◆プロローグ『この世に意味はありますか』
ぬちょ、と。
粘液が気色悪い水音を立てる。
「……光希」
「ひゃっ……な、何っ!?」
光希の首元へ、片手を回す。
ぐちゅ、と光希の赤く長い髪に絡みついた粘液が気色悪い音を立てる。
しかも若干生臭い。
「こんな時に、言うことじゃないってわかってる」
「なっ、なによぅ」
光希の首筋をなぞるみたいに、片手を後頭部に回す。
べちょぐちょぉ、と手におもいっきり絡みついてくる粘液と、前腕に垂れ落ちてくる光希の髪の毛ウィズ粘液。
嫌悪感が爆発しそうなくらい尋常じゃないスピードで背筋をバゾワゾワッと駆け上ってくる。
「でも、言わせてくれ」
「はぅっ、ぅぅ……っ」
こんだけ気色悪いものを全身に纏わせておきながら、頬を耳まで真っ赤に染めつつキス待ち出来る光希の異常者極まりない精神に心底ドン引きしつつ。
「光希、好きだ―――……っ」
「んっ」
私は、光希とキスをした。
…………いや、待って。
別にコレ、このおはなしの一番のピークとかじゃないから。
大切な分岐点でも無ければ、一番の見どころでもねえから!
いや、見どころではあるかもしれないけど……とにかく、私がこの幼馴染――北大路光希とキスする羽目になったのには訳がある。
それを話すには、とても時間が要るんだけれども、是非とも聞いて欲しい。
え、そんなの興味ない? 他にやることがある? 聞いたところで意味がない?
まぁまぁ、待てって。
確かに、私が幼馴染とキスした理由なんて(だいぶおかしな状況でしてる理由も)聞いたところで意味がないかもしれない。
けど、だ。
じゃあ意味のあることって、いったい何なんだろうな。
ごはんを食べること? 恋人といちゃつくこと? 今季のアニメをチェックすること? 今月の新刊? 今週のイベント?
それとも、歴史に名を刻むこと?
さぁ、そいつはどうだろうね。
これから始まるのは、そんな深淵なる命題を問いかけたり、問いかけなかったりする物語。
是非とも肩の力を抜いて、あまり深く考えず、読んでみてほしい。
たぶん、最後には私とおんなじことを言いたくなるはずだ。
この世に意味はありますか、ってね。
いや、知らんけど。