ということだけど。言ってもいいの?
「航平くん。Pちゃんを呼んでくれ。不味いことが起きた」
「はい? なにが……」
「ダンジョンのひとつを、爆破したらしい」
えええ!?
(Pちゃん! Pちゃん! 応答せよ!!)
(……『犯人はあなたです!』ピ)
俺は爆破してねー……って……新米探偵東海道子、まだ観てんのかっ!?
読んでくれてありがとうm(_ _)m滑り込みな毎日…… 誤字報告を15日16日とくれた方々、ありがとうございます! いつもすみません(TдT)




