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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
5章中 末法の月姫の誕生日
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月法からのおつかい



「で、最近どうなんだ?」


「どう、とは?」


「玲奈だよ玲奈。結局、俺はこの6年間一度も会ってないからな」


「あー、それはもう…元気ですよ」


 大量の書物が並べられた棚を前に、流し読みをして物色しながら帝里が声をかけると、イブが疲れたように答える。


 月法に呼ばれた帝里たちはその月法の到着を待つ間、京で随一の蔵書量を誇る陰陽使省の文殿でいつものように書簡を読み漁っていた。


「外に出れないせいか、家ですっごい暴れまわってますけど…年相応なんじゃないですか?この前も……まぁ、少し可愛げがないときもありますが、あの玲奈とは思えないほど良い子に育っていますよ!!ただ…」


「ただ?」


 誇らしげに語っていたイブが少し怪訝そうに言葉を濁したのに気づき、帝里は不思議そうにちらりと見る。


「最近、ニコニコとこちらを見てくる男の方が気になって…」


「え、普通に変態じゃん、追い出せよ!!」


「いや、私が初めて月法様の家に行った時から居てニコニコしていたのですが…

 月法様も『あいつは大丈夫』と言うんですけど、そろそろ玲奈も年頃ですし…」


「おいおい、…そもそも、どこの誰だよ、月法の息子か?」


「さぁ…?

 ‘はるあき’と呼ばれている二十代から三十代ぐらいの男性で、いつも家に居て…」


「ニートじゃねぇか!!ロリコンでニートとか絶対に玲奈に見せるな!!それでなくても玲奈は引き篭もり経歴があるんだから、悪影響しかない!!」


「えぇ…まだそう思い込んでいるのエル様ぐらいですよ…

 月法も玲奈に悪いことはしないと思いますし、悪そうな人じゃないので大丈夫です!多分」


 と言いながら不安の表情が消えないイブを見つつも、結局帝里には何も出来ずイブに任せるしかなく、今は玲奈がなんとか健やかに育っていることに安心し、帝里は当初の目的に戻る。


「今日は~どーれを読もうかなっ!」


「……よく6年も通って飽きませんね…」


 この国のすべての書物が集まっているといえるほど、ありとあらゆる種類の書簡があり、それを前に今日の本を楽しそうに探す帝里に、次は暇そうなイブがぶっきらぼうに口をはさむ。


「もともと、そんなに本を読むのは好きじゃなかったんだけど、この時代のことは何も分からないからな。調べるしかないだろ」


「確かに法律とかは分かりますが、陰陽術や呪術の本は必要ないんじゃないですか?魔法が使えますし時間の無駄では?」


「そうでもないぞ」


 ここ数年の経験から、この時代の陰陽術というものは、帝里達でいう魔法と同じものであると分かっている。なので、わざわざ陰陽使の本まで調べる帝里の行動を無意味だと言わんばかりに聞いてくるイブに対し、帝里の目がキラリと光る。


「例えば、最初に月法が俺らを拘束した技、あれは“光を重くする”陰陽術だ」


「え?えっと、光の質量って確か…」


「はいはい物理の話はしない。

 そんなんじゃなくて、夏の暑いときとかに日差しが重く感じることあるだろ?それを応用させたものらしい」


「へぇ~…」


「魔法はイメージが大事じゃん?この時代はまだ科学がない分、豊かな発想や捉え方があって魔法については学べることが多いんだ」


「でも、なぜ今更学ぶのです…?」


「…俺らは月法に負けているんだ。今回は月法が優しかったから助かったけど、相手が悪かったら殺されていたかもしれない…

 だから、もう次はない、絶対負けないように強くならないといけないんだ。それに、もう一度月法から力づくで、玲奈を取り戻すことになるかも知れないし。


 異世界を攻略して十分強くなったとつもりだったけど、まだまだだったんだな」


「……そう、ですね…私は本気出せば勝てましたけど!!」


 差し迫った表情で静かに闘志を燃やす帝里にイブは無言で微笑むと、気合の入った様子で帝里と一緒に書簡を眺める。


「…でも、途中から光というより…」


「ん~何の話じゃ?」


「ひゃあ!?げ、月法!!?」


 突然後ろから声を掛けられ、思わず慌てて本を閉じ振り返ると、怪訝そうに目を細めた月法が立っていた。


「6年経ったのに全然変わらないな…」


「なんじゃ急に…まぁ、この歳になったら変わるもんもないわ

 逆に若いおぬしらの方が変わらなさ過ぎて怖い」


「あっ、いや、ほら美魔女的なね?」


 帝里とイブが年を取らないのは時間軸固定剤の影響であり、逆に突き詰められて必死にとぼける帝里を「まぁいいが」とため息交じりに月法が興味なさげに諫める。


「とりあえずよく来たな。奥で話そう」


「え、なんでわざわざ…!?、一体何の用なんだよ?」


「…これじゃ」


 さっさと文殿を出ていこうとする月法に慌てて帝里が問い詰めると、月法は振り返りもせずにただ右手を掲げながら歩みを進める。


 忙しそうに揺れるその右手には紙幣ほどの大きさの紙が握られており、いくつか見覚えのあるような紋様が書き込まれている。


「陰陽符?」


 と不思議そうに尋ねる帝里に月法が大きくうなずく。

 初めて陰陽術を目の当たりにしたときから一緒に使っているところを見ており、帝里の中では他の陰陽使がよく使う馴染みの物になりつつあるのだが、実は帝里自身いまだに使ったことがない。


「左様。正確には陰陽使用の陰陽符じゃが、お前には不要な物だから渡し取らんかったな…

 この陰陽符について、どこまで知っておる?」


「いや、本で読んだけど、『火であり水であり…』って何書いているか、意味が分からなかったよ。もうちょい図とか絵とかで分かりやすくした方がいいぞ!」


「うーむ、誰もが分かってしまっては、それはそれで逆に問題なんじゃが…」


 さっぱりと手を上げる帝里にようやく月法が立ち止まると、「まずは価値を知ることが先決か」と思い直すように呟き、廊下から外に出ると、こちらを手招きする。


「ほれ、それが陰陽符じゃ」


「わーい。って思ったより普通の紙じゃねえか」


 帝里は月法から受け渡された初めての陰陽符を上に掲げて見ながら少し残念そうに呟く。


 帝里としては、この陰陽符が陰陽術を補助する、魔導石的な存在を果たしていると予想していたのだが、力を込めても何も起きず、ただの不思議な紋様が描かれている紙にしか見えない。


「これって何のために使うの?補助具的なものじゃないの?」


「それは神具の類じゃな。これは少し違う使い方をする

 ちょっとそれを突き出して立っておれ」


 少し離れて構える月法に、帝里は戸惑いつつも言われた通りに陰陽符を月法に突き出す。


「…火よ、“燐火”!」


「ちょっ、急になにす―ッ……え?」


 突然、月法が火の玉を帝里に向かって撃ち出し、とっさに帝里が陰陽符で防ごうとした途端、火玉が掻き消え、帝里は茫然とする。


「え?…え…?今なにが起きた!??」


 火玉を受けたはずの陰陽符は燃えることもなく、書かれていた紋様が増え、赤く光って妖々しい雰囲気を放っており、その不気味さに帝里はごくりと唾を飲む。


「その陰陽符が“燐火”を、わしの霊力を吸収したのじゃ」


「霊力ってことは…魔力を吸収したのか!?」


 信じられないといった表情の帝里に月法は静かに頷くと、帝里から陰陽符を取り、次は虚空に目掛けて陰陽符を構える。


「そして少しこつが要るのじゃが、‘さっきと全く同じ威力’で撃ってみるぞ


 …火よ、“燐火”!!」


「!!?」


 そう言って深呼吸した後、カッと目を見開き月法が呪文を唱えると、さっきより一回り大きな火玉が撃ち出され、そのさっきとは全然違う威力に帝里とイブは唖然とする。


 そして、その大きな火玉は途中にあった縁石にぶつかりと激しく燃え広がり、それを満足気に確認した月法が焦げた陰陽符をしまいながら向き直る。


「これが陰陽符の力じゃ!前もって力を込めておき、この力を上乗せして陰陽術や呪術を使うことができる。」


「…すげぇ」


 陰陽符の想像以上な潜在能力に語彙力を失った帝里は素直に感嘆してしまい、月法が嬉しそうな顔をする。


 月法の話が本当ならば、前準備が必要なものの、魔力を増幅させることで、実質強化することができるというのである。………魔力を…増幅…?


「おい…イブ!?これって、まさかッ…!?」


「…えぇ、‘魔力増幅装置’、です…。私たちの技術がこんな古代にあったなんて…」


 湧き上がる心当たりに思わず帝里が振り返ると、イブが右手の指輪に触れながら、驚きや困惑、悔しさが混じり合った複雑な表情を浮かべる。


「‘魔力増幅装置’は恒常的に使用者から少しずつ魔力を吸収して、使う時に還元する、貯蓄のようなものが大まかな仕組みです。

 ただ、吸収しているものが違うようで一属性しか吸収・使用できないようですが」


「…鋭いな。衣舞(イブ)の言う通り、記憶できるのは一属性で数回使うと壊れるし、容量を越えても壊れる。そもそも、そんな大量に溜め込めないから、お主らのように霊力が強い奴が使っても、相対的に効果が薄い。


 意外と使い勝手が悪いが、それでも多くの陰陽使には必須な道具じゃ」


「でも、なぜそんな紙なんかに…」


「紙だからこそじゃ」


 イブの疑問に応えるかのように月法が右手で指を5本立ててみせる。


「我々の陰陽術は火・水・木・金・土の5種類の元素からなるという思想が根本にある。

 紙は火になり、水に溶け、土に帰る。そして、この陰陽符は特殊な草木と鉱石が混ぜられているから、そもそも木・金を持っており、すべての属性になれるのじゃ


 だからこそ、こんな怪奇なことができるんじゃよ」


「すべての属性になれる…」


「だから、実はその属性さえ持っていればよくて、普通の火でも貯蓄は可能じゃったりする」


 何か思うことがあったのか、憑りつかれたように月法の言葉を繰り返す帝里に、月法は楽しそうな表情で頷くが、すぐに真剣な表情に戻り、話の本題に入る。


「さて、この陰陽符の危険性が分かったか?」


「-!!あぁ、イブの未来の指輪騒動を知っているからな」


 月法の質問に、ようやく何が言いたいのか気づいた帝里が苦々しそうな表情で頷く。


 魔導石のような魔法を使いやすくするのとは違い、この陰陽符は本来よりも強い魔法を使えるということであり、それによる被害や影響も大きくなるというわけなのだ。


「これって何枚も同時使用可能なのか?」


「一応可能じゃ。ただ強化しすぎると流石に制御できなくなるし、そもそも貴重なものじゃから、よっぽどのことがない限りしない

 貴重だからこそ!今はどうにかなっとるというわけじゃ!」


「うん…?…」


 最後をやたら強調する月法に、真意が見えず、帝里とイブは顔を見合わせながら首を傾げる。


「この陰陽符は陰陽使省が徹底管理している。粗悪品が出回ったり、密売されたりすることもあるが、陰陽使省がほとんど占有しておる」


「ガバガバ管理じゃねーか!」


「うるさい、他にも色々あって大変なんじゃ。それより、今、陰陽使省の陰陽符の在庫がかなり減ってきた…

 そこでえるには、その陰陽符を取りに行ってもらう!!」


「へ!!?おれ!!?」


 ビシッと月法に指を刺され、思わぬ指令に帝里は素っ頓狂な声をあげる。


「この陰陽符は都から遠く離れた山中の寺で極秘に作られておる。

 これまでは、わし自ら取りに行っていたのだが、代わりにお主が取って来てくれ」


「なんでだよ!!?お前が行けよ!!?」


「いや、わしだって歳だから…行くのが怠いし、今はれいなの大事な時期だから遠出したくない」


「ダルいだけじゃねーか!絶対俺が居ない間に、れいなに何かするつもりだろ!!?」


 どう見ても帝里と都から遠ざけたいようにしか見えない月法の指令に、さすがの帝里も猛反発し、断固として拒否する。


「…少しふざけたすまん、でも本気で行って欲しいのじゃ

 今、わしが行けても、もしものことがあったりして、次は本格的に行けないかもしれない。そうなる前に誰かに場所を伝え、確認させておく必要があるのじゃ」


「そんなッ…なんで俺なんだよ!?お前の優秀な部下に頼めば良いじゃないか」


「………皮肉なことに、お主がある意味一番信頼できるからじゃ」


 さすがに月法の死後まで面倒見切れない帝里は必死に言い逃れしようとするが、月法が真剣な面持ちで静かに言い放つ。


「確かに京まで運ぶだけなら、あいつらでも出来る。じゃが、欲に目が眩むかもしれぬ」


「…裏切って自分の物にするってことか」


「左様、もともと力を得たくて陰陽使になったのがほとんどじゃ。今は慕ってくれておるが、強大な力を前に魔が差すかもしれん。

 悪用されたら国が傾く。信じておるが、陰陽使の長としてその可能性がある以上、どうしても頼めないのじゃ」


「………」


 国を守るトップとしての責任と孤独さからか、月法が自嘲気味に寂しげに笑う。


「それに比べて、お前は目的が明確に分かっておる。陰陽使の力でなく、権力が目的なのが、いつも活動から明白じゃ。

 それにどういうわけか、れいなを執拗に狙ってきて、普段は面倒な奴じゃが、逆に陰陽符については信頼できる」


「…俺が裏切る可能性は?」


「実質れいなが人質のようなものだし、興味がないことのために、そんなことせんじゃろ?」


「はは、それは言えてる」


 ニヤっと口元だけ笑う帝里にようやく月法の顔にもほんの僅かに明るさが戻り、微かに笑い返す。


「れいなについては、お前が取りに行っている間、絶対に何もしないと約束しよう。なんならこれまで通り、衣舞(イブ)はここに居ても構わん」


「え、私!?」


「れいなも大事だが、国の平和を守ることは陰陽使の長‘月法’として、一番に果たさぬといけない使命なのじゃ。

 もちろんお前だけに背負わせない。次までに他に信頼できる者を必ず探しておくから、今回はお主が行ってくれないだろうか……この通りじゃ」


「月法…」


 深々と頭を下げて懇願する月法の姿に、帝里は言葉が出ず、葛藤に唇を噛みしめながら、ただその姿を見つめることしかできなかった。




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