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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
1章 Start Another Heroes
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未来からの訪問者



「つまり、お前は未来からやって来た、という設定の子なんだな」


「設定じゃないですってば!!リアル未来人なんですー!」


 全く信じようとしない帝里に、イブというその少女は頬を膨らませて抗議するが、あまりにも突拍子のない話をずっと押しつけてくるこの少女に、帝里は少しうんざりしたかのように大きなため息をつく。


 未来人、それはSFなどではよくある話だが、本当にいるならとっくの昔にやって来て絶対話題になっているはずであり、結局のところファンタジーな存在でしかない。

 しかし、かくいう帝里も異世界というファンタジーの王道を歩んでいたので、本当は未来人だっていて、こっそり来ていたかもしれないし、そして、なにより誰も知らないはずの『エルクウェル』という名前をこの少女が知っているのも、未来からやって来たというなら少し納得がいく。


 結局、帝里の中でこの2つの意見の決着はつかず、困った帝里は改めて目の前の少女の姿を詳しく見る。

 年齢は帝里より少し年下ぐらいで、身長は女性の平均より少し低く、服装は夏を先取りしたような、真っ白なワンピースに、顔を覆い隠すほど大きな麦わら帽子を被っていている。前から気になっていた青髪は、どうやら短髪らしく、人工的に表現できない美しさを持っており、もしかしたら地毛なのかも知れない。さっきまで泣いていたからか、目のまわりが少し腫れているものの、かなりの美少女ではあるのだが、なによりすごく、すごく目立つ。


 別に青髪だからとか服装が派手とかそういうわけではない。違和感というか、なにか異様な雰囲気をイブから感じるのだ。それは帝里だけでなく周りの人々も感じているらしく、さっきから通り過ぎていく人のチラチラと気にする視線がイブに集まっている。


 とにかく、真実がどうであれ、彼女は『怪しい人』であることには変わりなく、こういう人には関わらないのが一番で、定番フラグなのだが、このとき、駆け出し実況者エルクウェルはネタに飢えていた。未来人が嘘でもこんなキャラの人など、実際には滅多に居ないし、本物なら、発見した帝里の実況者としての人気絶頂は間違いなく、なお良しだ。それに、まぁ美少女だし?

 どちらにせよ動画のオープニングトークぐらいには使えるだろうということで、予備校の時間まで少しあるので、この不思議な少女の話につきあうことにした。


「まず何しに来たの?てか、なんで俺のこと知ってるんだ?いくらなんでもピンポイント過ぎるだろ」


「いえいえ、平和の創始者『おっちょこ勇者エルクウェル』の名前を知らない人は未来ではいませんよ!」


「ちょっと待て!?なんか今全力で上げて落とされなかった!?」


「いえ、そんなことはありません!!エルクウェル様は、この乱世の終結に乗り出した人物として未来永劫、語り継がれております。ただ…世界平和の計画の途中に移動中の飛行機で…爆睡していたせいで飛行機の爆発から逃げ遅れ死んでしまったと…」


「え、俺そんなので死ぬの!?」


 まさかの未来から死亡宣告をいきなりされ、帝里はかなり衝撃を受け絶句する。しかも、帝里は世界平和の願いを遂げられず仕舞いらしい。死んだ理由もわりとしょぼく、それが『おっちょこ』の所以なのだろう…

 計画を実行に移そうとした矢先に、このようなことを伝えられ、落ち込む帝里の様子に気づいたのか、イブが慌てて付け加える。


「で、でも!私のいた未来では調査の結果、飛行機は爆撃されてたみたいでどうしようもなかったという結論に変わってます!ちゃんとその後もクラウディオスという実況者にその計画は引き継がれており、エルクウェル様はご立派だったと思ってますよ!!」


「…クラウディオス…それ、俺のもう一つの実況者アカウントのはずなんだけど……なんで…」


 死んだと言われて落ち込んでいたのに、またさっき決めたばかりの名前が出てきて帝里は慌てて顔をあげる。一体全体どうなっているのだ。


「…えっ?クラウディオスはエルクウェル様だったのですか…!?…実はクラウディオス様の正体は分かっていないのです…それがまさか、エルクウェル様だったなんて…」


 戸惑いながらも答えるイブの説明に帝里もなんとか状況を理解する。どうやら未来の帝里は飛行機事件の後、クラウディオスとして活躍していたようで、多分、未来の帝里は飛行機の事故は爆撃されたものだと気づいて、次の暗殺を恐れ、クラウディオスに乗り換えたのだろう。まさかこうも早く、二つ目のアカウントの効果が分かるとは思いもよらず、こういうことなら両方とも実況を頑張らなければならない。


「で、そのまま俺は世界平和を成し遂げ、英雄になりました、と」


「いえ、消えました。」


「は?」


「クラウディオス様もあと一歩のところで突如姿を消したのです。暗殺ではなかったようで、権力が個人に集中するのを避けるためとか、色んな説がありますが、実際の原因は不明です。」


 もう訳が分からない。とりあえず、帝里の安否は分からないが、帝里は世界の平和を目指す指導者にはなれたらしい。さらにイブの話によると、このあと世界は無事、平和を迎えることができたようで、それなら、めでたしめでたしということで、この話は締めくくっておこう。


「お前が俺を知ってる理由はよーく分かった!じゃあ、お前が来た理由は?

いや、まさか…」


「エルクウェル様、織田信長やナポレオンに会いたいと思ったことはありませんか?」


「やっぱそうきたか!」


 もしもタイムマシーン(未来ではタイムトラベメルと呼ぶらしい)があったら、というよくある例え話をするとき、歴史上の有名人に会いたい!という意見は必ず挙がるだろう。帝里はその一人として、イブに選ばれたのだ。

 なんだか見世物みたいで、ムズムズと帝里は少しこそばゆくなるが、それでも、数多くいる歴史上の有名人から帝里を選び、帝里と会えて涙まで流して喜んでくれたのだから、帝里からしても気分は悪くない。


「まぁ…本当の理由はですね、私は――」


「やっと見つけたぞ、重罪人ども!」


 イブの言葉を遮るような大声が急に響きわたる。突然の大声に帝里の心臓は跳ね上がり、慌てて声の主を探すと、いつしか周りに沢山いた通行人が消えており、いかにも警備員といった格好をした二人組の男がこちらを睨んでいる。

 声を飛ばしてきた片方の男はかなり図体が大きくて、その体の大きさと同じくらい態度がでかく、逆にもう片方の男は少し小柄で眼鏡に気が弱そうな様子と、よくありがち二人組。イブが二人を見た途端、麦わら帽子を深く被り、すばやく帝里の影に隠れたところをみると、イブの関係者、つまり同じ未来人のようだ。


「観念しろ、俺達は時空警備員だ!!…ったく、カップルでデートするにしても、何もこの時代はねーだろ。お前らバカかぁ?」


「えっ?俺も?」


「しらばっくれるな!二機のタイムトラベメルが盗まれたんだ!!各々一機ずつに分かれて、こっそり来たらばれないと思ったんだろうが、まずなぁ!!」


 大柄の男が半分呆れたように、帝里の背後に隠れているイブのことを指し示す。


「そこの女の‘世界の警告’が丸出しですぐばれんだよ!!お前の方は“認識順応”でちゃんと隠せてるようだが、力使いすぎてほとんど魔力が残ってないじゃねぇか!」


「世界の警告?認識順応?」


 まだ聞き逃せない単語があったが、とりあえず聞き慣れないものについて帝里の後ろに隠れるイブにこっそり尋ねると、イブはまだ二人の視線が気になるようで、帽子を被り直しながら小声で応える。


「‘世界の警告’とは、私のような、もともとこの時代に存在しない者が、この世界の理から異常な存在として認識されてしまって、まさに周りに警告を促すかのように、時空移動者に注目が集まってしまう現象のことです…」


 なるほど、どうやら帝里や周りの人々が感じていた違和感というのはこれだったようで、ようやく抱えていた疑問の一つが解消された。少し満足そうな帝里にイブは不思議そうな表情でそのまま話を続ける。


「そして、その‘世界の警告’を打ち消し、周りに溶け込むためのものが“認識順応”です。これは本当にすごいもので、たとえ未来から来た猫型ロボットといった、そもそも目立つ存在でも、これを使えば周りの人々から怪しまれません!私はほとんど使えませんが…」


「え、実はそんな秘密道具が!?」


 いやそんなロボットが街中歩いてたら普通周りはビビるわっ!という反抗期あたりに見返すとふと思ってしまう感想はさておき、イブの説明で今、何が起きているかなんとか理解する。二人の警備員はその“認識順応”が使えるようで、未来人にも関わらず、確かに二人からは違和感はなく、むしろどこにも居そうなぐらい、この世界に馴染んでいるようだ。


 それに対し、相変わらずイブからは‘世界の警告’が出続けており、イブが“認識順応”を使えないのであれば、この存在感が目印となって、この警備員達からは逃げられないだろう。つまり、この未来人少女とはもうここでお別れのようだ。


「じゃあ短い間だったけど、楽しかったよ。色々教えてくれてありがとうな!多分…お前は俺の命の恩人だ」


 「私はまだ…」と訴えるイブの頭を強く撫でる。おそらくだが、飛行機事件で帝里が逃げられたのは、前もってここでイブに伝えられていたからかも知れない。未来人に教えられて危険を回避するとは、なんだか歴史的な運命を感じる。

 もしそうならば、イブは帝里の命の恩人であり、何が罪になるのか分からないが、その恩人にこれ以上罪を重ねさせるわけにはいかない。本人はまだ何か満足出来てないようだが、早めに帰ってもらうのが一番だと帝里は思い、こちらを注意深く監視する時空警備員の二人に問いかける。


「なぁ、今すぐ未来に帰れば許してくれるか?」


「…そうだな、まだこの時代の人に接触するとか、未来を変えるような重罪は犯してないなら自首ということで、少しは罪を軽くしてやってもいいぞ」


「……」


 大柄の男の方がニヤリと笑って言い放った返事に、帝里は自分が現代人であることをとても言い辛い状況になってしまい、言葉を失う。さっき帝里が感じた運命的なものを説明したら、理解し、ちょっとは許してもらえるだろうか。


「…いや、えっと…そのことなんだが…実は俺はエルク―ぎゃっ!?…って、イブ…?」


 自分が歴史的有名人だと思い出し、自分の正体を説明すれば信用されやすいかと思い、自分がエルクウェルとクラウディオスであることを少し気恥ずかしくなりながらも、胸を張って名乗ろうとしたとき、急に何者かに脇下を掴まれ、帝里は思わず悲鳴を上げる。

慌てて帝里が下を向くと、イブが帝里の左の脇下から顔を出し、右手で帝里の右脇下を掴んでおり、あまりの行動の不可解さに戸惑っていると、


「エルクウェル様、失礼します」


「えっ?ってうおぉっ!?」


 イブの左手が帝里の足元をすくい上げ、突然、浮遊感と頭が地面に落ちていく恐怖心を得るが、すぐにイブが優しく受け止め、ちょうど帝里がイブにお姫様抱っこされた形になる。


「まて!ここはおとなしく帰った方が――」


「どうせ殺されますよ」


 この場から逃げようとしていることが直感的に分かった帝里はイブを宥めようとするが、急に真剣な表情になったイブがばっさり切り捨てると同時に、イブの背中から飛行機の翼のような物と靴の踵からは円状の排出口のような機械が突如現れる。


「ここから逃げます!エルクウェル様は舌を噛まないように気を付けて下さい!!」


「いや!イブここは落ち着いて話し合おおあぁぁぁ…って空を飛んでる!!?」


 イブの背中と足の機械からジェットが吹き出し、帝里の体は強烈な衝撃に襲われ、あまりの強さに脳が激しく揺さぶられ、帝里は言葉を続けられなくなる。

 しかし、その衝撃もすぐに弱まり、帝里が意識を取り戻すと、すでに二人の体は空高く宙に舞っており、帝里は目を白黒させる。


こうして、いまいち状況が掴めないまま、帝里とイブの未来からの逃亡劇が始まった。



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