俺じゃないんかいっ!?
4章後半はっじまるよ~!!
全話改稿はまたゆっくりと…
“……-ッ!こちら帝里、お二方が門の前に到着したぞ”
“…了解しました。今、門を開けますね…”
トランシーバー越しに強張った京介の声を確認した帝里は、噛みしめるように一人でゆっくりと頷くと、ふぅ、と気持ちを落ち着かせるために大きく息を吐く。
そして、気合いを入れるように目を大きく見開くと、目の前にそびえ立つ荘厳な木製の両開きの門扉の正面まで歩き、肩を回して体をほぐす。
京介と帝里のやりとりを周りで聞いていた玲奈、情音、双治郎、羅瑠もゾロゾロと帝里の傍に集合し、それぞれが自分の立ち位置に着くと、ソワソワと皆が様々な表情を浮かべ、一瞬、異様な雰囲気に包み込まれる。
「……なんだか緊張してきましたね…」
藍色の鮮やかなドレスを着たイブが皆の気持ちを代弁するかのように呟きながら、帝里の肩に留まる。
よく見ると服装が整っているのはイブだけでない。帝里や双治郎は髪をオールバックのように上できちんとまとめ上げ、ダークスーツに蝶ネクタイと、かなり礼装的で鯔背な姿で決めており、玲奈、情音、羅瑠もイブと同じように美しいドレスを身に纏うなど、これから会う人物がどれほど重要であるかが窺える。
左から玲奈、帝里、情音、双治郎、羅瑠の順で並び終え、帝里はふと、その中心に立つ隣の情音に目をやると、どこか一点をじっと凝視しており、肩が小刻みに震えている。
「大丈夫だって、剛堂さん!!きっと上手くいくから!!」
「おいおい、上手くいったらお前は困るんじゃないか?」
帝里の励ましに情音が黙ったままコクコクと頷くと、羅瑠が手に持った小型のカメラを調節しながら悪戯っぽく笑い、からかってくる。
羅瑠の言葉に帝里が困ったように口を尖らせて見せると、そのおかげでいくらか場の空気が和み、皆の肩に入っていた力がスッと取れていく。
“もうっ…ほら、そろそろ開けますよ!”
呆れたようにたしなめる京介の声に、皆が気を引き締め直すと同時に、目の前の門扉が低い音を立てながら、ゆっくり両方の扉を開き始める。
扉が徐々に開いていく中、帝里は素早く頭の上と蝶ネクタイに手を当て、服装の乱れがないか確認すると、背筋を思い切りピンと張り、手を前に合わせ、相手を待ち受ける。
木同士が擦れ軋む音が止み、全開になった門扉の向こう側から、こちらに向かってくる二つの人影が見え、帝里は生唾を飲み込む。
一人は50代前後の袴姿の男で、口元に蓄えた上品な白髭を弄りながらこちらを厳つい顔で睨みつけており、もう一人は女性で、男性よりいくらか若く、穏やかな笑顔をこちらに向けている。
「お父さん…」と小さく呟く情音の声に、帝里は改めてその存在を実感し、心臓の鼓動が跳ね上がるのを感じながら、必死に目をそらすまいと、男性の方を見続ける。
門をくぐり、二人が帝里達の前に向かい合うように立つと、情音がおずおずと一歩前に進み、挨拶をしながら頭を下げる。
「…あの…お父さん、お母さん、久しぶり…です」
「あぁ、久しぶりだね、情音。それで…誰だね?」
情音にニコリと笑いかけながらも、どこか怒りのようなものを含んだ情音の父親の声に、一瞬、怖じ気づきながらも、情音の隣から前に出て、情音と並ぶ。
さっと場の空気が変わり、情音の両親の視線を浴びる中、真剣な面持ちで二人を見返し、帝里達に自分たちの作戦の始まりを告げるように、ゆっくりと口を開く。
「…初めまして、本日はお時間を取って頂き、ありがとうございます。僕は情音さんとお付き合いさせていただいています、
大海双治郎と申します!」
双治郎はそう告げると、情音の両親に出来るだけ爽やかな表情でニコリと笑いかけた。
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事の始まりは遡ること数日前、モミが帰って一週間ほど経った実況サークルの活動部屋での出来事である。
「それでは実況サークル、第二回企画会議を始めるぞ!!」
自身の横に立っている移動式のホワイトボードを勢いよく叩きながら、羅瑠が意気込んだ声をあげる。
本日集まったのは、帝里、イブ、玲奈、京介、羅瑠の五人で、羅瑠が正面に立ち、他の人は長机を囲むようにして座っている。双治郎と情音の二人はまだ講義中で、少し遅れるようだ。
「前回に引き続き、まず何をするか、ということだが…誰か意見はあるか!?」
羅瑠が問いかけながら皆を見渡すが、誰からも応える声はあがらない。
それもそのはず、玲奈は先程からずっとスマホゲームに熱中し、京介もその隣で一生懸命レポートを作っており、羅瑠の話を聞いているのは帝里だけなのである。
京介の方は話だけは聞いてそうだが、意見する気は全くないだろうし、そういう企画係は羅瑠と帝里の役割と考えているようなので、参加する気はないようだ。
そんなわけで、話に乗ってくれそうな優しい二人が到着するまでは、会議と言ってもしばらく帝里と羅瑠の対話が続きそうである。なお、第二回と言っているが、第一回企画会議はモミが目覚めたときに集まったものであり、皆でしゃべっただけで、特に何もしておらず、なかったものと考えてもらってよい。
「だーかーら、皆でゲーム実況しようって言っているじゃないですかっ。
この前はたまたま、変わった企画が出来たけど、俺らは実況初心者なんですからゲームとか、やりやすいものから始めた方がいいんですよ!」
「むむ、やはりそうなるか…」
前から勧めている内容を帝里は再び述べ、イブも大きく頷きながらホワイトボードに「実況内容 ゲーム」と小さい体のわりに、帝里達サイズの字で綺麗にでかでかと書くが、なにやら羅瑠には気に入らないらしく、案の定、今回も渋そうに顔を歪めながら、唸り声をあげている。
「うーむ…やっぱり嫌だ!
あのな、入多奈!!ちょうどお前と同じようにこの世界とは違う仮想世界というものを救った英雄がいてな!!」
「ほぉ……ん?それ関係ある??」
「最後まで聞け!!いいか?その英雄はこう言ったんだ!!
『他人のやっているRPGを、傍らで眺めるほどつまらないことはない。』とな!!」
「いや、変なもん引用してくるな!!!
それでも面白くするのが実況者ってもんなんだよ!!」
帝里は思わず立ち上がって叫びながら羅瑠に反論する。
だが、羅瑠の言いたいことも分からなくもない。自分でも買うこと出来るゲームの実況など、どんなゲームか覗くことはあっても、わざわざずっと見る意味はないと言いたいのだ。
「それでも!実際には買うお金に余裕がない人とか子供とかもいますし、大人数だから出来るや、したいけど、面倒でやらないことなども沢山あるので、全然ゲーム実況もありだと思うんですよ!!」
「うむむ…なるほど…でも、もっと何あると思うんだよなぁ…」
煮え切らないような表情で羅瑠が困り悩むが、何か考えがあるのか、そんな声の中にどこか明るさがあり、帝里は少し自分の身に不安を覚える。
しかし、あまり自信がないのか、そもそも考えなんてないのか、結局、羅瑠は何も案を切り出してこず、ここで会議は行き詰まってしまい、なかなか進展しないまま、時間が過ぎていく。
「お待たせ!やっと講義が終わったよ~…」
そうこうしている内に、情音と双治郎が授業を終え、サークル活動部屋に入ってくる。
二人が加われば、何かしら進展があるだろうと、帝里は大喜びで迎え入れるが、すぐに情音の様子がおかしいであることに気づく。
よく見ると、顔は少し青ざめており、俯きがちでどこか気落ちしているような雰囲気でずっと扉の前で立ちすくんでいる。
「剛堂さん、大丈夫…?」
病気になったのでは、と心配になった帝里は情音の傍に駆け寄ったところ、情音は何かを決心したのか、長い黒髪をなびかせながら顔を上げ、キッと帝里の目を見つめる。
急に目の前で真剣な表情に変わった情音に驚いて、思わず帝里は言葉を失ってしまい、吸い込まれるようにその黒い双眸を見つめ返していると、なわなわと唇を震わせながら情音が口を開く。
「あの、テリーくん…私の恋人になって欲しいの…!」
帝里に会うなり、急に情音が早口にそう帝里に告白をして勢いよく頭を下げると、衝撃のあまり、玲奈や京介も手を止めて唖然となり、そこに集まっていた全員が固まる。
もちろん一番驚いたのは帝里であり、突然の出来事に頭が真っ白、というより頭の中にぽっかりと穴が空いたようで何も考えられず、まるで空いた思考の部分を探すように帝里の目が虚空を泳ぐ。
高校一年のときから剛堂さんに恋心を抱いていた帝里はやっぱり、剛堂さんから告白してくるというシチュエーションを何度か妄想したりしていたわけであるが、まさか実際に起きるとは思いもよらず、そのせいで、せっかく考えていた、超格好いい返事が記憶から吹き飛んでしまい、頭が少しずつ熱くなっていく。
そんな状況の中で帝里が次の台詞をひねり出せたのは、異世界で培った様々な経験によるものが大きかったかも知れない。
「…オッケー、剛堂さん。とりあえず、落ち着いて詳しく話してくれないかな?」
頭を上げ、慌てたり困ったりしながら語ってくれた剛堂さんの話をまとめると、情音の父親が本当は存在しないはずの情音の彼氏に激怒し、こちらに訪問してくる、ということであった。
ゴールデンウィーク最終日、イブを源蔵から奪還する作戦の裏で行われていた、帝里達、実況サークルの初めての活動は沢山の人に見てもらえたのだが、その視聴者の中に情音の父親もいたのである。
動画に娘が出ていて、さぞかし仰天しただろうが、情音の父が怒っているのは、実況活動にではなく、そのときの情音の派手な格好である。
確かにそのとき、情音の髪型は帝里の指摘により黒髪に戻っていたが、メンバー紹介や企画の写真で使われたのは源蔵によって茶髪に変えられたときの姿であり、情音父はそれを見て娘が不良化した、衝撃を受けた。
さらに情音は世界中の動画をほぼ全て管理する動画投稿サイトMOWAが行っている拡散型SNSサービス、‘コネクト’を利用しており、そこでその前日に情音はデートするという内容が書かれており、それを調べ、見た情音の父親は、娘の情音に彼氏が出来て、その彼氏の影響ではないか、と思ったのだ。
もちろん、情音も彼氏がいないことを伝えたのだが、一向に信じてもらえず、むしろ情音が隠していると思い込んでしまった情音の父はさらに怒り、埒が明かないと直接乗り込んでくることにした、といったわけである。
「いや考え方が古いし、典型的だな……で、このままだとどうしようもないから、偽物の恋人を立てようとした、と」
「うん…羅瑠ちゃんに相談したら、テリーくんが適任だって教えてくれて…」
「って結局あんたの差し金か!!なんだ!?これが動画のネタか!?」
「あはは、バレたか~!だが、よく分かっているじゃないか、さすが実況者!!」
帝里が勢いよく振り向いて非難するのを、羅瑠は少しも悪びれる様子もなく、可笑しそうに腹を抱えて笑う。おそらく羅瑠の考えていたであろう案とはこのことであり、これだから油断も隙もない。
「でも、それしかなくて…ダメ、かな…?」
「うっ…べ、別にダメじゃないけど…!」
潤ませて縋るように見つめてくる情音の目に、帝里は思わず、どぎまぎしてしまい、目を逸らしながら答える。情音からの本当の告白ではなかったのには、内心がっかりしてしまったが、それでも恋人のふりとは言え、帝里が出来るのは、とても嬉しい。
帝里が恥ずかしそうに首を縦に振る様子に、情音の顔がパアァと明るく輝くが、そこへ慌てて例の二人が止めに入る。
「ちょ、ちょっと、エル様!?何を急に決めているんですか!?」
「そうよそうよ、私は反対よ!!」
やはりというか、イブと玲奈が帝里と情音の間に割り込んできて口を尖らす中、意外にも京介も周りの様子を窺うように遠慮がちに玲奈とイブに同調している。
「エル様…デートだけであんなに大変だったのに…!これ以上の面倒事は絶対にいけません!!ほら、玲奈すら分かっているじゃないですか!!」
「あのね、帝里分かってる!?恋人のふりっていうのは、たとえ実の兄妹であっても、最後はくっついてしまう最強定番フラグなのよ!!?羅瑠の作ったそんな安易なフラグになんて乗るな!」
「いや、全然分かってねぇし、さらに訳分からん理由で反対してくるな。
イブの言いたいことは分かるけど…ほら、剛堂さんも困ってるし?」
イブの意見には頭が上がらないが、帝里はここぞとばかりに、情音を盾にして押し切ろうとする。剛堂さんの彼氏役を降りる気など、帝里には毛頭もなく、困った顔を作っているつもりでいるが、にやけが止まらない。
しかも、今回は羅瑠の発案であるので、羅瑠が邪魔してくることもなく、万全に事を進められそうだ。
なので、帝里は余裕の表情でイブと玲奈の反対を受け流していたのだが、
「……そこまで二人が反対しているなら代わりに僕がやろうか…?」
おずおず、ポツリと双治郎がそう呟いた瞬間、その場にいた全員の動きが再びピタリと止まり、全ての視線が双治郎のもとに集まる。
これは羅瑠と情音も想定外だったようで、皆と同様に口を半開きにして唖然として双治郎を見つめる中、帝里の眉がピクリと動く。
実は帝里は内心、双治郎と情音の間で何かあったんじゃないか、と疑っている。
はじめは情音の様子が変だったので、気にも留めなかったが、情音が正気に戻ったときの反応やその後も、高校から付き合いの帝里からしたら、二人が所々ぎこちなく、何か怪しく感じるのだ。
聞くところによると、帝里が居なくなった後、高校3年は二人で過ごしたようだし、大学でも同じ授業で共に行動してることが多く、何かあってもおかしくない。まぁ、剛堂さんは魅力的だし?
そんなわけで情音と双治郎の関係を疑っているのだが、そんな帝里でなくとも、そう解釈してしまうような発言に、全員が動揺して言葉を失ってしまい、微妙な雰囲気に包まれる。
しかし、どうやら言った本人は自覚しておらず、急に黙り込んだ皆を双治郎が訝しげに見るが、すぐにどういうことか、ようやく気づいたようで、顔を真っ赤にしながら、怒ったように帝里ににじり寄ってくる。
「いや、テリー、なんかウキウキ楽しそうにしてるけど、分かってる!?今から情音ちゃんのお父さんに全力で怒られるんだよ!!?」
「へ?……あ…!」
言いたいことがやっと分かったという様子の帝里を見て、双治郎が疲れたようにため息をつきながら、やれやれとでも言うように首を振る。京介もそのことに気づいていたのか、双治郎の発言に満足げに頷き、帝里がどうするか、面白そうな表情でこちらを見ている。
そう、今回の情音の両親との面会で彼氏役は決して良いものではない。情音の父が情音の容貌の豹変ぶりが彼氏の影響と考えている以上、会う前から印象は最悪なのだ。
確かに情音の両親から悪印象を受けるのは、帝里にとって一番避けたいことであり、情音の彼氏役で浮かれている場合ではないのである。
「だから僕がやって、情音ちゃんのお父さんと会った後にすぐ別れたってことにすれば、テリー的にはいいのかなって思ってんだけど」
「双ちゃん…ごめんな!」
帝里の耳元で優しく囁く双治郎に帝里は胸が一杯になり、思わず抱きつく。
一体誰がこんな良い友を疑うというのだろうか。嫉妬まがいの行動を取ってしまった自分に嫌気が差す。ただ言い訳するなら、双治郎と情音に何かあったらいいな、とも思ったのも事実だ。
「…えっと、なら情音の彼氏役は双治郎ということでいいな?」
ふと、なぜそう思ったか帝里が不思議で考えていると、何となく察したのか、羅瑠が皆に確認する。
少し想定外の出来事に情音は驚いたようだが、別に問題もなく素直に頷き、双治郎が彼氏として情音の父親と会うことが決定する。
「さてと。彼氏が決まったとはいえ、双治郎も一人では不安だろう…だから私達も協力するぞ!!
あ、そうだ!これを実況サークルの復帰一発目のネタにしよう!!」
「いや白々しい…羅瑠先輩、絶対最初から狙ってたでしょ…」
皆に意気揚々と提案する羅瑠に、帝里が呆れたようにつっこみを入れると、バレたかというように羅瑠が悪戯っぽく舌を出す。
「本当は慌てふためく入多奈を撮るつもりだったんだが…双治郎でも面白そ-ゲフンゲフン、大丈夫そうだな!
それに、情音に提案したのは私だし、任せっぱなしっても悪いし、丁度、実況のネタにも困ってたし?ここは皆で乗り切ろうではないか!!作戦名は…『偽恋作戦』とかでいっか」
「怒られそうな作戦名は止めろ!!」
楽しいそうに語る羅瑠に、もはや誰もが呆れ、双治郎と情音に同情を感じているが、内心気にはなっているので、反対する者はいない。
「よし、反対は…いないな!!
それでは久しぶりに…実況スタートだ!!」
皆の反応を見渡して確認すると、満足そうに羅瑠が元気よく拳をあげる。
その後、数日に渡って、情音の両親との面会に合わせての準備に取りかかり、情音の父との対面の日を迎えるのであった。




