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ディストピアの反魂使い  作者: 柊アキラ
8/33

〜第一章 第八節 ディストピアへ、鍵の守り人〜

この世でたった一人、選ばれし者だけが

手にする事ができる「反魂の書」


それは、命の理を破り

ディストピアの門をひらく、鍵だった。


俺の名はアレキ

地獄の門、あけてみせるーーー

どうして今、死にかけてるんだろう

俺はたしか今日、17才のバースデーだったはずなのに。


いつもの誕生日なら、この時間

じっちゃんに、あったかいポタージュを作ってもらって

ライ麦パンをダリウスと二人

うっま! って笑いながら頬張ってたよな?


なぜ、俺は走ってる

なぜ、フォルネウスって獣は跳躍して

俺めがけて落ちてくるんだよ!!

俺は、「深淵の書」に選ばれたかっただけなのにーーーーーーー


ザシュウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥ


空中から落ちてきたフォルネウスの衝撃で、砂塵がまき散らされた。


モウモウと白い煙が、あたりを霧のように覆う。

「嘘だろ、白い闇みたいだ……!」


こっちからは、あの獣の姿がみえない。ってことは、あっちからも今は見えない筈。


チャンスだ!

たとえ一時的にせよ、このスキに逃げるしかない!!


「だめだ、守らなきゃ……! カノン……!!!」

逃げようと思った刹那、俺の心臓の奥でなにかがはぜた。そうだ、カノン! 彼女が気を失ったままだ、ダメだ逃げられない。俺はクルリと方向転換した、つま先はカノン目がけて疾走する!! 俺が……俺が絶対守るから!!


「アレキ、カノンを頼む!!」

見ると、ダリウスとルダが、囮になって逆方向に走っていた。

「任せとけ!!」


あいつら、咄嗟にそれできるとかマジいい奴!! 大好き!! あとでなんか奢ったる!! 

その前に生き残れ、俺たちーーーーーーーー!!!



「カノン! おい、カノン起きろよ!!」

「ん………」


俺は眠り続けるカノンの肩を、ガクガク揺らす。

とにかく起きてもらわないと、逃げられない

「カノン!! 起きてくれ頼む!! カノン!!」


闇深い洞窟の天井から、パラパラと細かい砂粒のようなものが降ってきた。おそらく、魔獣が走る振動なんだろう「ズシャ」という地面を蹴る音とともに、揺れがズンズン伝わってくる。


目の端には、フォルネウスが大きな牙を剥いて駆ける姿と、逃げ惑うダリウス、ルダの姿が映る。


やっべえ、本当に早く目を醒してもらわないと、困るって……!


全員、フォルネウスの爪の餌食でザクザク〜とか、笑えないからさ

「僕がやる! ダリウス離れてて!!」


ルダの声だ!

瞳を走らせると、あの臆病なあいつが……立ちはだかるように両手を広げて、呪文を唱えていた。いや、大丈夫かよ!?


「ファイアーウォール!!」


ボウッ!! 刹那、紅蓮の炎の壁があらわれた。

お、すっげーーーー……!

そういえばルダは、魔法が得意だったな。フォルネウスは、驚いて炎の前で立ち尽くしてる。これで時間が稼げるかもしれない、やった!!


「ん……」

「カノン、気がついたか!? おい、早く起きてくれ時間がないんだ」

「なんの……こと?」

「フォルネウスって魔獣が現れた、早くここから出るんだ」

「魔獣って?」

「深淵の書を守りし獣だ。動けるか? ルダが魔法でせき止めてる間に、ダッシュで逃げるぞ!!」

「ん〜、まだ眠たいよう」


カノンは目をこすりながら、ぽんやりと俺を見る。

さっきとは違うよな。俺がよく知ってる寝起きのぽやぽやした彼女だ。白銀のサラサラな髪に、サファイアみたいな色彩の瞳。小さい頃から知ってる顔なのに、なんだか懐かしくなる。


よかった、本当によかったよ……!

俺はなんだかこみ上げるものを感じて、彼女をぎゅうっと抱きよせた。


「アレキ……? ど、どうしたの」

「あ、ごめん!!」


子猫みたいにかわいくて、こんな時なのにドキドキする。わ、わきまえろ俺! 今はとにかく、一人も欠けない覚悟で生き残らなきゃなんだ!!!


「よかった、戻ったんだな」

「何の話?」

「カノン、さっきまで別人みたいだったから」


そう、知らない人みたいだった。

『血が……呼ぶ』なんて呟いてたし、あの時たしかに心が伽藍堂みたいだったから。カノンじゃない誰かが体を乗っ取ってしまったみたいで、胸の奥がザワついたんだ。


「変なの。私は私だよ?」

「だな、カノンはカノンだ」


グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル……


地面に響くような音色、それは喉を鳴らす音。

その音の先には、フォルネウスがいた。見ると、ルダが魔法により出現させた炎の壁が、だんだんと小さくなっていた。このままじゃ、防ぎきれなくなる……ヤバイ!!


「アレキ、あれ……あの化け物なんなの!?」

「フォルネウスだ」

「え、何!? あんな大っきい獣ムリ!! かないっこないよ」

「大丈夫だ! 俺が、俺が絶対にカノンをーーーーー」


刹那、フォルネウスが咆哮をあげると、大きな爪で地面を蹴った。速いっっ!! また飛んだ……!


巨大な体躯が、頭上からスピードをあげて迫る。俺は秒で判断して、とっさにカノンを突き飛ばすと、右にゴロゴロと転がった。


ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!

翔ぶが如くにジャンプしたフォルネウスが、降下する。粉塵をまき散らしながら、その右腕を俺がいたはずの地面へと殴りつけた。


あっぶなっっっ……!!

今……1秒でも判断が遅れてたら、カノンもろとも叩きつけられていたかもしれない。ゾワリ、背中に冷たいものが走る。でも、ゆっくりしてられない、倒れてるカノンを起こしてここから脱出しなきゃだ!!


「痛……」

「カノン、すぐに起きて! 走るんだ!!」

「アレキ、うしろ……」

「え……?」


ザッシュッッッッッッッ!!!

鋭利な刃物みたいな爪。それがもう、眼前に迫る!! 俺の肩先をその巨大な爪が切り裂いた……はずだった。


「いってえっ……!!」

「ルダ、お前なんで……」

「だって、アレキ今死にそうだったから……。もーさ、早く逃げてよ……」

「だってそんな、お前、血でてるじゃん。ダメだって、動いちゃっ……!!」

「全然だよ、皆でさ……生きて帰ろ?」


ルダはいつも優柔不断で、臆病で、人見知りが激しくて。

学校のごはんも、たくさん食べられなくて、いつも残ったパンを俺が内緒でこっそり食べてた。ケンカだって弱いから、いつもいつも……俺とダリウスの後ろに隠れて、俺たちが勝つまで肩を震わせて見てたのに。


「俺が囮になる。ダリウス、魔法陣かけるよなーーーーーーーー?」


俺は、フォルネウスの死角。巨大な岩にひっそりと隠れ、息を殺しているダリウスめがけて、声を飛ばした。


「正気か? 魔法陣は書けるけどさ、時間は多少かかるぞ」

「大丈夫だって、俺めっちゃ足早いからさ!!」

「……わかった、それしかないか……魔物でも召喚して、フォルネウスを倒すしか」

「ああ、全員生きて帰るにはそれしかない!! もしもーーーーー」


俺は少し、言の葉を飲み込んだ。

それは、あまり想像したくない未来予想図だったから。けれど覚悟を決めて、ダリウスに向けて叫んだ。


「もしも俺が死んだらさ、お前が生き返らせてくれよな!」

「何いってんだアレキ、そんな事冗談でもいうなよっ」

「だってダリウス。お前はもう反魂使いなんだろ?」

「お、俺は……」

「お前はもう、ディストピアとこの世を繋ぐ『鍵の守り人』なんだろう?」

「俺は……」

「ダリウス……お前だけだ。この世でただ一人、理を破り、黄泉への扉を開くことができるのは。俺にはできなかった。俺は……、選ばれなかったからーーーー」

「俺はっ……」


不思議と胸の奥がシン……と澄んでいた。

告げなきゃいけない言葉が、スルスルと紡がれていくのが、自分でもわかる。きっとこの言葉は、俺にしかダリウスに言ってあげられない。


「深淵の書を使って、魔物を召喚してくれ、ダリウス」

「アレキ……」

「皆で生きて帰るには、それしかないから」

「ああ」



「だから、もしも俺が死んだらさ、お前が生き返らせてくれよな、ダリウス!」



刹那。ジャリ……と、石を踏んだ音に気づく。



振り返ると、フォルネウスがいた。

え、いつの間だよ!?

少し首を傾げて、グルルルル………と喉を鳴らす音が聞こえる。


俺はゆっくり、ゆっくりと身構える。長い尾を揺らしながらフォルネウスは、「俺」に照準を定めたーーーーーーーーー

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[良い点] 魔獣の描写が生き生きとしていてとても良かったです\(^o^)/ フォルネクスの躍動感がすごく良かった [気になる点] ルダは結構 強いのか?? 今後のルダの活躍に期待!! [一言]…
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