敬礼!ピッ!
これが魔法のオーブ…。とりあえず回収しよう。
ビッグホーンが消えた後に残ったものを収納する。
ビッグホーンの魔石 1
ビッグホーンの特上サーロイン30kg 1
風魔法2オーブ 1
「ようやく魔法が…Pちゃん、どうすれば良い?」
「食べてくださいピ」
肩に止まっているPちゃんがなんのためらいもなく言う。
「え? 食べるの?」
何か唱えたり、手のひらから吸収されたりじゃないのか…
空間庫から魔法オーブを手のひらに取り出すと、スウェットの比較的キレイな所で拭いた。拭いた感触もビー玉そっくりだった。
意を決して青いビー玉、もとい風魔法のオーブを口に含む。少しヒンヤリした。
「味は…しないな」
口の中で少し転がしていると、飴のように固い食感だったオーブが、グミくらいの感じになり、ゼリーのような感じになり…最後は綿菓子のようになくなった。
風魔法2を取得しました
頭にアナウンスが流れる。
「やったっ! 風魔法を覚えたぞ」
ステータスを確認する。
Lv11 田所航平(タドコロコウヘイ) 23才
種族:人間
職業:サラリーマン(低)
生命力: 752/820
魔力: 360/360
体力: 50
筋力: 47
防御力: 52
素早さ: 71
幸運: 200
魔法(全適性):風魔法2
スキル:駿足1 気配探知2 空間把握2 絶対防御2 隠密5 罠解除6
鑑定10 異常耐性10 魔法耐性10 眼調整10 空間庫10
生命力回復10 魔力回復10
ユニークスキル:賢者の家2 (3m×3m×3m)
魂の絆:***に創られし叡智 P
称号:「始まりを知る者」「立ち向かいし者」「幸運の尻尾を掴む者」
…まだサラリーマン(低)
「Pちゃん…俺はいつ忍べるんだ?」
「ピ?」
Pちゃんが肩から俺を覗き込むように体を傾けた。
なんでもないです。
「よし、気を取り直して魔法を確認するぞ」
手のひらを目の前に突き出す。できることはなんとなく分かる。
「ウ、ウィンドォ、スラッシィ!」
…噛んだ
草は揺れもしない。Pちゃんも何も言わない。
「…あれえ、おかしいな? 手汗かな?」
突き出していた手をグッパーしてみる。
「航平、自分の思うように言えば良いですピ。別に詠唱も要らないのですが、イメージしやすいからか人間は言葉にすることが多いだけですピ。言葉に乗せたほうが発動しやすいですが、言い慣れなかったり、ためらいがあれば魔力は具現化しませんピ」
確かにビッグホーンは風魔法を使う時、叫んでもなかった。
「…分かった。イメージしやすいのは…」
息をふっと吐いて、再び手のひらを前に突き出す。
「風刃」
ザザッ
目の前から10メートルくらい奥までの草が、見えない大鎌で刈られたように舞い上がる。
「で、できた! Pちゃんできたよ! Pちゃーん」
思わず肩にいたPちゃんを引き寄せ頬ずりをする。
う〜ん、相変わらず癒やしの手触り。
「は、離してくださいピ! 出る出る、綿が…ピ」
…綿? やっぱり綿!?
手を離すとPちゃんが警戒するように、バッグに隠れた。地味に傷付く。気持ちを隠して、気になっていたことを聞いてみる。
「なぁ、俺は魔法耐性10だろ? ビッグホーンのつむじ風が効いたのはどうしてさ?」
魔法耐性10なら、どんな魔法も効かなそうだ。
「さっきも魔法耐性は効果ありましたピ。もしなければ風に巻き込まれた時点で息ができず、気を失い、更に高く飛ばされ、簡単に串刺しでしたピ」
バッグの中から聞こえるPちゃんの声が心なしか冷たい…。
「耐性10でも、完全には具現化した魔法を防げませんピ。威力軽減8割といったところですピ。それでも凄いのですピ」
Pちゃんがひょっこり顔を出す。
「はい…。あ、じゃあ自分にかけた時は?」
「自分の魔力と同調するので効きますピ」
なるほど。じゃあブーストみたいな魔法や回復系は問題無しか。
「他の人には?」
「大体魔法耐性を持っていること自体珍しいですピ。魔法を使う強い魔物では稀に取得していますが、あっても耐性3くらいですピ。威力軽減2割に届くかどうかのところですピ。人間は更に取得するのは難しいですピ」
俺も人間なんだけど…。サラリーマンだよ?
ちょっと切なくなり、上を見上げる。泣かない、男だから。
「…自分には効果あり…か…ああ!!」
突然大声を出したせいで、Pちゃんがまたバッグの中に引っ込んだ。
「ごめんごめんっ。でもこれで帰れるぞ、Pちゃん!」
不思議そうに体を傾けるPちゃんに笑いかけると、俺は真上を指差した。
そこにはまだ、自然修復されていない黒い満月が、ぼっかり浮かんでいる。
ビッグホーンから後退りして逃げていたら、もとの位置に戻ってきていた。
「あの穴から、出るぞ。風魔法で」
「ピ?」
ビッグホーンの風魔法8割軽減でも、身体は空に舞ったのだ。あの穴はくらいまでは届くはず。
「航平、つむじ風を自分にかけても、窒息は異常耐性には入っていないですピ。気を失って落下しますピ…」
「大丈夫、つむじ風は使わない」
つむじ風を使ったら、俺は息ができなくなる。そんな苦しいのは御免だ。
使うのはもっと簡単な風魔法。
俺はスニーカーを脱ぐと、次にスウェットのパンツを脱いだ。トランクスが丸見えだが、まあ魔物しかいないから問題ない。
脱いだパンツの両裾を、それぞれ固く結ぶ。即席パンツ袋の完成だ。
とにかく風を受け止めてくれればいい。
「もし途中で俺が落ちても、Pちゃんなら飛べるだろ?」
スニーカーを履き直しながら、バッグの中のPちゃんに声をかける。チャックは開けたままにしておく。
「これをどうするのですかピ?」
俺はパンツのウエスト部分を均等に両手で掴むと、ひとつ深呼吸した。
「ふう…。こうするんだ、よっ。突風!」
スウェットパンツの内側に風を送り込む。
一瞬にしてパンツの両足が膨らんだ。
グンッと腕が引っ張られ、ウエスト部分を掴んでいた手に力がかかる。握力を更に強める。身体が浮いた。
「ちゃんと中にいろよ? Pちゃんっ」
バンザイをした状態で、身体がどんどん上昇していく。連続で突風を出す。
スウェットパンツがもってくれる事を祈りながら。穴までもう少し…。
穴の中に入り込み、そのまま上から差し込んでいる暖色の明かりを目指す。
集中力が途切れそうになった時、穴の上へ飛び出した。
反動をつけて石畳の通路へ着地する。
動力を失ったスウェットパンツは、再び穴の中へひらひらと落ちていった。
「…戻った…3階だ…ライフ」
Lv11 生命力810/820 魔力301/360
「はあ…帰ろ、Pちゃん」
トランクスのままレベル上げをしたくはない。違うレベルが上がりそうだ。
「ピ!」
Pちゃんがバッグの中から敬礼していた。
…そんなのどこで覚えた?
誤字人間で申し訳ありません。セコセコ直して申し開きもございません。
ただこれだけは言わせてください。読んでくれてありがとうm(_ _)m