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ディストピアの反魂使い  作者: 柊アキラ
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第一章 第四節 はじめて反魂の術を使った日

この世でたった一人、選ばれし者だけが

手にする事ができる「反魂の書」


それは、命の理を破り

ディストピアの門をひらく、鍵だった。


俺の名はアレキ

地獄の門、あけてみせるーーー

「時間がたった暗い血の色のことをさ

遠い国の言葉で

朱殷しゅあんって、呼ぶんだってさ」



ダリウスが昔、そんな事いってたな。



深淵の書に綴られた文字は

まさにその「朱殷」という色だと思った。


深淵の書は、ラストの一文字まで

血をインクにして記されているという。

うおっふ、なんかちょっと怖いな……!


でもだからこそ、反魂の術を使って

ディストピアの門をあける事ができるんだろう。


俺も開けてみせるさ、ディストピアの門を!


なんか俺ん家の庭が、地獄の門とつながるなんて

すっげー不思議な気もするけど

不思議と脳がクリアになった感じがする。


俺はスーーッと息を吸い、詠唱したーーー


「その魂、骸にあらず

時の静寂〜しじま〜

夢のあわいより

深淵より現れたまへ


我、死の理を破りし者、アレキ・クローヴィス

今、楔をちぎり 血潮を戻そう

清廉たる命よ、闇の終焉を解き放て!」


天に向かい、言の葉を終えた刹那、魔法陣からまばゆい光が放たれた!


なんだこれ眩しい!

目がくらむほどの輝きの中、下からゴオオオオオオオッッッ!! と、突風が吹く。


魔法陣の形のままに放たれた光は、漆黒の雲まで届いた。少女が天空の光へと、指を向ける。


「ねえ、雲に魔法陣の光が映ってるわ」

「本当だ!」

「ね、なんか、雲にめりこんでない……?」


穴だ……!

「空に、穴が開いた……!」

雲にうつる光は、雲を穿つ穴へと、みるみる変化していく。


ふと隣をみると、魔法陣の外に立つ彼女が、ちいさく震えていた。白銀のながい髪は濡れてポタポタと雫が流れ落ち、アイスブルーの瞳が、不安を宿し揺れていたんだ。


「あの空こわい……まるで、生き物みたいだよ」

「うん……あ! 雨止んでない!?」

「本当だ、急に止んだ……」

「ね、あの蛍みたいなの何だろ?」


彼女の指さす先、キラキラしてる。

「なんだあれ?」


天空の穴から虫が羽ばたくように、ふわり。一匹の蛍があらわれた。彼女がふいに驚いた声をあげる。


「ねえ蛍、ここに向かってない?」


明滅する光。

ちょ、なんかこっちに滑空してない?


ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーー!


炸裂音と閃光が、魔法陣に落ちた。

いや、シドサーガの死体に直撃してない!? 大丈夫かよ!?

シュウシュウと煙が立ちのる。何だよこれ……


「嘘だろ、雷かよ?」

「ね、シドサーガの体に直撃しなかった?」

「ヤバイ、そうかも!」


魔法陣は白煙でモウモウとして、見えない。ぼんやりした霧の中に、なんか影がモゾモゾ動いてる気がする。ふいに、彼女が叫んだ。


「シドサーガ!」


シュウゥゥゥゥ〜と立ちのぼる煙をかきわけて、魔法陣へと進む。煙の中の彼女は、ただのシルエットだ。彼女が何かをギュッっと抱きしめた。まさかーー


「くぅ〜」

「生きてた……! ねえ、シドサーガ生き返ったよ……!」


あわい白煙が晴れてゆく。

本当だ……あのワイバーンが……動いてる……! 


俺は魔法陣めがけてダッシュした。マジかよ、彼女の腕の中でシドサーガが瞳をあけてる。てか、頬ずりとかしてるけどっ……!


「うわああああああああ、成功した……ムリかと思った…… マジかーーーーーー!!」


なんかもう、泣けてきた。ダメで元々だと思ってた。自信なんか全然なくて、ただ父さんみたいに反魂の術使えたらいいなって、だから……


憧れの背中みたいになりたかった、もうそれだけで。


「ね、シドサーガに触れてみて」

彼女のやわらかな声でハッと、我に帰る。え、俺さわっていいのかな?


「いいの?」

「いいよ。君が助けた命だもん」


ふふっ……とバラのような笑みを浮かべると、シドサーガを前向きに抱っこして『撫でていーよ』という顔をした。なんだよ、かわいいな。

俺はそお……っと、ワイバーンに触れてみる。


「わ……あったかい」

ザラついた肌は意外にも体温があって、じんわりと温もりが伝わってきた。うわ……反魂の術、効いたんだ……!

奇跡じゃなくて、リアルで。


「シドサーガ生きてるよね……、夢じゃないよね!」

「うん、すげーな……。俺ほんと、魂呼び戻したんだな?」

「すごいよ……! だって、死んでたんだよ? 息してなかったんだよ。冷たくなって、グッタリしてたのに……」

「うん……」


彼女が『くぅ〜』と甘えるシドサーガを両手に抱きかかえたまま、澄んだ空色の瞳を、まっすぐ俺に向けた。



「君はすごいよ。こんなこと、神様にしかできないよ」



まるで懐かしい誰かを想うように、優しく目を細めた。おわ……急に心臓がバクバクとはぜた。ヤバイ。うれしい。ちょっと、恋かと思った。


土砂降りの雨は嘘みたいに晴れあがって、空は雲ひとつない瑠璃色。そういえば銀の髪の少女の名を、俺はまだ知らなかった。


「ねえ、君の名前……まだ聞いてなかった」

「カノンだよ。カノン・ミゼール」

「カノン。俺の名は、アレキ・クローヴィス」

「アレキ」


瞬間、頬にパアン! という音。

軋むような痛みが走った。

「アレキ。ーー何をしている」

「父さん……!」

「これは、禁忌の秘術だ……」



振り向くと、怒りをたぎらせた父が、そこに立っていたーーーー

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