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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
4章 異世界に行ったら主人公…?
39/58

下の子


「ハァ…これで分かりましたわね?」


「おう、もう満足だ、ありがとう!」


 早く話を終えたいといった様子で、モミが少し嫌そうな顔で帝里に尋ねてくるので、帝里は大きく首を縦に振る。


「ふぅ、色々疲れましたわ…さぁ姉様、さっさと帰りますわよ」


「へ?いや待て、ちょと待て、ちょっと待て!!?」


 モミが勢いをつけて立ち上がると、さも当たり前のようにイブを連れて帰ろうとするので、思わず帝里が慌てて立ち塞がる。


「え、今、完全にイブはこの時代にいてもいい雰囲気だっただろ!?」


「そんなわけありますか!!私は最初からイブ姉様を連れて帰ると言っていたでしょ」


 目の前の帝里に呆れたようにモミが言い捨てると、同じように呆然としているイブの方に近づいていく。


「…その姿はあとでどうにかするとして…一旦未来に帰りましょう」


「…いや、私は帰りませんよ。エル様と未来を変えるのです!」


「またそんなことを言って…もう十分素晴らしい未来じゃないですか、一体これ以上何を変えようというのです」


 訳が分からないといった様子でぶっきらぼうに言うモミの言葉にイブの眉がピクリと動く。


「そう…ですか…その未来に私が帰ってどうなるというのです?」


「そりゃもちろん、正式な王位継承者となって女王として国民を導くのです!!」


「女王ね…あなたもそんなことを言うのですか」


 言葉を繰り返すように呟くイブが急に歪んだ笑みを浮かべ、モミはその笑顔にゾッとして思わず顔が引きつる。


「誰も彼も女王女王と…そんなに権力が大事ですか。」


「そんなつもりは…!私はただッ…!」


「まぁほぼ地球全土が手に入るわけですから分からなくもないですが…そんな醜い争いに私を利用しないで欲しいですね

いくらあなたに貸しがあるとはいえ、従うつもりはありません」


「姉様…私は姉様を守りたいだけですわ!!」


「あなたに何が出来るというのです!!?あれで守ったつもりですか!?そのせいで私は…!何も分かってないくせに!!そんな理由でつきまとわれたくありません!!」


「……バカ」


 激しくイブに怒りをぶつけられ、うなだれていたモミがポツリと呟くの聞いて、その静かな反撃に初めて口答えされたイブはハッと一瞬怯む。


「バカバカバカバカ、イブ姉様のバカァ!!なんにも分かってないのは姉様の方ですわ!!」


「はぁ!!?私ですが!!?まだ幼いあなたに何が分かるのです!!ちょこまかと…むしろ邪魔になっていることを――」



――バシッ――


 涙ながらに叫ぶモミに逆上し責め立てていたイブの言葉が一発の乾いた音で遮られる。

 モミが目の前で怒鳴りつけていたイブを叩いたのだ。


「そこまで…ヒグッ、言わなくても…いいじゃないですか!!」


 肩で息をしながら叫ぶモミの目からはもう涙がとどまることもなく、純粋で可愛らしい目の周りはわずかに赤く腫れている。

叩かれたイブは、モミの平手は小さくなったイブには痛烈なもので受けきれず吹き飛ばされ、壁に叩きつけられている。

 それを見て我に返ったのか、モミは今自分がしたことに気づいて、自分の手を見つめ、顔がドンドン青ざめていく。


「イブ姉様の…バカッ!!」


 モミはもう一度そう叫ぶと、踵を返し、荒々しく扉を叩き開け、逃げるように外に走り出して行ってしまった。


 モミが飛び出していき、さっきまであんなに激しかったのが嘘であるような静寂が京介の部屋に訪れる。


「…イブ」


「えぇ分かってます…今のは私が悪かったです」


 帝里の呼びかけに、壁に叩きつけられてから身動き一つしなかったイブがため息をつくと、ゆっくり壁から起き上がり離れる。


「お前にしては珍しいな、あんなに本気でキレるなんて」


「慣れないことはしない方がいいものですね…あの子に叩かれ冷静になって自分でも驚きました」


 イブは衣服の埃を払うためにスカートの裾を叩きながら力なく笑う。


「でも、あの子に私の近くにいて欲しくないのは本当です。

あの子は本当に王国が大好きなんですよ。そんなモミが私といたら辛いもの見せてしまう…あの子の純粋な気持ちを壊したくないのです」


 そう言うイブの目は力強く、遠くを見つめる。

 そもそも、イブとモミは過ごしてきた環境が違う。イブは王位継承による大人の争いや、もとからの魔力の高さから、反乱が起き、亡命までしなければならないほど、幼い身には過酷な生活を送っていたのに対し、モミは良い意味で余計な期待をされることもなく、のびのびと過ごしてきた。

 イブはそんなモミの幸福を嬉しく思い、壊したくないが故に、これまでモミと過ごすことを避けてきたのである。

 そうして姉として上手くやっていたつもりであったが、今回つい怒鳴りつけてしまった。別にモミの生活を守ってきたことを理解してないことに苛ついたわけでなく、ただ少し、少しだけモミの見ている景色が羨ましく思ってしまった、ただそれだけのことである。


「さて、これからどうしましょうか…」


 ここまで分かっているのも関わらず、イブは本当に困り果てたようにため息をつく。自分がモミに怒りを本気でぶつけたのが初めてであるように、モミがあんなに反抗したのも初めてで、どうしたらいいか分からないのだ。


「「むむむ…」」


 帝里も一緒に考えるが、モミとは今日話したばかりであり、上手い仲直りの方法が浮かばない。


「あの、僕が行きましょうか?」


 こうして帝里とイブが悩んでいると、同じように事の全てを見ていた京介が声を発する。


「お前…いたのか」


「ずっっといましたよ!!!途中質問もしてたでしょう!!?」


「いや京介様に迷惑をかけるわけにはいきません!!」


「俺ならいいのかよ!!?」


「私の勇者様でしょ?エル様も少しは関係あるんですから半分持って下さいよ」


「ぐぬぬ…理不尽だが久しぶりの勇者扱いが気持ち良いから許す!!」


「はいはい、二人とも現実から逃げない…

でも、イブさんも何も思い浮かばないまま会っても話を拗らせるかもしれませんし、ここは全く関係のない第三者に任せてみるってのはどうでしょう?」


「ほぉ、なんかお前自信あるんだな。なんで?」


「ふふん、帝里さんより上手くいけますよ!なんせ下の子ですからね」


 京介は嬉しそうに少し得意げな顔を浮かべると、イブに片目を瞑ってみせる。それを見て納得したのか、イブも大人しく首を縦に振る。


「では、お願いしていいですか。あの子は別に魔力も普通の年相応な身体能力なので、そんなに遠くに行ってないと思います」


「了解です!じゃあ行ってきますね!」


 京介は大きく頷くと、少し小走りでモミが開け放った扉からモミを追いかけていった。


=======================================



「グスン…姉様のバカ…」


 何度目になるか分からない小言を呟き、袖で目の涙を拭いながら、モミはトボトボ当てもなく歩き回る。

 初めて見る姉の怒った姿に驚くあまり、自分も初めて姉を殴ったことが自分のなかで尾を引き、どうすればいいか全く分からない。


 千恵羽邸を飛び出した後、しばらく闇雲に走り回ったせいで、今どこにいるかも分からず、それがますます孤独を感じさせる。


「…ひっぐ…」


 普段は聡明なつもりが、化けの皮をはがれ、無邪気な心が現れて、ただ泣きながら歩き回っていると、どこかの信号に辿り着いていた。


 信号が差し替わろうというのに、泣いているモミはそれに気づかずにその方向に歩き進む。

 とうとう信号が赤に変わり、自動車が動き出したのだが、モミは道路内に侵入し、スピードの乗った車の進路上にさしかかる。


「あぶないッ!!」


 甲高いブレーキの摩擦音にモミがハッと目を見張った瞬間、どれよりも早く、何かがモミに飛びつき、強引に歩道へそのまま飛び込むように押し戻される。


 地面に激突するととも、車が通過していき、モミが目を白黒させている間にどうにか危険が回避された。


「いっっだぁ!!イチチ…僕は帝里さんのようなことは無理ですね…」


 飛びついてきた京介が勢いよく起き上がると涙目になりながら、打った部分を摩る。


「あ、あなたはさっきの…」


「危ないじゃないですか!!信号の見方知らないの!?未来にはないの!?」


「いや、知ってますが…別に魔法使えば守れますし」


「ここでは魔法使っちゃダメなんでしょ…」


「あ」


 今更気づいた様子のモミに京介は怒る気も失せ、呆れてため息をつく。


「助けていただきありがとうございました」


「いえいえ…と、とりあえずそこに公園があるから休まない…?思ったより痛くて…高校出たら急に歳を取るんですかね…」


 頭を下げるモミに京介は笑いかけると、辺りを見渡しモミに提案する。さっきの車は幸か不幸か、もう去っており、周りの注目が京介達に集まっているのだ。


 それにモミも気づき、二人はひとまず公園に移動する。近くのベンチに座ると魔法で治療するとモミが言うので、京介は大人しく治療を受ける。


「それにしても無茶しますわね…」


「それは君も同じだよね?イブさんに対して」


 京介の言葉にモミの身体がピクリと動く。


「本当にお姉さんのことが好きなんだよね。だから何を言われようともイブさんから離れないんだよね」


「…あなたも姉がいましたわね。あなたも好きですか?」


 その問いに京介はギョッとしてモミを見つめるが、モミに真剣なまなざしで見返され、少し詰まった後、ハァとため息をつく。


「聞かれたら調子に乗るので、絶っ対に姉に言いませんが…まぁ嫌いじゃないですよ。じゃないとわざわざ一緒に住んだりしませんよ」


「なるほど…ならあなたも分かりますわよね。なぜイブ姉様は私の気持ちを分かってくれないでしょう…」


「うーん、その気持ちはとても良く分かるんだけど…それは僕たちも分かってないと思うんだよ」


「私たちも…?」


 不思議そうに首を傾げるモミに、京介は大きく頷いてみせる。


「実はうちの姉が引き籠もってた事があって、それを聞いたとき、『僕がしっかりしないと』って思ったんだけど、姉上を見てたらその必要もないかなって」


「なぜです??」


「だって、姉として必死に頑張っていたから」


「――!!」


「上の子ってのは、僕たち下の子のためにも色んなものを抱えているんだよ。うちの姉とか特にそうは見えないけど…きっと無意識に『しっかりしないと』って思っているんじゃないかな

 上の子だからって理由で得することもあるけど、反面、習い事を沢山させられたり、王位継承に巻き込まれたりする。それでも姉面を保とうとするのはきっと大変なことだと思うよ

 イブさんも特に君の前では姉として振る舞おうと頑張っている」


「……」


 京介の言葉にモミは押し黙る。

 本当はモミも薄々気づいていた。

 イブに嫌われているわけでないが、何か隠すように避けられていて、それが不安で仕方がなかったから、あそこまで強引に連れて帰ろうとしたのだ。


「…私はどうすればいいのでしょうか?」


「素直に姉の頑張りや優しさに甘えればいいんじゃないかな?正直、余計なお世話だと重いこともあるけど…上の子が頑張っているんだからこっちも頑張って支えてあげないと

 ほんと下の子って大変だよね!」


 京介が困ったように笑うのに、モミもつられたように笑みを浮かべる。気づけば、なぜかイブへの後ろめたさも綺麗に消え去っている。


「…今ならイブ姉様と仲直りできそうですわ!色々とありがとうございます」


「いえいえ。なら家に戻ろうか」


 落ち着きを取り戻した様子を見て京介も安心すると、ベンチから立ち上がる。モミも同じように立ち上がろうとしたとき、ふと何かが頭をかすめる。


「無茶するのは好きだからで…さっき私に無茶して…ということはあなた、私に!!?」


「???どうしたの??」


 早く本題に入るために、京介が強引に話を持っていたせいで、思春期真っ盛りのモミの思考がどんどん暴走していき、モミの顔が赤く染め上がっていくのを、きょとんと見つめる。


「ハァハァ…また考えておきます…」


「ん?まぁ、とりあえず戻りましょう。帝里さん達が心配してますよ」


「あのそういえば聞きたかったんですが、」


 家に戻ろうと、歩き始めた京介を真面目な面持ちに戻ったモミが引き留める。


「あの、エルクウェルって人を知りませんか?知らなくてもいいんですけど…」


「え??」


 モミの問いに再び京介が固まるが、すぐに理解する。

 帝里はまだモミの前でエルクウェルと名乗ってないのだ。イブがエル様とは呼んでいるが、それだけでは分からないだろう。


 このことに気づいた京介は思わず吹き出しそうになり、慌てて口を押さえる。帝里がエルクウェルだと教えようか、京介は一瞬迷ったが、それは帝里に任せた方がいいと思い、黙っておくことにする。


「えっと、ええ、知ってますよ。実況者ですよね」


「そうですそうです!なら、変なことを聞きますが…生きてますか?」


「へ??投稿もしてるし、生きていると思いますよ…?」


「ですか…ありがとうございます」


 なぜそんなことを聞くか分からないまま、京介が不承不承に頷くなか、モミは少し悩んだ様子を見せ、


「あ、お待たせしましたわ!!いきましょう!」


 何事もなかったように帰るのであった。


=================================



「モミ…」


 再び千恵羽邸に戻ってきたモミの姿を見て、イブが呟く。


「その、ごめんね…私が押しつけてしまって…」


「いえ、私こそ何も考えずに好き勝手して、ごめんなさい…」


 再び衝突することもなく、穏やかに仲直りしていく様子を、意識を取り戻した情音含めた全員が微笑ましく見守る。


「でも一言だけ言わせて下さい。あの反乱は姉様が悪いですわ」


「へ?」


「だってあの時期の姉様、かなりこじれてましたからね。皆に恐れられて、やけになったのか、『私は世界を滅ぼす存在、魔王だ!!』とか言って、自分の魔法にダークとかカオスとか阿修羅とか名付けてましたからね。そりゃ、国民も恐れますよ

 まったく、6歳にして中二病――」


「わー!わー!やめなさい!!嘘でしょ!?」


 イブが慌ててモミの口を押さえつける。その様子を見てモミは何か満足したようだが、イブは顔を真っ赤にして、モミの肩を揺らしている。



 こうして無事(?)仲直りを済ませ、モミは未来に帰ることになった。


「イブ姉様…どうしても未来に帰らないのですわね?」


「うん。ここでやらないといけないことがあります」


 力強く応えるイブにモミもようやく納得したようで、首を縦に振る。


「分かりました。なら、イブ姉様の邪魔をしないように未来で上手くやっておきますわ!

 おい、そこの男!!」


「…って俺かよ!?」


 急に呼ばれて驚いている帝里に気も留めず、モミがつかつかと帝里に近づく。


「一体、姉様をいつまでこんな姿にしておくつもりですか!!?」


「いや、イブが“認識順応”使えないから、こうするしかないんだよ!!」


「そんなところだろうと思います。だから今からあなたに“認識順応”を教えるから一発で覚えなさい!」


 そうかなり無茶な要求を叩きつけると、帝里の手を取ると、魔法を発動する。

 帝里に魔力が流れ、モミは“認識順応”を帝里にかけるとゆっくり手を離す。


「……なんとなく分かった。多分出来ると思う」


「そう、良かったですわね、姉様!!」


「いや私はこのままでいいです~!この魔法がエル様と私を繋ぐ魔法のようでいいんです!」


「あ、帝里さんがそれ、モミさんにも使ってましたよ」


「えぇ!!?エル様浮気ですよ!!」


「いや、あれは人工呼吸とキスみたいな…って関係ねぇ!!誰にも使っていいじゃねぇか!!」


 イブと帝里が言い争う横をモミがスルリとすり抜けると、情音の前に立つ。


「さっきは失礼しました…」


「あっ、いえ…大丈夫だよ」


「そのお詫びとはなんですが…たしか魔力の流れが変で困っていましたわよね?」


 そう言ってモミが手を出すと、手錠と一本の鍵が目の前に召喚される。


「これは犯罪者の魔力を無効化できる手錠ですわ」


「え、もしかして海ろう-」


「余計なことを言うとその口を縫い合わせますわよ?」


 帝里が口を挟もうとすると、モミに睨みつけられて、大人しく黙る。


「コホン、これをつければ、魔法が暴発せず、しばらくすると魔力の流れも正常に戻ると思いますわ。これはその鍵です」


「あ、ありがとう…」


 情音は厳つい手錠を渡され、少し戸惑うが、つけてみると本当に魔力の流れが少し戻り、情音も感覚的に分かるようで少し安堵している。


「では帰りますが…その前に、」


 タイムトラベメルのワープホールを開いたモミが入るのを中断したと思うと、ススッと京介に歩み寄る。


「あの…また来てもいいですか?」


「え??ええ、もちろん」


 訳が分からずに頷く京介に、モミはパァと顔を輝かせると、その嬉しそうなままワープホールに入っていった。


「………」


 モミが去り、一瞬静まりかえる。


「…ロリコン」

「ロリコンね」

「ロリコンですね」

「ロリコンだな」


「なんですか急に!!?」


 帝里、玲奈、イブ、羅瑠が一斉に京介の方を向くと、京介は心外とばかりに叫ぶ。


「いやぁあれは完全アウトだろ」


「弟がロリコンに…どうしよう!!」


「私の妹に京介様が…反応に困ります…」


「おめでとう!お前はロリコンキャラだな!!」


「え、え、え」


 次々と言われ京介は少し固まるが、すぐに理解する。


「僕はロリコンじゃなぁぁぁい!!!」


 京介の声が千恵羽邸に響き渡っていった。


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