君の勇者は
[前回までのあらすじ]
双治郎がついに魔法に目覚め、情音と力を合わせ、敵を倒しましたとさ。
「なんなんだ…これ…」
少し息を荒げて走っていた羅瑠は目の前の光景に立ち止まると、自分の目を疑うように困惑した声をあげる。
双治郎と情音を助けるために木々生い茂る林の中を探索し始めた羅瑠、帝里、イブの三人だったが、暫くすると爆音が聞こえて、その方角に向かってみると、突然、視界が開けた場所に出たのである。
視界が開けたといっても、そこだけ木が生えていないわけではなく、辺り一面の木々が倒され、幾多の切り株が残されており、その隙間に木の幹と枝や葉が所狭しと地面に散らばっている。
「まさか…ここまでとは…ね…」
その中には人も混じっており、まるで災害が過ぎ去った後のような光景と、頬を撫でる不気味な微風に、帝里も隣の羅瑠と同じような反応を見せる。
途中、強い魔力の存在を感じ、何が起こったか、なんとなく予測していた帝里であったが、その規模の大きさを見て、改めて驚きと困惑、そしてどこか諦めのような感情に複雑な気分のまま、前に歩き出す。
「…共同魔法だろうなぁ…そっか…
てか、この規模を丸裸にしてもまだ木ばっかって、剛堂邸どんだけ広いんだよ。」
どうでもいいことを呟きながら、帝里は倒れた木々を退かし、道を作って進んでいく。
「あっ……」
そんな帝里について来ていた羅瑠が突然声を上げると立ち尽くし、その様子に気づいた帝里も、羅瑠の視線を追った途端、その場に立ち尽くす。
そこには、広場の中心に倒れずに残っている木が一本だけあり、その木に、もたれかかって倒れている双治郎と情音の二人の姿があった。
魔力を使い果たし、疲れて倒れたのか、手を固く繋いだまま、肩を寄せ合って眠るその姿は、木漏れ日が二人を照らし、どこか和やかなものなのだが、周りの殺伐とした光景とのギャップで、誰も近寄らせないような威圧感も感じ、異様な雰囲気をひしひしと滲み出している。
「………?」
その空気感に少し戸惑ったイブであったが、先程からピクリとも動かない前の帝里と羅瑠を不審に感じ、二人の顔を横から覗き込む。
どうやら帝里と羅瑠はそれぞれ、その雰囲気とは別にかなりのショックを受けたのか、半分気絶したように呆然と目の前の光景を見つめいる。
「…………。」
この四人をどうしたものか、とイブは呆れたように自身の頭を押さえ、少しの間考え込むが、すぐに考えるのを諦め、黙って帝里の後ろに戻ると、静かに見守ることにしたのであった。
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「一体なんなんだ、これはッ!!?」
デジャヴを感じさせるような台詞に、ハッと帝里が我に返り、声のする方に振り向くと、情音の父親がさっきの帝里達と全く同じような反応を示している。
その後ろには、情音の母親や玲奈と京介もおり、どうやら事件は終わりを迎えていたようである。
自分もあんな感じで驚いていたのかと思っていると、ふと、自分の周りが先程よりも綺麗になっていることに気づき、帝里は辺りを見渡す。
どうやら、かなりの間放心していたようで、その間暇だったイブが片付けていてくれたのか、切り株の間に落ちていた枝葉はほどんど掃除されている。
横を見ると、帝里の傍には双治郎に倒された人達がまとめて並べられており、今も奥の方でイブがせっせと飛び回り、自分の何百倍もある木の幹を必死に持ち上げている。
「何があったんだ…!?
―ッ!!!情音!!!」
目の前の有様に恐怖を覚えたのか、一歩も動けず、その場で恐る恐る見渡していた情音の父親であったが、中央に娘の情音の姿を見つけるや否や、情音の母親とともに無我夢中で駆け寄る。
「…んっ…お、とうさん…?」
「―ッ!よかった…お父さんのせいでごめんな…」
自分の名前を呼ぶ声に反応したのか、情音がゆっくりと目を覚まし、それを見た情音の父親は目を潤ませながら、妻と喜び合う。
「…んん~…うっ!…いたたたた…
情音ちゃんのお父さん!!??」
そんな和やかな会話で双治郎も目を覚ますが、筋肉痛のような痛みが全身を駆け巡り、悶絶する。
しかし、目の前に情音の父親がいることに気づくと、体の痛みを忘れ、大急ぎで情音から離れ、その場で正座する。
その様子を無表情に見続けていた情音の父親だったが、静かに首を振ると申し訳なさそうに頭を下げる。
「君も悪かったね…私が不甲斐ないばかりにこんな目に遭わせてしまって…さぞかし怖い思いを-」
「これをやったのは双ちゃんだよ。」
父親の言葉を遮るように情音がはっきり答え、情音の父親が驚いたように娘の方を見ると、情音は強い意志を持った目でこちらを見つめている。
「は…!?…いや、こんなことが人間にできるはずが…」
「双ちゃん、聖剣戦の日本代表なの!」
情音の言葉に信じられないといった様子で首を振る父親に、情音はどこか嬉しそうな様子で誇らしげに父親に教える。
「聖剣戦ってあの…?
じゃあ…本当に君が…?」
「ええっと、その…まぁ一応僕になる、のかな…?」
情音の父に問われ、困ったように目を泳がせながら答える双治郎に、まだ受け止めきれないのか、情音の父親は双治郎を上から下まで、少し恐れた様子で見渡す。
少し後ろにいた情音の母親はそんな父親と娘の様子を見てクスリと笑うと、可笑しそうに夫の横に近づく。
「あらあら~、こんなに力があるなら、認めないといけないですね!ねぇお父さん?」
「え!?あ、いや、それはだな…」
「あのね、この人ったら、情音がどんな人を難癖つけて別れさせるつもりだったのよ
ほんと親バカね~」
「なッ!?そ、そんなことはない!!力が必要だと思っているのは事実だ!!」
「なら、ちょっと…強すぎだと思いますけど、十分じゃないですか!
その上、こんなに可愛らしいなんて、もう文句のつけようがないですよ~」
「むむむ…むぅ…」
「ちょ、ちょっと待ってください!!?」
情音の母親に言いくるめられて、悔しそうな表情を情音の父親は浮かべるが、何も言い返せず、渋々頷こうとした瞬間、双治郎が慌てて止める。
「情音ちゃん!?なんか上手くいく方向に進んでない!!?」
「…そう、だね…」
「そうだね、ってッ…!この作戦は、失敗…する…予定じゃ……」
落ち着いている情音に双治郎が慌てて小声で反論するが、こちらを見つめる情音の目を見て、徐々に言葉を失っていく。
「え………えぇッ!?…ッ…!その……」
その意図に気づいた双治郎は驚きの声をあげると、顔を赤らめ、落ち着きなく目を宙に泳がせている。
これまで一度も考えなかった展開、いや、考えないようにしていた展開になり、今日だけでも様々なことがその身に起きた双治郎に、さらに、しかも最重要なことを上乗せされ、思考回路が完全にショートしてしまい、顔を赤らめながら、意味不明な言葉しか出てこない。
そんな狼狽えようの双治郎であったが、何かに気づいたのか、ゆっくりと首を少し動かした後、ピタリと止まる。
その行動に思い当たる節がある情音も、双治郎の向いた方向を振り返ると、やはり、この話に欠かすことができない、一人の人物がこちらを見て、静かに立ち尽くしていた。
「……いってくるね」
情音はそう静かに双治郎へ告げると、ゆっくりと立ち上がり、その人物に向かって歩き出す。
やばい。逃げたい。
先程までの出来事を眺めていた帝里の脳は、この先自分が何を告げられるかを察知し、早く逃げるように訴えているのだが、心の中は驚くほど静かであり、帝里を一歩も動かせてくれない。
そんな通常とは逆の不思議な現象に帝里が戸惑っている内に、情音が帝里の前に辿り着き、手を前に置き、帝里の方をゆっくり見る。
「…………………」
「………。帝里くん…あのね…」
その呼び方をどのように受け取ればいいか帝里には分からず、とりあえず笑ってみようとするが、上手く口角が上がらず、なんとも情けない笑顔になってしまう。
「…ッ…!えっと、その……」
しかし、情音が言葉を続けようと帝里の方を向いた瞬間、迷いが生じたのか、急に情音の歯切れが悪くなり、何か言おうとするが、何も出てこず、俯き黙り込んでしまう。
そんな情音を見て、帝里の中でなにか満足がいったのか、ようやく諦めがつき、フッと帝里は自然で穏やかな笑顔を浮かべる。
「…どうやら、俺は君の勇者じゃなかったんだね。」
「…!………うん…」
帝里の方から声をかけられ、情音が一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐに辛そうで、どこか救われたような表情に変わり、コクリと静かに頷く。
「でも…帝里くんのことは好き、でした。
別に嫌いになったんじゃないけど…今は、その、さらに一緒にいたいって思う人がいて…」
目を少し潤ませながら、一生懸命に語ってくれる情音の一言一言に、帝里は膝が震えているのを感じながら、にこやかに頷く。
「いつもは助けてくれるんだけど、たまに危なっかしくて、放っておけなくて…それが私の勇者なの」
そう言ってこちらを見る情音の目には、もう迷いはなく、その真っ直ぐで綺麗な眼差しに、帝里は大きく息を吐きながら頷く。
「そっか…それは…大変だね」
「うん…でも私には向いていると思う。
帝里くんはちょっと完璧すぎるもん」
「俺が?」
「うん、今はなんでも魔法でバシュ!って解決しちゃうし、高校のときからずっと凄いよ!
しかも、異世界まで救ったヒーローなんだから」
「そうかなぁ?」
情音の言葉に帝里が首を傾げると、自然とお互いの顔に笑みが浮かび、クスクスと笑い合う。
「でも…ここからが大変だよ?俺が言ったこと覚えてる…?」
「うん…でも、もう…」
帝里の質問に情音の顔が曇り、悲しそうに頷きながら、言葉を濁らせる。
「…大丈夫だよ、剛堂さんが選んだんだから間違いないって!
それに初めてで共同魔法を使えるペアなんて滅多にいないよ!二人の仲は魔法的に保証しますッ。」
「-!!ありがとう…!私頑張る」
帝里のフォローに剛堂さんは泣きそうになりながら、嬉しそうな声をあげる。
「双ちゃんには、その…ちゃんと言った?」
「…ううん…まだ何も上手く伝えてない…」
「なら、ちゃんと伝えないと!あいつは堅いからな~大変だろうな~
ほら、行っておいで」
「-ッ!!!うんッ…!」
遂に頬から涙を流し、情音は強く頷くと、深々と頭を帝里に下げ、来た道を引き返していく。
その様子をしばらく見守っていた帝里だったが、自分を納得させるように静かに頷くと、帝里も身を翻し、その場からトボトボと去って行く。
「…………うん、頑張ったぞ、俺。
…はぁぁぁ~…なーんでこんなことになってんだ?」
どこか取り繕うのに疲れたような笑みを浮かべながら、とりあえず不平を言ってみる。
どうってことはない。当然と言えば当然の結果なのである。
帝里が異世界に行っている間、情音を支えていたのは双治郎なのだ。
帝里が突然消えたときも、受験のときも、入学してからも、情音の傍にいたのは双治郎であり、さらに言えば、源蔵から最終的に情音を救い出したのも、今回の作戦を助けたのも、双治郎なのである。
そんな苦楽を共にしてきた二人がどうなるかは、明らかであろう。
そんな突然異世界に消えて不安にさせる帝里よりも、いつも支え合っていた双治郎を情音が選ぶのは、帝里から見ても納得の結果であり、どこか帝里の中でも、薄々認めていたのか、とてもすんなりと受け入れられ、二人の未来を祝福する気持ちすらある。
…が、いくら分かっていたとはいえ、実際に起こると、そのダメージは大きかった。終わった今だから分かることだが、最初、心が穏やかだったわけではなく、どうやら辛すぎて心がシャットダウンしていたようで、今になって、じわじわと傷心の帝里に追い打ちをかけてくる。
「うっわ……。うん、もう今日で最終回にしよ。バッドエンドだけど、まぁいいや」
「いや、あんたの都合で勝手に終わらせようとすな。まだまだ続くわよ!」
気づくと、玲奈、イブ、京介が目の前に立っており、玲奈が呆れたように腰に手を当て、帝里の顔を覗き込んでくる。
「いや、お前ら聞こえてなかったの?」
「聞こえてたけど…長い」
「フラれ方にダメ出し!??そこは慰めるところだろ…」
「はいはい、R.I.P、R.I.P.」
面倒くさそうに玲奈が答えるが、声にどこか明るさを含んでおり、ふと三人の顔を見ると、どれも帝里の心情とは対照的に、ニマニマと嬉しそうな顔をしており、それが一層帝里の不満を煽る。
「まぁ二人は百歩譲るとして…京介、なんでお前まで嬉しそうな顔してんだよ!
まさかお前っ、俺のこと…」
「気持ち悪いこと言わないでくださいよ!!
いやぁ…いつも『主人公ですけど?』みたいな顔している帝里さんが、こてんぱんにフラれているのが…プッ…ククッ、ほんと可笑しくて可笑しくて…
しかも、『俺は君の勇者じゃなかったんだね。』って…イヒャ、ハハッ…ダサすぎでぁッ-!!?痛い!痛い!魔力込めて殴るの止めて!!ちょ、まじで痛い!内側から響くから止めて!!」
「……絶対に許さん」
珍しく京介までもが帝里に追い打ちをかけてきて、我慢の限界に達した帝里は、無言で京介を小突き続ける。
「まぁまぁ、そこぐらいで許してやれよ
NTR主人公」
「あー言ったな!?禁句言ったな!!?あと、少し意味違うからな!!?」
羅瑠が後ろから現れ、帝里の肩に手を置き、えげつない台詞を吐き捨ててきて、帝里は思わず叫び声をあげる。
たしかに異世界の一部の地域では、男女の魔力のやり取りがそういうことよりも重要視されることもあるらしい…が、絶対に羅瑠が知っているはずがない。
「いやよく知らんが、負けて取られたんだから大体一緒だろ」
「ち!が!い!ます!!純愛で負けたんです!!」
「純愛て…言ってて恥ずかしくないのか…」
「うるさいなぁ!羅瑠先輩も人のこと言えないだろ!!!」
「べ、別に~?私はそんなに興味なかったし?」
「嘘つけ!!俺より先に卒倒してただろ!!」
「そ、卒倒はしてないッ!!
…ただ、まぁ…ああなるのが正しかったんだよ。」
帝里の言葉を慌てて否定していた羅瑠だったが、遠くの情音と双治朗に目をやると、静かに目を細めて見つめ、攻撃していた帝里もその表情と雰囲気に息を飲まれる。
「羅瑠先輩、それ…なんか大人っぽいですね」
「フフフ、そうか?」
「うん、俺も真似しよ」
帝里も同じように遠くの二人を見つめ始め、羅瑠はバカにしているのかと、一瞬、怪訝な表情を浮かべるが、困ったように笑うと再び見つめ直す。
双治朗と情音は、お互い向き合って座り、もじもじと話し合っており、こちらまで恥ずかしくなるような初々しさに、チクリとまだ少し心が痛むが、それよりも微笑ましいような和やかな気持ちなる。
「なるほど、これが大人の余裕ってやつか」
「―ッ!!?あ~~~ッ!!!」
なんとなく分かったようなことを帝里が語ってみていると、帝里と羅瑠の行動に気づいたイブが突然大声をあげる。
「なんかものすごく仲良くなっていてズルいです!!
…ハッ!?傷心の二人が慰め合っていたら…という、羅瑠様との新たな展開が…!!?」
「「絶対にない。」」
「おぉ…息ぴったりで…」
一瞬で二人に断ち切るような迫力で否定され、その早さと雰囲気に押され、イブは思わず尻込みしながら圧倒される。
「まず、なんで私がこんな敗北者のモブに惹かれないといけない?」
「はぁぁぁ!?今なんつった!!?」
「そのままだよ。ピンチで覚醒して、しかも情音というヒロインがいる、双治郎の方がどう見ても主人公っぽいだろ」
「さらっと失恋の八つ当たりしてくんな!異世界勇者の!どう見ても俺が主人公でしょ!!」
「あ、なら、うちの弟の京介を推すわ~
家は古くから金持ち、成績優秀で弟属性、ロリも一発で墜とすとか完璧でしょ!!」
「姉は人聞きの悪い事言うのやめて!!?
あと、こんなしょうもない争いに僕を巻き込まないでください…」
帝里と羅瑠が言い争っているところに玲奈と京介が参加して、さきほどまでのしんみりとした空気はどこにいったのか、またいつもと変わらない賑やかさが戻ってくる。
「まぁ、帝里はさっき終わりたがってたし、次回からは双治郎メインで始めようか。」
「地獄耳か!?待って、やります!続けさせて貰います!!
って、話の着地点がわけ分かんねぇ!!」
その喧騒を聞きつけて、双治郎と情音もやって来始め、帝里は少し高い切り株の上に飛び乗ると、皆に向けて指を突きつける。
「俺が主人公だ!!分かったか!!?」
「うわぁ、あの人今日だけでめっちゃ黒歴史生産するじゃん」
「うっせぇ!そもそもお前が死体蹴りみたいなことしたからだ、ろッ!!いつもモブみてぇなくせに、今日だけ虐めてくるんじゃねーよ!!」
「危なっ!?僕は魔法に目覚めてないんだから止めてくださいよ!!?あとモブじゃなくて帝里さんと同じ、サブキャラぐらいはありますぅ~!」
「いや、それでいいのか、弟よ…」
帝里の跳び蹴りを寸前のところで避けた京介が珍しく好戦的な態度で帝里を煽り、そこに双治郎と情音が加わり、一層騒がしさが増していく。
「最初の作戦と全然違うし、皆、煽ってくるし…あぁもう…色々と最悪だぁぁ!!」
皆に囲まれる中で、帝里の叫び声が空に響き渡り、偽恋人作戦と、帝里の恋路は終わりを告げていった。
これで4章は終わりです。ありがとうございました!
情音と双治郎の展開は最初から決まっていたんですが…情音が正気に戻ってからの展開と時間が短すぎましたね…しっくりこなかった方は私の力量不足です、すいません。
こういった反省を活かせるように頑張っていくので、よろしくお願いします!
後書きすら締めが下手…
それでは「ご視聴ありがとうございました!!」




