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「あ、航ちゃん久しぶり!」

「……田所航平、ピッピちゃんとマシーはどうした」


 千駄木家のリビングに入ると、ゆんとつぐみさんが近づいて来た。相変わらずの坊主顎ひげマッチョと、たゆんたゆんだった。


「二人も来てたんだ? Pちゃんとマシロは澤井さんがご飯食べさせるって連れて行ったよ」


 お腹空いたの鳴き声に、櫻井先生が車の中で怪訝そうに俺のバッグを見ていた。あのままでは魔物虐待で訴えられてしまう。


「そうか……後で挨拶に行こう」


 そわそわしながらつぐみさんが呟く。


「ボクが後で案内をしよう。P様の食事風景は壮観だからな。クククッフゴッ」


 つぐみさんの後ろから先輩が声をかけてきた。ビクッと巨体が跳ねる。


「あ、あ、ありが、とう」


 後ろも振り返らずガクガクしてる……。おおー、そうだった。つぐみさんは恋に落ちていたんだ。先輩に。


「つぐみ君、大丈夫か? 震度2くらい揺れているが。クククッ。航平君、つぐみ君と唯君もボクのフォロワーだ。なぜか既に航平君とはダンジョンに潜っているんだろ? 兄さんから聞いたよ」


「田所航平に渡された素材と、小山内唯が作ってくれたハサミと針、ノミを使って装備の試作品を作ってきた。……千駄木薫のも作った」


「やあ、それは嬉しいな! 後で見せて頂きたい」


 先輩がクールビューティーを崩し、にっこり笑った。


「はうっ」


 はうって言った、この人。


「これはと思える魔鉄のハサミがやっと出来て、徹さんに送ってたんだよ。まさかインスタライブのつぐみんが、こんなつぶらな目のゴリマッチョとは思わなかったけどさ! 道具を大事に使ってくれる人みたいだし、良かったよ。ああ、後ね」


 見せて来たのは包丁のような、(なた)のような、茶革のグリップを入れて50センチ程の長さの剣だった。刃紋から刃先までが黒い。


「これ、魔鉄を玉鋼と同じように芯にして打った剣鉈だよ。初めは軟鉄と上手く抱き合わなくて苦労したけど、航ちゃんがくれたあの『魔鉄喰いの白い糞』を粉にして接着に使ったら上手く行ったんだ」


 ゆんがニカッと笑う。


 どれだけ試行錯誤したら、その答えにたどり着けるのか……。


「職人は凄い……いや、ゆんやつぐみさんが凄いんだな。ありがとう」


 二人が照れたように笑っている所へ、


「航平くん、こっちに来て澤井の事も説明してくれ」


 ソファーに座っていた千駄木オヤジから声がかかる。俺は頷くとソファーに腰掛け、澤井さんの『lose』表示、それからPちゃんに車の中で聞いた事を説明した。



「同じタグを付けている者に通知とは、その事だったんだな? 『lose(消失)』で俺たちは澤井が死んだと思ったが、実際は印が離れた状態、か」


 千駄木オヤジがなるほどと呟く。


「ええ、後『dead(死亡)』と……『kill(殺人)』があります」


 PちゃんはLDKと言っていた。家はLDがないKのみですと余計な事も言っていたので、アイアンクローをしておいた。


 千駄木家の革張りのソファーに座っているのは、澤井さんと俺を除く8人。その視線が俺に集中している。吐くなよ? 俺……。大丈夫、噛まずに言えたんだ。俺も成長してる!


「死亡や殺人はどう推定されるんだい?」


 徹さんが首を傾げる。


「瞬間的に切り離された場合と、心臓が止まった時の血液の状態が違うらしいんです」


「違うね、動脈血の酸素濃度が」


 櫻井先生が頷いた。俺も頷き返す。


「それから殺人は、殺した人間の魔力移譲を受けた時、出るらしいです。名前も一緒に」


「名前も? 航平君、それはどうやって?」


 今度は先輩が驚いたように聞き返して来た。


「魔力の『形』がそれぞれ違うから。ただタグを付けてない人を殺した時は名前無しの『Kill』だけみたいです」


「名無しのkillが出た方がヤバいじゃん。一般人に手を出したって事だろ? 魔力の生体情報だな、それ。タグは検体を必要としないDNA登録ってわけだ。何者だよ、これ作ったの」


 生意気冬馬が両手を頭の後ろで組んで、上を向く。


「お待ちを。一緒にいればパワーレベリングが出来ると聞きました。魔物に人間が殺されたとして、その近くにいた場合どうなります? 仲間が魔物にヤラれ、腕の中で死んだら?」


 紅音さんが無表情で淡々と聞いてくる。淡々と言える状況じゃないな、そんな場面。


(Pちゃん、魔物にヤラれて死んでいく人間の近くにいたら、殺人扱いになるの?)


 違う部屋で遅い昼食を食べているはずのPちゃんに、チャンネルを通して確認する。


(殺した魔物に人間の魔力が移譲されるに決まってますピ。それより航平、このウニのパスタ、うちでも作って下さいピ)


 Pちゃんの嬉しそうな声が頭の響く。早々にチャンネルを閉じた。


「人間が魔物にヤラれたら、魔物に魔力移譲されるそうです。それとタグの印はloseしても本人が生きていれば、また登録出来ます」


「……はあ、冬馬君じゃないが、これを作った人はどんな人なんだろうね」


 徹さんが憂いを帯びた表情で、ため息をついた。


「……俺もタグを付ける」

「あたしも付けるよ」


 つぐみさんとゆんがそれぞれ左手を差し出した。


「良いのか? 消えないぞ? 腕を失うか、死ぬまで」


 先輩がためらうように確認すると、


「あたしたち職人だから腕を失くすのは困るけど、レベル上がってるしね。協力もしたいし」


ゆんの言葉につぐみさんも頷いた。


「……武器に装備。もうギルドに協力してくれてるよ。クククッフゴッ! 失礼」


 先輩がタグ箱から一枚ずつタグを取り出し、つぐみさんとゆんの手首に押し当てて行った。


星D2/10 オサナイユイ Lv20


星F4/10 カシマツグミ Lv10


「あー! 俺ランキングまだ最下位かよっ。知性をもっと優遇しろよ! クソタグ!」


 冬馬が自分の印に触り、ぷっと膨れる。


「……ゆんより下だと?」


「……澤井のランクは、ランキングはどこまで行ったんだ?」


 見ると徹さんと千駄木オヤジもブツブツ言いながら印に触っていた。


「……ふんっ、まあ良い。いずれこの世界も、タグ箱が作られた世界のようになっていくんだろう。澤井の腕を航平くんが繋げたように、今までの常識が通用しない世界に」


「あれは運良くで……」


「とにかくお前たちにもさっき話した通り、協力してもらいたい。もちろん航平くんにも」


 千駄木オヤジの言葉に皆一斉に頷く。


「まずは冬馬、櫻井、紅音にレベルを上げてもらわんとな」


 にやりと千駄木オヤジ俺を見た。


「よっしゃ来たっ」

「メスは武器には……バールにしようかな」

「家に槍があるので、寄ってもらっても?」


 ……ちょっと俺も、ウニパスタ食べてからでも良いですか?








読んでくれてありがとうm(_ _)mスローファンタジー……ちょっと加速?

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読ませて頂いてます!(^O^) [気になる点] 腕の印で気になった部分がありましたのでコメントさせて貰います ・印の場所固定の義務化(この場合 頸部)、印L=死亡分かりやすい…
[一言] ぷっ…スローファンタジーが加速しても、新しい原子(元素?)を生み出すほど加速はしねぇさ なんだ。猫耳と猫尻尾のために麦作に媚を売りまくったらワンチャンあるかもよってか?いや、犬じゃねぇ。猫…
[一言] そのウニパスタは俺が食べておくから安心して行ってらっしゃい(∩´∀`)ノシ
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