お披露目
「ダンジョンが出現すると思われる場所は、航平くんの住んでいる場所を除く6ヶ所。しかし絶対ではない。全国にまだ数カ所ある怪しい場所は監視を続ける。どの国にどれくらいのダンジョンが出来るかは不明だが、俺の『勘』を信じている奴らには、一応情報は流しておいた」
まだ澤井さんよりランキングが下だった事にブツブツ言っていた千駄木オヤジだったが、なんとか持ち直し、ワインを飲みながら俺に教えてくれた。
(航平、お腹が空きましたピィ)
(澤井さんが運んで来るから、もうちょっと我慢)
「情報を流したって、どんなことを言ったんです?」
ワゴンに乗せた皿を、澤井さんがダイニングテーブルの上に並べていく。
「7月28日にダンジョンが出現するから気をつけろ」
そのままかいっ!
「……なんて言ってました? 相手は」
まず信じないだろう?
「28日というのは日本時間か? うちは29日か?」
時差話かいっ!
「でも信じてくれたんですね? お友だちは」
さすが『職業:勝負師』の千駄木オヤジといったところか。
「どうだかな。まあ軍の方に警戒にあたらせるとは言っていたがね」
うへ!? 軍!?
「……もしかして、かなり偉いお友だちで?」
俺の質問には答えず、千駄木オヤジがにやりと笑った。
「さあ食べよう。航平くんも遠慮せず食べてくれ」
北京ダックを筆頭に金華ハムのチャーハン、蒸した上海蟹、八宝菜とイカの炒め物、フカヒレスープ、どこかの高級飯店のような昼飯が並ぶ。もちろん澤井さんが料理の説明しながら、目の前に置いてくれた。三好さん、何でも作れるんだな……。
「……チャーハンうまっ!」
膝に置いたバッグの丸窓に、チャーハンを乗せたスプーンをせっせと運び、ふたりがそれをガツガツ食べる。
(ピィ! このハムの旨味が全てをS級にー)
Pちゃんが幸せそうに言い、
「キュイ!」
マシロも元気よく鳴く。あ……。
「キュイ?」
向いに座っている先輩が俺の腹を凝視する。Pちゃんがいるのは知っているが、マシロもいる事は知らない。
「ああ! キュイって腹が鳴って……いや、やっぱり先輩にも紹介しておきます」
いずれ話すつもりだったのだ。想定外の千駄木オヤジがいるがしょうがない。先輩には嘘をいうよりましだろう。バッグの天板を開ける。
「マシロ、出ておいで」
開いたバッグからマシロがひょっこり顔を出し、鼻をヒクヒクさせた。
(ピ! 航平! 私は!?)
(Pちゃんは駄目だろ!? 水色のぬいぐるみヒヨコが喋って飯食ってたら、澤井さんが腰を抜かす)
そして千駄木オヤジは絶対欲しがる。
(そういう仕様にすればいいですピ!)
(どんな仕様だ! そんなのは母さんにしか通用しないぞ!?)
「……フゴッ。航平君、この子は?」
Pちゃんを説得している間に、マシロがダイニングテーブルの上に乗り、上海蟹の脚を両手で掴み、カリカリ噛んでいた。
「キュイ?」
持っているものがたとえ蟹の脚でも、マシロはカワイイ。
「なんだい? 蟹が好きなのか? どれ、こうして中を抜き取るんだ」
首を傾けたマシロに、殻をむいた蟹の身を差出した。マシロが持っていた蟹を下に置き、先輩から受け取る。
「キュイ!」
「そうか、美味しいか? マシロくんはP様に仕えているのかな? P様をよろしく頼むよ」
「マシロちゃんはどちらかというと、Pさんの弟分……妹分かな?」
徹さんが新たに蟹のむき身をマシロに差し出す。
「キュキュイ」
マシロがそれを受け取り、嬉しそうに鳴いた。
「なんだ、航平くんのペットか? 賢い子じゃないか。よしよし、俺のも食べなさい」
更に千駄木オヤジがマシロに渡そうとした時、横から蟹のむき身をこんもり盛った皿が、マシロの目の前に置かれた。
「キュイキュイ!」
マシロが両手を上げ喜ぶ。
「かわいい……」
皿を置いた澤井さんが身悶えた。
「澤井、今この子は俺から貰おうと……。お前はさっきから俺の邪魔をー」
「ピィ! 私も蟹を食べたいですピ!」
Pちゃんが辛抱たまらんと、開いたままだったバッグから飛び出して来た。
「おお、P様! お久しぶりです! クククッフゴッ!」
「Pさん出てきて大丈夫ですか?」
「……航平くん、なぜぬいぐるみが話している……そしてなぜ蟹を食べている?」
「かわいい……」
千駄木家が騒がしいです。
「……なるほど。マシロがダンジョンの魔物で、Pちゃんがダンジョンナビゲーターか」
千駄木オヤジが両手の指を組み、俺たちを睨むように見つめてくる。そんな眼光鋭く『Pちゃん』と言われても……。
「ようやく合点がいった。ダンジョンの出現日、魔石の利用法、レベルタグ……航平くんはタグ箱を高いレベルの人が『異世界』で作ったと言っていたのを覚えているか? どこでその情報を得たのか不思議だったが、Pちゃんから聞いていたんだな?」
「そうです」
「そうですピ」
食後のデザートの杏仁豆腐をすすりながら、Pちゃんが片羽根を上げる。
「そして、今後世界中にダンジョンが現れたとしても『ダンジョンナビゲーター』はPちゃんだけなんだな?」
「そうです」
「そうですピ」
「……ふふふ。ふははは!」
千駄木オヤジが悪の総裁のような笑い声をあげる。
「それは良い。……航平くん、明後日土曜にまた澤井を迎えに寄越すが、良いかな?」
「それは構いませんが……ギルドのことですか?」
「もちろんだ。それから徹、あいつらも呼んでおけ」
「分かりました」
隣でお茶を飲んでいた徹さんが頷く。
「あいつら?」
「精鋭メンバーだよ」
徹さんがにっこりと笑った。
読んでくれてありがとうm(_ _)m伝わってるといいな、感謝。




