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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
5章上 末法の月姫の誕生日
53/58

名無しの娘

そろそろ5章が始まって一年経つのに、1/4も終わってません…

いつになったら終わるのでしょうか……羅瑠というキャラを覚えてますか…?


[前回までのあらすじ]

月法の追手から逃げていると、玲奈を襲った賊と鉢合わせた。



「…くそっ、覚えとけよ…!!」


「うるせぇ!!お前の顔なんで二度と見なくねぇよ、バーカ!!」


 右の目の上が大きく腫れ上がった賊の頭領が手下と這々の体で逃げていく様子に、帝里はふんと鼻を鳴らすと、いーっ!と逃げる頭領に威嚇する。


「お疲れ様です、エル様!今回は快勝でしたね!!」


「だ か ら!あのときも魔力が戻ってからは圧勝だったって!

 しかも、前と同じで全然強くないのが、逆に腹立つ!!実況だったら同戦闘は即カットだぞ!?」


「それはどういう目線でのコメントなんですか…」


 手出し無用と帝里に言われ、離れて見ていたイブが呆れたように寄ってくるが、「ん?」と何かに気づいたのか、


「えっと…その子は…」


 と困惑した表情を浮かべ、ぴたりと止まるイブに、帝里もつられてその方を向くと、


「…ひッ…!…ッ」


 いつから居たのか、怯えているように縮こまって身を守っていた少女がすぐ近くで悲鳴を上げ、思わず帝里も身構える。


 諍いの前に居た周りの人々は争いが始まるや、すぐに離れていってしまったので、先程の賊の関係だと思うのだが、身なりがとてもみすぼらしく、服と呼べるのか怪しいほどボロボロの布を纏っており、


「…奴隷…ですかね…?」


「いや、日本に奴隷なんていなかったと思うんだけど…」


 と帝里は口籠もるが、実際に玲奈も攫われそうになっていたし、何より少女の首に付いている縄がそうだと言っているようなもので、帝里とイブは黙り込む。


「…まぁ、いいや。ほら、さっさと家に帰りな」


 さすがにずっと怯えられるのも嫌な帝里は手で追い払うようにして促すが、少女は一向に動く気配もなく、ぽかんと帝里を見つめると、


「…あの、…私は誰なのでしょうか?」


「…はぁ!?」


 思わず帝里も大声で聞き返してしまい、少女はビクッとまた肩を跳ね上がらせて怯えさせてしまい、「あっ」と帝里は慌てて手を振って否定する。


「いやいや、待て待て!そんなことって…」


「あー、これは魔法でやられてますね。」


 あまりに急な展開に受け入れられずにいると、いつの間にか少女に近寄っていたイブが怯える少女の前髪を上げて額を眺めながら淡々と述べる。


「……そういや、めっちゃ昔にお前も使ってたっけ」


「私のと同じかは分かりませんが…まぁ、どうせ脳に魔法的衝撃を与えて記憶を消すタイプでしょう。

 命の危険はなさそうですが…記憶の方は自然に戻ることを祈るしかないですね…」


「……脱走を防ぐためか…」


 少女を色々と診断しながら答えるイブの言葉に、まだ帝里より少し若い子がこんな目に遭ったのかと思うと、帝里は不憫そうにその様子を見守る。


 確かに思い返せば、あの頭領は何か変な札を玲奈の額に当てようとしており、きっとあれが記憶を消すものだったのだろう。

 それでなくとも、今、玲奈は現世の記憶がないのに、そんなことされたらカオスすぎてどうなるか考えるだけでも面倒で恐ろしく、本当に阻止できて良かったと思う。


「それで、どうしましょうか?警察…みたいなのには、今追われてる立場ですし…」


「検非違使っていうんだっけ?そいつらの詰め所的な所まで連れてって、後は自分で…」


「…ッ!?どうかそれはご勘弁を…!」


 困った様子で相談する帝里とイブを不安そうに見ていた少女だったが、突然、怯えるように手を付いて、か細い声で嘆願し始める。


「お、おい!?急にどうしたんだよ!!?」


「雑用でもなんだってします!絶対に迷惑もおかけしません…!

 なので、どうかお助けを…」


「いや、そう言われても…なぁ…」


 相当、検非違使と嫌な思い出があったのか、豹変したように必死に懇願する少女を慌てて起こしながら、帝里は困惑した表情を浮かべる。


「…助けてあげませんか」


「!!?イブ…!?」


「ほ、ほら!どうせやることも決まってませんし、一人ぐらい…

 ……こんな小さいのに可哀想じゃないですか」


 少し泣きそうな表情で帝里を見上げるイブに戸惑いつつも、帝里は困ったようにイブと少女を交互に見る。

 少女を見つめるイブの目はどこか慈愛のようなものを含んでおり、ちょうど同じ年頃の妹のモミと少女が重なったのだろうか。玲奈を預けるときもそうだったが、もしかしたら自分より幼い子に弱いのかもしれない。


「………はぁ…分かったけど、本当にどうするんだ…??

 下手したら記憶喪失のその子よりこの時代を知らないんだぞ?」


 帝里だって助けられるものなら助けてあげたいが、さっきも言ったように検非違使から手配中であり、知ってることも銅銭が嫌がられることぐらいの超世間知らずであるという、人の面倒を見られる立場でもないのである。


「うぐぐ…確かに……この都で、この子のことを知らないか聞き込むぐらい…ですかね…」


「…まぁ、それくらいはやるか。…ちょっと気になることもあるし」


 しかし、これからの予定もなく、こういう時は目の前で起きた出来事で事態が進展しやすいという異世界での経験からも、イブの提案に乗ることにし、改めて少女の方を向く。


「じゃあ、えっと…名前はわかる…?」


「…いえ………もし呼びづらいのであれば、名前をつけていただけませんか?」


「いや、それは…」


 少女のお願いにさすがの帝里も断ろうとするが、少女の震える手を見て言葉を止める。


 きっと自分が何者か分からないのが怖くて仕方がないのだろう。異世界から帰って来たときに記憶を一時的に失っていたことのある帝里はその気持ちが痛いほど分かり、仮だとしても名前をあげた方良いのかもしれない。


「そう、だな!せっかくだからめっちゃ凝った名前にしてやろう!!」


「それは贅沢な名ですねぇ!千にしますか!!」


 イブもそれを察したのか、楽しげに帝里に合わせると、少しずつ三人を取り囲む空気が明るくなった気がし、二人はその調子で話を続ける。


「さぁて、どうするか…

 変にそれっぽい名前つけると、引っ張られて本名を思い出せないかもしれないし、少しこの時代と離れた名前の方が良いかもな」


そう言って帝里は名前のヒントを得るために、改めて少女の姿を眺める。


 服装は酷く、食事もろくに与えられてなかったのか、非健康的な痩せ方をしているものの、可愛らしい顔立ちをしており、やはり長い黒髪とそのしおらしく俯く内気さからは、どこか剛堂さんに似たものを感じる。


「…うん、我ながらこの考えはキモいな。じゃあ、何か案のある人!」


「はいはい!! “小梅”!“杏子”!“胡桃”!」


「もしかしてお腹空いてる?」


 帝里の呆れたツッコミにようやく少女も笑みを浮かべるようになり、三人は道の隅に寄って座ると、帝里とイブが様々な案を出していく。



「……ふぅ、なかなか良い名前が思い付きませんねぇ…」


「……よし、決めたぞ。」


 しかし、三人が満足する名前が出ず、少し中弛みし始めたとき、帝里がそれを振り払うようにキラリと目を光らせて二人に告げる。


「……“いろは”、だ」


「いろは…」


「そう、5、6、8で()()()だ!」


「まさか数字!!?」


 仰天するイブに頷きながら帝里は少女に5,6,8の順に指を立てて見せて名前を教える。


「うん、この時代って確かまだ読み書きが出来ない人が多いはずだから、この子でも分かりやすいように数字がいいかなって」


「な、なるほど……んん?」


「それに古文といえば、いろはだろ」


「いや、音自体は良い名前だとは思いますけど、字が数字って…」


「伊達政宗の娘なんか五郎八で“いろは”だぞ?それに比べたら可愛いだろ」


「えぇ…」


 あまり納得がいってなさそうな表情でイブが渋るが、少女の方は気に入ったのか、「い、ろ、は」と何度も口ずさみながら、指を立てて名前を繰り返すと、


「…なんだか不思議な感じが……その名前が良いです」


「おっ、まじ!!?」


「えぇ!?まぁ、あなたが良いんなら構いませんけど…」


 帝里の確認に力強く頷き返す少女にイブも納得し、ようやく少女の仮の名前が決定する。


「じゃあ、いろは!お前のことを聞いて回ろうか!

 っと、その前に…」


「…?」


 弾みをつけて立ち上がった帝里を不思議そうに見上げる()()()に帝里はニッと笑いかけると、


「まずは服装をなんとかしよう!顔なじみのい~い店知ってんだ」


 そう言って、来た道を次は三人で引き返していくのであった。




==============================



「な~るほどねぇ~…」


 あれから数時間後、朱雀大路の道端でちゃんとした庶民の服に着替えた()()()としゃがみ込み、往来する人々を眺めていた帝里がポツリと呟く。


 検非違使に追われていたやつがそんな堂々としてていいのかと思うかもしれないが、どうやら検非違使たちは「青髪の女」という特徴に引っ張られているらしく、黒髪のいろはがたまたま良いカモフラージュにもなって、先程から度々検非違使が帝里の前を通るが、帝里達のことを全く気にも留めていない様子で走り抜けていく。


 そんな様子なので、帝里達も追われることもなくあっさりと聞き込みが出来たのだが、結局いろはに関する情報は一切見つからず、これからどうするか途方に暮れていた。


 あと一つ困っていることがあり…


「で、お前は何なんだ?」


「埴輪ですよ、HA!NI!WA!!

 良いカモフラージュでしょ?」


「浮いてる埴輪なんているか!!格安アパートでも侵略する気か?」


 ひょこっと埴輪の口の隙間から顔を覗かせるイブに帝里は呆れたようにため息をつく。


「まず埴輪って古墳時代だろ?平安時代にはもうないんじゃね」


「え?同じ古代でしょ?」


「いやいや全然違うよ!?…え?」


「え?」


 なぜか全然関係のないところに話が逸れたが、これまで色々とイブの反応が薄かったことを思い出した帝里は少し嫌な予感がし、恐る恐るイブに聞き返す。


「まさか…お前、歴史弱い?

 一寸法師とか、かぐや姫とか知ってるよな??」


「えっと、確か竹取物語ってのが日本最古の物語ってのは知ってますよ!」


「それがかぐや姫だよ!!…まじか」


 イブの反応に帝里はショックを隠しきれず、思わずイブの方を見て茫然としてしまう。


「だってぇ、私の母が日本出身なだけで、私はメネラウシア王国の人間ですしー…」


 そう言って悪びれた風に説明するイブの話によると、どうやら江戸時代ぐらいまでを古代とまとめられて教えられるらしい。

 イブが覚えてないだけかもしれないが、自分達が聞いた昔話を知らないのはなんだかノスタルジックな悲しさに襲われる。


「じゃあさっきの伊達政宗の下り、絶対分かってなかっただろ

 でも、そっか…人魚姫とかも聞かなかった?」


「さぁ…小さいときは『おっちょこ勇者エルクウェル』や『平和の解放者リーブ』とかばっか聞かされてましたね」


「あ、俺って童話なんだ…もう一人のやつ誰?」


「エル様の死後に活躍したメネラウシア王国黎明期の…」


「俺知っちゃダメなやつじゃん!?やめろやめろ!」


 自分がいつか死ぬことは当たり前とはいえ、その後の話をされるのはなんか嫌なので、無理矢理、話を切り上げ、本題に戻す。


「じゃあ、末法思想って言ってもピンと来ないよな」


「末法思想???」


「そ、末法思想。まぁ、俺も調べてそんなのあったなぁぐらいけど」


 ぽかんとした表情で固まるイブに、帝里は調べたスマホの画面を見せながら、再び通行人の方を見る。


 帝里は平安京に来てからずっと気になってのがこれだった。


 実は都に入ったときからなんだか人に生気がなく、始めは理想と現実の違いぐらいに思っていたが、平安京の正門である羅城門が再建されてないことや、服屋の投げやりな態度、いろはのような人身売買などと、流石におかしい。


 そこでいろはの聞き込みのついでに帝里が調べた結果、末法思想という結論に辿り着いたのだった。


「えっと…『1052年に人も世も最悪な時代が来る』と…

 …ぷっ、いや、こんなの誰も信じないでしょ」


「いやぁ?科学が進歩した俺らの時代だって、一昔前に地球滅亡を信じてたんだから、全然ありえると思うぞ?」


 さらに平安の方はネットもなく口伝えのせいか、話に尾ヒレが付いて様々な憶測が生まれ、多くの人が絶望しているようだった。


「そんな根拠のない話だけで…どうするんですか」


「ま、どれもその未来の人間だから笑える話で、当人達は大変よな

 俺たちにはどうしようもできねぇよ。それよりいろはだ」


 気になっていたことが分かっただけでも満足することにした帝里はちらりと()()()の方を見ながら、座り直す。


「確かに…もう打つ手がないですね…」


「いや、多分上手くいかないと思うけど、一応頼る手があって、実は今、待ってるんだ

 ここまで来たら解決したいしな」


 あまり期待していないのか、帝里は少し情けなさそうな顔で笑いながらそう言うと、再び行き交う通行人の流れを眺めながら、その人を待つ。



「…ふぅ…まったく、酷い目にあったわい」


「いや、まさか捕まえられるとは思わなかったんだよ。ごめんね、おじいさん」


 それからしばらくして、平安京に来た時からずっと世話になっているあの老人が苦労したと言わんばかりに腰を叩きながら現われ、帝里は労いながら迎え入れる。


 帝里が聞き込みをしているときに検非違使を連れて歩いている老人をたまたま見つけ、目配せでこの場所を教えておいたのだ。


「何を間違えたら、こんな年寄りのわしを捕まえるんじゃ。月法様の前まで連れて行かれたぞ?」


 どうやら月法の前に引き出された後、すぐに別人だと分かった月法に解放してもらったようで、その後は調査の手伝いをさせられたようだ。


「もう出鱈目ばっか言ってやったわい!!もう絶対に分からんぞ」


「そうか…本当にありがとう」


「よいよい、月法様からお詫びの品まで頂けたしな」


 そう言ってカッカッカッと高らかに笑う老人に、とりあえず酷いことはされなかったようで帝里はほっと胸をなで下ろす。


「で、この娘は誰なんじゃ?お前さんが狙ってたれいなという子か?

 はて?失敗したから家の警備を強めたと聞いたんじゃが…」


「そんなことまで聞いたのか…ていうか、そっちの問題もどんどんヤバくなっていってるな…!

 じゃなくて、実は……」


 さらっと玲奈の方の現状を聞かされた帝里は少し焦りを覚えながらも、まずは()()()についてこれまでの経緯を説明する。


「なるほどな…そりゃ、検非違使は嫌がるだろうなぁ」


 帝里がもたれ掛かっていた壁の向かうは誰かの家だったらしく、なにやら向こう側から賑やかな声が聞こえ始める中、帝里の話を聞いた老人がその方を気にしながら、小刻みに首を頷かせる。


「やっぱ、そうなのか?」


「聞いた感じ、そいつらが“はぐれ陰陽使”じゃろうからな。もしかしたら繋がりのある検非違使がおるやもしれん」


「出た、“陰陽使”!やっ~と聞けるぜ」


 何度もお預けを食らってきた“陰陽使”なる存在の説明に少し興奮する帝里を見て老人がクスリと笑いながら言葉を続ける。


「といっても、そんな複雑なもんでもないぞ

 “陰陽使”とは中務省陰陽寮の陰陽師とは全く別物で、京に蔓延る悪党や物の怪を霊力で退治することに特化した者達の職の名じゃ。

 数十年前、荒廃した京の立て直すため、月法様が別当(長官)となって生まれた役職じゃ」


「う~んと……検非違使の魔法使い版的な認識でおけ?」


「桶がどうとか相変わらず何言っとるか分からんが…まぁ、検非違使と行動することも多いし大体合っとる。

 で、はぐれ陰陽使とはその時に呪術の技だけ学び、陰陽使を抜けていった奴らのことで、今、月法様もその対処に躍起になっておるが、相手も呪術を使う分、苦労しておるようじゃ」


 そして、はぐれ陰陽使は日本全国にまで点在しているらしく、京も昔の馴染みで検非違使と繋がり、上手く隠れている者が多く居るようだ。


「何人も呪術を使う者がおったんじゃろ?そんな大きな集団は絶対に検非違使と繋がっておる。だから、行くのはやめた方が良い」


「はへぇ~、ほんとに物知りだなぁ。まじで何者?」


 「ただ長く生きただけじゃ」と言ってニッと笑う老人に感心しながらも、結局、検非違使は頼れないので、いろはの素性探索は振り出しに戻る。


「さて、どうするか…」


「その賊らと地方でも会ったんじゃろ?なら、そもそもその子が京の民かも分からんぞ」


「むむむ…やっぱりそうだよなぁ…」


 額を寄せ合うようにして悩む帝里と老人を、いろはが不安そうに見つめる中、壁の向こう側は少し静かに鳴り、代わりに透き通るように綺麗な声が高らかに響き渡る。



今来むと 言ひしばかりに 長月の …


……


……


「ただ髪が切られているものの、綺麗な髪じゃから、裕福な家の子だったかもしれんな」


「ほぉ、なら大々的に探してる可能性があるな」


……


………… 有明の月を 待ち出でつるかな



朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに …


……


「言葉遣いはどうなんじゃ?何か特徴は??」


「吉野……え?…あッ、俺そういうの分からないんだ…」


……


………… 吉野の里に 触れる白雪



有明の つれなく見えし 別れより …


月みれば ちぢにものこそ 悲しけれ …


……


……


「なら、わしが旅に連れて行くしかないのか」


「………あぁ!もう我慢できねぇ!!

 暁ばかり 憂きものなし と

 我が身ひとつの 秋にはあらねど だよ!!

 自治体の百人一首大会三年連続優勝を舐めるんじゃねぇ!!」


 あまりにも遅い返歌に痺れを切らした帝里がつい反応して小声で叫んでしまった途端、どうやら向こう側にも聞こえてしまったらしく、一瞬騒がしくなった後、しんと静かになる。


 しまったと帝里も後悔するが、すでに遅く誰かがこちらに来たようで壁越しに人の気配を感じ取り、全員が会話を中断し、思わず身構える。


「……誰じゃ、まろが詠み上げなさった歌にいち早く応えた者は?参上せよ」


「……ぷっ…変な日本語…!敬語の使い方間違えてますよっっ

 …エル様?」


 壁の奥から聞こえた声にイブは思わず吹き出して笑うが、帝里と老人の表情がその一言でサァァと蒼白になっていくのに気づき、不思議そうに帝里を見る。


「……俺らが使ってる翻訳魔法“ウルカトル”が間違えるなんて絶対にないし、ある程度の間違いなら勝手に直してくれるんだ…

 だから、これは本当に自分への敬語が正しいってことになる」


 帝里は少し考え込むように下を向くと、言葉を選ぶようにゆっくり説明しながら、少し切羽詰まった表情でイブの方を見る。


「……古文には自分への敬意を示す自敬表現ってのがある…

 だいたいそれを使うのは……


 ミカドだ」




※補足

かるたの百人一首こと、小倉百人一首は鎌倉時代(平安末期)成立で、帝里の居る時代にはおそらく存在しません。

ただ、秀歌選なので、今回出てきたものは、帝里の時代からあったであろうものを選んでいます。

秀歌選とは、それまでの歌集から集めた物……今でいう切り抜き集でしょうか


…はい、例えがいまいちでしたね、終わります…


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