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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
4章 異世界に行ったら主人公…?
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未来のお姫様達



「じゃあ、この子を寝かせてくるわね」


 流れ弾に当たり、気絶してしまった情音を玲奈が抱き上げると、部屋から出て行く。


「うぅ…あの方には申し訳のないことをしてしまいました…」


「もう、私とエル様の話を聞かないからですよ

 で、あなたは一体何をしに来たんですか?」


「そんなのイブ姉様を未来に連れて帰るために決まっているじゃないですか!!王位継承の話もありますし!」


「だから私は興味ないって…!」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!そこら辺の事をもうちょい聞きたいんだけど…」


 二人で話が進んでいく様子に、帝里が割って入る。部外者は口を出すなと言わんばかりに、未来からの来たというイブの妹、モミがこちらを睨みつけてくるが、イブをこの時代に引き留めている立場として、イブの勇者と名乗る立場として、知っておかなければならない。


「あ、そうですよね!これも未来から帰って来たら、ちゃんとエル様に話そうと思ってたんですが…私、未来ではですね…メネラウシア王国という国のメネラウシア=ティア家第一王女なんです」


「いや、モミの話でなんとなく分かってたけど…そのメネラウシア王国って何?」


 帝里は一番疑問に思っていることを口にする。異世界から帰って来て、世界中の国名が変わっていたとはいえ、そんな名前の王国は聞いたこともないのだ。


「私たちの国、メネラウシア王国はこの時代の少し後に誕生した国で、正式名称メネラウシア連合王国という国です。えっと、今年で建国何年でしたっけ?」


「姉様、それを言うと、ここと私たちの時代がどのくらい離れているか分かってしまうので、禁則事項ですよ…まぁ、ほぼ地球全土を統べる、千年は超える歴史ある王国です!!」


 モミが誇らしげに胸を張る。連合王国というだけあって、国王が様々な国を束ね、統治する国で、自身の直接的な領地は小さい島だけという少し珍しい国のようである。


「でも、未来でも王様がいるのはなんか意外だなー

 俺の中では王国って独裁者の国ってイメージがあって、未来は民主主義なのかと」


「独裁者、ねぇ…あなたがその言葉にどんな印象を抱いているか知りませんが、いくら権力を持っていても、それを国民のためを想って行使する独裁者だったら、民衆からも愛される国が出来るはずです。少なくとも、私たちの国はそうあり続けてきたと私は誇りに思っています」


 千年を越える歴史が裏付けているのか、自信満々に述べるモミに、帝里は少し感銘を受ける。どうやら皆が幸せな王国というのは、異世界とかファンタジーだから出来ることではなく、この世界でも可能で望みはあるのだ。


「なんか俺の目標にも希望が見えてきたな…てか、メネラウシア王国自体が目指す形そのもののような気がする…!?」


「実際はエル様の目標よりは少し劣っていますが、そりゃそうですよ!だって原型のようなものをエル様が作ったんですから!

 平和の創始者エルクウェルと呼ばれるのも、それが理由ですよ!!」


「なるほど!うぉぉ!聞いてなんかやる気出てきたわ!!」


 少し嬉しくなって、帝里も胸を張ってみるが、二人の話があまり理解できてないのか、眉根を寄せているモミの眉間がしわがさらに深くなる。


「と、とにかく私たちの国のことは分かったわね!

 そして、メネラウシア=ティア家というのは、メネラウシア王国建国から続く正統な家系のことで、イブ姉様はメネラウシア王国の第一王女であり、また王位継承権第一位の方なのです!!」


「へぇ、女性にも王位継承権があるんだな」


「ハァ…この時代ではまだそんな事を言っているのですか…そもそも、メネラウシア王国を建国者は女王であり、むしろメネラウシア王国では女性の方が好まれています」


「はあ…じゃあイブが継げば良いと思うけど……どうせなんか問題があるんだろ?」


「さすがエル様、鋭いですね…その建国者の女王なのですが、なぜか数日で王位を弟に押しつけて、退位しているのです…」


「うわぁ、うちの姉みたいな勝手な人ですね…可哀想に」


 京介がため息をつき、心からその弟に同情するように遠くを見つめるような目で呟く。


「それで問題というのが、私の後に生まれたのはこの子じゃなくて、腹違いの弟がいるんですよ…それでこの場合はどちらにするべきか揉めているんですよね…」


 今の国王はイブ達の父親らしく、王国らしいというか、やはり複数人、妻がいて、それぞれに子供がおり、順番に並べると最初がイブで、次がその男子、そしてモミとなるらしい。


「順当に私にするべきだとか、前に倣って私に即位させてすぐにその弟に譲るべきだとか、色々な意見が飛び交っているんですよ…

 あと、この前の源蔵が言っていた通り、私たちの時代で10年前に起こった反乱の原因は私の力だったので…そもそも、反乱が起きた王女に継がせるのはどうなんだという意見もあるんですよね…」


「おかげで、派閥に分かれて争いだして…しかも、腹違いだけあって私たち、私から義兄とあたるあの人とはあまり親しくなくて、それが拍車をかけているそうで…ハァ、なんか宮廷ドラマが作れそうです…」


 未来を思い出して嫌気が差したのか、イブとモミが同時にため息をつく。


「もう私は興味がないって言っているんだから、あの弟に継がせればいいのにね」


「いや今、姉様の方が優勢なんですよ!?イブ姉様が歌手を始めてから、ファンも急増しましたし!!」


「えぇ…父に『このまま恐れ続けられたら、生きづらいだろう…』って言われたから始めたのに…やるんじゃなかった…」


「ふーん、未来も面倒なことになっているんだな」


 結局、再び蚊帳の外状態で、話についていけなくなった帝里は京介に差し出されたお菓子を食べながら呟く。この時代のお菓子を見たことがないのか、モミは渡されたお菓子を珍しそうに眺めている。


「ま、まぁそんな感じです。分かりましたか?」


「要はお前もお姫様だったんだな。まーたお姫様の勇者か、勇者冥利に尽きるぜ」


「ふふふ、それなら良かったです!他に聞きたいことはありますか?」


「うーん、特にはないけど…ついでだから俺たちの時代について、何か少しでも聞いておきたいかな」


 何気なく帝里が尋ねると、イブとお菓子に夢中だったモミが何ともいえない表情で、無言のままお互いを見つめ合う。


「あ、やっぱり未来のことは教えちゃいけないのか?」


「確かにそうでもあるんですが…実はこの時代について私たちも分からないんですよ」


「……?」


「実はそのメネラウシア王国初代女王なのですが、建国と同時に建国以前と建国後しばらくの間の情報を消去するように命じたのです。一応、王国の最深部に少しは保管されているのですが、私たち王族でも入れなくって…なので、この時代のことは何も分からないのです」


「なんでそんなことを…?」


「さぁ…色々な説がありますが、建国の際、何か国にとって都合の悪い事が生じて、そのことを隠蔽するために消去させた、という説が一番有力で、で色んな歴史家の皆様が研究なさってますよ

 だからエル様やクラウディオスの話は、ほぼ伝説みたいな感じで大雑把にしか伝わってないんですよ~!合成音声だけの実況動画は残っているんですけどね」


「え、なにそれ、一番残してほしくないんだけど!!」


 自分の動画が遠い未来の人にまで見られているとは露知らず、自分の動画を未来の人々が視聴している姿を想像をすると、恥ずかしさでむず痒くてたまらず、今すぐのたうちまわりたくなる。


「そんなわけで、この時代は空白時代とか第二暗黒時代とか呼ばれていて、なんにも分からないんですよ

 まぁ、エル様が未来を変えてくれるので、どうでもいいですけどね!!」


「いや、でもさ、さっきから聞く限り、別にすげぇ平和で良い未来じゃねえか…?確かにお世継ぎ論争もあるけど、可愛いもんだろ」


「あー…確かに今の話を聞けばそう思うかも知れませんね…この子もメネラウシア王国が大好きですし」


 イブがチラリとモミの方を見ると、少し拗ねたようにプイッと顔をそむけ、イブが困ったような笑みを浮かべる。


「今話した内容も事実です。でも、地球全土に渡る領土を完全に統括することは不可能で、前に話した通り、国同士の争いやメネラウシア王国自体への反乱も絶えず起こっており、長年かけて生じた綻びが未来で今起きているんです。世継ぎ争いももっと血生臭いものですし…

 もう未来ではどうすることも出来ず、これを払拭するには根本のメネラウシア王国の始まり、この時代を変え、エル様の理想を実現することで解決するしかない、というのが私の考えです」


「なるほどな…」


 帝里は言葉が見つからず、ただ頷く。幼い頃に反乱の火種として隣国まで亡命したイブからしたら、そういった王国の一面の方をよく見ているのだろう。


「じゃあ、どうなるか分からない未来を変えないといけないんだな」


「そういうことです!まぁ、この先どうなるか全く分からない中で、我武者羅に切り開いていくことで、歴史は作られていくものなんです!!」


「あ、良い感じにまとめやがった」


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