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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
4章 異世界に行ったら主人公…?
36/58

帰っていたトラブルメーカー

 京介に呼び出されて、銀髪の少女にかけられている魔法を解いた次の日、再び京介から連絡があり、なんと少女がもう目を覚ましたらしい。

 これには一週間は目を覚めないと断言をしていた帝里もただ驚くばかりで、とりあえず、また少女の状態を見に、千恵羽邸に行くことになった。


「あっれー?おっかしいな…絶対一日じゃ治らないだろ???」


 未だに信じられない帝里はずっと首を傾げながら、今度は陸路を歩いて向かう。


「でもその子が元気になって良かったね。あとはちゃんとお家に帰れるといいけど…」


 一方、まだその少女に会ったことがない情音は少し楽しそうに軽い足取りで歩いていく。


 昨日、玲奈が実況サークルのグループ内チャットでその少女のことを話し、そこでお見舞いがてら、実況サークルの今後の方針を決めるために、一度、千恵羽邸に集まることになった。そして、次の日の今日にもう目を覚まし、せっかくなので今日集まることになり、情音も一緒に行くことになったのである。


「でも、剛堂さん本当に実況サークルを続けてくれるの?源蔵に勝手に入れられただけだから、別に嫌なら無理しなくていいんだよ…?」


「ううん、確かに撮られるのはちょっと怖いけど…羅瑠さんも双ちゃんもテリーくんもいるし、私も頑張るよ!」


 真剣な表情で前を真っ直ぐ見ながら応える情音に帝里は内心、ホッと安堵する。確かに辞めても人数的には問題ないかも知れないが、やはり剛堂さんがいなくなったら寂しいに決まっている。


「フフ、でもテリーくんがあんな動画を作ってたなんて、なんか意外で面白かったよ」


「やめて…あまりそのことには触れないで…」


 いたずらっぽく笑う情音に、思わず帝里は両手で顔を隠す。登録者数も順調に伸び、ちょっとは実況者だと名乗れる自信を持てるようなったが、まだリアルでは照れくさく、慣れないのだ。



「さて、到着っと。ここが玲奈や京介の家だよ」


「うわぁ、とても大きい……噴水や花壇があっておしゃれだね!」


 情音の家も相当大きいはずであるが、和風と洋風で受ける印象が違うのか、素直に驚いたようで、感嘆の声を漏らす。


 情音の住んでいる家は以前、情音の祖父母が住んでいたもので、祖父母が引っ越して空き家になったところを、大学に近いという理由から情音が移り、一人暮らしが始まったらしい。

 そのためか、竹林や飛び石などある庭、畳や縁側のある家など、和風な造りとなっている。情音の家は二階建ての横に広い構造となっているので、もしかしたら何階層もある縦に大きい千恵羽邸に迫力を感じたのかも知れない。


「羅瑠先輩と双ちゃんはそろそろ着くって言ってるし、まだ京介も出てきてないから、少しここで待とうか」


 玄関まできた情音と帝里はそう決断すると帝里はスマホを見ながら、玄関の脇にある茂みの塀に情音と向かい合う形で腰掛ける。

 その次の瞬間、背後の茂みがガサリと鳴ったかと思うと、急に人影が飛び出し、帝里目がけて襲いかかる。

 何かが帝里に投げ出され、とっさにそれを掴むが、すでに影からは棒状の物が伸び、帝里に振り下ろされており、帝里は慌ててクリスタルを召喚してそれを受け止める。


「ッ!!だからその結晶みたいなので受け止めるのはずるいってば!!」


「やっぱ双ちゃんか!急になにするんだ、よ!!」


 力を入れて受け止めてきたクリスタルを押し切ろうとする双治郎の竹刀を帝里はクリスタルを使って双治郎ごとはじき飛ばす。


「ん~、不意打ちでもダメだったか~!でもこれはこれで良い画がとれた!!」


 同じように向こう側の情音が座っている後ろの茂みがガサガサと揺れると、楽しそうにカメラを覗き込んだ羅瑠の姿が現れる。


「やっぱ羅瑠先輩の仕業ですか…言っときますけど、魔法使っちゃったんで、その録画は使わないでくださいね」


「分かってるって~!でもこの前の双治郎と入多奈の勝負がなかなか人気だったから、停止期間が空けた一発目は二人の動画にしたいんだよな」


 今撮れた動画を見返しながら、羅瑠が呟くのを帝里はため息をつきながら、双治郎に飛んできた物を返す。飛んできたのは帝里用の竹刀だったらしく、こういうところは無駄に律儀である。


 実況サークルの第一回、投稿動画兼企画はなんとか無事成功し、登録者を獲得でき、やっとサークルが開始した実感を得られ、羅瑠や他のメンバーもやる気が出てきた。

 しかし、公共の場を勝手に追いかけっこに使い、そのせいで交通状況に異常が発生した問題がもちろん見逃されるはずもなく、日本MOWA動画管理委員会から帝里達の宝大実況サークルの活動停止一ヶ月が申し渡されたのだ。


 帝里からしたらそれだけの処分で済んだだけでもありがたいだと思っているのだが、やる気満々だった羅瑠はすぐに活動できないのが不満らしく、次の動画製作にかけ、とても張り切っているのである。


「でも、いきなり現れた、今年の聖剣戦日本代表候補の双治郎と張り合うエルクウェルという謎の存在に皆驚いてたからなー!!もういっそ異世界系実況者なんて目指したらどうだ?」


「なんすかその微妙な実況者は…まず羅瑠先輩たちみたいに簡単に受け入れてくれるとは限らないですよ。悪用する人も出てくるだろうし」


「まぁ絶対そうだろうな。力あるものが上に立とうとする、それはどこでも変わらないことだ」


 珍しくやけに真面目な顔で頷く羅瑠に、帝里は思わず黙って首を振る。やはり武器商人の娘という立場から同感する部分があるのだろうか。


「なんか外が騒がしいと思ったら…もう帝里さん達来ていたんですか。別に勝手に入ってくれたらよかったのに」


「いや、羅瑠先輩と双ちゃんを待ってたんだよ。さ、双ちゃんも入ろうよ!」


「むぅ~、じゃあ後でまた勝負してね!というか、ちゃんと練習来てよ!!僕の部長としてのメンツも丸つぶれだよ!!」


 双治郎が少し不満そうに頬を膨らませながら、竹刀をしまう。

 実は前にあまりにもせがむので、実況サークルの企画が終わって、誰もいないところで双治郎と魔法ありの真剣勝負をしたのだが、そのとき双治郎をコテンパンに叩きのめしてしまい、それが負けず嫌いの双治郎に火を点けてしまったようである。


「いやっ、ほら、俺も剛堂さんのこと見ないといけないからな?また気が向いたら行くよ」


 もともとクラブ活動とか決まったときにあるものが高校のときから苦手な帝里は双治郎の非難から逃げるように、中に入ろうと玄関の扉に手をかけたときであった。


「ェェェェェェエエエル様ぁぁ!!!!!!!」


 帝里の左側から何かが飛来し帝里にぶつかると、そのまま帝里を連れて右側に突き抜けていき、ぐんぐん空に飛び上がる。


「うお!?うおぁぁぁ!?イ、イブ!!!??」


「はい!!ただ今戻ってきました!!!!」


 千恵羽邸の屋根が下に見えるほど、かなり高いところへ急に連れて来られて顔が青ざめる帝里とは逆に、イブは心から嬉しそうに満面の笑顔を見せる。


「お、落ちる!!」


「え?魔力が残っているから大丈夫ですよね?」


「あ、そういえばそうだった。でも急にこんなとこ連れてくるなよ!!びっくりするわ!」


「いやぁ感動の再会を誰にも邪魔されないようにと思いまして~」


 帰って来たばかりにもかかわらず、元気いっぱいに飛び回るイブの様子に帝里は下に降りながら呆れ笑いを浮かべる。


「よっと!さぁ追っ手が来ないうちにさっさと魔法かけるぞ」


「あ、そうでしたね」


 すぐにイブも地面に降りてきて、帝里はいつも通り“ルコナンス”を次はイブの大きさを縮めるためにかける。

 イブがどんどん小さくなっていく様子を、イブが小さくなっていたことは知っていたものの、魔法をかけるところを見たことのない、双治郎、情音、羅瑠は驚きながらもジッと見つめている。もちろん知っている京介も興味津々だが。


「よしっ!じゃあ後は自分でかけろよ」


「はい♪」


 仕上げにイブが“認識順応”をかけ、‘世界の警告’が消えてイブの存在がまた目立たないものに変わる。

久しぶりの小さい体にイブがクルクルと回って感触を確かめていると、ふと情音と目が会い、イブの眉が曇る。


「あー!またエル様を誘惑しようとしてたんですか!私が帰ってきたからにはそうはいきませんよ!!」


「え…あ…ぇ……」


「おい剛堂さんが怖がっているじゃないか!!あれは源蔵のせいで…それに操られていたときの記憶はないんだからな!!」


「え???」


 イブがびっくりしたようで、すっかり萎縮してしまっている情音をキョトンとした顔で見る。そういえば、情音が目を覚ましたのは、もうイブがいなくなった後で、お互いが顔を合わすのは初なのである。


「えっと…それは失礼しました…

 はじめまして、私は未来からやってきたメネラウシア=ティア=衣舞です!イブとお呼びください」


「あ、どうも、剛堂情音です…よ、よろしくね」


 本当の情音に気づいたイブは、物わかりが良く、すぐに腰が低くなり、丁寧にお辞儀すると情音も慌てて頭を下げる。そして、情音が顔をあげると、イブが穏やかな笑みを自分に向けており、ようやく情音も警戒を解く。


「まったく、玄関でうるさいわね、あんたたち…さっさと入ってきなさいよ」


 ガチャリと玄関が開いて、呆れたような顔で玲奈が姿を表す。


「あら、イブ帰って来てたの?次は一体どんなトラブルを持って帰ってきたのよ」


「人をトラブルメーカーみたいに言うな!!」


「だって、これまでに起こった事って大体あんたが原因じゃない」


「うぐぐ…でも今回はわざわざここの地球の裏側に到着して飛んできましたから、大丈夫なはず…!

それにしても、情音様と違って、あなたの方は全く変わってないですねぇ…」


「そりゃ変わるわけないでしょうが…それより、あの女の子が目を覚まして、なんか帝里を呼んでるわよ」


「え!?わ、分かった、すぐ行く」


 何用かと疑問に思いながら、帝里は急いで銀髪の少女がいる京介の部屋に向かう。まだあの少女へ魔法“ルコナンス”をかけたままで、今帝里の魔力はほとんど空っぽで、はやく解除したかったのだった。


「あ、その前にイブ!剛堂さんの体がおかしいんだ。どうにかならないか」


「むむ、確かに魔力のバランスが変ですね…こういう繊細な治療とか私、苦手なんですが……とりあえず、調べてみます」


「なら帝里さんの部屋を使ってください。もとのままにしてありますから」


「もとのまま…?」


 京介の言葉にイブが首をひねるが、説明はあとにすることにし、羅瑠と双治郎は情音に付き添いつつ、帝里の部屋で待つことになり、帝里と京介と玲奈の三人で、京介の部屋へ急ぐ。


「それにしても、なんでこんなに早く目覚めたんだ」


「さ、さぁ…子供だから治るのも早いんじゃない?」


 玲奈が適当に推測するが、結局誰もあまり要領を得られないまま京介の部屋に着く。

 すぐに扉を開けて入ると、もう起き上がって窓の外を眺めていた少女が音に気づき、こちらを振り向く。

 そして帝里と目が会った瞬間、急にあんな可愛らしかった寝顔からは考えられないような険しい顔つきで帝里を睨んできて、思わず帝里も怯んでしまう。


「…おい、なんでこんなに不機嫌なんだよっ!?」


「知らないですよ!起きたときからずっとああなんですから」


 思っていた出迎えとあまりに違い、たまらず京介に囁くが、京介も弱々しく首を振る。


「あなたが私にかかった魔法を解いたのですか…?」


「え、はい!」


「は…?我が国の力を持ってしても解けなかったのに、なぜあなたのような魔力がほぼない者に解けるのです…!?」


「いや、それにはちょっと事情があるんだけど…とりあえず解いたのは俺だよ」


 訝しげに帝里を見つめる少女に帝里はゆっくり一歩一歩近づいていき、体の状態を見る。

 驚くことに、呪いで蝕まれた無マナはほぼ癒やされており、帝里は戸惑いつつも、もう大丈夫と判断し、少女にかけた方の魔法を解除する。


「なるほど、少しは魔力があるようですが、まぁ大体想像がつきました…それで私をどうしようというのです?」


「……え?」


「私が第二王女だと知ってのことでしょう?複雑な魔法を使う辺り、あなた達、隣国の者ですね。私なんか治して、それで我が国に恩を売るつもりか、それとも私を人質にするつもりか知りませんが…総聖国のいいなりになんかなりませんからね!!」


「…へぇ…」


「へぇとはなんです!!私はこんなことしてる場合ではなく、はやく過去に戻って…-ッ!!」


 凄い剣幕で捲し立てていた少女がはたと口を閉ざすと、なにやら考え、気づき出したようで、みるみる顔が青ざめていく。


「あの……すいませんが…今はいつでしょうか…?出来れば年の方を教えてほしいのですが…」


「そこのカレンダーをどうぞ」


 大体この少女が何をやらかしたか想像がついた帝里は思わず笑ってしまいながら、壁に掛けられたカレンダーを指差す。

 少女、いや未来の王女はカレンダーを恐る恐る眺めると予想が的中したのか、一瞬体が固まり、とても申し訳なさそうに帝里の方を振り向く。


「あの…今のは子供の妄言として聞き逃してくれたりは…」


「出来ませんねー」


「ですよねぇ…ハァ、やってしまった…」


 少女が弱々しく手で顔を押さえながら落ち込む。

 どうやら時空を飛んだときからすでに重症だったようで、過去に来たことを忘れていたらしい。そのせいで、この王女様はここが隣国と勘違いし、帝里を敵と思い込んで、あんな態度を取っていたのだ。


「本当に申し訳ございませんでしたッ!!善意で助けていただいたのに、仇で返すような態度を取ってしまい…」


「いいよ、別に。面白かったし」


「うぅ…でも過去に治せる方法があるなんて…さすが空白時代、失われた古い文明というものなのでしょうか」


「なんか馬鹿にしてない?」


「滅相もない!!!」


 少女が必死に手を振って否定する。すっかり少女らしさが戻っており、先程のは王女としての体裁を必死に保とうとしていたようで、同じようなレイルの姿を見てきた帝里は痛いほど気持ちが分かり、むしろ好感を持ってしまう。


「そして、後ろのお二人も看護してくださり、本当にありがとうございました!!」


「いえいえ。にしても、未来の王女様とはね~」


 玲奈が応えながら、玲奈も王女というものに興味があるらしく、少女の姿をジロジロと珍しそうに見る。


「で、その王女様が過去に何の用?覚えてる?」


「あ、はい、その…姉を探しにきました」


「王女様の姉を…」


「王女様はやめてくださいっ!私はメネラウシア王国第二王女メネラウシア=ティア=(もみ)という者です。モミとお呼びください」


「えっ…」


 名前を聞いて帝里と玲奈と京介全員がギョッと動きを止めてしまい、その様子にモミが不思議そうに首を傾げる。

 三人の頭の中には同時に同じ人物が思い浮かんでおり、京介と帝里に至っては、先程そっくりな自己紹介を聞いたところで、ほぼ確信を得ている。


「あの、さ…その姉の名前ってもしかしてイ-」


「エル様!!聞いて下さい!!」


 それでも、あまりに信じられない帝里が確認しようと恐る恐る口を開いた瞬間、バンッと勢いよく扉が開かれて、イブが少し着崩れている情音を引っ張って入ってくる。


「この子着痩せするタイプみたいで実際は私より胸がでかいんですよ!?しかも魔力がこの胸に偏っているんです!!」


「ちょっとイブちゃん!?」



「…え……イブ…ねえさま…?」


 情音と騒がしく入ってきたイブの姿を見て、モミが呆然としながら呟く。


「は!?モミ!?どうしてあなたがここに居るのです!!?」


「それはこっちの台詞ですよ!!なんでそんなに小さくなっているのです!?」


「これはエル様にしてもらっただけで…」


 イブが帝里の方を見ながら呟くと、モミがキッとさっきのように帝里を睨み付ける。


「イブ姉様に何をした!!?」


「いや、あれは同意の上というか…」


「私を助けてくれた恩人と思ってたのにッ…!このッ…姉様を返せッ!!」


 見かけ上、酷い目に遭ったように見えるイブの姿にモミは逆上し、頭に当てるタオルを冷やすために近くに置いてあった洗面器を掴むと魔力を込め、帝里に投げつける。

 しかし、病み上がりで目が覚めて間もないモミは投げつける瞬間、力が上手く入らず、方向が少しずれて帝里の横を通過する。帝里からそれた洗面器はイブの方に飛んでいき、イブは急に物が飛んできて、慌てて下をくぐって避ける。


「え?…あ…うぎゃ!!?」


 そして、その背後にいた情音は反応できず、狼狽えているうちに洗面器が見事、顔面にヒットし、目を回しながらその場に倒れ、気絶。

 あまりの想定外の結末に投げたモミ本人を含む一同が唖然としながら情音を見つめる。

 だが、そもそも情音が避けられるはずもなく、絶対に避けてはいけなかった、イブのもとに皆の視線が次々と注がれる。


「…えっと…確 定 演 出☆」


「ふざけるなぁぁ!!大丈夫、剛堂さん!!??」


 誤魔化すようにイブがテヘッと舌を出すなか、やっと正気を取り戻した帝里達は慌てて情音の介抱を始めるのであった。


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