印
「これが、タグ?……フゴッ」
語尾に付いた「ピ」を全員スルーし、箱の中の黒いチップをしげしげと見つめていた。
「田所くん、私にはこれがタグというより、黒いチップに見えるんだが……」
徹さんのもっともな問いかけに、俺も頷く。
Lvタグ:Lvタグの箱で作られた物
魔力が内包されており、使用者の体と同一化
使用者のレベル、魔力移譲量、魔力種を記録
タグ装着者同士の情報共有が出来る
「私には、箱で作られた事と同一化、このタグを利用した者の情報を共有と出てる」
徹さんが首をひねる。
「同一化とはなんだ? 航平くん」
(そのままの意味ですピ? 航平、レベルタグを首のドクドクしている部分、頚動脈に押し付けて下さいピ)
「ええ!?」
Pちゃんの指示に思わずまた声が出てしまった。タグからみんなの視線がまた俺に戻る。
「……ええ。それはですね。こうして、脈打っている動脈に」
しょうがない……。覚悟を決め、赤いクッションからレベルタグを摘むと、のど仏の外側、アゴのすぐ下で脈打っている所にレベルタグを押し付けた。
「航平君、何を……」
先輩が心配そうに声をかけてくる。
(どれくらいやればー)
Pちゃんに確認しようとした時、タグを押し付けていた指にあった硬い感触が消えた。
「ん?」
指を離し、首を触ってみる。首は柔らかい皮膚のままで、レベルタグが消えていた。
星B1/1 タドコロコウヘイ Lv55
目の前にスクリーンのような物が現れ、自分の名前が載っている。
あれ? 鑑定はしてないし『ライフ』も使っていない、というか、頭の中じゃない……?
手を降ろすと画面が消えた。なんだ今の?
「航平君、その首……痛みは?」
気付けば先輩が、瞬きもせず俺を見つめていた。正確には俺の首か。
「え? 別に痛くも痒くもないです」
「何か体に変化は?」
徹さんが眉間にシワを寄せた。
「いえ、何も。なんですか二人とも」
先輩が無言でスマートフォンを構え、パシャっと首の写真を撮ると画像を俺に見せてきた。
「……なんだこれ!?」
写真に写された首には、レベルタグと同じ大きさの、上下の三角は長いが六芒星に似たマークが黒く描かれていた。思わず首をゴシゴシ擦る。
星B1/1 タドコロコウヘイ Lv55
目の前にさっきのスクリーンがまた出現した。分かったよ! 何なんだ一体!?
「……落ちました?」
4人が同時に首を振る。
(レベルタグが航平と同一化しましたピ。この箱のレベルタグは『星』が印だったようですピ)
Pちゃんの弾んだ声が頭に伝わる。
(……石鹸で擦ったら消える? これ?)
(大丈夫ですピ。体に同化したので消えませんピ)
安心しろと言わんばかりの返事だった。
違うんだなあ、Pちゃん……俺はサラリーマンだよ? これ、首にタトゥー入れちゃったのと一緒だよ? ここ、ネクタイ締めても隠れないよ?
(……レーザーとかで消せるとか?)
(皮膚を削ごうが焼こうが消えませんピ。消えるのは航平が生命活動を停止した時ですピ)
そんなに心配するなと言わんばかりの返事だった。やっぱりPちゃんの思考回路は少し変わっている。
「……なんか、ヤンチャなサラリーマンになっちゃいました」
4人が無言で顔を背けた。
同情!?
「航平君、ボクにもタグをくれ」
先輩が微笑みながら手を差し出して来た。
「ボクは航平君の最初の協力者だからな。クククッフゴッ!」
「千駄木先輩……嬉しいんですが、先輩の綺麗な首に印を刻むのは」
「なっ!? ……良いから……フゴッ…」
先輩がそっぽを向きながら、手を更に突き出してくる。
「ちょっと失礼」
徹さんがタグ箱を閉め、すぐに開けると生成されたレベルタグを取り出した。
「私がやってみよう」
そう言うと、ためらう事なく左手首にタグを押し付けた。
「徹さん、何をー」
「……うん、出来た」
徹さんが魅惑的な微笑みをたたえ、俺に向き直ると手首の内側を見せる。そこには上下の三角だけ長い六芒星のマーク、俺と同じ印が刻まれていた。
「この印を触ると、星E2/2 センダギトオル Lv18と目の前に出るよ」
「俺は……星B1/2と……さっきまで1/1だった」
「……クククッ。分かった」
今度は先輩が取り出したタグを、徹さんと同じ左手首に押し付ける。先輩の白く華奢な手首に印が刻まれた。その印を自分で触って確認するように頷くと、
「航平君、触ってみてくれ」
先輩がそう言って、ついっと、印のついた手首を見せてきた。
「……分かりました」
そっと先輩の印を触ると目の前にスクリーンが現れる。
星F3/3 センダギカオル Lv10
手を離すとスクリーンが消えた。
「……なるほど。鑑定を持っていなくても、相手の名前、レベルが分かるって事か。星はこのタグ箱から生成された物を表して、多分魔力移譲、経験値で振り分けられるランク、3枚生成された中のランキング」
(その通りですピ)
Pちゃんが嬉しそうに伝えて来る。まるで出来の悪い生徒が問題を解けたのを喜ぶ先生みたいだ。そして俺はここで、もうひとつの問題にぶち当たった。
「ん? 何で手首?」
俺は首ですけど?
「さっき田所くんが『脈打っている動脈に』と言っていたじゃないか。他に肘の内側、足の付け根、膝裏、腹、足首の内側、足の甲にも触れる動脈はあるけどね。分かりやすい手首で試してみたんだよ」
衝撃だった。そんなに色んな場所があったのか……。
「では俺も」
呆然としている俺の横から、千駄木オヤジが右手首にタグを押し付け、印を刻む。
「ほう、これは興味深い。星4/4レベル1。ランクというものが無い」
「では私も」
澤井さんが後に続く。
「私も星4/5レベル1です」
「……星5/5に落ちた。何で澤井の方が俺よりランキングが上なんだ?」
右手首を触りながら千駄木オヤジが呟いた。
「二人はまだダンジョンに入っていないから、ランク外なんですよ。ランキングは現段階の強さじゃないでしょうか?」
徹さんが魅惑の微笑みで、千駄木オヤジの心を逆なでる。
徹さん、強くなったね……。いやいや、感心している場合じゃない!
「……おい、航平くん、ダンジョンに連れて行け」
千駄木オヤジの呟きは無視して、徹さんにもう一度聞いてみる。
「だから何で手首なんですか? 俺みたいに首にー」
「一応公務員だからね。手首だったら腕時計でもすれば隠れるだろ?」
徹さんが軽く肩をすくめた。
「おい! 航平くん! 俺をダンジョンに連れて行って澤井より強くしろ!」
「旦那様が行かれる所には常に私がおりませんと。航平様、私もご一緒させて下さい」
澤井さんがにっこりと俺を見て頷いた。
「お前は来るな!」
「いえ、そうはいきません。私には千駄木家をお守りする役目があります」
わちゃわちゃとうるさい中、Pチャンネルを開く。
(……Pちゃん、何で首って言ったの?)
(航平でもすぐ分かる、分かりやすい所ですピ)
……まあ確かに。
「ほら二人とも、航平君が困っているじゃないか。とりあえず今後ギルドで探索者登録をする者には、手首にタグをつけてもらおうと思う」
「それが良いね。こちらも確認しやすい」
「良いだろう」
先輩の提案に他の3人が頷く。
……ギルドが出来たらマフラーをしよう。真夏だけど。
読んでくれてありがとうm(_ _)m誤字脱字報告をありがとう! 昨日は滑り込みアウトでしたが、よっぽどの事がない限り、最後まで毎日更新目論んでるので(最終話を読みたい)一緒にこの世界を楽しんでくれたら嬉しいっす(*´ω`*)




