調子に乗ると転落する
Pちゃんの言う通り、階段に向かう間も魔物に出会うことはなかった。
もうすぐ3階へ続く下り階段に到着する。
「出てこないって、どっかに隠れてるってことか?」
「通路のどこかにはいますピ」
ふうん。
そうだ、やってみるか。
足を止め、空間把握に気配察知を組み込むようにして…放つ。
波紋が広がっていく。
反対側の通路に、何匹かは分からないが、何かの固まりを感じた。
後ろの通路にも。
「これどんな種類かとか、何匹いるかまでわかったら、かなり使えるな」
待てよ、鑑定も組み込めないかな?
もう一度空間把握に気配探知を組み込み、波紋を放つ。
そして通路反対側の固まりに鑑定を…。
識別できません
鑑定さんに拒否られました。
「良い発想ですピ。スキルを鍛えれば、可能になるかもしれませんピ」
今は立ち止まって意識を集中し波紋を放っているが、そのうち歩きながらでもできるようにしたい。
だけどほんとに寄ってこないな。
これじゃあレベルが上げられないぞ?
思わずにやにやしてしまう。
「そんなに強くなったのか。よし、決めた。3階で魔物を倒しまくって、レベルをガンガン上げて、スキル向上させる! 3階なら大丈夫だろう」
3階に降りる階段があった。
「行くぞ! Pちゃんっ」
気持ちがはやる。駆け足で階段を降りていく。
3階についたらすぐ空間把握と気配探知でこっちから仕掛ける。恐れおののくがいい。ふははは。
そして階段を降りきった時、足裏に感じるはずの地面がなかった。
身体がバランスを崩す。
へ?
「ピ! 航平!」
一瞬の浮遊感。
俺は階段の一番下に空いていた穴に、吸い込まれるように落ちていった。
ドゴンッッ!!
「い、いてええ…」
…凄い音がしたけど、俺生きてるよね?
「くう…、ライフ」
生命力683/710 魔力 320/320
20ぐらいのダメージしかなかった。
大げさ? いやいや、バンジージャンプ並みの落ち方だったぞ。
…やったこと無いけど。ひゅんって、ひゅんってなったぞ。
絶対防御2がいい仕事をしてくれたらしい。
どうせならこんなうつ伏せじゃなく、もっとカッコよく、宙返りとか決めながら片膝をついて着地したかった。
職業が忍者じゃないから? サラリーマン(低)だから?
「大丈夫ピ?」
パタパタとPちゃんがうつ伏せの俺の顔前に着地する。
ちょっと恥ずかしい…。 行くぞ! とか言って穴に落ちるとは…。
「…うん。いやあ、まさか穴が空いてるなんて思わなかったよ。あはは。あれ罠かな?」
両手をついて立ち上がり、付いている土を払い落とす。
「罠なら航平の罠解除6が反応するので、自然に崩れたと思いますピ。ダンジョンの穴は勝手に修復しますから、修復前の、出来立て穴ですピ」
そんな嬉しくない出来立てホヤホヤもあるんだね…。
「にしても、ここどこだ?」
見渡す限り背の低い草で覆われた草原だった。
いつもの暖色系の明かりではなく、昼間のような日の光。
さっきまでの石の天井とは違い、どこまでも澄み渡った青空がそこにはあった。
外に出た? あの穴はワープか何かか?
「外…じゃないな」
見上げた空に1ヶ所、ぽっかりと空いた穴の違和感が半端ない。
「俺、あんな高いところから落ちてきた?」
青空に浮かぶ黒い満月のようだよ。
「はい、ちなみにここは地下10階のようですピ」
はい?
「…Pちゃん、それはないだろ? 3階に降りた時穴に落ちたんだから、次は4階だろ〜」
顔が引きつる。
「穴は10階の平野ダンジョンに繋がっていたようですピ」
外ではなく更なる下に、不運ワープしたらしい。
俺の幸運200MAXが仕事をしてくれません。
「俺は強くなった…?」
「はいピ」
「地下5階くらいまでの魔物なら、俺のほうが強い…?」
「はいピ」
「じゃあ10階は…?」
「即死はしないと思いますピ」
早く上に戻らないとおおお!
読んでくれてありがとうm(_ _)m 皆さんの後光が眩しっ