表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
1章 Start Another Heroes
6/58

逃飛行



 帝里を連れて飛び上がったイブは時空警備員の二人から距離を離そうと、真っ直ぐどんどん高度を上げていく。思うがまま身軽そうに飛翔するイブの様子に、帝里は未来の発展した技術力にも驚かされるが、なにより、


「ッ!マナの気配…!?ってことはこれ魔法!!?」


 そう、確かに帝里はイブが背中に付けた機械にマナを送り、魔法を使っているように感じるのである。さきほど警備員が言ってた魔力というものが、帝里のいうマナに相当するものであるならば、未来ではもう魔法の存在に気づいてるのではないだろうか。


 しかし、帝里はこんな自由に飛び回ることが出来ないし、そもそも魔法を使って作動する機械すら見た記憶がない。

 もともと飛べる種族は置いといて、帝里の記憶が正しければ、普通の人が空を飛ぶには本人のマナが膨大であることと、正確で繊細なマナ調節能力が要求される。帝里自身、マナの量は十分足りていたが、調節技術面がダメで上手く飛ぶことが出来なかった。

 それほど難易度は高く、飛べる者はほんのわずかで、実際飛んでいるのを見たのは羽が生えていて、まさに飛べそうなクラウディオスをはじめとする数名のみだ。


 なので、イブの飛んでいる方法が魔法だとすぐには断言できず、この機械の構造がどうなってるかも分からないが、もし魔法であり、この機械は技術面を補完するものであったとしたら、マナ量の問題はどうなるのか。あの機械でマナ量まで補えるのだろうか。


「ちっ、だれが逃がすか!!モイラ!」


 帝里の思考を打ち切るような大声で警備員が地上から叫ぶと、モイラと呼ばれたもう一人の警備員が三つの円筒状の金属の塊を帝里とイブに目がけて投げてつけてくる。

 その塊は途中で人型に形を変えると、それぞれが剣、杖、盾の得物を持って、こちらに飛び迫ってくる。これは帝里にもはっきりと魔法を使っていることが分かり、モイラという男は雷系統の魔法を使って、それぞれ剣ロボット、杖ロボット、盾ロボットを操っているといったところだろう。


「うっ…両手塞がってるのに厄介な魔法を…エルクウェル様!事態はかなり深刻です!出来るだけ動かないでッ!」


「わ、わかったけど、どうするんだ!?」


「とりあえず、あのロボットを蹴散らしながら距離を取りますッ!!」


 切羽詰まった様子のイブに帝里が言われるがままに頷くと、イブは帝里の脇に両腕を通して、抱え上げるような形に空中で帝里を抱え直す。帝里が攻撃魔法も何も使えない以上、戦力になれるはずもなく、イブに全てを任せるしかない。


 そうこうしている間に、いつのまにか三体のロボットに追い付かれており、剣ロボットが帝里に向かって得物を振り下ろす。イブは落ち着いて帝里ごと体をひねって斬撃をかわすと、その回転の勢いのまま剣ロボットに回し蹴りを食らわせる。

 蹴りを食らい、剣ロボットが体勢を崩した隙に、イブは左腕で帝里を抱え直すと、人差し指と親指を立てて、右手をピストルのような形を作り、指先を蹴飛ばしたロボットに狙い定めると、


「“フラマ・フシール”!!!」


 イブの指先が一瞬光ったかと思うと、拳ほどの火の玉が打ち出され、ロボットに向かって高速で飛んでいく。火の玉はロボットと一気に距離を詰めると、大きさからは考えられないほどの大爆発を起こし、爆炎が三体全てのロボットを瞬時に包み込む。

 辺り一面に爆風が激しく吹き荒れ、強風のあまり、帝里は目も開けていられず、 あまりの高威力の魔法を目の当たりにし、帝里は思わず悪寒が走るが、イブは手応えがあったのか、満足そうに人差し指に息を吹きかける。


 しかし、爆炎が徐々に晴れていくと、三つの影が現れ、三体のロボットが姿を見せる。どのロボットにも損傷を負った様子はなく、盾を前に構えたロボットの後ろに二体のロボットが隠れている。どうやら盾ロボットが爆炎を防いだようで、構える盾からは青白く光るオーラのようなものが三体を包み込むように出ており、きっと水系の魔法で炎の威力を弱めたのだろう。


 チッ、とイブの舌打ちが聞こえるのも束の間、盾ロボットの後ろからすり抜けるように杖ロボットが飛び出し、杖を構えると先程と同じくらいの大きさの火玉を複数飛ばしてくる。イブはさらに上に飛んで軌道からずれるが、そのイブを追うように火球は方向を変え、様々な方向からイブに襲いかかる。


 イブはすぐに大きく旋回すると、空を舞うように次々と火弾を回避していき、ひとつひとつ、さっきと同じ魔法で相殺し処理していく。

三体のロボットを牽制しつつも、残る追尾弾が二つになったところ、ふと、長年異世界に居た勘からか、帝里は地表から異様な殺気を直感的に感じ、慌てて下を覗き込む。

 その刹那、地表が赤く光るとともに凄まじい大きさの火柱が帝里達に迫る。すぐにイブも気づき、全力で横に飛んで逃げようとするが間に合わない。


「あぁもう!!“ヴォダ・コアトム”!!」


 炎が目前にまで迫り帝里達を飲み込む直前、イブが呪文を唱えると大量の水が炎との間に生成され、それがクッションのように火柱の勢いを一瞬食い止め、その隙にイブは火柱の範囲から逃れる。

 しかし、攻撃はそれだけでは終わらず、火柱から白い閃光が走るや否や、火柱が大放電を始め、それらが集まって稲妻となり、水の盾で飛び火から身を守っていた二人に襲いかかる。


「むむ、共同魔法ですか…しかし、火の攻撃を水で守る相手に雷とは、ほんと悪趣味です、ねッ!!」


 イブは水の盾の下方を思い切り地面に向けて伸ばし、突き立てる。水を接地することにより雷を地面に逃がすつもりのようで、襲いかかる雷撃がどんどん水に吸い込まれていき、なんとか防ぎきる。

 こうしてなんとか警備員の大技らしき攻撃から耐えることが出来たのだが、またあの三体のロボットが、どこからともなく再び帝里達の前に現れ、戦況は元通りになる。


「ハァハァ…過去に来てしばらくの間は、魔力が安定せず上手く魔法が使えないはずなんですが…ハァ…なんであの二人は普通に使えるのですかね…」


 イブは帝里を持ち直し、体勢整え直し、肩で息をしながら悔しそうに呟く。幸い、あの大技には多くの魔力を割くのか、その間はロボットを操作出来ないようなので、ロボットと大技が同時に来る心配はないが、今の攻防でイブは相当の力を使ったようで、このままだと追い詰められるのは時間の問題だ。


「うぅ、そのままでは……危険な方法ですが、仕方がないですね…必ず受け止めますから許して下さいね!」


「え?…………え??」


 次の瞬間、帝里の体に掛かっていた力が突然消え、目に映るイブの姿がみるみる小さくなっていく。それがイブに投げ上げられたと帝里が気づく頃には、帝里の体は大空に吸い寄せられるように高度をどんどん上げ、雲を見下げられるほどの高さでようやく上昇が止まる。大体高度3000m、何だか少し懐かしいな、と感傷に浸るのも束の間、すぐに自由落下が始まる。


「ぎゃゃぁぁぁぁぁ!!イブ!?イブ!?」


 今の魔法の使えない帝里はほぼ生身の状態と変わらず、このまま地面に激突したら確実に死んでしまう。さらに落下速度が上がっていき、パニックに陥った帝里は唯一この状況を助けられるイブを必死に探し、そしてその姿を視界の端に捉える。

 帝里の願いも虚しく、残念ながらイブはこちらの状況を少しも気に留めておらず、再びあの三体のロボットと対峙していた。掌を上に向け、前に掲げているイブの両手からはそれぞれ禍々しく炎が燃え盛り、マグマのように手から下に吹き溢れている。イブは大きく息を吸い込み、左手を杖ロボットに向けてかざすと、


「“フラマ・テスカティー”!!」


 イブが詠唱するとともに、溢れ出ていた炎が一気に凝縮され、イブの左手から光線のように細い熱線が放たれる。警備員達の火柱と比べてかなり細いが、その分、高密度に圧縮されており、大気を切り裂くような低く重い音を響かせて、真っ直ぐ相手に襲いかかる。

 しかし、やはりさっきのように盾ロボットが杖ロボットの前に現れて、防御を展開しイブの攻撃を防ぐ。さっきより遙かに威力が高い魔法に、盾ロボットもジリジリと後ろに押されるが、かろうじてイブの攻撃を受け続ける。

 しかし、それを見たイブはニヤリと勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべ、


「ふふん、かかりましたね!!これで終わりです!」


 左手に右手を合わせた途端、熱線が一気に膨れ上がり、さらに勢いをつけると、いとも容易くロボットの構える盾を木っ端微塵に破壊する。さらにそれだけでは勢いは収まらず、再び凝縮された熱線が真っ直ぐ延びていくと、盾ロボットとその後ろの杖ロボットの腹部を二体もろとも鋭く貫く。この攻撃には耐えられず、二体とも身体中に火花を散らすと同時に爆発し、辺りに壊れた破片がパラパラと落ちていく。


 見事に二体を撃墜するが、そんなイブに一息つく間も与えず、その攻防の間に後ろへ回り込んでいた最後の一体がすぐさま得物を閃かせて斬りかかるが、イブはすでに気づいていたらしく、大きく旋回して避ける。すぐにロボットがイブを追撃するが、イブは止まることなく逃げ回って距離を取り続けており、あとは遠距離技の魔法で処理するつもりなのだろう。


 帝里はごり押しの勝利にひとまず安心し、イブを声を呼ぼうとするが、声にならない。喜ぶべきなのに、それどころか空中にも関わらず、膝がガタガタ震えている。口だけでなく体全身が自分の言うことを聞かず、ダラダラと脂汗が流れて出ているのを感じる。


 急に帝里を取り囲んでいた周囲の音が止み、視界の端で何かが赤く光る。帝里の脳裏に一瞬、その正体がよぎり、そちらを向こうとするが、まるでそれが何か確認するのを拒むかのように帝里の体は言うことを聞きいてくれない。


 それでも本能が危険を察知し、反射的に顔が赤い光の方を向くと、もう目前にまで火の海が広がり、熱気の波が押し寄せてきており、このまま火柱に焼き殺されるという死への恐怖が帝里の身体中を駆け巡る。必死に何とかしなければならないと思えば思うほど、体が動かなくなり、心臓だけが生を強調するかのように痛いほど強く早く打ちつける。


 肌へ押しつけてくる熱が痛いほど炎が迫り、帝里が思わず目を瞑った瞬間、空を裂く音とともに何かが帝里の腰を強く締めつけ、横に引っ張られる。それにより、帝里の体が強引に攻撃範囲から引きずり出され、頬に炎がかすめるほど寸前のところで火柱を回避し、なんとか危機を脱する。


 そして、その衝撃のおかげか、帝里はようやく体の自由を取り戻し、ほとんど無意識に腰に巻きついている白く光るロープのようなものの先を目で追うと、そこには右手でロボットを押さえつけ、このロープを左手で握りしめているイブがおり、緊迫した面持ちでこちらを見つめている。


 イブは帝里の無事を確認し、ホッと安堵すると、すぐに和らいだ表情を引き締め、右手で掴んでいたロボットを火柱の根本めがけて全力で投げつける。いつの間にか地上の様子が視認出来る高度まで落ちてきていたようで、イブから放たれた高速で飛来するロボットに二人の警備員が慌てふためいているのが見え、そのおかげで火柱が消え、追撃の手が一瞬止まる。


「エルクウェル様、ここは一旦引きます!!しっかりそのロープに掴まってて下さい!」


 その隙を突いて、イブが帝里を引き寄せながら、帝里にそう伝えると同時に、イブは掌の上にそれぞれ、炎の玉と水の玉が浮かばせる。そして、帝里が十分近くに来るのを見計らい、イブがその二つの玉を重ね合わせると、巨大な濃霧が発生し、その霧に隠れて姿を眩ました。


==============


「くそっ、逃げられたか…おいモイラ、機械の状態はどうだ?」


 ようやく飛んできたロボットを止め、慌てて帝里達の方を見上げると、すでに霧は晴れて、イブと帝里の姿は消えており、取り残された警備員は完全に二人を見失ってしまい、大柄の方の男が悔しそうに舌打ちをする。


「うーん…ダメだよ、アッシュ。剣の方はまだ使えるけど、他の二体は完全に破壊されている…」


「へぇ…お前があれほど自慢してた最新鋭の盾を壊して、しかもあんな自由に飛び回れるぐらいの魔力をあんな女が持っているとはなぁ……いやそんなわけねぇか」


 モイラと呼ばれた小柄の方の男ががっかりしたように呟くのを、アッシュと呼ばれた大柄の警備員は少し感心したように聞きながら顔をゆがめるが、すぐに自分の考えを振り払うように首を振る。


「仕方がない、あいつらの追跡はまた後だな。今は『エルクウェル』を探し出すのが先決だ。それが当初の目的だったしな」


 アッシュは意味ありげにモイラに目配せを送り、ニヤリと口角を上げると、その場から立ち去っていった。


====================================


「ハァハァ…フゥー、なんとか逃げ切れましたね」


 あの場から脱出した二人は出来るだけ距離を離した後、ひとまず身を隠すためにビルとビルの間にあった人気のない路地裏に降り立つ。久しぶりに地に足をつけた帝里は上手く立てずに跪き、イブもドサリと座り込む。帝里のジャージは所々焼け焦げ、イブはかなり力を消費したのか、疲れてぐったりしている。


「まずはあいつらをどう対策するか決めなければなりませんね…

 …?エルクウェル様?」


 疲れを吹っ切るようにイブが立ち上がり、真剣な顔で話しかけるが、さっきからずっと黙っており、今も反応のない帝里を不審に思い、イブが不思議そうに帝里を覗き込む。そのイブと帝里の目が合った瞬間、帝里を渦巻いていた思いが堰を切ったように溢れ出し、帝里の顔が急に険しくなる。


「一体なんなんだ!!あのマナの量はどういうことだ!?それにまずなんで殺されなければならない!!?」


 無意識のうちに感じ取っていた帝里のマナ探知によると、さっきの攻防で未来人三人が使った魔力とやらは、この世界での一般的なマナ量をはるかに越えていたのだ。色々条件が考えられるが、まず未来から来た三人全員が偶然、強いマナの持ち主であったとは考えにくい。

 それに、無断で時間を越えることがどれほど重罪であるか分からないが、すぐ殺す必要はないはずだ。大体、まずその時代で何をしたのか事情聴取をするのが妥当である。


 突然、帝里に捲し立てられ、イブは目をしばたたかせて唖然とするが、すぐに正気に戻ると、少し考え込みながら、帝里の前に座る。


「…そうですね、普通ならば原則、犯罪者は生け捕りです。それはおそらく…彼らも時空犯罪者であり、それを隠滅するために私たちを殺そうとしているでしょう」


 いや、さっきあの二人組の男達は警備員だと名乗っていたはずだ。そんな帝里の疑惑を察したのか、イブは頷き、


「警備員、でもありますよ。でも、その警備員を隠れ蓑にして、こっそり犯罪を犯しているのです。私の予測ですが、おそらく彼らは‘英雄殺し’の犯罪者だと思われます。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ