VSヒュドラ①
ヒュドラと対決です
まず動いたのはレイハルトだった。
ミスリル銀で出来た剣をスッと構えると地面を踏みしめヒュドラに向かって走り出す。
ヒュドラは迫り来るレイハルトを見据えるとぐるりと回って、鞭のようにしならせた尾を横殴りに振るう。
しかしレイハルトは迫るその攻撃を地面とスレスレになるほど体を低くすることで回避、執拗最低限一切無駄な動きをせず回避した事で速度を減滅せず、さらに加速してヒュドラへ迫る。
しかしヒュドラも負けじと横に振るった尾を振り上げ迫るレイハルトに向かって尾を頭上に叩きつけた。
ヤバい!
このままでは避けきれないと横にゴロリと転がったレイハルトは、目の前にヒュドラの顔がある事に驚き咄嗟に《魔防壁》を展開させると直後に火龍には劣るものの強力なブレスが障壁に激突する。
ゴゴオォォォー!とまるでバーナーの様な音を伴いながら吐き出されるブレスをなんとか防ぎながら、未だこの戦闘の様子を見ていたダン達に向かってレイハルトは叫ぶ。
「ここは俺が引き受ける!みんなを起こして早く洞窟の外へ行け!」
「で、ですがレイハルトさんは!」
リンダが不安な表情を向けるが、レイハルトは笑みを浮かべてヒュドラを見る。
「俺はこいつを討伐する!今ここで殺さなければ村にまで被害が及ぶ可能性が高いからな!」
とブレスが止んだ事でレイハルトは魔防壁を解除して左手を突き出した。
「氷よ 斬り裂け 氷結の刃!」
するとヒュドラの真上に氷の刃が出現し、切り裂く様にヒュドラに落ちる。ドシュ!と言う音を供ないながらヒュドラの鱗を無視し深く斬り込んだためヒュドラは大きな声をあげ暴れまわる。
『ガギャャャャャャ!』
ドガンドガンと岩にぶつかる事で上から岩石が落ち、洞窟がいつ崩れても良い状態になってしまい流石のレイハルトも焦り始めた。
「これはヤバいな。ダン!皆を起こしたか!」
「はいレイハルトさん!」
「この洞窟はもう危険だ!さっさと脱出しろ!」
「了解です!リンダさん行きますよ!」
「嫌よ!私はレイさんとここに残る!」
「な!」
絶句するダンは、拳を少し震えると「失礼しやす!」とリンダを抱え出口方面へと向かい走り出す。
「は、放しなさいダン!私はレイさんと一緒にいたいの!」
「俺はあなたを守るために雇われた護衛です!これが当然の行動でしょう!?」
と遠ざかる2人を見送り、レイハルトはフッーと息を吐き出すと剣先をヒュドラに向けた。
先程よりもより濃密な殺気を向けられたヒュドラは、フシューとレイハルトに舌を出し警戒度MAXで対峙する。
「こんな洞窟で他の人がいたら。巻き込まない自信がないからな・・・。さあ殺ろうか続きを」
とレイハルトが言うないなやヒュドラは先程よりも速く、強化された尾での攻撃を仕掛けた。
まるで剣で攻撃されている様に風を切りながら迫る尾にレイハルトは避けきれないと瞬時に察し、剣で受け止める事で防御を試みる。
ガキンッ!とまるで金属同士がぶつかる音が洞窟内に響き、ガラガラとその衝撃で上から石が落ちてきたが、ヒュドラの攻撃は止まらない。
今度は尾を高く上げるとレイハルトに向け連続で突きの攻撃を行ってきたのだ。その攻撃はさながら槍の様に鋭く地面を穴だらけにするほどで、なんとか剣を駆使しその攻撃を防いで行く。するとヒュドラの三首がフッと息を吸い込み始め、これはヤバいとレイハルトが思った時には視界を包み込むほどの毒霧のブレスが吐き出される。
その攻撃に堪らずその場を跳んで離れようとするレイハルトだが、それを読むかの様にヒュドラは尾を振ってレイハルトを壁に叩きつけた。
「ぐはっ!」
グキッと体内から音が鳴り苦悶の声を上げながら地面を転がる。
なんとか剣で直撃は免れたため致命傷にはなっていないが、ダメージは相当なものだ。ゴホゴホと咳き込み受け止めた反動で痺れる左手を振りながら、先程よりも明らかに戦術的な攻撃にヒュドラを興味深く見たレイハルトはとある予測を立てていた。
「こいつ明らかに他の個体より知能があるな。まさかヒュドラの亜種か?」
まさかヒュドラの亜種に合うなどどんな偶然だろう。レイハルトは昔も様々な魔物を打ち倒してきたが、やはり知能が高い魔物との戦闘は一癖も二癖もあり苦労してしまうのが殆どだった。
「頭を斬るか」
と呟くレイハルトは剣を振り上げ斬風を起こし周りにある毒霧を払い除けると地面を強く蹴り込み、一瞬にしてヒュドラの足元まで移動するとヒュドラの首めがけ剣を振り上げた。
ヒュン!
と言う音を音が駆け抜けるとヒュドラの頭は何の抵抗もなく地面へと落ちブシューと血が舞う。
残った2つの頭が怒ったようにシャーと声を上げ威嚇した時、斬ったヒュドラの傷口からムクムクムク!と何かが飛び出して来て、十数秒も経たないうちに新たなる頭が再生してしまった。
「やはり再生しないうちにまとめて切り落とさないとダメか・・・。なら!」
レイハルトは左手でピタッとヒュドラの皮膚に触れると左手に魔力を集中させ一気に解き放つ。
「発勁!」
すると左手から強力な威力を持った魔力が放出されヒュドラの皮膚を通り、内部を破壊して行く。
『グギャァァァァァァァ!!』
と今までにない攻撃を受け倒れこむヒュドラに好機を見たレイハルトはトッと飛び上がり剣を構えた。
「もらった」
レイハルトは横殴りに剣を振ると辺り一面に血飛沫が上がったのだった。
◇◇◇◇◇◇
とんとんとんと静寂に満ちた部屋に音が響き渡り、重々しい雰囲気が流れる。
レイハルトがリンダを助けに出掛けてしまい、シルヴィア達はレイハルトが心配で気が気ではなかった。
シルヴィアはチラリと兄妹達を見渡す。幼い時から自分達は拾われた子だとレイハルトに教わられたが、おそらく実の父以上の愛情を注いでくれたレイハルトの身に何かあったらと思うと皆不安でしょうがないのだ。
レイハルトを見送ってから既に1時間以上の時間が流れシルヴィア自身の心も不安でいっぱいになっていた。
もし大好きな父が戻ってこなかったら?一生父の顔を見れないのでは?
そんな言葉が脳内で回っている中、レオが苛立たしげに立ち上がり拳を握った。
「もう待ってられない!父ちゃんを向かいに行こうぜ!」
「ダメよ。お父様が家にいろって言ってたじゃない」
「なんだよシルヴィ!父ちゃんが心配じゃねえのかよ!」
「そんなこと一言も言ってないでしょ!」
と不安からかチョットした口論になってしまう。
いつも元気なリリーでさえ、元気が無くシルヴィアは父がいないとこれだけの影響があるのかと改めて実感してしまった。
「俺は探しに行くぞ!止めたって行くからな!」
とレオが立ち上がるが止める者は誰もいない。
レオが玄関の方へ行こうとすると行く手に突如ベルリが姿を現す。
「なんだよベル止めるのか?」
レオが苛立たしげに言うがベルリは何言ってんだ?と言う顔を浮かべてローブを羽織るともう一つのローブをレオへと差し出した。
「春にはなったけど外はまだ冷えるから来てったほうがいいよ」
「あ、ありがとな・・・。ベルお前も行くのか?」
と言うレオの質問にベルリは魔道書の本を小脇に抱え呆れた顔を作る。
「何当たり前なこと言ってるの?帰ってこないんだから迎えに行くのが家族でしょ」
フスンと鼻息を吐くベルリはフェルとシルヴィア達の方を向く。
「みんなはどうするの?確かに父さんには待ってろって言われたけど皆んなで行けば大丈夫なんじゃない」
ベルリのマイペースな発言に皆がキョトンとしている中、くつくつと笑ったレオはベルリの頭をポンポンと叩きそれをベルリは払う。
「ははは!お前らしいや」
「触るな」
「はー。仕方ないわ皆んなでお父様を向かいに行きましょうか」
「そうだね!パパだって私達に会えなくて寂しくしてるよきっと!」
「オイラ達が行かないとな!」
「仕方ないお父さんが待ってるかも」
皆が立ち上がるとフェルの方を一斉に向いた。フェルはフッーと息を吐くとやれやれと言うように頭を振る。
「言うことを聞かないのはやはり親に似たか・・・。わかった迎えに行くが、我の側を離れることはしないと約束できる者だけ連れてくぞ良いな!」
と言うフェルの約束に皆首を縦に振ると各々がローブを羽織り出発の準備をする。そして匂いを頼りにレイハルトの元へと向かったのであった。
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次回VSヒュドラ②よろしくお願いいたします