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「じゃあ航ちゃん、また会おう。何かあったら呼んでね? すぐ駆けつけるから」
ゆんが玄関のドアを開け、俺たちの方を振り返る。ドアの外は日が傾き始め、オレンジ色の光がゆんの影を落とす。遠く離ればなれになるなら、申し分ないシチュエーションだったが……。
「確かに、すぐだろうね。3階だから」
今日も3階の部屋に泊まる気らしい。早く帰りなさいよ。定爺が高齢職人衆を連れて乗り込んで来たら、どうするんだ。
「アハ! じゃあねー」
手を振ったゆんが玄関ドアを閉めた。ゆんが来てから3日、毎日一緒にダンジョンに潜っていた。必然的にレベルも上がり、ゆんは今も星ランキング2位だ。
……どんどんアマゾネス化してるな、あいつ。一体何を目指してるんだ? ああ、鍛冶師か。
「……俺も新しい部屋に泊まろうかな。大家だし、洗浄トイレだし」
「それは良いですピ。大きなテレビもあって『新米探偵東海道子の事件ファイル! 犯人は貴方です!』の迫力が出ますピ」
「キュイー」
Pちゃんが最近、定爺と観てハマっていたドラマのマネをして、シャキーンと片方の羽根を前に突き出した。マシロも同じく小さな手を前に出す。今日が放送日らしい。
「……そうだな。よしっ! どうせなら最上階の部屋にー。あ、ちょっと待った」
ガラステーブルに置いてあったスマートフォンがブブブッと動く。マシロがジャンプでそれを捕らえ、俺に渡してきた。
「ありがとう、マシロ。はいもしもし」
徹さんからだった。
「え? 今からですか? はい? ええええ!? 勘弁して下さいよ……。はあ、分かりました」
電話を切った俺が青い顔をしていたのか、Pちゃんとマシロが肩に乗ってきた。
「どうしましたピ?」
「キュイ?」
「徹さんから。また精鋭イレブンメンバーが来るって……3人。ダンジョンに入れて欲しいらしい」
「ピ! 今日は駄目です、あと2時間42分でドラマが始まりますピ」
「キュイ!」
Pちゃんとマシロが手でバッテンを作る。
「いやそれが、もう5分くらいで着くはずだって」
頭を掻きながら俺が言うと、
「マシロ! 5階の部屋に転移するですピ!」
「キュイ!」
「待ったPちゃん! 置いて行かないでくれ」
慌ててふたりを止める。
「徹さんは仕事で来れないらしいんだ。つまり俺は、まるっきり初対面の人の相手をしなきゃならない! しかも3人とも女の人だって……て事は、吐く確率70%!」
「……どんぶりベッドの中には、吐かないで下さいピ」
「キュイ……」
マシロが宝箱を指さす。……そこには吐きません。
ピンポーン
「来た! 頼む、ベッドにいてくれ」
玄関に体を向け、振り返りながらPちゃんたちに懇願する。
「2時間40分までですピ」
「キュイ」
ピンポーン
「はい。今開けます」
ベッドの上で、ぬいぐるみ化したふたりを確認してからドアを開ける。
「こんばんは」
黒縁の大きなメガネとツバのある黒いキャップ、大きなマスクをつけた細身の女性が立っていた。顔が全く見えないが、声のトーンで普通な感じなのは分かった。
「ああ、どうも。……あの徹さんの?」
「はい、そうです。お邪魔しても?」
「あ、はい、どうぞ」
「ええ? やっぱりここなんだ? 絶対、分別ゴミを入れる場所だと思ってたのに」
ドアノブから手を離し体を引くと、黒縁メガネの女性の後から声が聞こえた。黒縁メガネさんと同じ声だった。
「美津、それは心の中で思う事よ? 私は管理人室かと思ったわ」
更にその後ろから、また同じ声が聞こえる。……なんだ? 俺は耳が良いはずだけど。
「ほら二人とも、失礼じゃない。すみません、田所さん?」
一番前にいた人が、振り向いて後の二人を叱る。
「あ、ああごめん。どうぞ入って」
「お邪魔します」
「お邪魔しまっす」
「失礼します」
……同じ黒縁メガネ、ツバのある黒いキャップ、大きなマスクをつけた女性たちが、ワラワラと部屋に上がって来た。
「二葉、もうこれ取っていいでしょお?」
「うん、大丈夫。ひとみも良いよ」
「ふう、暑いから嫌いなのよね、これ」
唖然としている俺の目の前で、3人がメガネ、キャップ、マスクを取った。結構、いや、かなり綺麗な人たちだった。おんなじ顔だな……あんなの付けてて、もったいない。三つ子で綺麗だから、目立つのが嫌なのかもしれない。
「……ピイイ! 東海道子が、3人いますピ!」
ベッドの上で、ぬいぐるみをしていたPちゃんが跳ね上がる。
「あら、知っててくれたんですか? ありがとうございます。私、雁屋二葉と言います」
「長女のひとみよ」
「三女の美津だよ」
「と言っても三つ子で、数分しか年は変わりませんけど」
東海道子こと、二葉さんがふふっと笑うと、同じタイミングで他の二人もふふっと笑った。
「……東海道子が3人、まさにミステリーですピ」
(Pちゃん黙って! バレるだろ!?)
「まさにミステリーです……ぴ? あの、東海道子は……」
「それは私です。俳優をしてます」
訝しげに俺を見ていた二葉さんがスマイルを取り戻し、こほっと咳払いをする。
「えっと……『100人騙せても、101人目の私は騙せないわ! 犯人はー』」
「貴方です! ピ!」
ベッドの上でPちゃんが、シャキーンと片羽根を突き出す。
「そうです。ピは入りませんけどー……え?」
「あは、ははは。いやあ、本物の東海道子さん見て、興奮したら腹話術スキル出ちゃったかな? あはは」
Pちゃんを掴み、羽根を振って見せる。ここでバレて、Pちゃんたちの存在がメディアなどに取り上げられたら大変な事になる。
「ねえなんかさ、ぬいぐるみが動いて、話したような……」
「美津ったら、何言ってるの……腹話術よ。彼がそう言ったじゃない」
「でもひとみ、田所さんがさわる前に、起き上がっていた気がする……」
3人がじっと、俺の手の中のPちゃんを見つめる中、ベッドから起き上がったマシロが
「キュイ!」
と、片手を突き出した。
読んでくれてありがとうm(_ _)mいっぱい人がいる……頑張れみんな!(人任せ)




