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ディストピアの反魂使い  作者: 柊アキラ
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第一章 第一節 命のらせんと深淵の書

※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。

シェアワールド『テラドラコニス』のリンクはこちらです。

https://terradraconis.com/

テラドラコニス


【反魂使いはディストピアの夢を裂く】


作・柊アキラ


あの日も死体に、ライラックの花びらが降り注いでたっけ。

もう息をしていない少女が、眠り姫みたいに横たわってた


「今から、死んだ彼女を蘇らせる。そこで見ててくれ、アレキ」


父さんはあの時、大きなガサついた手の平で

ポンポンって頭をなでてくれたっけ。


「死んじゃったの、あの子?」

「ああ。でも、今から魂を呼び戻すよ」

「どうやって?」

「ディストピアの扉を、父さんが開けるのさ」


なんか夢みたいな言葉

父さんは、くしゃくしゃの笑顔を刻むと

満開のライラックの根元へと、走った。


あの頃、俺は少年だった。

うす紫に染まる、ライラックが満開で

ゆるやかな風を孕み、揺れていたのを覚えてる。


その大樹の根元に、少女の死体があって


父さんは反魂の術を使ったんだ

死んだ少女を、蘇生させるために。


声をかけてはいけないような、ピンと張り詰めた荘厳な空気のなか

澄んだ青の空に、はらはらと舞う花びら


「なんか……すみれ色の雪みたいだ……」

そんな呑気なことを、ボーーっと考えていたような気がする。

その時だ、運命の男が現れたのはーーーーーーー



「ごきげんよう。

こちらに反魂使いがいるとお聞きしたのですが

ああ、間違いはなさそうですねえ」


男は、殺戮者のような瞳をしてた。

ダークブルーのシャツに、漆黒のズボン。ボタンがたくさん付いていて、軍服のようなデザインだ。蒼のフチの眼鏡をクイっとあげると、消えかけた月のように目を細めて、ニコリと笑った。


「あ、あの、どなたでしょうか?

今は困ります。大切な儀式の、途中なんですよ」


父さんが、驚いて声をあげた。

そりゃそうだ、命が甦るという反魂の術をはじめる所だ。途中でやめれば、どんな事件になるかわからない。術が失敗すれば、ディストピアの門が開いたままになる時もあるって、聞いた事がある。


そんなの、絶対こわいよ……!

ざわめく喧騒の中、冷酷な笑みを浮かべたままの眼鏡の男は、ゆっくりとサーベルと抜いた。刹那、人々の群れがザワッと波立つ。


「私の名は、コルネリウス・ハーン

反魂使いを狩る者です」


「今は、あなたと対峙している時ではありません

お引き取り願いたい。さもなくば」


「さもなくば?」


「確実に、その喉笛をかき切るまでですよ。

コルネリウスさん」


その言葉とともに

父さんから、見た事もない瘴気のような白い蜃気楼が、ブワッと湧きあがった。な、なにこれ……!

こんな父さん見た事ないけど!?


風が下からゴウゴウと舞い上がる中、父さんはコルネリウスって人を睨んで立っていた。その姿は何か、人間を超えたナニカみたいで。わけがわからぬままに、背筋がゾクリと泡立つ。


「ハハハハハハハハハハハハッッ!!

これはこれは。今の貴方には叶いそうもありません

また出直すと致しましょう!」


「また来るのですか、コルネリウスさん」


「ええ。貴方にふさわしい『力』が必要のようです

反魂使いは私の獲物

私の力が満ちた頃

また美しき再会を……約束しましょう」


うやうやしく貴族のような礼をすると、小さな眼鏡をスッとあげて、冷笑した。まるで鷹のような鋭い眼光を、今でも覚えてる。男は軍服の左肩についたマントを、バサリとひるがえし、そのままライラックの花の闇へと消えていったんだ。


「父さん、なんか怖かったよ……!」


「大丈夫だよ、アレキ

父さん、これでも強いんだぞ」


「うん。でも怖かった」


「そうか。また来たって、父さんが蹴散らしてやるから!

お前はそこで、反魂の術を見ていてくれよ、アレキ」


「わかった!」



すみれ色の花びらが、夢のように舞い降りるなか

父さんは、呪文を詠唱した。

動くはずのない少女の腕がビクン! と一瞬はぜる

ゆっくりと起き上がると、歓声とかどよめきとか、拍手が鳴り響いてすごかった。


「嘘だろ……」


こんなの、ありえない光景だ……

反魂の儀式を見たのは、生まれて初めてだった

死体だったのに、なんで動いてるんだよ!?って

鼓動がすっげードクドクしてた。


金髪の少女が、瞼をあけると

淡いブルーのワンピースが風を孕み、くるり。一回転して笑った。鳴り止まぬ拍手の中を、夢のように降るライラックの花びら。


生きてるーー

さっきまで大樹の下で横たわっていた、ただの死体だったのに。父さんは蘇生させたんだ。


すっげーーーーーーーーーー!!

胸がカアアッと熱くたぎって興奮した!

俺は父さんに駆けよって、こう言ったんだ。


「俺も、俺も大きくなったら反魂使いになりたい!」

「なれるさ、17歳になったら」

「17歳?」

「そうだ。反魂使いは、17歳になったら継承できる。なってみるか? 命を呼び戻す、ただ一人の継承者に」


「なる!」


父さんは、ゴツゴツした大きな掌で、俺の頭をわしゃわしゃ撫でてくれた。少年だったあの日。胸が踊るような、神様に選ばれたような、その、どうしようもない嬉しさを覚えてる!


父さんがいなくなった今も、鮮やかに想いだせる。


17歳になったら、反魂使いになれる

17歳になったら、あの術を継承するんだ!

俺か、双子のダリウスのどちらかが、選ばれる。

俺はきっと、選ばれてみせる……!



「……って、夢オチかよ」


珍しく、幼い頃の夢をみた。

父さんの夢とか、なんかめっちゃ懐かしい。今日が、17歳のバースデーだからかな?


目をこすっても眼前にあるのは、いつもの俺の部屋だ

俺はベッドを降りると、真っ白いカーテンを思いきり横に引く。窓をバタンと開ければ、雲ひとつない瑠璃色の空。


あの日と同じライラックの樹が、早咲きなのか咲きほこっている。運命の日に見た、すみれ色の花びらが、夢みたく俺の胸を揺らしていたーーー




〜第一章 第一節 命のらせんと深淵の書〜


「禁忌の書物『深淵の書』。反魂使いを継承する者は、たった一人。この本に選ばれることとなる。わかるな?」


「本に選ばれる?」


「そうじゃ。アレキとダリウス、お前たち二人どちらかが深淵の書に選ばれるんじゃ。お前たちが選ぶんじゃない。本が、継承者を選ぶ」


え、それ、どうやって選ばれんだよーーーーーーーーーー!!

俺は胸の奥で絶叫する。


竜峰歴515年の1月27日

ドラーテム王国にある、ティリア村で

俺と双子のダリウスが、17歳になったその日

反魂使いになるための試練話を、実家のキッチン横で、じっちゃんから聞いていた。つか、今も聞いてる。


「いやいやいやいやいや、ちょっとまって。本が選ぶの? 俺じゃなくて?」

「そうじゃ、お前に選ぶ権利はない。深淵の書が選ぶのじゃ!」

「えーーーーーー! なんだよそれ!」


「書に選ばれる基準があるなら、知りたいな。先に」


質問の主はダリウスだ。

夢のように整った顔立ちのダリウスが、絹のような漆黒の髪をサラサラとかきあげて、じっちゃんに問いかける。


「基準は、知らん」

「知らないんだ」

「ああ、選ばれた者は書を開き、ディストピアの門を開くことができる。骸となり果てた魂を呼び戻すのなんて、自由自在じゃ」


「それってさ、選ばれない奴は、どうなるんだよ?」

「選ばれなかった者は、書を開くことすらできん」

「そんな……!」


衝撃だった。

選ばれなかった時のことなんて、あまり想像もしてなかったから。隣をふと見ると、ダリウスが窓からの光を一身に浴びていた。ちょ……、こんな時だけど煌き感すごくない?  なんか透明感あるし。


今とかもう陽光が差し込んでて、そこだけキラキラ照明浴びたみたいに立ってるよ。一服の絵画みたいに神々しいんですけど。


ここに「反魂使いダリウス様、降臨!」とか太文字で書いてあっても違和感はない。そのぐらい、神絵師が描いたみたいなイケメンなんだよな〜。


俺もまあまあな顔で金髪だけど、ダリウスのおかげであんまり目立たない。だって「まあまあなイケメン(だと思うけど、え、たぶん)」だから


月のように白い肌、漆黒の髪、天才肌の頭脳をもち、長身でモテ感すごい! 

それが俺の双子、ハードル高すぎ物件! ティリア村在住、ダリウス・クローヴィス(17歳)なのだ!


うおおおおおおおおお、負けん!!

そして、なにより書に選ばれたい!!

どうすりゃいいんだ、俺?


鬱々と考えていると、じっちゃんがスタスタ食器棚の方に歩いていった。棚の引き出しをゴソゴソ探ると、なんだか古めかしい〜羊皮紙を握りしめて、戻ってきた。


「これが、深淵の書に辿りつくための、遺跡の地図じゃ」


遺跡の地図、食器棚にあったーーーーーーーー!!


「そんな大事な地図、食器棚に隠すなよ!!」

「何いっとるか! 日常の中に隠してこそ、まぎれるのじゃ!!」

「そんなもんなの!?」

「そんなもんじゃよ! さあ、しっかり受けとるがいい」


じっちゃんが、俺の手の平にセピア色の古びた地図を渡してくれた。そこには、この町の外れにあるという「禁断の遺跡」の内部が描かれてたんだ。


「え、ちょっ……!! ここ、禁断の遺跡だろ」

「そう、禁忌の場所じゃ。選ばれてこい。アレキとダリウス、どちらか一人。運命の1冊に!」


「はい!!」


俺とダリウスは、力強くうなづいた。歴史を感じるキャラメル色の地図には、誰かの手垢や、誰かが握りしめた軌跡、すこし破れている部分もあった。うわあ……なんか、緊張する……!!

ドキドキしてきた……!!


かつて、たくさんの反魂使いを志した誰かが、この地図を握りしめて、反魂使いを目指したんだろう。


なんてーか、こう……凄いな。

時の年輪とか、地図から深い想いを感じるよ。うん、俺は絶対に選ばれる!! 

そう、決めている。


「生きて、帰ってこいよ」

「え……?」


いつも朝から「なんで起きないんじゃーーーーーー!!」と怒号を飛ばすじっちゃんの、予想しなかった優しい声。やわらかく俺の頭にポンポン、と掌をのせると、こう言った。


「洞窟にはフォルネウスという、深淵の書を守りし魔獣がいる」

「フォルネウス……?」

「ああ。そいつに言葉は通じない。ただ、深淵の書を守るために襲ってくるだろう。フォルネウスに、殺されるなよ……!」


え……、洞窟に魔獣……?

殺される可能性があるってことか……?

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