レベルタグ
「これなんですけど」
千駄木オヤジ、更には澤井さんもダンジョンの事をもう知っているし、出しても大丈夫だろう。空間庫から黒い箱を取り出す。
「な、な……。今どこから出した!? 航平くんは超能力者か!?」
千駄木オヤジと後ろに立っている澤井さんがガタッと動いた。
「だからサラリーマンですって……あれ?」
先輩たちから聞いてない? 徹さんと先輩を見ると、二人がプルプルと首を横に振っている。
えー……どこからどこまで話してるんですか……。
「ボクたちは必要最低限の事しか話していない」
「田所くんたちに対して失礼だからね」
二人が俺の膝に置いてあるバッグをちらりと見た。俺もさり気なく丸窓を確認する。Pちゃんが窓の内側で羽根を軽く振り、マシロは眠っているようだった。
Pちゃんとマシロの事も話してなさそうだ。良かった、千駄木オヤジに知れたら、よこせと絶対駄々をこねるに決まってる。
あ、そういえば先輩マシロの事は知らないか。……萌そうだな。
「まあいい。で、その手持ち金庫のような物はなんだ? えらく心がざわつくぞ」
重厚なテーブルの上に置いたレベルタグの箱をじっと見つめる。
「これはダンジョンにあった『Lvタグの箱』という物です。高レベルな異世界の誰かが作製したようで、この箱から作られるタグをつけた者は、レベル、共通ランキング、生存の有無が判るらしいです」
俺の説明に、今度は徹さんと先輩が腰を浮かせた。
「……本当だ。私には文字化けして『Lvタグの箱』としか分からないが」
「航平君、なんて物を持っているんだ……フゴッ。……失礼」
「開けて確認したのか?」
「いえまだです。開けてみますか?」
返事を待つまでもなく、両手で上蓋を掴む。
なんかちょっとドキドキするな。
失われた世界の、賢者と錬金術師の共同制作だ。それを異世界人の俺が、開ける。
「開けますよ?」
3人がやや前屈みになった。澤井さんもその後ろから覗き込む。カチリ……蓋を上に開く。
「これは……」
黒い木箱の中は端から1/3がポッカリと空いて、残り2/3に赤いビロードの様な、滑らかで光沢のある布で作られた小さなクッションが敷かれていた。赤いクッションの中央は名刺大に少しへこみ、金糸で魔法陣が刺繍されている。
「綺麗だが……何もないな? フゴッ……」
「あれ? おかしいな……。開ける度に生成されるって鑑定に」
何度か閉めては開けるを繰り返す。何も出来上がって来ない。鑑定が間違っていたのか?
(ピィ、航平。魔石を入れないでどうやって作るんですピ……)
Pちゃんの呆れたような声が頭に響く。
(え? 魔石なんているの!?)
Lvタグの箱:魔力内包タグ生成(無制限)
***世界の最下層120階で伐採された魔樹木から製作
使用方法:魔石を箱に入れる(当たり前)
魔石の魔力量によって生成枚数が変化
タグを皮膚につける
製作者:賢者Lv130**** 錬金術者Lv105*****
使用方法の項目が増えていた。自分の脳内変換による説明なのに、なぜか駄目出しされてる感があるのは、なんでなんだろうか……。
「あー、すみません。魔石をこの空いた所に入れなきゃ駄目みたいで」
空間庫からミカン程度のオノカブトの魔石を取り出す。よく見ると空いた所の底にも、金色の魔法陣が描かれていた。
「……ちょっと待て、航平くん。これは個人を認識し、共通ランキングが判ると?」
「ええ、個人が持つ魔力、これは一人ひとり違うんですがー」
先輩に『酔い止め』魔法をかけた時、先輩の魔力の『形』に寄せるのに苦労した。
「個人の魔力を認識し、タグが記録、レベルや経験値が上がれば上書きされて、同じ箱から作られたタグを持っていれば共通順位が判るらしいです」
Pちゃんから前に聞いたままを伝える。
「タグを着けないとダンジョンに入れない……というような物ではないか」
「違いますね。現に俺たちは入れてますし」
首をすくめる。
「では一度着けると、他の人間には譲度出来ない?」
「どうですかね……」
(他の者は物理的につけられませんピ。一度使用すれば魔力が記憶され、タグは外せませんピ。装着者が死亡した場合ダグは停止、ランキングから消えますピ)
「えっと、一度着けたら外せません。死ぬまで」
ええー……死ぬまで外せないのはちょっと嫌だな。じいちゃんになっても、タグをチャラチャラ着けていないといけないのか。
「なるほど。複数枚得る事は出来ないな。……犯罪歴は調べるとして、歴に載らない悪意ある者も取得出来るのか?」
「それは」
(Pちゃん、俺も知りたい)
(取得は出来ますピ。ただタグを着けた後に殺人を犯すと、すぐ他の探索者たちに情報がいきますピ)
「悪意のある者も取得出来てしまいますが、人を殺せばすぐ同じ探索者たちに分かってしまうらしいです」
「どうやって?」
「……さあ? ネットニュース全員受信みたいな?」
皆んなの視線が痛い……。ここはひとまず。
「とりあえずタグがどんな物か、見てみましょうか」
話をすり替えるのが一番だ。
Lvタグ箱の中に魔石を入れてみたが、何も起きないので蓋を一度閉めてみた。閉めると同時に箱の表面に刻まれた魔法陣が一瞬光る。
今度こそ来ただろ、これは……。
緊張しながら蓋を開ける。
「これは……」
赤いビロードのクッションのくぼみに親指の爪ほどの、SDカードに似た黒いチップが乗っていた。
「何だこれは?」
4人が覗き込んでから、一斉に俺を見る。
(レベルタグですピ)
「レベルタグですピ?」
俺は首を傾げながら呟いた。
読んでくれてありがとうm(_ _)m!




