現世初の魔法使い
[全開までのあらすじ]
情音の両親との面会の途中で、魔法(呪い)をかけられた集団に襲われた帝里達。
離れ離れになってしまった羅瑠や双治郎と情音を救うため、イブにかけていた魔法を解除し、魔力全開で帝里は行動を開始した。
「ハァハァ…これでッ……最後、だぁぁ!!」
帝里のかけ声と共に、各方向から全てのクリスタルが最後の一人に飛んでいくと、その男に張り付き、クリスタルから放出された光が男を包み込む。
そして、一瞬、光が眩く輝くと、その光はすぐに止み、男からクリスタルが離れる同時に、男はドサッと音を立てて崩れ落ちた。
「ハァハァ…フッ、ハァハァ…ここら辺は…これで全部だな…」
辺りに何十人もの人が倒れている中で、一人肩で息をして立っている帝里は、苦しそうに膝に手をつき、周囲を見渡す。
あの場をイブと玲奈に任せて、一人別行動を開始した帝里は、目につく敵を片っ端から倒しながら進み、とうとう最初の目的である、入り口の門扉のところまで辿り着いていた。
「羅瑠先輩は…居ないな…」
クリスタルで生成した水で喉を潤しながら帝里は倒れている者の中に羅瑠がいないことを確認すると、ひとまず最悪の事態を回避できたことに心の底からホッとして、疲れと安堵から思わず体の力が抜けそうになる。
ただ、一応屋敷の外で遭遇している可能性もあるので、このまま外まで探しに行くか、引き返して双治郎の援助に行くか、これからどうするかについて帝里は少し悩む。
「エ~ル~さ~ま~!!」
帝里が自分の身の振りについて悩んでいると、建物の玄関から声が聞こえ振り向くと、イブが手を振りながら、こちらに向かって飛んできている。
どうやら、屋敷内を通って来てくれたようで、これで玲奈達が襲われる心配はほとんどないだろう。
「ハァハァ…も、もう5分経ったっけ…?」
「いや、まだそんなに経っていないですが、早い方が…って、大丈夫ですか…?」
「あぁ…。あとで解除し回るのがめんどいから、もう最初から解除していったんだけど…ハァ、こんなに疲れるなら失敗だったな…」
「じゃあ…私のは後で…」
「いや、先にやろう。今、未来から絶対来られたくねぇ…」
イブが心配そうに帝里を気遣うが、これ以上、面倒事を増やしたくない帝里は首を振ると、呼吸を整えて、すぐにイブを小さくする魔法“ルコナンス”の準備を始める。
「…うおッ!?門が…」
準備を終え、イブを小さくし始めていると、門の方から聞き覚えのある声が聞こえ、帝里はすぐに振り返る。
「羅瑠先輩!!!!」
「…おぉ、帝里!旧家のお金持ちはやっぱ違うな!!教えられた店で剛堂の名前を出すだけで、とても良い茶葉が…って…」
驚きながら倒れた扉の上を飛び越える、元気そうな姿の羅瑠に帝里が嬉しそうな声をあげると、羅瑠も手を振りながら近づいてくるが、周りの異様な光景に言葉を奪われる。
「……で、どういう状況?」
「いや、適応力高いな。まぁ、助かるけどさ」
周りを一瞥しただけで何かを察した羅瑠に帝里は半ば呆れながら、ここまでの経緯を軽く羅瑠に説明する。
「…源蔵……あー…うん、なるほどな…」
「ったく、玲奈ん家に住み始めたときからずっと出てきやがって…どんだけコスパ良い敵なんだよ」
「それはどの目線での発言なんだ…」
呆れた表情で困惑しながらも、羅瑠は嬉しそうに頷き、帝里の肩に手を置くと、ポンポンと帝里の肩を軽く叩く。
「で、私を助けるためにここまで来たと…プッ!
なぁんだ!けっこう可愛いとこあるじゃないか!!」
「うるせぇ!…何もなかったんなら頑張って損したぜ」
「まぁまぁそういうな。
ほら、まんじゅうあげるから」
「余計にノド渇くからいいよ!!」
羅瑠が無事だった安堵から、帝里が軽くふて腐れて背を向けて座り込むのを、羅瑠が吹き出しながらイブと宥め、どこか和やかな空気が流れ始めるが、すぐに双治郎と情音のことを思い出した帝里は急いで立ち上がる。
「こんなことしてる場合じゃねぇ!!早く双ちゃんを助けにいかないと!」
「…双治郎…?おい、何かあったのか!?」
帝里の言葉に、まだ双治郎達のことを聞かされてない羅瑠の表情が一変し、今にも掴みかかりそうな勢いで帝里に詰め寄る。
「い、いやッ、双ちゃんと剛堂さんがこいつらに追われてて…」
「なんでそれを早く言わない!?私なんかより優先することだろ!!?」
「いや、それは結果論で…」
「そんなことはいいから、早く助けに行くぞ!!」
「ちょっ、危ないから先に行かないで!
ったく、ほんとうちのサークルは人使いが荒い…!」
凄い剣幕で羅瑠に追い立てられた帝里は準備をすぐに整えると、すでに走り出している羅瑠を慌てて追いかけ始める。
「くそっ、どうしてこんなことになっているんだッ…!?」
珍しく焦りと動揺を露わにして先頭を走る羅瑠が悔しそうに呟くと、草木が生い茂る林に飛び込むように入っていった。
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話は帝里が入り口に到着した頃まで少し遡り、林に逃げ込んだ双治郎と情音は、なんとか追手を振り切り、木の陰に潜んでいた。
「ハァハァ、これをこっちッ…じゃなくて、こう回せばッ…!」
いつまた見つかるか分からない焦りから、鍵を差し込んだ双治郎は必死にかき回す。
「…ッッ~!!外れたぁ!!!」
ガチャリと音を立てて外れた手錠を見て、双治郎と情音は嬉しそうに歓声を上げる。
「やっと外れたぁ~…もう、死ぬかと思ったよ…」
左手が自由になった双治郎は開放感と安堵から、思わずその場に倒れ込んでしまう。
「もうッ情音ちゃんも、ちゃんと両方とも付けておいてよね!」
「両方付けると立っているのもしんどくて…
あの…それより…その…手…」
「…て…?……わッ!!?」
情音に伝えられて左手を見ると、まだ情音の手を固く握りしめており、双治郎は慌てて手を振りほどく。
「ご、ごめんッ!」
「ううん…手錠に巻き込んじゃってごめんね…」
「いやッ、僕が飛びついたのが悪いよ…!」
お互い顔を赤らめて慌てるなか、咄嗟のこととはいえ、情音を押し倒したことを再び思い出した二人は相手の顔すら見ることができず、俯き黙り込んでしまう。
逃げ回る間、必死に握りしめていたせいか、開いた左手にひんやりとした風を感じて、双治郎はさらに恥ずかしくなったのを誤魔化すかのように立ち上がる。
手錠が外れたおかげか、心なしか立つ足にも力が籠もっており、情音の言うことは正しいようだ。だから…うん、こんなことになったのも仕方がないよね。
双治郎はそう自分に言い聞かせて落ち着かせると、ぐるりと辺りを見渡す。
この剛堂邸は敷地の半分以上が木々に覆われているほど雑木林が広がっており、双治郎達はかなり奥地まで逃げてきたようで、屋敷側で起こっているはずの喧騒は聞こえず、静かでうっそうとした雰囲気が双治郎を包み込む。
しかし、追手もこの林にいるのか、どこからともなく不気味な気配をいくつも感じ、双治郎の肌をピリリと逆撫でする。
「双ちゃん、これからどうするの…?」
「…収まるまで、このままここに隠れていよう。
僕が行ったところで、足手まといにしかならないからね。」
寂しそうに笑いかける双治郎を見て、情音はズキリと心の中で苦しさを覚える。
そして、思わず情音が何か声をかけようとして口を開いた瞬間だった。
「-ッ!!」
突然、ガサリと双治郎の傍の茂みが鳴ったと思うと、木の裏から人影が飛び出す。
双治郎もすぐにその方向に気を向けると、左腰に下げた模造刀の柄に左手をかけ、腰を落とす。
「!!!」
現れたのは追手の一人で、呪いが相当進行しているのか、その男の肌は赤黒く膨れ上がり、双治郎よりも二回りほど大きいその姿に、鬼という言葉が双治郎の脳をよぎる。
「情音ちゃんは隠れて!!」
もはや化け物とも呼べるその男は、叫ぶ双治郎の姿が視界に入ると、手にした木製の角材を双治郎の腹部目がけて横から叩きつける。
「ッ!くぅッ…」
双治郎も逆手で刀を抜くと両手で地面に突き立て、攻撃を受け止めようとするが、刀と角材がぶつかった瞬間、刀がへし折れそうなほどの異様な力を感じ、双治郎は力の差に苦しそうに顔をしかめると、刀を地面から抜く。
刀は吹き飛ぶように力負けし、先端が上に押し上げられるのを、双治郎は刀身の上に一瞬飛び乗り、すぐにまた飛んで、攻撃が通り過ぎた方へ避難する。
双治郎の体重を上から押しつけたにも関わらず、一切ぶれることなく振り切られた相手の攻撃は近くの木を捉えると、触れた部分から真っ二つにへし折り、音を立てて倒れる木の凄惨さに双治郎は冷や汗を垂らし、思わずたじろぐ。
木屑と葉が舞い散る中で佇む、実力まで化け物じみたその男は、怯む様子を全く見せず、双治郎の方を向き直すと、得物を高く振り上げる。
「-ッ!!」
その動作に気圧され、一瞬体をびくつかせた双治郎だったが、その大振りに隙を見つけ、震える足を無理矢理、前に進める。
「いあぁぁぁあ!!!」
手加減など気にしていられない双治郎は全身の力を込めて、相手の腹部を斬りつけると、相手の背後に走り去る。
「…グゥゥ…」
「…ッ!?倒れないの…!」
双治郎の攻撃に苦しそうな声は上げるものの、跪きすらしない相手に双治郎は顔をひきつらせて睨むと、怯んだ相手の背中に飛びかかる。
しかし、それを待っていたかのように、突然、化け物は振り向くと同時に、武器を横に薙ぎ払い、角材が唸りをあげて双治郎の頭部に迫る。
「…ぃ!!」
双治郎は大慌てで体を仰け反らせると、なんとか寸前のところで回避することができ、目の前を通過する攻撃の威圧に双治郎はそのままの姿勢で後ろに数歩退き下がる。
「…落ち着け。攻撃はちゃんと効いているんだ。」
さらに距離をとって後退した双治郎は胸に手を置いて自分を落ち着かせると、ふぅーと息を吐いて、武器を構え直す。
「力は負けてるけど、僕の方が速い。
ほら、いつものことじゃないか。」
冷静を取り戻した双治郎は、真剣な眼差しで相手を捉えると、再び相手目がけて駆け出す。
相手の男も負けじと、咆哮をあげ、得物を振り回すが、双治郎はしっかりと回避しながら、手首、肩、膝と、確実に一撃、また一撃と攻撃を重ねていく。
「ウゴ、グゥ…ゴゴゴ…」
何十回と、攻撃を繰り返すうちに、ダメージが蓄積されてきたのか、少しずつ相手の動きが鈍くなっていき、双治郎の攻撃の頻度も増して、さらにダメージが加速していく。
そして、双治郎の刀が足を叩いた瞬間、体中の肉が弾け血まみれになった化け物はついに姿勢を崩し、膝をついて倒れる。
「…ウガァァァ!!!」
「-ッ!!」
あと一押しというところで、突然、化け物は最後の力を振り絞るように叫び声をあげ、角材を双治郎目がけて投げつける。
突如男の手を離れ、差し迫る木塊に双治郎は反応しきれず、端が頬をかすめるが、臆せずにそのまま走り寄る。
「はぃぁぁぁあ!!!!」
相手に殴りかかる隙すら与えず、双治郎から繰り出された刀は、初撃と同じ場所に命中し、叩きつけるように腹部でピタリと止まる。
「…………ウグゥ…」
断絶魔のような呻きをあげ、岩のような巨体がゆっくりと前のめりで倒れていく中、双治郎は流れるように刀を抜き去り、構えを解く。
「…ハァハァハァ…ハァハァ…」
肩で必死に息をしながら、双治郎は念のため、剣先で男を突いてみるが、男の体はピクリとも動かず、双治郎の顔が嫌そうに歪む。
差し迫った表情で双治郎がしゃがみ、その男を調べると、どうやら息はあるようで、ようやく双治郎の表情から険しさが消える。
しかし、次の瞬間、意識を失って呪いが弱まったのか、倒れた巨体がみるみると縮んでいき、肌の色も戻り、人間らしい姿に変化し始め、その様子に仰天した双治郎は飛び上がってしまい、その場で立ち尽くして見守る。
表情に毒々しさが残るものの、おそらく元の姿を取り戻したであろう男に、双治郎は再び近づいて、状態を調べる。
男は完全に気絶しているようで、双治郎が攻撃した部分に切り傷や打撲はあるものの、どれも大怪我というほどでもなく、何ヶ月か療養すれば、身体的には問題ないだろう。
しかし、まだ体の中からはおぞましい気配が燻っているのを感じ、魔法というものの異質さに双治郎の肌が震える。
とはいえ、双治郎にはどうすることもできないので、後は帝里に任せることにし、双治郎はフラフラと立ち上がると、刀を手に引っ掛けたまま、トボトボと歩き出す。
「……ッ…双ちゃん…!」
静けさで事態の収束を感じた情音が恐る恐る顔を覗かせると、壮絶な姿で双治郎がこちらに歩み寄ってきており、情音は言葉を失い、ただその場で待つ。
ゆっくりと歩いていた双治郎であったが、情音の傍まで来た瞬間、刀を地面に突き刺し、膝から崩れ落ち、情音は慌てて双治郎の介抱をしようと、双治郎の体を追いかける。
「…くそッ!!……なんで僕はこんなに弱いんだッ…!!」
しかし倒れた双治郎の表情は悔しさに溢れており、握りしめた拳を地面に叩きつける姿に情音は驚いて、咄嗟に声をかける。
「そんな!双ちゃんは…弱くないよ」
「嘘だ!テリーやイブちゃん、玲奈ちゃんまでもがあんなにあっさり倒していたのに、僕は全然倒せなかった…」
「テリーくん達は……でも…今のは大きかったし…」
「そんなの関係ないよ…テリー達ならもっと早くて簡単に倒してたよ…」
ポタリと双治郎の目から溢れた涙が地面に染みるのを見て、情音は再び言葉を失う。
「…情音ちゃんのお父さんの言うとおりだよ。力が全てだよ、速くたって…どうしようもないよ」
「……そんな…お父さんは双ちゃんが聖剣戦の代表なことを知らないだけで…!」
「聖剣戦は強い攻撃でも弱い攻撃でも同じ得点だから、僕でもなんとか入れたけど…他の代表とは全然力が違うッ…!
ねぇ、僕のこと皆が裏でなんて呼んでいるか知ってる?
…『そよ風の双治郎』だってさ」
「-ッ!!!」
自嘲するように寂しそうに笑いかける双治郎の表情に情音は顔を引きつらせる。
「やっと超人類になれたのに…なんで皆急に強くなっちゃうの?
ねぇ、力って何?…魔法ってなんなの?」
縋るように問う双治郎の姿に情音は苦しそうな表情でしか答えられず、その表情を見て我を取り戻した双治郎は黙って顔を背ける。
高校からずっと双治郎と共に過ごしてきた情音は、双治郎の苦しみを感じ取っていたが、初めて吐露されたのは想像以上のもので、かける言葉が見当たらず、ただ行き場のない悲しさと悔しさがその場を漂う。
「…………きた」
異様な静けさに包まれていたが、突然、双治郎がそう呟き、スクッと立ち上がった瞬間、辺りの茂みが騒々しくなり始め、次々と人影が現れる。
「……多いね…」
情音を立ち上がらせながら双治郎は相手の把握をすると、穏やかに言い放つ。
先程のような怪物じみた存在はないものの、その分知性が残っていたのか、自分達の周りに満遍なく分布しており、戦闘は避けられそうにないが、まだ距離はそこそこ離れており、取り囲まれているわけではない。
「…情音ちゃん、僕がここで食い止めるから逃げて」
「-!?そんなのッ!」
「大丈夫、危なくなったらちゃんと逃げるから」
真剣な面持ちで敵を威嚇しながら双治郎が言い放つが、どこか悲壮さが含まれており、再び痛いほどの苦しさが情音の胸にこみ上げる。
情音から見ても、双治郎が勝てる見込みは全く見えない。止めることすら出来そうになく、決死の覚悟で情音を逃がそうとするのがひしひしと感じられ、そんなのを情音が了承できるはずがない。
「早く!!」
じりじりと距離を詰める敵に、双治郎が切迫した声で情音を急かすが、双治郎を放っておけない情音は切羽詰まった状況と混乱で頭の中がグルグルと入り乱れる。
どうすればいいのだろうか。
逃げれる?
双治郎を置いて逃げるしかないのか。
本当に置いていける?
双治郎を助けられないのか。
どうやって?
私でなければ、双治郎を救えたのだろうか。
そう、彼なら…
「…!」
その瞬間、頭の中で何か閃き、情音はハッと手元見つめる。
唯一見つけた突破口。その危険性と重要性を丁寧に説明してくれた彼の姿が鮮明に情音の心の中で蘇る。
「……ごめんね、帝里くん」
決意を固めた情音の目に力が入り、情音は行動を開始する。
-ガチャ…ッ!!-
「…!!?情音ちゃんッ!?手!手!早く逃げないと-」
「目を閉じて!!そして、私の手に意識を集中させて!!」
突然手錠を外し、双治郎の左手を握る情音に、驚いた双治郎は慌てて振りほどこうとするが、真剣な情音に圧倒され、大人しく目を閉じ、少し顔を赤らめながら、握るほのかに暖かい情音の手に注意を向ける。
「…-ひッ!!??」
「分かる?これが魔力。」
すぐに情音の手からドロリと生温かい得体のしれないものが自分の中に流れてくるの感じ、双治郎は全身の毛が逆立ち、体が何かに塗り変わるような感覚に陥る。
「それを剣の先に移すようなイメージで…」
「剣の…先に…」
情音に言われたとおりに必死に思い続けると、幾らか慣れたそれが移動していき、体の中心を通るときに、何か慣れた感覚のあるものと混ざり、最後に刀に移っていくとともに、刀が本当に自分と一体化しているように感じる。
「そして、それが燃え盛る火だと思うッ!」
「火…?…火…火…」
双治郎は火をイメージしてみるが、一向に火になった気配を感じず、ただ時間だけが過ぎ去っていく。
そうこうしている内に、敵が双治郎達のすぐ傍にまでに差し掛かり、数人が双治郎に襲いかかる。
「せっかくここまできたのに…諦めれるかぁぁ!!」
求める力のすぐ傍まで迫ったのに、手に入れられない焦りと悔しさで、双治郎は叫び声を上げる。
その瞬間、刀に集まった力が弾けるように膨れ上がり、手元から焼けるような熱さを痛いほど感じる。
「-ッ!!それを放って!!」
「やぁぁぁぁぁあ!!!!」
情音のかけ声を合図に双治郎が刀を振ると、刀から魔力が離れていき、轟音と灼熱に変化し大気中に放たれる。
「ギャァァァァア!」
幾つもの敵の叫び声が聞こえ、双治郎はゆっくりと目を開けると、緑豊かだった目の前が一瞬、火の海に染め上がり、その変わり果てた景色に愕然とする。
「み、水ッ!!」
「む、無理だよ!しっかりイメージしたものしか魔法に出来ないの。
火は皆イメージしやすいけど、水は冷たい温かいがあってイメージが難しいんだってさ!」
衝撃的な変化に、思わず双治郎は水で消火しようと刀を振ってみるが、先程と同様に一向に水が出てくる様子はなく、情音が興奮を必死に抑えながら、双治郎に教える。
「これが…魔法…」
水の生成を諦めた双治郎は再び、刀に炎を宿らせる。
全てを焼き尽くしそうな勢いでゆらゆらと怪しく燃える火に、双治郎はゾクリと何かが背中を撫で上げるのを感じ、取り憑かれたようにその火に触れようと手を伸ばす。
しかし、情音の手を離した瞬間、火は去るように消えてしまい、双治郎と情音は慌てて手を繋ぎ直す。
どうやら情音が補助してくれているようで、情音の手から再び魔力が流し込まれるのを感じながら、これならば勝てるかも知れないと、双治郎は敵の方を向き、ニヤリと不敵に笑う。
「…その、今の火はあくまで例えだから、双ちゃんの相性とかイメージしやすいものとかならもっと力が出るかも…」
「僕の…力…」
どこか心配そうに情音が見つめる中、双治郎は静かに目を閉じる。
とはいえ、いきなり力をイメージしろと言われても、なかなか思い浮かばず、双治郎の額に汗が流れる。
双治郎はなかなか自分のイメージが固まらず、悩んでいる内に、炎の乗り越えた敵が、再び双治郎に走り迫り、情音が急かすように双治郎の手を強く握る。
自分にどんな力があるだろうか。帝里は幾つもの結晶と戦い、イブは炎、玲奈は光の銃を使っていたが、自分にはあんな力がないような気がする。
そのとき、ある言葉を思い出した双治郎の動きがピタリと止まり、情音は怯えるように双治郎の顔を覗き込む。
「ぼくは…そよ風なんかじゃないッ…!」
どこか怒りが籠もった眼が見開かれた途端、刀を旋風が取り囲み、辺り一帯に強風が吹き荒れ、木々が激しく揺れる。
「僕はッ…“暴風”だぁ!!!」
双治郎のかけ声に反応し、旋風が一気に膨れ上がると、双治郎は全ての力を込め、刀を振るう。
「!!!」
双治郎から放たれた突風は、天にも昇る勢いで突き上がる竜巻に変化すると、辺りの火を消し飛ばし、多くの敵と木々を薙ぎ払う。
「風の…魔法…」
自分とは比べものにならない威力の魔法と、完全に魔法を使いこなしている双治郎に、風に煽られて身じろぐ情音は愕然とした様子で呟く。
バキバキッとけたたましい音を立てて、あちらこちらで木が裂けて倒せていく様に、先程より強く背中が撫で上げられ、満足げに見ていた双治郎だったが、突然脱力したようにガクリとその場に膝をつく。
「ッ!?力の使いすぎでッ…!」
「大丈夫…でも、まだ…」
情音が慌てて双治郎を支えるが、倒しても倒しても新たに現れる追手に、双治郎はゆっくり立ち上がると、覇気満々に睨みつける。
「情音ちゃんはまだいける?」
「大丈夫だけど…」
心配そうに呟く情音に双治郎は頷くと、再び、刀の周りに風を発生させる。
先程の火のときとは比べ、圧倒的に容易く、そして滑らかに扱うことができ、これが自分に合っていることを確信すると、双治郎は不敵に笑い、相手に剣先を向ける。
「これまで散々やられたけど、僕はもう負けないぞ!!
覚悟しろ!!僕だって聖剣戦の代表だ!!」
普段の可愛らしい顔立ちからは考えられないほど凜々しく、勇ましい表情の双治郎の姿がそこにあった。
ベタですが、帝里が上手く使えない風属性を双治郎が使うって展開がすごく好きです。
ただ今回思いついたので、そこら辺の掘り下げが全然…改稿の課題にします。
あと、帝里の時と被せようと暗い展開を目指しましたが、性に合わない…
おバカ全開で書くのが一番ですね(^_^;




