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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
1章 Start Another Heroes
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平和への計画

 動画を投稿する人々、世界中を危機的状況に陥らせる事の始まり、実況者が政界へ台頭することとなったきっかけは、奇しくも帝里が異世界召喚された日にまで遡る。


 その日、ある実況者が今の政治に関するある政策を投稿した動画内で案じ、語った。その施策は専門家も唸るほど、現状をよく踏まえた上での最高とも呼べるもので、その国内で大きな反響を呼び、とうとう議会で論題として取り上げられ、結果的にその案が採用されたのである。


 その後、その実況者は度々議会に呼ばれるようになり、かなり注目を集めた。そうなると、私も、と同じように方策を述べる実況者達が現れていった。そして、その案の中にはまた良いものもあり、再び実況者の意見が採用され、これによりその国では、皆が熱狂し、実況者は我先にと、自分なりの政策や考えを動画に込めてアップするようになったのである。ここで注目すべきは、実況者だけでなく、なんと政治家達までもが実況動画投稿を始めたのだ。


 このとき、政治というものは難しい話と若者に敬遠されがちであり、そんな状況で、政治家達が自分の考えを若者に聞いてもらうために実況動画投稿に混ぜるというのは、画期的でうってつけの方法だったのである。もちろん反発する者も多かったが、意見を聞いてくれるのであれば、と手段を問わず、実況動画を始める人も少なくなかった。

 ただし、ただ自分の考えを愚直に動画で伝えるだけでは面白くなく、あまり見てもらえない。見てもらうためには、あくまでエンターテイメントとして動画を出し、この中でポツリと自分の意見を混ぜなくてはならなかったのだ。


 すると、論点とすり替えと言うべきだろうか、いつしか動画の人気のある者が政治を行うという形に変わってきていたのである。

 まさか、と思うかも知れないが、面白い動画とは、お決まりの展開だから面白いというのもあるが、大体は想定外のことが起きたり、奇抜な発想で面白いと感じたりするようなような動画が、人気が出やすかった。そして、そういった実況者は政治に関しても、斬新な政策を立てたので、国民は世の中が変わっていくように感じ、そのせいで、誰も人気実況者だから政界に進出するということに違和感を覚えなかったのかもしれない。


 そうなってくると、もともと実況動画を作る専門ではない政治家達は排除され始めていった。一応、往来通りの選挙で選ばれる政治家もいたので、そう易々と政権が崩れることもなかったが、実況者を通して視聴者までもが、自分の意見を政治により反映されやすくなった現状に多くの者が満足、興奮し、それが後押しとなって実況者の政界への侵食は増大していき、とうとう世界各国で行われるようになったのである。


 しかし、政治に参加する実況者を人気で選ぶとなると、複数の動画投稿サイトがあるままでは、誰が人気なのか正確に分からない。そのせいで揉める国もあり、そこで、国際連合は、全ての動画を整理するために新しいサイト:MOWA(モワ/Make Once, Watch Anywhere )が設立した。

 このサイトには実況者が動画を投稿し、投稿された動画を多くの人がワンタップで簡単にすぐに見る事の出来る動画共有サービス‘クリック’と、動画に入れられなかった裏話を話したり、視聴者とコミュニケーションをとったり、実況者の近状を呟く拡散型SNSサービス‘コネクト’という2つの機能が備わっている。それぞれの詳細な機能は今、皆様が思い浮かべているであろうものと大体同じで、それにチャンネル登録者数、視聴数、動画の評価を基準として実況者にランキング付けされる。

 そして、国連はMOWAの管理を各国ごとに分け、任せることによって、事態の混乱は免れたのである。


 なお、これによりMOWA委員会は世界中で多くの人に利用され、どんどん浸透していき、現在は様々な分野の研究、発表に携わるほど大きな組織となっている。


 こうしてある程度体制は整えられ、とうとう実況者と政界の関係が完全に定着された。そして、帝里が異世界に行き、この体制の始まりとされるあの動画が投稿されて4ヶ月が経った8月、世界全体が不穏で危機的な空気に包まれている現状の元凶とも呼べる事件が起きる。

 場所はアヌサカという名前の国で起きた。前大頭領は呟き機能コネクトで無駄に騒ぎ立て、よく注目を浴びており、実況者の素質はそこそこあったのだが、惜しくも敗れ、Jokerという実況者に政権が取って変わられた。そして、このJokerによって半世紀以上に渡り、かろうじて保たれてきた平和と呼べるものが崩れ去るのである。

 実況者Jokerは8月に『戦争の悲惨さ』と称して、自国の武力や現状での核兵器の威力、核実験の様子を実況し、動画と投稿したのである。実際のところはJokerの実況ランキングが落ちつつあり、その回復のための苦肉の策であった。その策は功を奏し、再生回数が非常に伸び、「我が国の力がよくわかった!」等とわりと国内では好評だった。ただし、このときJokerは気づかなかったが、国外からするとただの国力の誇示でしかない。


 そうすると各国も実況動画を通して自国の武力の誇示をはかり始める。こうしていつしか、国力の見せびらかし合いになり、それが軋轢となってとうとう隣国同士での武力的抗争が起きてしまった。


 ここで実況者の最大の欠点が生じる。実況者の多くは実況の舞台が整えられて実況しやすい、ゲーム系のものをよく実況する。この中にはもちろん戦闘系、戦争系ゲームも含まれており、そのせいで実況者から伝えられる現在起きている抗争の様子も、ゲームの中の出来事であるような感覚に陥ってしまったのだ。むしろ平和ボケからか、抗争を見て喜び出す者まで現れ、国同士の武力抗争はさらに拍車がかかり、領土の取り合いまで発展する。


 この状況に危機を感じた国際連合は直ちに事態の収束に乗り出し、各国に停戦条例を出すことで、ある程度収束された。が、すぐに止められてしまったせいで各国の鬱憤は収まらず、それが牽制の仕合いや小競り合いに繋がり、世界各国が臨戦状態を続け、現在に至ったのである。


 そんな現状を帝里が見逃すはずがない。むしろ異世界から帰っていきなりまた世界の危機を救う機会が与えられるとは、もはや運命とまで感じる。それにこの状況を早急に解決する必要があった。なぜなら…


 この世界にも魔法は存在するからだ。


 魔法の使い方を忘れてしまった帝里であったが、異世界でずっと使っていた“身体能力強化”と“マナ探知”の二つの魔法は身体に染み込んでおり、ほぼ無意識的に発動出来るのである。ただし、“身体能力強化”は高さ20mの城壁から飛び降りて平気だった以前ほど上手く使えず、普通より運動神経が少しよい程度の強化しか出来ない。

 そして、もう一つの、相手の魔法を生み出す素となるマナの量を推し測る、“マナ探知”という魔法は以前と効力は変わらず、健在であった。

 そこで、試しにその‘マナ探知’を使って、周りの人々を推し測ってみると、こちらの世界の人々は、異世界の人々の平均に比べると少し劣っているものの、全員がマナを蓄えており、魔法を使える可能性があることが分かったのだ。これは、帝里が異世界に行ったことがきっかけで異世界からの影響を受けたなどではなく、もともと人類にあったのだろう。マナの貯蔵量は生まれつきの素質が大きく影響するので、中にはかなり多くのマナを所有する人もおり、おそらく異世界と比べても遜色なく魔法は使えると帝里は思っている。

 因みに異世界に召喚されるには、確か膨大なマナの持ち主であることが資格であり、帝里自身も相当な量のマナを持っていたはずだが、なぜか今は常人より少ないくらいまで落ちてしまっていており、それが今少し悩みの種である。


 それはさておき、この世界に住む人々にもマナがあるということは、いつか魔法の存在が発見されることは間違いなく、そのときまでにこの状況が変わらなかったらどうなるか。


 確実に魔法大戦争に発展する。


 魔法大戦争と聞くと心踊るかもしれないが、実際の魔法戦争を見てきた帝里から言わせると悲惨そのものでしかない。おぼろげながら残っている記憶でもその壮絶さは際立っており、高位の魔法使いになってくると、核爆弾よりも脅威的な存在にもなり、かのクラウディオスであったらミサイル100発打ち込んでも、涼しい顔で立っているだろう。そんな強者は数少ないとは言え、ただの一般市民が魔法という武器を常備するという恐ろしい状況にもなりうるそんな戦争、絶対食い止めなければならない。


 ではどうするか。それは簡単で異世界でレイルと帝里が行った方法をまたなぞればよいのだ。

 異世界で帝里が行った方法、それは魔王討伐祭で少し読み上げられていたのだが、国々をプトレミーシア王国のもと、ひとつにまとめあげるというものだ。こちらの世界に合わせると、イメージは国々での多数決でなく、確固たる権威を持つ組織を立てて、それに国が個々として従うという形だ。

 そして、その頂点に帝里が立ち、魔法の開発を統括する。皆が競い合うのではなく、皆同時に、そして平和な使い方に帝里が導いていく。そうすれば、魔法は戦争に使われることなく、人々の暮らしを豊かにするものになるはずだ。ついでに今の世界が危機的状況であることも解決し、一石二鳥である。


 方法が決まればそのための手段だが、もうこうなった以上『実況者』しかないだろう。現状の社会的立場を鑑みても、特に効果的な手札があるわけでもない、という消去法からもそうなる。実況経験はもちろんないので、手探り状態だろうが、何もしないよりよっぽどましだ。


 それに比べ、政治の方は自信があった。なにせ異世界でもう経験済みなのである。

 それは帝里が勇者と知れ渡ってしばらくたった頃、帝里は政治の奥深さにのめり込み、「文官勇者に俺はなる!」と言って、ただ自分の名前の伸ばすところを変えただけのテリーと名乗り、エルクウェルの名前をわざわざ隠してプトレミーシアの政治に乗り込んだことがある。しかし、勢いよく乗り込んだのはいいものの、本当の政治の難しさを前に、ひどく痛い目を見たり、辛苦を舐めさせられたりしたのは、今思い出しても暴れたくなるぐらい恥ずかしい黒歴史だ。

 けれども、そんな黒歴史でも収穫はあった。どうやら武力的勇者エルクェルのときよりも、文官勇者テリーの方が文官の方々には好感を持つ事が出来たらしく、以前より帝里に心を開き、仲良くしてくれ、政治について様々なことを教えてくれたり、親身になってくれたりしてもらえたのだ。世の中どう転ぶのか本当に分からないものである。


 そのようなことがあり、別の方向から見る重要性を知った帝里は、無茶は承知だが、実況アカウントは2つ作ることにした。異世界のときのようなミラクルが起きるとは思えないが、何かで役立つかもしれないし、単純過ぎるが人気の出る確率も2倍だ。


 また、後々に帝里が魔法について知っていることが広まるのは必然であり、そのとき、もしかしたら魔法の独占を目論む国家権力が現れ、帝里を狙う、ということがあるかも知れず、出来るだけ正体は隠すべきである。今の帝里は魔法を知っていても、使うことは出来ず、ただのか弱い一般人なのだ。

 そう考え、何か方法はないか、調べてみたところ、なにやら合成音声での読み上げソフト(「ゆっくり(ボイス)」)を使った「ゆっくり実況」というものあるらしく、これにすれば、帝里が直接話さなくとも、この合成音声を使うことで、実況が出来て、正体を隠すことが出来る。しかも、この方法を使えば、2つのアカウントを帝里が使っていることも分からないし、なんと撮影した後で音声を入れられるらしく、その場その場で話のネタを考える自信のない、初心者の帝里にとってはありがたいものである。ほんと生声の実況者様、尊敬してます。


 となると名前だが、一つ目の名前はやはりエルクウェルでこっちが本命だろう。もう一つの方はというと、異世界ではテリーだったわけであるが、ネット検索するとなぜかカラフルなピラミッドが出くるなど、この名前はわりとよくある名前であるようで少し個性に欠けるような気がする。それにテリーという名前自体、高校のときの帝里のあだ名であり、そこから正体がばれる可能性があるので、テリーという名前を使用するのはやめることにし、もう一人の英雄、クラウディオスの名前を借りることにした。


 さぁ、用意は整った!いざ、実況の世界へ!まずはパソコンを買おう。何を実況すればいいか分からないけど、まぁまずはゲーム実況かな?なら予備校の帰りに近くの電気屋にでも寄ってオススメの物がないか店員に聞――


「エル…クウェル様…ですか…?」


 …え?…声に出してた!?いやいや、そんなことはない。そもそも、その名前を知ってる人はこっちでは居ないはずだ。

 帝里は驚きと困惑が脳内を駆け巡りながら、声を投げかけられた方へ振り向くと、そこには流れる水のように滑らかで煌やかな青髪の可愛らしい少女が目から一筋の涙を流しながら呆然とこちらを見つめ、立ち尽くしている。


 まさか異世界から…と一瞬、帝里の脳裏をよぎるが、確か洞穴には結界があり、レイルの話では来るのは無理なはずだ。

 となると、この世界の者となるのだが、この世界で青髪?というか、まずなぜこの子は泣いているのか、と様々な疑問が帝里の頭の中で次々に沸き起こり、その混乱のあまり、思わず返事もせずに帝里は訝しげにその少女を見つめると、青髪美少女はその視線で正気に戻ったのか、慌てて涙を拭き、ぺこりとお辞儀して、微笑む。


「見苦しいところをお見せしてすいません……あっ!申し遅れました、私は未来からやって来た、メネラウシア=ティア=衣舞(イブ)と申します。イブとお呼びください」

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