6つの赤子を拾いました。
赤子拾います
光をも吸収するほどの黒々とした黒龍が目の前に突如出現したかと思うとパカーと開かれる大きな口がだんだんと真っ赤に染まり、辺りにピリピリとした空気が流れた。
ゴクリと生唾を飲み込み叫び声をあげながらその場を逃走する人々を横目に冷や汗をかく、早く逃げてくれと心で思いながら剣を取り出し、その緑色に輝く目を真っ直ぐに見る。
弦いっぱいに引かれた矢が弓から放たれるように口から放出した息吹が辺り一面を火の海へと変えた。
逃げた人々取り残された人々を関係なく焼き尽くしたその炎をなんとか防いだが村人は誰一人として救えなかった。
肌が焦げ誰の顔だか分からないほど焼け焦げた村人達が呻き声を上げながら助けを求めるように足を掴み体を這いずり上がって行く。
その村人達の熱が伝わるように体が火で炙られたように暑くなる。そしてレイハルトはその悪夢からようやく解放されるのだった。
ガバッと行き良いよく上体をあげレイハルトは肩で呼吸をしながら周囲を見渡す。
だがそこは緑豊かな自然が広がっているだけで黒龍、そしてもちろん焼け焦げた村人さえその姿はない。
「クッソ・・・」
と呼吸を整えながら毒付くレイハルトは再び大の字で寝転がると清々しいほど蒼い空を見やる。
移動することはや2日、村までの距離が3時間程度かかる距離まで近づき一晩野宿をしたのだがまさかこんな悪夢を見るとは思っていなかったレイハルトは額についた汗をゆっくりと拭う。
自分が冒険者を辞めなければいけなくなった原因、あの圧倒的な圧力を思い出すだけで手足の震えが止まらない。それほどあの龍は強かった。
あの状況下では村人達を救えなかったのはしょうがないことだと多くの冒険者、ギルド関係者から言われたが自分にに力があればもしかしたら村人達を救えていたかもしれない。
そう考えるとレイハルトはただただ後悔と村人に対する 謝罪の気持ちが込み上げてきてしまう。一種の心の傷となっていた。
おそらくそれが自分にあの悪夢を見させているのだろうとレイハルトは確信しているのだが、心の傷はそう簡単に治るものでも克服できるものでもない。
フーと心を落ち着かせているレイハルトを心配そうに見るフェルの喉を撫で、おもむろに立ち上がると残った水筒の水を一気に飲み干した。
『・・・。主よまたあの悪夢でも見たのか?』
口を拭い栓をした水筒をバックにしまい。ジーと見つめるフェルに目を向けレイハルトはどこか疲れたように苦笑する。
「よく・・・分かったな」
『あれほどうなされていたのだわからない方が可笑しい。主よあれは主が悪いわけでは・・・・・・」
と言葉を区切りフェルの鼻が数回ピクッと動きあさっての方向を向く。どうしたんだ?とレイハルトは野暮なことは聞かない。
人に限らず生命を持つ者は少なからず魔力を纏っている。
目を瞑ったレイハルトは周囲に自分の魔力を広げることで他の魔力を感知し索敵を行う魔法『サークルサーチ』を発動し周囲に生命体が居ないか確認する。
するとここからおよそ500メートルほどの距離に6つの小さな生命体反応があることに気付き、バッと目を開け反応のあった方向へ体を向けた。
「まさか!」
と立て掛けてあった剣を急いで掴み腰に刺すレイハルトは、フェルの事は構わずに反応のある方へと急いで走る。
自分の見立てが正しければあの小さな反応は・・・!
とレイハルトは体に魔力を廻らせ身体強化を発動し森の中へと入って行く。
サークルサーチの反応ではこの辺りのはずだが・・・。
とキョロキョロ周りを見渡すがどこにもその姿はなく、ギャアギャア!と言う鳥類の鳴き声が聞こえるばかりだ。仕方なく再び索敵をしようと目を閉じた時、微かだが鳥とも獣とは違う声がレイハルトの耳に届き思わず目を見開いた。
「・・・おぎゃぁ」
声のした方へ行くとそこには普通の木よりふた周り以上大きい立派な木がその姿を現したのである。
木の周りを念入りに捜索してみると木が窪み少し空間の開いてるところ発見したレイハルトはゆっくりとその中を覗き込んだ。
するとそこにはタオルに包まれ種族の違う赤ん坊達がスヤスヤといい寝顔で眠っているところだった。
チラッと見てもそれが人、エルフ、獣人、魔族、ドワーフ、龍人種と見事なまでに違いがわかる。
なぜこんな所に赤ん坊がいるのかと不思議に思いながら、とりあえず取り出すことを優先にしようと1番近くにいた人族の赤ん坊を穴から出そうと持ちあげた。
するとタオルに挟まっていたのか1枚の綺麗な封筒がヒラヒラと宙を舞いすっと静かに地面へと落ちたのだ。
赤ん坊を片手に抱いて手紙を拾うと封を切って中身を確認するとそこには美しい執筆で次の様な内容が書かれていた。
『 拾って下さった貴方へ
これを読んでいると言うことはおそらく私はもうこの世にいない事でしょう。私はとある孤児院で働いていたシスターです。孤児院は突然襲ってきた盗賊によって荒らされてしまいほとんどの子供達が捕まってしまいました。
神父様が私達を命かけて逃がしてくださったおかげで私は今生きています。
私がこの子たちを育ててあげたいのですが、私が何かあった時のためにこの手紙を残す事にします。
皆種族は違いますが、皆兄弟の様に育ててください。いけない事をした時は怒って、人一倍愛情を注いでくださいね。これは私からのお願いです。どうかこの子達をよろしくお願いいたします。そして子供達私は貴方達の幸せを願っていますよ。
byシスター クレア』
手紙から視線を外し俺は周囲を確認する。
子供達がまだ元気いっぱいだという事は、おそらくシスタークレアがここにこの子達を置いてからそう時間は経ってないはずだ。
そうなればシスターもまだ生きている可能性が高い。
手紙には所々に血が染みたような痕が残っていた事から体のどこかに怪我をしていると考えるのが濃厚だろう。
もう一回サークルサーチで探しかないかと考えていると、突如抱いていた赤ん坊が大きな声で泣き出し始めその案外大きな声に抱いていたレイハルトは体が思わずギクシャクとする。
「ど、どうしたんだ。おおお!泣くな泣くな!ほーら大丈夫だよ〜」
と赤ん坊を揺らし慰めていると首の辺りにピリッと電気が流れた様な感覚が、全身を駆け巡り眉を顰めたレイハルト。
この感覚が起きた時には必ずと言っていい程何かが起こる事は、冒険者時代に嫌という程味わった。
赤ん坊を再び木の窪みの中へ戻すレイハルトは、そっと剣の柄部分を触れ周囲を鋭い視線で警戒する。
ジリジリと後退りし体内のスイッチを戦闘用に切り替えた途端、空気を揺らすほどの大きな鳴き声が森の方からではなく空の方から聴こえてきた。
『グギャャャャャャ!!!!!』
レイハルトは咄嗟に赤ん坊達がいる大木を魔防壁で覆うとバサッー!と音を立て舞い降りるその声の主を睨みつけた。
そして同時に思う
なんでこう肝心な時に自分は龍種ばっかり出会うんだ!
と。
そうそこには二階建ての建物と同じ大きさで、紅蓮色の鱗を持つ赤き龍が今まさに地鳴りを起こしながらその体を着地させ、周囲一帯に咆哮を放つ姿があったのだ。
突然現れる火龍!トラウマを持つレイハルトは勝てるのか!
次回VS火龍 よろしくお願いします
レビューなどあれば下さい!
お待ちしております(=゜ω゜)ノ