千年前の世界へ
※注意
当たり前ですが、この作品はフィクションです。
作品の都合などによって、その時代に存在しない物が存在したり、その逆の場合もありえます。作者が古文の先生や学者でないので、普通に間違えることもありますしね…
そのことを予めご了承ください。正しいのかをこれを機に調べていただけたら、私的にも嬉しいです。
前置きが長くなりましたが、それではどうぞ!!
[前回のあらすじ]
玲奈の誕生日、そのプレゼントとして、帝里とイブは玲奈に時空旅行につれていくことにした。
そこで玲奈の指定した約千年前に行くことになったが、ちょっとした手違いで、玲奈が時空移動に必須である「時空軸固定剤」を飲まずに、飛び込んでしまい…
今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。
(むかしむかし、竹取の翁という、おじいさんがいました。)
野山にまじりて竹を取りつつ、よろづの事につかひけり。
(おじいさんは、野山に行って竹を取り、様々な物を作り暮らしていました。)
秋つ方日うららかなりけるに、野山にて竹を取りにし時、
(秋の晴れた日、おじいさんが山で竹を取っていた時のことです…)
…さて、読者筆者共にそろそろ飽きてきたので、いつもの文調に戻すが、その翁が竹を集めながら、山を歩いていた時のことである。
「我が~衣は~~♪野原篠原♪竹の花すり~……はて…?」
陽気に歌を口ずさみながら歩いていた翁であったが、ふと、普段と雰囲気が違う山の様子に足が止まる。
どうやら林の奥の方に何かあるらしく、これまでにない感覚に、さすがの翁も顔を引き締めると、腰を落としゆっくりと再び歩き始める。
周囲を深く見渡しながら進んでいくと、その気配がどんどんとはっきりとしていき、翁の額にだらりと汗が流れる。
「こッ…!これはッ…!?」
そして、目の前の竹を横に避けたとき、その正体が目に入り、それを見た翁は驚きのあまり、あっ、と声を上げる。
「なんと…!人の子ではないかッ…!?」
全く想像だにしなかった赤子の姿に、翁は取り憑かれたように我を忘れ、大慌てでその場に駆け寄っていく。
山奥にぽつりと取り残されたような赤子は、生まれたばかりのようで、輝くような金髪を持ち、見たこともない布に包まれ、まるで‘周りに警告を促すかのような’目立つ存在…
そう、玲奈である。
時間軸固定剤を飲まずに飛び込んだ玲奈は、時間を遡る中で影響を受け、イブが言った通り赤ん坊の状態で目的の時代に辿り着いたのである。
しかし、そんな赤子を地面に放り出すのは、流石に可哀想だと神様も憐れんでくれたのだろうか。たまたま切り株が集まっている上に、ちょこんと鎮座するように穏やかに眠っていた。
「なんと可愛らしくて、やむごとなきかな…」
さすがは‘もののあわれ’の時代、初めてイブに会ったときの帝里のように‘世界の警告’を違和感などで片付けず、一つの魅力として受け取ったようである。
また、この時代の日本にしては、珍しかったであろう金髪も相まって、翁を魅了し、抱きかかえた翁は顔を自然とほころばせながら、愛おしそうに眺めていた。
「…にしても、なぜ、こんな子がここに…??」
ふと不思議に思った翁が辺りを見渡すが、自分が駆け寄った跡以外、周りには一切何の痕跡も見当たらず、その異様さに翁は首を傾げる。
「…う、おぎゃぁぁーー!!おぎゃぁぁーー!!」
「な!?な!?」
そうこうしている内に、玲奈が目覚めてしまい、大声で泣き始め、元気な泣き声が山中に響き渡る。
翁も慌ててなだめようとするが、玲奈は一向に泣き止んでくれず、むしろ声が大きくなっていく一方である。
「どッ、どうすれば…!?そ、そうじゃ、ばあさ~んッ!!」
このままでは、どうしようもないと悟った翁は玲奈を抱え直すと、大急ぎで山を下り始める。
このとき、ゴトッと何かが玲奈からずり落ちたが、翁はそれに気づかなかった。
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「うおぉぉ!!!やっと着いたぁぁ!!!」
それから暫くして、玲奈が眠っていた場所の空間にポッカリと穴が開くと、帝里とイブが焦った様子で飛び出してきた。
「ま、まさかあんなことが起きるとは…すいません…」
「それは仕方がねぇ!!それよりも玲奈は!?どこら辺に着いたんだ!!?」
「同じ場所に降りたはずですが…」
イブの言葉を聞いて、帝里は必死に辺りを探してみるが、玲奈の姿どころか、生き物一匹の気配すら感じず、みるみる帝里の顔が青ざめていく。
「まさか…出遅れたせいで、獣に襲われたとか…」
「それなら服は残っていると思うんですけどね~」
帝里が慌てる一方で、イブは落ち着いており、ちょうど、玲奈が乗っていた切り株の上に立つと、手元の機械と周りを見比べながら、くるくると回っている。
「いや怖いこと言うな!?…でも、確かに…そうだな…
じゃあ、どこに…?」
「あっちですね。」
帝里の疑問にあっさり答え、その方向を真っ直ぐ、指し示すイブに、帝里は思わず唖然としたまま、視線を送り、立ち尽くしてしまう。
「…生きてる?」
「おそらく」
「………なんで?」
「フッフッフー!!簡単なことですよ♪」
理解不能といった表情で問いかける帝里に、イブは得意げな表情で応えると、その指し示した方向に飛び降りて、何か拾い上げる。
「理由は3つ!まずはこれです。」
「-!!玲奈の光線銃!!」
帝里の答えにイブは満足げに頷く。魔導石を込めた魔法の銃で、タイムトラベメル内で玲奈から見せてもらったので、記憶に新しい。
「そして、この銃の方向に…」
「…あれは…煙か…?」
イブの言う方角に目を凝らして見ると、わずかに細い線のような煙がいくつか空に向かって延びている。
「何かあるのか…。…ッ!!村か!!」
「ですです!!」
興奮して声を上げる帝里にイブも嬉しそうに頷く。つまりは、だれかが玲奈を見つけて村に連れて帰り、保護してくれている、ということだろう。
「お前っていつもバカそうに見えるのに、意外と賢いんだな」
納得のいく答えが得られ、安堵した帝里が呟く。というより、焦って見落としてしまった自分の注意不足の方が悪いかもしれない。
「さらっと失礼なことを……まぁ、本当は…あッー!!」
不満そうに口を尖らせていたイブであったが、突然、何かを思い出したように叫び声を上げると、急いで帝里のもとまで帰ってくる。
「エル様!!私達も‘世界の警告’をどうにかしないと!!」
「そういえば、そうだったな…!」
一刻も早く玲奈を見つけるために、タイムトラベメルは時空間に置いてきてしまったせいで、‘世界の警告’がイブだけでなく、帝里からも出てしまっており、このままだと、未来人に見つかってしまう。
「と、とりあえず、玲奈の行方は大体予測できたので、一旦タイムトラベメルに戻って計画を…」
「………いや、“ブレーヴ・オクスタル”!!」
帝里は時空間への穴を開けようとするイブを止めると、手を掲げ、8つのクリスタルを召喚する。
なぜか、いつもよりクリスタルの色が薄い気がするが、それは置いておいて、帝里は大きく息を吐くと、カッと目を見開く。
「“シーラ・認識順応”!!」
帝里の掛け声に反応して、クリスタルが全て黒に変わると、帝里の周りを回り始め、帝里の表面上に薄い膜のようなものが生成される。
その膜が帝里に溶け込むように消えると、帝里は不安そうに体のあちこちを調べながら、イブに問いかける。
「なんかちょっと漏れている気がするけど……こんなもんかな?」
「嘘……なんで…」
なんと帝里の体から‘世界の警告’が消え、“認識順応”が使えているのである。
「へへ、この前モミに教えてもらったからな。無属性魔法ならクリスタルのおかげで得意分野だぜ!」
「まさか、ほんとにあれだけで習得出来るとは…」
信じられないといった表情で帝里を見つめるイブに、帝里は誇らしそうに照れる。
「って、こうしてる場合じゃなかった。あの…私は全身にかけられないので、いつものように小さく…」
「…うーん…いや、俺が直接かけてやる!!今日はなんか調子悪いみたいだし、その方が早い!」
すぐに玲奈を見つけたい帝里は、クリスタルをイブの周りに繰り出すと、さっきと同じようにイブに“認識順応”の魔法をかける。
「さて、これで探しに……ん??」
クリスタルをしまいながら、イブに教えられた方向へ歩き始めた帝里であったが、あることに気づき、思わず立ち止まる。
なんと玲奈のいる方向が自然と分かるのだ。というより、その方向がうっすら気になると言った方が近いかもしれない。
「…まさか玲奈の‘世界の警告’?」
「あ、気づきましたか?私ので慣れたのか、すごい敏感ですねっ」
「言い方……って言ってる場合じゃねぇ!!あれはさすがに間に合わないぞ!?」
「落ち着いてください!大丈夫です。」
慌てる帝里を宥めると、イブは先程から持っている画面を帝里に見せる。
見せられても帝里にはさっぱり理解できないが、画面を覗き込むと、中には何やらマップのようなものに、いくつかの点が点滅している。
「そもそも、時間軸固定剤を飲まずに時空移動するバカなんて滅多に居ないので、データが少ないんですけど…
そういう人からは、私達とは違った‘世界の警告’が出ているんですよ。ほら、私達と違う色の点があるでしょ?」
「ほんとだ…でも、この機械で探知できるじゃん」
「まぁ同じ時代の、ここまで範囲を絞れれば…
と、とりあえず、種類が違うのと、データが少ないおかげで、未来からは探知されないんですよね。記憶も失っているので、脅威にもなりにくいですし」
「なるほど…って、イブ、それで玲奈を見つけただろ」
「あはは、バレちゃいました…?実はさっきの2つも、玲奈の場所が分かってから見つけたもので…」
「お前…。…とりあえず、急がなくていいことは分かったから、後は歴史に影響を与えないように、慎重に動くか」
「はい!!!」
半ばイブに呆れながらも、帝里はようやく落ち着きを取り戻すと、再び身を翻し、イブと一緒に山を下り始めた。
そして、約30分後…
魔法を駆使しつつ山を下りてきた帝里とイブは、村の入り口付近に辿り着いていた。
千年もの時間を遡ったせいで‘世界の警告’が強すぎるのか、イブの機械でも玲奈の正確な居場所までは分からず、ここからは自力で見つけなければならないようである。
「にしても…遺跡の復元展示みたいだな…
…あれって竪穴住居じゃね…?縄文とかじゃなくて、こんな時代まで続いているのか…?」
「??そうですね?」
少し感動したように辺りを見渡す帝里に、イブはこういうのに慣れているのか、不思議そうに首を傾げながら帝里とは違う方を探す。
とはいえ、村の外からざっと一見しても、玲奈の姿は見つからず、どうやら村の中にお邪魔して探さないといけないようだ。
しかし、いくら‘世界の警告’を消したとはいえ、服装が全く違う上、全く見慣れない帝里とイブの登場に、すでに男達が数人、家から出てきており、こちらをジッと見つめて警戒している。
だが、その帝里達とは全く違う服装やその雰囲気に、ふと帝里の異世界心が急激に燻られてしまい、思わず帝里は彼らと話してみたい衝動に駆られる。
そこで、帝里は村人達に玲奈について聞いてみることにし、穏やかな様子で、村人達に近づいていく。
出来るだけ敵意がないことを伝えながら近づいたつもりだが、男達はまだ警戒を解かないまま、距離を置き、上から下までジロリと帝里とイブを眺め回す。
特に青髪のイブが気になるようで、数人がイブを取り囲んで、見つめ回しており、イブは気まずそうに視線を泳がせながら困惑している。
「…顔よろし」
「かみあし」
「まぁ!!この時代の方って情熱的ですね!!えへへ…でも、足が良いって直接言われるのはちょっと恥ずかしいですッ…」
「……」
突然の評価に驚きつつも、素直に照れるイブに、帝里は言葉を失ってしまう。
「エル様…?もしかして、しっt-」
「“ウルカトル”。」
「へ?なんで今、言語翻訳魔法を…」
帝里の謎の行動に、イブは戸惑ったように帝里を見つめるが、帝里に顎で指し示され、何か勘付いたのか、イブは表情を消し、静かに村人達の方に向き直る。
「やっぱり、顔は大したことないな。」
「なんだ、この髪は!?驚き呆れた!」
「不吉だ」
「……さて、玲奈を探すのに邪魔ですし、この村滅ぼしますか♪」
「うおぉい!!??サイズがでかくなったら、なんかお前怖いな!?
ほ、ほら、この時代は黒髪 is 正義なとこあるし、ふくよかな女性がいいとか、時代とともに顔の好みも変わるし…な?な?」
「そういう慰めが一番辛いんです!!!」
今にも殴りかかりそうな勢いのイブを必死に帝里が抑えていると、なぜかこれでようやく村人達も警戒を解いてくれたようで、次は帝里に声をかける。
「で、お前さん達は一体、なんじゃ?」
「えっと、あぁ、旅の途中で……ところで、女の子赤ちゃん見なかった?」
「女の赤子…あぁ、そういえば、翁がさっき大泣きしてて目立つ赤子を抱えて、家に走っていったぜ。」
「おぉ、ちゃんとした意味で『翁』って使ってるの初めて聞いた…うん、その人っぽいな!!そのおじいさんの家がどこにあるか教えてくれません…!?」
すぐに手がかりが見つかって興奮する帝里に、村人達は素直にその老人の家の場所を教えてくれる。
「助かった!ありがとう!!
ほら、イブ、さっさと行くぞ」
これ以上詮索されないように、帝里は逃げるように礼を言うと、まだ拗ねているイブを無理矢理引っ張り、その家を目指していった。
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時間はほんの少し遡り、帝里達が村の麓に着いた頃、玲奈を抱えた翁もようやく、自分の家に辿り着いていた。
「ばあさん!ばあさん!大変じゃ!!」
「はいはい、一体なんですか?」
翁が息も絶え絶えに家に駆け込んでくると、外で作業していた妻の媼がのんびりと家の中に入ってくる。
「まぁ!!!その子は一体!!?」
「それがな…ゼェゼェ…山で竹を取っているときに見つけたんじゃ…」
「山で…??」
翁が連れ帰ってきた玲奈を見て仰天していた媼であったが、翁の説明を聞き、玲奈を見つけたときの翁同様に、媼も不思議そうに眉をひそめる。
しかし、玲奈の顔を見た途端、そんな疑問も吹き飛んでしまい、赤子特有の可愛さに、媼の顔が笑顔に変わり、ゆっくりと玲奈に近寄る。
「う…ぎゃぁぁぁぁああ!!ぎゃぁああ!!」
「まぁまぁ!!?」
翁が下山中も泣き続けて疲れ果ててしまい、ぐったりとしていた玲奈であったが、翁の腕から下ろされた瞬間、不安になったのか、再び大声で泣き始める。
それを見た媼がとっさに抱え上げるが、なかなか泣き止んでくれない。
「おぉ、よしよし…お腹でもすいたんですか~?
でも、困りましたねぇ…私はお乳が…」
玲奈をあやしながら思いあぐねていた媼であったが、何か決心したかようにスクッと立ち上がると、家を出る支度を始める。
「ばぁさん、一体どこへ…?」
「おたけさんにお願いしてみます。子供大きくなりましたが、まだ出るかも…」
「しかしなぁ…あんなところに居たし、妖怪かも知れんぞ…」
「こんな可愛い妖怪がいますか。それに…もう放っておけないですよ…
おたけさんなら優しいし、大丈夫です。」
「うむむ…そうだな、彼女なら、厳しいし、それが良さそうじゃな…」
「えぇ、この子もきっと良い子に育つでしょう…それでは行ってきますね。」
そう媼は頷くと、同じ村に住むおたけという女性のもとに、まだ泣いている玲奈を抱えて急いで出掛けていった。
翁もついて行きたかったが、機を逃してしまい、ポツリと一人家に残されてしまう。
仕方がなく一人、家に入るも、心が乱れて、何事も手に付かず、翁はそわそわとした様子で、媼と玲奈の帰りを座って待つこととなった。
そうしてしばらくすると、媼がスヤスヤと眠っている玲奈を連れて帰ってきた。どうやら、授乳してもらえたようで、翁もひとまずホッと息を漏らす。
「さて、落ち着いてくれましたが…これからどうしましょうか」
奥から籠を取り出し、玲奈が起きないようにそっと置く媼に、翁が何か思い詰めたような表情で顔を上げる。
「なぁ、ばぁさん……この子をわしらの子として育てんか?」
「!!?」
「さっきまで、ずっと考えていたんじゃが…その子は神様がわしらにくれた贈り物じゃ」
「まぁ!?」
目を丸くして驚く媼に、神妙な面持ちで翁が頷く。
「この子がいた所には足跡一つなかった…しかも、あんなところ、わし以外通らんし、毎日行っているわししか気づけん!!きっと神様が授けてくださったのだ!」
「まぁ…!それは…」
信じられないといった表情で迷っていた媼であったが、玲奈の可愛らしい寝顔を見ていると、だんだん育てたいという気持ちが沸き起こっていく。
実は媼にとって子育てはどこか憧れなものであり、他の子の子守を引き受けるほど、密かに望んでいたものなのである。
というのも、
「わしらには子が居ない。いつも祈っていたのを神様が聞き届けてくれたんじゃ!!」
「そう…かもしれませんね…!」
翁の言葉に、みるみると媼の目の輝きが増していき、ゆっくりと深く頷く。
「これまで、ちょっとの間でも育ててみたかった…ようやく…わしらの子じゃ…」
「そうですね…」
嬉しそうに感嘆する翁とそれにしみじみと応える媼は、健やかな寝息を立てている玲奈を眺める。
「………なぁ、名前はどうしようか」
「名前、ですか?」
…………。
ずっと媼と眺めていた翁が思い出したように声を上げ、媼も楽しそうに顔をあげる。
「そうじゃなぁ…おくに、おまつ、おふみ…この子にはどんな名が相応しいじゃろう…」
「とびきり可愛いのが良いですねぇ…この輝く髪からおきんとかどうです?」
二人はうーんと唸りながら、玲奈…ではなくなるかもしれない赤子を見て、思い思いの名前をあげていくが、どれもピンと来ず、案も徐々に減っていく。
「………玲奈」
「?今、ばあさん何か言ったか?」
「いえ?私はなんとも…」
「そうか…?今、『れいな』と聞こえたような気がしたが…」
「…キャハ」
「!!おぉ、今、この子が笑ったぞ!!?」
いつの間にか起きていた赤子が、まるで反応するかのように笑い、それを見た翁は決心したように膝を打つ。
「よし、決めた!この子は『れいな』じゃ!」
「れいな…良い響きだし、私もそれが似合っている気がします」
「なら、れいなで決定じゃな!
おー、お前は今日から、れいなじゃぞ~」
翁はそう赤子に教えるように、れいなを抱えると嬉しそうに高く掲げる。
二人の表情は幸せそのものであった。
「…………………。
…………あっっぶな~!もうちょいで別人になるところだった!!」
「いやエル様、そういう問題ではないと思いますが…」
小屋の外の木の陰で、いつの間にか隠れるように中の様子を窺っていた帝里が疲れたように倒れ込む。
村人達に翁の家を聞いて目指している道中、帝里とイブは玲奈を抱えて歩いている媼を見つけ、ここまでずっと後をつけてきたのだ。
「あれって完全に『玲奈』に反応しましたよね…?時間軸固定剤を飲まなかったら、記憶が残っているんでしょうか…?」
「知らねぇよ。それより、どうしよぉぉぉ…
あんなの聞いたら取り上げ辛ぇよぉぉ…」
興味深そうに思考を巡らすイブをよそに、帝里は困り果てたようにその場に座り込む。
玲奈を抱えて歩いている媼を見つけたということは、媼が帰って来てからのやり取りも、しっかり全て聞いており、申し訳なさで帝里は胃がキリキリと痛くなる。
「でも、やるしかねぇ…!イブ、俺が父親で、お前が母親っていうことでいくぞ!!」
「!!!…でも、玲奈が子供かぁ…」
イブは複雑な表情を浮かべながら、先を歩く帝里について行こうとしたが、何か思い立ったのか、ふと立ち止まり、帝里の袖を引く。
「あの、エル様……このまま玲奈をあの方々に任せることは出来ないでしょうか?」
「-ッ!!?お前何言っているんだ!!?」
「…実は、出発する前に玲奈から聞いた話なんですが…」
とんでもない提案に驚く帝里にイブは、千恵羽邸で玲奈に起きたことを、出来るだけ玲奈から聞いた通りに伝える。
「……そんなことが…な…。
で?ここで幼少期を、あの優しそうなお爺さんとお婆さんに育ててもらって、記憶が戻ったときに、良い感じにならないか、と…?
…それ、軽く記憶操作的なヤバいことになってないか!?」
「い、いやッ、流石にそんな風にはならないと思いますがッ…!せっかくだし、ちょっとでも良い思い出を作ってもらえたらなぁ、と…」
「ふ~む……」
自分でもなぜそんなこと言い出したのか分からず、イブが困ったような表情で帝里の顔を窺ってくるが、帝里はあまり乗り気ではないようで、腕を組み、顔をしかめる。
「それはそれで、余計に可哀想だと思うんだよな…」
「でも、今のお二方から返してもらえますか?」
「うっ…それは…」
「数年したら、きっと玲奈も私達に気づいて説得しやすいかも、知れませんし…
先程、お爺様も『ちょっとの間だけ』って言ってましたし、6年ほど…」
「俺らに向かって言ったわけではないと思うけど……それもあるけどさぁ…」
イブにしては珍しく、本気で玲奈のことを考えての発言だと分かっているのだが、一番気がかりなことが帝里の中にはあった。
「悪いけど…それまで生きているのかなって」
「ちょっとエル様!!?」
「いやね!?あの二人、かなりの歳だろ?医療も進んでない時代だし、昔は早死にって聞くからさ…
それに、玲奈自身が病気になってしまうかも知れないし…」
「まぁ、玲奈は大丈夫だと思いますが…
ほ、ほら、あのお爺様、エル様よりがたいが良いですし、長生きしますって!!」
「はぁぁ!!?異世界勇者の俺が爺さん以下とか片腹痛いんですけど!!?」
「いつの話をしているんですか。1年半のゲームと実況生活で、もうぷにぷにの、一般人レベルまで落ちてますよ。」
「うぐぐ…うっ、うるせぇ!
あぁ分かったよ!とりあえず数年、あの二人に任せれば良いんだろ!!」
諦めるように帝里は叫ぶと、踵を返し、つかつかと怒ったように歩き出す。
実際、帝里もあんな幸せそうな雰囲気を壊したくない気持ちが強く、6年後二人の熱が冷めていることを祈るしかない。
なんやかんや自分の案が取り上げられたイブは嬉しそうな笑顔で、先を進む帝里を追いかける。
「で、俺らは6年何しているんだ?めっっっちゃ暇だぞ?」
「…私達はタイムトラベメルで先に進みましょう。途中で玲奈の様子をちょくちょく確認しながら、6年後の降りられる時間軸に」
これには帝里も反対はなく、再びタイムトラベメルに乗るため、玲奈と帝里達が辿り着いた地点に戻ることにする。
そして、あの切り株の所まで帰って来て、再びタイムトラベメルに戻ろうとしたときであった。
イブが時空間を開き、入ろうとした瞬間、「あっ…」と、また何か思いついたようで、イブの動きが止まる。
「なんだ次は何を思いついたんだ」
「あの、エル様…
竹取りって儲かるんですか??」
「………確かに…。…そもそも竹って何に使うんだ…?」
「メ、メンマとか…?」
「この時代にまだないだろ」
イブの答えに呆れながら、帝里自身は籠や柵などを思い浮かべてみるが、そんな頻繁に需要がある物でもなく、先程見た所々壊れていた、小屋のような家を思い出すと、どうしても不安にならざるを得ない。
それに、今まで十分な生活を送れていたとしても、ここからは玲奈の分の生活費も増えるし、帝里はまだ、お爺さんが歳で働けなくなる可能性を捨てていない。
「そうだな…育ててくれるんだから、それらは俺らが用意した方が良いよな…」
ある程度、生活に余裕があった方が玲奈も楽しく健やかに育つだろうと、そう判断した帝里は近くの切り株に座ると、スマホを取り出す。
「しかし、何を渡せばいいんだ…?お金…確か、この時代は銅銭とかだっけ。」
「私達持ってませんよ…無難に黄金とかがいいと思うんですが…高すぎて私達も買えませんよね…」
「いや、そこは問題ないんだけど…とりあえず、調べてみるか」
イブの手助けを借りて、帝里はネットでこの時代について軽く調べてみる。
「うげ…色々あるな…
もう、とりあえずさっき言った銅銭と黄金だけ用意して、後はあの二人に頑張ってもらうか」
「そうですね、それで行きましょう!」
「そうと決まれば、さっそく…
黄金と銅銭を用意し
ました。」
「ました工法!!!??!?!?」
十数日後、驚くイブの隣で、高く積み上げられた黄金と銅銭を帝里が満足そうに見上げながら、悦に入っていた。
「え!?いやッ…!?嘘でしょ!!?」
「だって、この時代の鉱山をまわって、自力で発掘して、そっからそれを精練した過程とか、実況だとつまんなくてカットだろ」
「いやいやいや!!?ゲームじゃないですし!?こんなに頑張ったのに!!?!?」
「いいか、イブ。うちの実況チャンネルのモットーはな、
『人のネタはパクる』、『投稿は不定期』、『面倒なシーンは即カット』だ!」
「そんなチャンネルやめちまえ!!!
うぅぁ…せっかく銅銭の形にするの頑張ったのにぃ…」
実際、わりと重労働だった十数日だったので、イブが力尽きるようにその場に倒れ込んでしまい、地面を力なく叩きながら落ち込んでいる。
「まぁまぁ、これを渡すのが本意なんだからさ。
ほら、お前が渡して良いよ!」
「全然嬉しくないですぅ…それに、どうやって渡すんですか」
落ち葉に顔を埋めながら聞いてくるイブの質問に、帝里は困ったように考え込む。
直接渡すと、当然、翁と媼は困惑するだろう。かと言って、家の前に置いておくのも、結局二人が困惑してしまうし、他の人に拾われてしまうかも知れない。
「そうだ!!ここに置いていこう!
ここはあのお爺さんしか通らないって、さっき言ってたし!」
「なるほど!!それは名案ですね!なら、これらはこのままにしておきますか!」
「…でもなぁ、せっかくここまで頑張ったんだし、最後に一工夫して、出来るだけ面白く渡したいという、実況者魂が、が、が…」
「だからそんな魂捨ててください。」
イブが呆れたように起き上がり、近くの竹に寄りかかるのを見て、帝里の中で、ピンと良い考えが閃き、ガバッと立ち上がる。
「いいこと思いついた!このまま野晒しにしとくのもなんだし、ちょっとしたサプライズになるぞ!!しかも使うのはこれだ!!」
ワクワクと嬉しそうに語る帝里は“エレルナ”で必要な物を召喚する。
「…玲奈の光線銃ですか…?」
「そそ、落としたものを使うってのも、なんかちょっとエモいだろ?
で、まずは近くの竹によじ登ります。」
まるで実況するような口ぶりで、近くの登りやすそうな丈夫な竹を見つけると、するすると、あっという間に上の方まで登っていく。
「で、次に竹に穴を開けて…そこに銃を突っ込んで、一気に節をぶち抜く!!」
「節とは竹の中を区切っているものですね」
開き直ったのか、帝里に合いの手を入れてくれるイブに、帝里はニヤリと笑うと、銃の引き金を引く。
その瞬間、バキバキッと音を立てながら、竹が光り、最後に軽い地響きが聞こえる。
帝里が飛び降りて、下から竹を確認すると、どこも割れておらず、どうやら上手くいったようだ。
「よしッ、あとは、あの中に黄金やお金を入れて、これを繰り返せば完成だ!
入れるのは飛べるイブに任せるぞ」
「はいはい、分かりました。」
諦めたように、服の汚れを払いながらイブが立ち上がり、それぞれが役割分担をしながら、どんどん集めた黄金と銅銭を詰め込んでいく。
「……あの…これ、入っているって気づきますかね…?」
「んんー、じゃあ、誕生会で使う予定で買ったスポットライトででも照らしとくか」
「最後、雑ッ!!そんなんで大丈夫ですかね…」
「まぁ、5日持つって書いてあるし、あの爺さんの自信なら、何もなくても見つけれるだろ。
ほら、『犯人は現場に戻る』って言うし?」
「あのお爺さん、何も悪いことしてないんですけどね…気づくように、一つ割っときましょ」
そう言ってイブが竹に切れ込みを入れると、ジャララと中から砂金が溢れてくる。
その見栄えが相当気に入ったのか、帝里は満足そうに笑うと、ようやく時空間の中に戻ることにする。
「そういや、本当の現代でも十数日経っているの?」
「いや、もう一旦接続を切っておきました。あとで玲奈とエル様の時間軸が少しズレるかもしれませんが、もう仕方がないでしょう」
「そうか…まぁちょっとならいっか。
それよりも、あの爺さん達、いきなりお金持ちになって大丈夫かな?6年後、ここらを仕切る富豪になってたらどうしよう!」
「まさか。あんな優しそうなお二人ですから、大丈夫ですよ」
「いやいや、現代だって宝くじに当たった人はな…」
そうやり取りをしながら帝里とイブが時空間の中に入って行くと、その後時空間の穴が閉じられ、再び山に静寂が訪れた。
そして、後日…
無事に翁は宝が入った竹を見つけることが出来た。帝里達が想像していたよりも、この時代では遙かに巨額の価値があったらしく、それが竹の中から溢れ出し、翁はとても驚いたそうな。
その富を手にした二人は、帝里の予想に反して豪遊することはなく、玲奈の発育のために、大事に大事に使われたのだった。
そうして、図らずも文字通り二度目の人生が歩み始めた、れいなは健やかに育っていったのである。
いやぁ、きっっっつい…
冒頭でああ言ったとはいえ、やはり出来るだけ史実に沿った内容にしたい…のですが、千年前にもなると資料が少ない…
例えば、どうやら古文での文語通りには話してなかったようですが、話し言葉もちょっと分かりづらい感じだったらしいので、予防張って言語翻訳魔法を用意して正解でした…
まぁ、あんな難しい品詞とか考えてたら、昔の人も、現代の「それな!」みたいに「いとおかし!」しか言えなくなりますよね…笑
ただ、やっとここまで来ましたし、勉強でないなら意外と古文も面白いので、全力で頑張り、楽しみたいと思います!
では、「ご視聴ありがとうございました!!」
「次回、ラスボス登場…?」




