魔法オーブ
地下10階…草原は暑くも寒くもなく、スウェットだけでも特に問題なかった。
ただ緊張からか、手のひらだけはじっとりと汗ばんでいた。
気配が…何かいるな。
背の低い草の間で、それが動いた。
黒いモノが草の間をズルズルと近づいてくる。
「やばい、何かくるっ」
落ちていたキラーアントの牙を、近づいてくるモノから目を離さず拾う。
Pちゃんが止まっていた肩からバッグへ潜り込んだ。
シュッ
草間から飛び出してきたモノをとっさに避ける。
追撃に備えたが、相手もこちらをうかがっているのか動かない。一抱えくらいの黒くヌメった身体。
吸血系:デビルヒル Lv8
攻撃パターン:ジャンピングアタック、噛みつき、吸血
唾液は出血毒を含み、噛まれると血が止まらなくなる
弱点:火魔法、雷魔法、口、腹部への物理攻撃
鑑定した途端、デビルヒルが跳ねた。
「うおっ」
黒くヌメった背中側とは反対に腹側は白っぽく、円形の口と思われる周りには、鋭く尖った歯が並んでいる。
その口にキラーアントの牙を引っ掛け、一気に腹まで引き裂いた。
「うええ、気持ちわるっ」
デビルヒルが淡い光に包まれ消えた。
後には親指大の魔石と、赤い液体が入った小瓶が転がっている。
デビルヒルドロップ:増血剤
出血毒解毒後、失った血液を元に戻す効果がある
「航平凄いですピ!」
バッグからPちゃんが顔を出す。
「まだだっPちゃん!」
右斜め前の草間から、2匹目が飛び上がってきた。
左手に牙を持ち換え、右に避けながら口から腹へと刃を流す。
「うへえ、気持ちわりぃ…」
光って消えるまで、顔を思わず背けてしまった。
「Pちゃん…異常耐性の中に、気持ち悪さ耐性って入ってない?」
「さあ、聞いたことないですピ」
Pちゃんが体を傾ける。
うん、安定の可愛さだ。気持ち悪さが浄化されていくよ。
「さて、回収っと」
デビルヒルの魔石×2
増血剤 1
「やっぱり10階はひと味違うなあ。恐ろしい」
「航平なら大丈夫ですピ」
「Pちゃん、俺はもう調子に乗らないと誓ったんだ。昼飯には間に合わなくても、夕飯は家で食おう」
ぐっと握りこぶしを作って、決意を新たにする。
「とにかく階段を探そう」
空間把握と気配探知で波紋を放つが、広すぎて隅々には届いていない感覚があった。
階段は探知範囲内にはなかった。
ただ、魔物の気配は伝わる。200メートル先に何かいた。
どうする…。迂回するか? でもレベルも上げないとな。確認して、倒せなさそうなら逃げよう。
「そんなに強い魔物じゃありませんように」
頼んだぞ、幸運200MAX!
俺は気配を感じたほうへ走り出した。
「…牛?」
30メートルほど先で、茶色い牛が草を食んでいる。
いや、あんな象くらいデカい牛はいないか…。角3本だし、真ん中の1本異様に長いし。
草食系:ビッグホーン Lv14
攻撃パターン:後ろ蹴り、突進、串刺し、風魔法Lv2
後ろ蹴りは岩をも粉砕するほど強い
突進を避けられると風魔法でつむじ風を起こし
相手を巻き上げ落下時に角で刺す
弱点:火魔法、雷魔法、土魔法、首又は心臓に対する物理攻撃
これはやばい奴だ。ここは引こう。
俺には隠密5がある。バレることはない…
ビッグホーンから目を逸らさず、後退る。
パキッ
小枝を踏んだ。
草原に枝!? 幸運200MAXどうしたんだよおお!
草を食んでいたビッグホーンがぐりっとこっちを向く。こっち向くなっ!
「グモオォッー!」
好戦的なんでええ!?
ビッグホーンに背を向け走り出す。背後から地響きが近づいてくるのがわかる。
ヤバいヤバイヤバイ!
「ぐあっ!」
鋭利なモノが後頭部にぶつかり押された。前のめりに転びそうになるも、踏ん張って走り続けた。
刺された! 角で刺された! 絶対刺された!
後頭部がジンジン痛む。
走り続ける俺の体を、今度は突風が絡みつく。
風魔法で巻き上げ角で刺す…鑑定にあったビッグホーンの攻撃パターン。
「ひぃぃ…し、しぬ」
身体が風によって強引に持ち上げられる。
「航平!!」
「潜ってろっ!」
身体が空を舞う。風が止み、今度は落下していく。その先にあるのは長く尖った角の先端。
「死んでたまるかっ!」
空間庫からもう一本のキラーアントの牙を出す。ビッグホーンが角を振り上げた瞬間、曲がった刃を角に掛け、それを支点にくるっと逆上がりのように回転し角にしがみついた。
ビッグボーンがふり落とそうと頭を振る。振り回されながら、長い角の両側にある片方の短い角に足をかけ、ぶら下がると同時にビッグホーンの太い首に刃を当て、力の限り引き裂いた。赤い血が噴水のように噴き出す。
「ゴゴゴフッ…」
飛び降りると同時に、ビッグホーンが倒れた。俺も近くにしゃがみ込む。
起きてくれるなよ…?
ビッグホーンはしばらく微かに動いていたが、やがて光に包まれ消滅した。
レベルが上がりました
レベルが上がりました
生命力110ポイント 魔力40ポイント 体力10ポイント 筋力15ポイント
防御力9ポイント 素早さ17ポイント向上
気配探知2に向上
空間把握2に向上
駿足1を取得しました
賢者の家2に向上 3m×3m×3mが解放されました
「はぁぁ…死ぬかと思った…ライフ」
Lv11 生命力343/820 魔力360/360
危なかった…。絶対防御が無かったら、頭がなくなってた。
「航平、大丈夫ピ?」
Pちゃんがバッグの口から、心配そうに見上げている。
「うん、危なかったけどね」
「航平! あれは、魔法のオーブですピ!」
Pちゃんがさっきのビッグホーンが倒れた所に飛んでいく。
マジで!?
慌てて立ち上がり、Pちゃんがクルクル旋回している所に近寄った。
そこにはSサイズの卵程の魔石と、デカい肉の塊、そしてビー玉くらいの青い玉が転がっていた。
ビッグホーンドロップ:特上サーロイン30kg
ビッグホーンの肉 極上の旨味
:風魔法オーブ 風魔法2
で、出たー!!
読んでくれてありがとうm(_ _)m 感謝特大です




