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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
4章 異世界に行ったら主人公…?
35/58

未来からの訪問者2

さぁ今回から4章開幕です!!

張り切っていきましょー!



--…カポーン――


 鹿威しの音が心地よく響き渡り、5月の爽やかな風に撫でられた竹林のさざめく優しい音が包み込む。

千恵羽家にはないようなそんな和風な庭が見える和室の一室で、畳の上の座布団に座っている帝里は穏やかな心持ちで、シャーペンを走らせる。

 のも束の間、結局いつものように落ち着きがなさそうにソワソワしながら、ぼんやり外の景色を眺めているとと、対面に座っていた少女がそんな帝里に気づき、顔を上げる。


「テリーくんどうしたの?」


「いやぁ、勉強飽きちゃって…」


「もう…いくら過去問があるっていっても、ちゃんとしないと良い点取れないんだからね?」


「それに関してはほんとに感謝です!いやー、双ちゃんや剛堂さんから過去問をもらえるのはほんと強いわー」


「フフ、私たちが貰った過去問もあるから欲しかったら言ってね」


 顔の前で手を合わせ、拝むように頭を下げる帝里に、情音がクスリと笑う。

 しかし、ここから話が続かず、再び二人は黙り込んでしまい、帝里は手持ち無沙汰になってまた問題を解き始める。


 そう、帝里が今いるのは情音の家であり、その一室でテーブルを広げ、情音と二人きりで中間テストの勉強していたのである。

 もちろん、わざわざ過去問を見せてもらうためにここに居るわけではない。あるちょっとした事情で、なんと剛堂邸に帝里は一時的に住まわせてもらっているのだ。


 なんとなく相手を意識しつつも、話かけづらくて黙る二人とは対照的に、仲良く会話するように響き合うシャーペンでものを書く音が、二人を急かすようで、ますます気まずくなる。


「……わ、私、お茶を沸かしてくるね!」


「え、ちょっと待って!」


 その場の空気に耐えきれなくなったのか、逃げるように情音が立ち上がるのを帝里が慌てて止めるが、すでに遅い。


「きゃっ!?」


 急に情音が足を滑らせて体勢が崩れ落ちる中、すかさず帝里はテーブルを一気に飛び越えて、情音を受け止める。

 しかし、本番はここからなのだ。


「うわわわわわ!!!?」


 派手に転びそうになった情音がパニックになった瞬間、情音の右手から炎が吹き出す。

 それを見た情音がさらに混乱し、その分、炎が大きくなり天井まで達し、少し焦がす。


「ご、剛堂さん落ち着いて!!?ミ、“ミスルズ”!!」


 帝里が慌てて水属性の魔法を唱えると、帝里から水が放たれ、情音の右手から吹き出す炎を包むと消火していく。

 帝里の呼びかけとその様子に、情音がようやく落ち着きを取り戻していくと、手から出る炎も徐々に小さくなっていき、すぐに炎は出なくなった。


「…ふぅ、ようやく止まった…」


「うぅ…テリーくんごめんね…」


「いやいや!!剛堂さんは何も悪くないって!!!悪いのは源蔵って奴なんだから気にしないで」


 しおらしくうなだれて謝る情音に帝里は慌てて優しく慰める。

 帝里が情音の家に居る理由、それは情音の魔法の暴発を防ぐためなのである。


 前の源蔵との戦闘で、源蔵は情音を操り、強引に魔法を使用させた。そのとき帝里が言ったように、魔法に慣れない情音への負担は大きく、その反動が今、情音に起きているのだ。

 命に別状はなかったが、どうやら情音の体の魔力のバランスが崩れており、自身では制御できないようである。そのため、さっきのように情音の感情が高ぶると、本人の意志にかかわらず、魔法が発動してしまう。

 発動する魔法の属性はランダムのようだが、魔法は想像力が重要となってくるためか、情音の思考に近い属性が発動しやすい。先ほどならば、お茶を沸かすために火を連想していたといったところだろうか。


 なお、情音が何もないところで転びそうになったのは、情音がドジっ子天然キャラというわけではなく、体の魔力バランスが崩れたことで、身体的なバランスも支障をきたしているためである。


「お茶なら俺が持ってくるから、剛堂さんは安静にしてて!」


 帝里は情音をゆっくり座らせて、飲み物を取りに部屋を出ると、フゥとため息をつく。

 あのようなことが、かれこれ一週間ほど続いており、その度に情音を抱き止めるなど、ある意味ラッキーな経験が出来ているわけなのだが、帝里はもうそれをいちいち感じられないほど疲れてきている。

 もちろん剛堂さんも悪気は全くないので、仕方がないのではあるのだが、どうすればいいか帝里には全く分からず、出来るのは帝里が傍で守るくらいで、‘今は’完全にお手上げ状態なのだ。


 というのも、イブがまだ未来から帰ってきていないのである。


 未来の技術を持ってすれば、情音の状態も治せるかもしれないのだが、一週間前、ゴールデンウィーク最終日の実況サークルの活動が始まったあの日に、イブが源蔵を連れて帰って以来、あれから全く帰ってくる気配がない。

 イブの性格からして一瞬で飛んで帰って来そうなものだが、未来で何か問題があったのか、連絡すら全くない状態が一週間続いているのである。


「てか映画とかでもあるけど、いくら未来で時間がかかっても、こっちの未来に帰った瞬間に戻れば、すぐに戻ってこれるんじゃ…」


 帝里がふと気づいて呟いてみるが、イブの使うタイムトラベメルがどういう原理で動いているか全く知らないので、どうすることも出来ず、ただ今はイブの帰還待ちとなっている。


 そうこう悩みながら帝里がお茶を盆に乗せて戻ると、置きっぱなしにしていた帝里のスマホに着信があったようで、情音が帝里のスマホを差し出す。

 すぐに情音からスマホを受け取り、画面を見ると、相手は京介である。


「もしもし?おー、珍しい、京介か!どした?お前も過去問が欲しいのか??」


“え?あ、確かに欲しいですが…じゃなくて!ちょっと説明しづらいことがあって、家に戻って来てほしいんですが、いいですか?”


「んー…?別にいいけど…」


 京介の呼び出しに思わず帝里は眉をひそめる。京介も情音の異常は知っているはずだが、それでも帝里に頼みたいということであり、少し帝里は興味を覚える。


「じゃあ、さっそく今から向かうわ」


“あ、はい、待ってます”


 帝里は電話を切ると持ってきたお茶を注ぎながら、情音に京介の要件を伝える。


「一体、何の用だろ?イブが帰って来たわけでもなさそうだったし」


「イブさんってテリーくんの言っていた未来から来たって子?一週間も経つのに…少し心配だね…」


「あ、いや、あいつはすげぇ強いらしいから大丈夫だと思うけど…」


「テリーくん、大丈夫…?」


「え、なんで俺!?てか、イブのいないこの一週間、とても平和だったからむしろ居ない方が…」


 あとイブが帰って来て情音の状態を治してしまうと、もう剛堂さんと一緒に住む口実がなくなるぐらいだろうか。さすがに情音も困っているので、不謹慎だが。


「と、とりあえず、俺は京介の家に帰らないといけないんだけど、剛堂さんはどうする?」


「うーん…向こうでまた魔法…?が出ちゃったら困るから、ここで安静に勉強してようかな。大人しくしていれば、炎とか出ないんだよね?」


「うん、多分ね。それなら、俺は軽くひとっ飛びして行ってきますか!なんかあったら連絡してね!!」


 帝里はそう伝えると、部屋を出てすぐの軒下から行く準備を整える。今はイブを小さくする魔法“ルコナンス”も使っていないので、帝里の魔力も満タンで、空を飛んで行った方が早い。


「じゃあ、行ってくるね!!“ブレーヴ・オクスタル・サーラ”!!」


 庭に出た帝里は情音に挨拶すると、軽く足を踏み込む。それと同時に帝里の足下に緑色に透き通るクリスタルが出現すると、力強い風を巻き起こし、地面を蹴り、飛び上がった帝里を上空へ運ぶ。


「きゃ!?」


 強風に吹きつけられ思わず情音が顔を腕で防ぎながら、すぐに顔をあげるが、帝里はすでに遙か上空に移動しており、改めて魔法というものの凄さに驚かされる。


「もうあんなところに…やっぱりテリーくんはすごい…!でも、なんか…ちょっと変わっちゃった…かな?」


 雲一つない晴天を飛んでいく帝里の姿を、目の上に右手で影を作りながら見送る情音は、帝里の成長に喜びつつも、その目にはどこか寂しそうな光がチラリと一瞬輝いた。


========================================


 情音の家を出た帝里は何の問題もなく京介の家に着き、家の玄関の前に降り立つ。

 もうすでに京介が玄関で待っており、すぐに中に入れてもらい、京介に先導されるまま、帝里は後をついていく。

 どうやら玲奈はいつものように自分の部屋に引きこもっているようなので、挨拶は後にして、真っ直ぐ目的の京介の部屋に向かう。

 そして、京介の部屋の前に二人が立つと、京介が自室にも関わらず、一つ深呼吸をして、扉を開ける。促されるままに帝里は京介と一緒に部屋に入るが、整理整頓された一見何もない部屋で一瞬、帝里も頭をひねるが、すぐに京介の言っていた問題が何か把握する。


「京介…とうとう幼女を誘拐してきてしまったのか…!」


「ち が い ま す!!!はぁぁ、絶対に言うと思った…」


 軽く引き気味な帝里に京介が呆れたように頭を抑える。

 案内された京介の部屋のベッドには見慣れない少女が少し苦しそうに眠っていた。顔立ちは凜々しくも幼さを残した可愛らしい顔であり、透き通るように綺麗な銀髪というなかなか見られない髪色のせいで、まるで妖精のようにさえ感じられる。


「いや、でもこれは完全にアウトでは…」


「事情は後でちゃんと話しますから!!どうにかしてあげてください!!」


「…えぇ……まぁでも俺を呼んだのは正解だったな」


 京介を非難する目で見ていた帝里もすぐに真剣な面持ちになり、横たわる少女の横に立つと8色のクリスタルを召喚する。


「…やはり魔法ですか?」


「あぁ…しかもこれは魔属性の呪いだ、かなり厄介だぜ」


 苦しそうな吐息を漏らす少女を見て、帝里が呟く。そして、フゥーと帝里は気合いを入れるように息を吐くと、8つのクリスタルを全て白色、光属性に変え、変身時、いつも腰に下げている剣を召喚してサッと抜く。


「ちょっ、ちょっと!!?まさか斬るつもりですか!!?」


「いや、確かに魔法自体を斬ることもあるけど…実はこの剣は俺と相性が良くて、これを使うと演奏の指揮棒みたいな感じ?でだいぶ細かい魔法制御が出来るんだよ

 もともと、この剣はプトレミーシアに代々伝わる国宝だったんだけど、それが合うって、やっぱり俺が勇者になるのは運命だったのかねぇ」


「はいはい、そういう話はいいですから!!」


「ちぇ、人使いが荒いな」


 話を遮られて不満そうに口を尖らせながら帝里が剣をかざすと、剣先の周りにクリスタルが集まっていく。


「無駄話はここら辺にしといて、さーて!いっちょやりますか!!」


 帝里が気合い十分に不敵に笑うと、それに応えるようにクリスタルが一層綺麗に輝き始めた。




 そして、京介が連れてきた少女の呪いを解き始めてから約一時間後、部屋を包み込んでいた眩い光が徐々に収まっていき、その中心にいた帝里は額の汗を拭きながら、構えていた剣を鞘に戻す。


「ふー、終わった…って、お前ずっと見ていたのか」


「あ、えぇ…少し心配だったので…」


 とは言ったものの、魔法の知識が全くない京介の目からは、クリスタルが時々、色が変わったり、お互いを不思議なラインで繋いだりしながら、帝里と少女の周りをせわしなくまわり、帝里は剣を構えたまま真剣な顔で見つめていたかと思うと、たまに何かを斬るように剣を振っていたようにしか映っておらず、見ていても結局京介は何も分からなかったのだが。


「で、かなり時間がかかっていましたが…その、成功…したんです?」


「あぁ!どうやら複数人でかけた呪いっぽくて、超ややこしいことになってたから時間がかかってしまったけど、呪いはばっちし解除したぜ!!

 正味、魔力強化出来る俺とかぐらいの魔力の強さがないと解けないレベルだったから、その難さからこれまで解いてもらえなかったんだろうな…もう少し遅かったら、やばかったぜ」


「もう、さらっと自分は凄いって自分語りを入れてくる…

 あの…一体どんな魔法だったんですか?魔法と呪いって違うんですか???」


「いや、呪いは魔法と同じで、主に闇属性とかの、相手に状態的な異常をかける魔法のこと言うんだ。今回なら、体の中にある魔力のもと、無マナってのが蝕まれていって、徐々に弱っていく感じかな。無マナは生命エネルギーみたいなもんだからなー

 だから、実はまだ治療は終わってなかったりするんだ、よ!」


 休憩を取り終えた帝里が再び剣を抜くと、全てのクリスタルが無属性の黒色に輝く。


「…ブラギドナ オシクス マアラン―……―アナ “ルコナンス”!!!

 よしこれで終わりだ!!」


 クリスタルに囲まれた少女の姿が一瞬光り輝くと、クリスタルは消えていき、またさっきと変わらない元の状態に戻る。


「今の、って…いつもイブさんにかけているものですよね?でも小さくならないんですか…?」


「おぉ、よく分かったな!そもそも“ルコナンス”の正しい使い方はこうなんだよ」


 京介の問いに帝里は少し驚いた顔をすると、“ルコナンス”についての情報を付け足す。


 元々、空気中にある無マナと体内にある無マナは呼吸をするように、常に少しずつ入れ替わっており、“ルコナンス”はその無マナの出し入れを調節する魔法、ある種自己回復力を上げるような治療魔法である。

 それを帝里は応用し、放出する無マナの量を強引に増やすことによって、生物の体を縮めているのである。また、非生物の場合は外との無マナの入れ替わりがないだけなので、同じように放出するだけで縮めることが出来る。


「へぇ、じゃあ今は完治しているわけではないんですね」


「さすがに体の蝕まれたところを治せるほど、光属性を極めてねえよ。呪いを解除出来ただけでも上出来だっつーの!」


「ふーん…じゃあすぐには目を覚まさないんですね」


「お、京介、今ちょっといやらしいことを――」


「考えてないですから!!!別に家に連れてきたとかじゃなくて、すでにもう家の庭に倒れ込んでいたんです!!」


「またまたー、そんな上手く出来た話がー!」


「本当ですって!!というか、もう帝里さんも大体この子がどこから来たか、分かってるでしょ!?」


「まぁ…多分未来からだろうな」


 からかいすぎて拗ねる京介を宥めながら、始めよりかなり顔色が良くなった少女の姿をチラリと見る。

 魔法にかかっていたり、今どき髪色は自由に決められるとはいえ、それでも再現不可能なくらい綺麗な銀髪を有していたり、わざわざイブが最後にいた家の近くで倒れていたりするあたり、ほぼイブの関係者、未来からの訪問者で間違いないだろう。


「未来から来た奴ってあまり良い印象ないんだよな…さすがにこんな幼い子は大丈夫だと思うけど」


 そう帝里は呟きながら、少女の前髪を上げて顔を見る。眠る顔のあどけなさや身長から考えるに、大体今でいう中学生ぐらいの年頃だろう。


「イブさんもそうなんですけど、なんで未来の人ってこんなに髪色がカラフルなんですかね?別に批判してるとか、そういうのじゃないですけど」


「あぁ、それはちゃんと理由があって、幼い頃から魔法を使っていると、身体的変化が現れて、髪色とか目の色とかが変わるらしい。異世界でもそうだったし、多分それも地毛だぞ」


「えぇ!?そうだったんですね…!」


「色は特に何の関係性もないらしいけどな。あ、それと俺みたいな成長期を過ぎて魔法を使い始めた人はもう変わらないらしい。だから俺は黒髪のままだ」


「はへぇ、魔法にも色々あるんですね…僕も医学勉強しようかな…」


「なして!!??急すぎだろ!?」


「いや…魔法のことが全然分からないなら、現代で分かってることだけでも知っておいた方が看病しやすいかなって…」


「もう心配しなくてもあとは寝とけば治るから!!それよりも、全身の蝕まれた無マナが全部出るまで、あと一週間はかかるから、それまでの世話なんだけど…」


「分かってますよ。相手は女の子ですからね、あとで姉上に話して、手伝ってもらいます」


「あぁ、それが一番だな。じゃあ剛堂さんのことも不安だし、そろそろ帰るわ」


「はいはい、どうぞ楽しんできてくださいね」


「ふふん、言ってくれるじゃねえか」


 すました顔で応える京介に、帝里はニヤリと口元が緩んでしまう。

 その後、京介に大まかな看病の仕方を教えてから、一人で部屋を出る。看病といっても、普通の病人に対してすることとあまり変わりがないので、京介と玲奈だけでも大丈夫だろう。


「さーて、とっとと帰りますか!剛堂さん何かやらかしてないといいけど…まったく、ドジっ子天然属性まで手に入れるなんてほんと最高かよ!!」


 真っ直ぐ玄関を出た帝里は再び空を飛んで帰ろうと、魔力を溜め始めた瞬間、またスマホに着信があり、中断して電話に出ると、次は玲奈からである。


「もしもし?お前も過去問が欲しいのか??」


“え?あ、確かに欲しいけど…じゃなくて!ねぇ聞いて、帝里!!大事件よ大事件!!なんとね…京介が幼女をさらってきたのよ!!?”


「…………」


“ねえ、どうしよう!!?確かに可愛い子なんだけど、通報するべきなの!?それともここは姉として――”


「……あー…そのくだりもうやったからカットだわ。じゃあ切るぞ」


“あ、ちょっと待っ――”


 このまま話を聞いていたると、すごく面倒なことになりそうだったので、まだ何か言いかけている玲奈を無視して、帝里は強引に電話を切る。


 相変わらずな玲奈に思わず帝里がハァ…とため息をついたとき、急に背後が騒がしくなり、嫌々後ろを振り返ると、たった二人、しかも病人が寝ているとは思えないほどの騒音が千恵羽邸から溢れ出てくる。


「……ハァ…剛堂さん、俺を本当に剛堂さんちの子にしてくれないかな……」


 あまりのうるささに嫌気が差し、つい帝里の口から愚痴が漏れる。

 といいながらも、少し前まではあの喧騒の中に、自分も身を置いていたのであり、これまでを反省しながら、無意識に振り返る。


 いつも騒音の中心にいる玲奈と帝里。それを宥めている京介。

 そして、いつも傍にいて、いつも楽しそうに笑っていた、あの無邪気な笑顔。


「……イブ早く帰ってこないかな」


 ボソリと出たその呟きは帝里自身も気づくことはなかった。


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