あれから10年後・・・。
あれから10年が立ちました
顔を背けてしまう程の眩しい光朝日が顔へと当たり、眉をひそめたレイハルトはそのまま意識を覚醒させて上体を起こす。
グッと背筋を伸ばしだらしなく口を開け大きな欠伸をしたレイハルトは、二度寝したいと言う欲求を振り切ってベットから立ち上がる。
階段を降り調理場まで来るととある魔具に触れて魔力を流してゆく、これは王都で話題を呼んだ火種を使わずに料理のできる魔力コンロと言うものだ。
仕掛けは実にシンプルでメータまで魔力を流すとそれ以降はその充填した魔力を使用し、下級火魔法の魔法陣が刻まれた魔石が反応して火が出るという仕組みだ。つまみを回し魔力量を調整することも可能なので、火力を弱くしたり強くしたりできるので家には一台は欲しくなるのは間違いないだろう。
つまみを中にし水を汲んだヤカンを魔力コンロに置いたレイハルトは鼻歌混じりに戸棚からティーカップを取り出すと紅茶葉を取り出して湯が沸くのを待った。
ヒューとヤカン口から蒸気が上がるのを確認したレイハルトは、一旦火を止めると紅茶葉をヤカンに入れ、今度はごく少ない火力で火にかける。こうすると紅茶葉の風味をじっくりと味わえることができるのだ。
自分の裾を巻き上げたレイハルトは床に取り付けられた貯蔵庫から、燻製にしたベーコンの塊を取り出すとそれを薄く切り分け油の少し垂らした大きめなフライパンへと敷くように焼いて行く。
少しカリっとなったベーコンに同じく貯蔵庫から取り出した卵をリズムよくフライパンの中へと次々と投入し、白身が完全に白くなってきたら火を止め蓋をし余熱で黄身を温めればこれで完成だ。
レイハルトが次に取り掛かるのがパン作りである。昨日作ってボウルの中に寝かせておいたパン生地を取り出すと伸ばし台を取り出しゆっくりとこね、形を整えたらパン生地をおもむろに拳台の大きさにちぎってはトレイへと乗せた。
20個ほど作り乗せ終わるとパン生地の表面に薄く油を塗り、牧を汲み火をつけておいた石窯の中へスッと入れて膨らみ焼目がついたら完成だ。
ここまで約30分。チラッと壁に掛けてある時計に目を移すと時刻は7時を回っていた。
ふむ、まだ時間があるな。
レイハルトはスッと調理場から出て裏庭に出ると土を耕し囲いを作った自作の畑へ移動する。朝露を浴び新鮮で瑞々しくみえるレタスを2玉取り、その後もトマト、キュウリと野菜を摘み取り専用のカゴに乗せ調理場へと戻った。
石窯内の様子を見てパンが焦げていないか確認すると次はサラダ作りに取り掛かる。
サラダとは聞こえはいいがただ野菜を盛り付け、昨日作り置きしていたポテトサラダを上において出すだけなのでほとんど時間はかからない。あっという間にサラダを作り終えてしまったレイハルトは石窯からふっくらと膨らみいい焼き目がついたパンをバスケットに丁寧に入れる。
このままでも十分朝食は足りるだろうがやはり朝はスープがなければ気が済まない。
レイハルトはフックにかかっているマジックバックを手に取ると中から昨日の夜多く作りすぎて余ってしまったオニオンスープが入った大きな鍋を取り出し強火にかけて温める。
昨日今日とオニオンスープというのもなんだか味気ないと感じたレイハルトは、新たに牛の乳、バター、チーズそしてキノコを取り出し鍋の中に牛の乳を投入する。
少しかき混ぜて味見をしもう少し味を整えようと胡椒を少々加えると今度はバターをしいたフライパンでキノコを炒めた。
程よく炒めたらこれも同じく鍋へと入れ、最後のし上げとばかりに少量のバターと削ったチーズを入れかき混ぜる。
余り物のオニオンスープがあれよあれよと入れたことであっという間にそして簡単に特製シチューの完成だ。
これでよし・・・。
と腰に手を当て休憩がてら紅茶たしなむレイハルトは、2階からドタドタ!キャッキャッ!と言う音が耳に届くと口元に笑みを浮かべて、一気に紅茶を飲み干した。
ティーカップを戸棚に入れ、パンやサラダなど小分けしていないものをテーブルの真ん中に置き、朝食の準備をし始めるとバタバタと階段を下る音が聞こえ顔を向けて見る。
するととても元気な声が調理場に響き渡った。
「おはよ。お父さん」
「パパおはよう!!」
「おはようございます!お父様!」
と3人の少女が元気いっぱいな笑顔を向けレイハルトに駆け寄ってきた。
思わず微笑みを浮かべたレイハルトはその3人の少女の頭を撫でる。
「おはようユノ、リリー、シルヴィア。時間ぴったりだな偉いぞ〜!」
少女達は目をつむって嬉しそうに笑うと洗面台へと向け走って行く。
赤ん坊達を拾って故郷へ帰省しもうすでに10年という月日が流れていた。
レイハルトが6人の赤ん坊を一人で育てると言ったときは、知り合いの村人達にたいへん驚かれたが皆直ぐに自分達の子供のお古を貰ったり、おむつの仕方を教わったりなど様々な面で協力してくれ、そのおかげもあってか子供達はすくすく育ち今ではとても元気いっぱいな子供達だ。
赤ん坊の頃は性別がどちらか見た目では判断できなかったが、それも10年立てばそれもはっきりする。
今来た少女達はエルフ族、龍人族、人族の赤ん坊達でエルフ族の子がユノ、龍人族の子がリリー、そして人族の子がシルヴィアである。
3人ともとても顔が整っており、あと5年もすれば異性問わず振り向くほどの美少女になることは間違いないとレイハルトは確信しているが、これは単なる親バカだろうか?
レイハルトは自分の娘達を一瞥すると残りの子供達が、いないのに気付きどうしたのかと聞いてみる。
すると顔に水滴をつけた龍人族のリリーが2階を指差し答えた。
「アスラとベルリはまだ寝てるよ!レオは朝早くフェルおじさんと山に行っちゃった!」
「まじかー。それじゃあ起こしてこないとなありがとうリリー」
と苦笑しながらリリーの頭を再び撫でたレイハルトはしょうがない思いながら2階へと上がる。
「リリーずるいよ!私もお父様に頭を撫でられたかったのに!」
と羨ましがる娘シルヴィアの声が聞こえたがレイハルトは今は無視しよう決めたのだった。
◇◇◇◇◇◇
思春期など迎えると男女どちらも気難しくなるからと男女別の部屋で育ててきたレイハルトは、少年達が眠る方の部屋に立つと控えめなノックをする。コンコン、・・・・しかし反応がない。
これは完全に夢の中だな。
とレイハルトはドアノブを回して顔だけ部屋へと入れる。
「入るぞ〜」
ギギー。と音を立てながら部屋の中へ入り、3つあるベットの内1番近くのベットへ近づき覗き込むとそこには腹を出し大きな大きな鼻ちょうちんを浮かべるドワーフの少年がいい寝顔で寝ているのである。拾った赤ん坊の一人であるドワーフ族のアスラだ。
「むにゃむにゃ。うーー・・・。も、もうオイラこんなに食べられないよ!」
今のセリフでも分かるようにこの子はとても大食いで、パン10個程度なら平気でパクッと食べてしまう。
「ほらアスラ!起きなさいもう朝だぞ!」
とレイハルトが寝ているアスラの体を左右に揺らすが、今だに鼻ちょうちんは健在である。
やはりこの子にはこれしかないか・・・。
レイハルトはアスラの耳元まで顔を近づけるとボソッと囁くように呟いた。
「アスラお前の朝食なくなるぞ?」
すると効果的面、閉ざされていたはずの瞼が開かれかと思うとその体型からは想像できないほど軽やかな身のこなしでベットから出る。
「オイラの朝食食っちゃダメ!!」
アスラは獲物を狙う獣の如き目で周囲を見渡す。アスラはその様子をとても困った目で見るレイハルトと目が合った。
「ありゃ?お父ちゃん朝食は?」
「はー。お前は本当にお前は食べ物のことばかり考えているな。それをもう少し訓練に向けてくれたらなー。それと人に会ったらまず言うことがあるだろう?」
それを聞いたアスラはハッとすると、両足を揃えスッとレイハルトにお辞儀をする。
「おはようございますお父ちゃん!」
「はい、よく出来ました。さっ早くシルヴィア達の手伝いをしてきなさい今日の朝食はシチューだぞ」
「シ、シチュー!」
どれほど美味しいシチューを思い浮かべたのか口元からよだれを垂らすアスラはバッと駆け出すとドタドタと階段を行き良いよく下って行った。
「1人目完了と」
レイハルトは短く息を吐くともう1人寝ているベットにゆっくりと近づき揺すって起こす。
「ベル、ベルリ。起きなさい朝だよ」
ベルリと呼ばれた少年は、むくりとベットから身を起こすと目元をゴシゴシと擦る。
他の子より肌が黒く小さな特徴的なベルリは魔人族の特有のものだ。
「あれ父さんもう朝なの?」
「そうだよもう朝食の時間だ。顔を洗ってきなさい」
「うん・・・」
とまだ眠いのかフラフラと歩くベルリが階段で足を踏み外し怪我をしたら大変なのでレイハルトはベルリの体をおもむろに持ち上げ階段を下る。
「あ〜!ベルリだけずるい!私だってお父様に抱っこしてもらいたいのに!」
と頬を膨らませ嫉妬するシルヴィアをベルリは「これは僕の特権」となんだか、意味がわからないことを言っていた。
レイハルトはベルリを降ろし協力して朝食を準備する子供達を見て満足げに頷くともう1人の子、獣人族のレオを向かいに行くため前がけのを外した。
「よし。レオを向かいに行くから怪我しないようにな」
「「「「「はーい」」」」」
レイハルトは畑の向こう側に広がる森の中へと入ると落ちた葉の上をザッザッ!と進んで行く。
ある程度村から距離が空いたなと思ったいなや大きく息をするとこれでもかと言う程大きな声でレイハルトは叫んだ。
「レオ!!フェル!!ご飯だぞーー!!」
「ご飯だぞー!!」と森の中にこだまするのを聞いてふわ〜と欠伸をする。すると猛スピードでこちらに向かってくる白い大きな狼を見て来たなと呟いた。
前足をブレーキに使いレイハルトの側で止まるとフェルはハッハッハッ!と息をする。そのフェルの背中から頭に狼の耳そして腰に尻尾を生やした少年が、するっと降りてくる獣人族のレオだ。
「父ちゃんおはよう!フェルと一緒にコカトリスとか狩ってきたよ!」
レオは尻尾を振ってレイハルトに駆け寄ってきた。まるで動物でも狩ったような調子で言う、レオに思わず苦笑するレイハルトは褒めて!言わんばかりで尻尾を振るレオの頭を撫でる。
「そうか偉いぞ。でもお前はまだ子供なんだからあまり無理はするなよ?」
「わかったよ父ちゃん」
「レオみんながもう朝食の準備をしているから手伝ってきなさい。あ!あとフェルの朝食も出し忘れるなよ」
「うんわかった!」
まるで風のように森を駆け、あっという間に見えなくなったレオを見ながらしみじみ思うもうあれから10年が立ったんだなとそれを呼んだかのようにフェルはレイハルトの隣に座ると声を出した。
『こどもと言うのは直ぐに大きくなるな』
「ははは。全くだよ」
とレイハルトは静かにつぶやくと子供達の待つ家へとフェルと共に戻るのであった。
みなさんお読みいただきありがとうございます!
アドバイスご感想とうあれば是非くださいお願いいたします!
次回商人とヒュドラ 今後ともお願いいたします