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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
番外編 意外な二人
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玲奈と双治郎



「ふぅ~、終わった終わったぁぁ~

 …って、誰もいないじゃない」


 バタンと扉を開けて入ってきた玲奈は、襟首を扇ぎながら部屋を見渡し、拍子抜けしたように口を尖らす。


「あ、玲奈ちゃん。期末テストは全部終わった?」


「えぇ…。あんたは何やってんの??」


「素振りをちょっと…そろそろ試合も近いしね!」


「…どおりでクーラー効いてても暑いわけだわ」


 実況サークルの部屋の端で素振りをしていた双治郎を見つけて、玲奈は呆れたように呟くと、椅子に座り、疲れたように机に突っ伏す。


「…………」


「…………」


 しかし、それから特に会話が進むことなく、なんとも言えない沈黙が二人を包み込む。


 というのも、実況サークル発足、源蔵騒動、情音の父親訪問などと、これまで実況サークルぐるみで関わる出来事が多くあり、そのときに玲奈と双治郎は普通に喋っていたのではあるが、特に仲良くしていたわけではなく、まだ帝里や羅瑠の連れという、友達の友達感覚が拭えてなかったのである。


 そんな空気の中、玲奈は机に突っ伏したままスマホを弄っていたが、耐えきれずに、そっと双治郎の方を見る。


 双治郎の方はというと、会話が続いてないことをあまり気にしてないようで、真面目に竹刀を振り続けている。

 こういったところがコミュ力の差か、と玲奈は思ってしまい、顔をしかめると、それを振り払うように勢いよく起き上がり、自分から声をかける。


「…ねぇ、情音と同じ授業を取ってるわけじゃないの?」


「えっと、大体は一緒なんだけど…さすがにあれはねぇ…」


 玲奈に声をかけられ、素振りを止めた双治郎は玲奈の向かいの椅子にかけられたタオルをとりながら、苦笑いを浮かべる。


「あぁ、あれか…だから、誰もいないのね。

 まったく、情音も災難よね」


「弟の京介くんもだと思うけど…」


 あれとは、難しいと噂されている政治系の科目である。

 誰が言い出したか、「実況者のトップになるなら、政治も分かってないといけない」という考えに、帝里が賛同し、受け始めたのが、その授業だった。


 一人だと不安だからといった理由で、京介が無理矢理、連行されたわけであるが、当時、源蔵に操られていた情音も、帝里に近づくため、源蔵に取らされていたのである。


「一応、必要なのは取っててくれたから、進級に問題はないみたいだけど…さすがに、あの授業は、テリーや情音ちゃんがいてもパスかなぁ…」


「分かる。あれはないよね~

 で、羅瑠は普通に自分の授業か。なによ、『春学期最終日だから、合宿などの夏休みの計画を決める!』って羅瑠が言ったから、来たのに、あいつらが来ないじゃない!!」


「あはは…でも、なんだかんだ来る玲奈ちゃんも偉いよね。」


「だって…自分がいないところで盛り上がることがあったら、なんか悔しいじゃない」


 これから授業時間分待たされることに玲奈が拗ねたようにプイッと顔を背けると、双治郎は困ったように、また苦笑いを浮かべる。


 そして、そこでまた会話が終了してしまい、再び沈黙が訪れる。


 さすがの双治郎も、正面を向かい合ったままでの沈黙は気まずいのか、その場から離れる機を逃し、あちらこちらに視線を移しながら、タオルで汗を拭っている。


「……あ、あのさっ」


 ふと、玲奈は改まったように座り直すと、少し恥ずかしそうにしながら、双治郎の方を見上げる。我ながら、今日は珍しく自分から話しかける日だ。


「あの…、あの後、どうなった…?」


「あのあと???」


「ほらっ…情音と…」


「…ッ!!あっ、あ~!!そ、それねッ!」


 玲奈の問いを理解した双治郎が慌てたように頷くと、頬を赤らめながら、それを隠すようにタオルで扇ぎ、視線を逸らす。


 玲奈が聞きたかったのは、情音の父親訪問の後の、良い感じであった双治郎と情音の、その後の関係性である。

 大体どうなったかは玲奈でも分かっていたが、ちゃんと聞いたことはなく、密かにずっと気になっていたのだ。


 というのも、誰かに聞こうにも、帝里と羅瑠には聞きづらく、弟の京介はあまり興味がないようで、結果を知らず、イブに聞くのは流石に違う気がして、結局、誰にも聞けなかったのである。


 また、当の双治郎と情音は共にいることが多く、聞いて地雷を踏み抜いたら…と考えると、玲奈は怖くて聞けず、また誰からも教えてもらうことなく、悶々としていたのである。


「い、意外と玲奈ちゃんって乙女なんだね…」


 真剣な目でこちらを見つめてくる玲奈に、双治郎は誤魔化すように呟くが、玲奈の目の輝きは一向に変わらない。

 そんな玲奈に、双治郎は諦めたように肩を落とすと、玲奈の前の椅子を引き、その上に座る。


「えっと、ですね…」


 恥ずかしそうに頬を掻いていた双治郎は、まるで情音の父親に初めて挨拶してときのようにかしこまり、膝に手をついた双治郎の腕がピンッと真っ直ぐに張っている様子を見て、玲奈も思わず、背筋を伸ばす。


「その…とっ、とりあえず、お付き合いをさせていただくことになりました…」


「あっ、はい……お、おめでとうございます…」


「えっと、あ、ありがとうございます…」


 玲奈がおずおずと恥ずかしそうに頭を下げ、双治郎も慌てて頭を下げ返し、先程とは違った、なんといえないチクチクする沈黙が二人を包む。


「そっか…。…そっかぁ…」


「やめて!!!それが一番恥ずかしいからやめて!!!」


 自分らしくないと思いながらも、にやけて頷いてしまう玲奈に、耐えられなくなった双治郎が体を反り返らせながら顔を押さえ、悶絶する。


「別に皆が思うような恋人みたいなことはまだだよ!!」


「…そっかぁ」


「だから、それはやめてって言ってるでしょ!!!」


 そういうことも意識していると、自分から墓穴を掘った双治郎が可愛らしく思えてしまい、玲奈はつい同じ反応を繰り返して、からかってしまう。


 情音とは幼いとき何度か顔を合わせたことあるとはいえ、そこまで関わりのない二人だと思っていたのに、付き合ったと聞くと、心の底から喜んでいる自分がいて、それに気づいた玲奈は少し気恥ずかしそうに、はにかむ。


「そ、そういう玲奈ちゃんの方はどうなのかなッ!!?」


「わ、私!!?」


 玲奈の反応に怒ったように双治郎が急に切り返してきて、玲奈は驚いて体をびくつかせ、軽く机を蹴り上げてしまう。


「僕が言うのもなんだけど、情音ちゃんがいなくなって、テリーとチャンスなんじゃないかな!!」


「だ!か!ら!あいつとはそんなんじゃないって言ってるでしょ!!じゃないと、あんたらが付き合って喜んでた私はゲスすぎるわ!!!


 私は、帝里としかるべき相手が仲良くするのを見守る…そう、帝里と情音の時のあんたみたいな存在よ」


「…その僕が、今、情音ちゃんと付き合ってるんだけど…」


「っっっ…!それは例外よ!例外!!」


 双治郎にツッコミを入れられ、追い詰められた玲奈は決めつけるように言い捨てると、腕を組んでプイッと顔を背ける。


「じゃあ、しかるべき相手ってイブちゃんのこと…?」


「はぁ?なんであんな奴とのを見守らないといけないのよ。

 そうじゃなくって…まぁ、それは置いといて、つまり、好きとかじゃないから!!」


「じゃあ、どんな関係なの?」


「なんでそんな-」


「テリーのことでもあるもん」


 双治郎の質問に玲奈は嫌そうな顔で睨み返すが、双治郎も負けじと、やけに真剣な顔で見つめ返してくる。


「…誰にも言わないでよ?」


 しばらくの睨み合いの後、玲奈が大きなため息をついて諦めると、背もたれにもたれかかり、上をぼんやりと見ながら、考え込む。


「一番は、あいつは私にとって親友…というより、やっぱりパートナーかな」


「パートナー…」


「言っとくけど、そんな男女のやつじゃないわよ?そんな余裕なかったし。

 いや…むしろ、男女なんて垣根を越えた感じかしら?私や帝里にそういう人が出来ても、私は気にせず、帝里と何かしてるでしょうね」


「なるほど…すごく信頼?してるんだね」


「まぁ…感謝と恩もあるし。だから言いたくないのよね~」


「なるほどなるほど…愛にも色んな形があるんだねぇ」


「話聞いてた?」


 わざとらしく深々と頷く双治郎に、玲奈は呆気にとられたような笑いを浮かべる。


「もう男女とか、そんな次元で話して欲しくないわね。何があろうと帝里は私が見ていてあげるから大丈夫よ。

 ほら、さっさとまた竹刀でも振ってなさい」


「…はーい。…あっ、良かったら軽く手合わせしない!!?玲奈ちゃん強いみたいだし!!」


「嫌よ。ほんと戦闘狂ねぇ…」


 食い下がる双治郎に玲奈が鬱陶しそうに手で追い払うが、ふと、なにか思い出したのか、再び双治郎の方を見る。


「ねぇ、さっきから思ってたんだけど、その振り方なんなの?」


「あ、やっぱり分かる?」


 玲奈に指摘され、双治郎は恥ずかしそうに頬を掻く。

 先程から双治郎の素振りは、全身に力一杯込め、横に大きく薙ぎ払うものだったのだが、いまいち振り切れてない感じと、納得のいってない様子の双治郎の顔も相まって、相当変に見えたのである。


「この前、魔法を使えたときの感じを思い出したくって…いつでも使えるように」


「………」


「でも、なんか違うような気がして…玲奈ちゃんも魔法を使えるよね?分かる?」


「…いや、分からないわ。私は魔導石ってのを使ってるだけだし。

 それに、そんなことに拘らず、自分の得意なものを磨いた方がいいんじゃない?」


「そんなことないよ。せっかく手に入ったんだもの、使えるようにしないと」


 玲奈がぶっきらぼうに勧めるが、双治郎は決意がみなぎった固い表情で答えると、再び素振りを始める。


 玲奈は頬杖をつきながら、目を細めてそんな双治郎を見つめていたが、突然席を立つと、ゆっくり双治郎の前に進み、近くにあった木剣を手に取る。


「やってくれるの!!?」


「…あんた、ちょっと怖いわ。だから、ゲームにでもしましょ」


「ゲーム…??」


「そっ、楽しい楽しいゲーム」


 きょとんとした表情を浮かべる双治郎に、クルクルと剣を回して感触を確かめながら、玲奈がニッと笑みで答える。


「相手に寸止めで当てたら一本。そしたら、負けた方が勝った方に、帝里の秘密を教えるの。ちょうどお互い、知らない期間があるでしょ?」


「……うん。それは面白そうだね!!」


 ここに居ない当の帝里からしたら、たまったものでないが、二人は面白そうに笑みを浮かべると、ゆっくり剣を相手に向ける。


「どうする?僕は大丈夫だけど、危ないし、玲奈ちゃんは防具-」


「要らないわ」


 心配し、防具を勧める双治郎の言葉を遮るように、きっぱりと玲奈は言い放つと、剣先を真っ直ぐ双治郎に突きつける。


「手加減も要らない。あんたの全力で、魔法を使いたいなら、使いなさい。


 全部防いであげるから」


 玲奈は、そう自信満々に言い切ると、ニヤリと不敵に笑った。



=================================



「な……一体何やってたんだ…!?」


 テストを終え、サークル部屋にやって来た帝里は入り口で部屋中の様子を見ながら、呆れたように呟く。


 一体なにがあったのか、物が部屋中に散らかっており、椅子や机までもが、元々あった位置からかなりズレている。

 そして、その部屋の真ん中で、汗だくの玲奈と双治郎が地面に座り込んでいた。


「ふぅぅ~~…さすがに寄る年波には勝てないかぁ…」


「いや、未成年が何言ってんだ」


「あぁ、帝里。皆、やっと来たのね…

 あ、高校入学のとき、田舎者ってバレたくなくて、文房具全部、こっちで買い直したってホント?」


「なんでお前がそんなこと知ってんだよ!!??」


 慌てて問い詰める帝里の様子を見て、玲奈が満足げに頷き、立ち上がると、帝里を適当にあしらいながら、両手を地面について落ち込む双治郎のもとへ行く。


「ぼ、僕が一本も取れないなんてッ…」


「まーた闇墜ちしそうになってる」


 玲奈は呆れたように双治郎の横にしゃがみ込むと、ゆっくりと双治郎の体を起こし、座らせる。


「これで分かったでしょ?変に魔法なんかに頼らず、本当の強さを探しなさい」


「…うん、考えてみる」


 手を差し伸べながら語る玲奈の言葉に、噛み締めるように頷くと、嬉しそうに頷く玲奈の手を取り、がっちりと握手を交わす。


「じゃあ、これから僕の修行に付き合ってくれる!?」


「それは別の話。私はあなたのパートナーじゃ、ありませーん」


「皆、待たせたな!!じゃあ、さっそく夏休みの企画を考えるぞ!!」


「あ、羅瑠!!あんた遅くなるなら、何時集合か、最初から言っときなさいよ!!」


 遅れて入ってきた羅瑠に、さっそく玲奈が食ってかかり、またいつもの実況サークルが始まっていった。



ん?この組み合わせ意外といいぞ…!?

前章の反省を込めて、玲奈を明確化するつもりの余談だったんですが…本編より良い!?笑

書いてて、甘酸っぱさというか、勢いがあってとても楽しかったです。


後はこれが何%伝わったか…これほど表現力がほしかったことはない…!(おまけなのに)


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