始まった大学生活
※前回のあらすじ
源蔵を倒したところからです(雑)
いつもあんなに時間かけて書いてるのに、前回のあらすじで数行にまとめられることに虚しさを覚える、今日この頃…
あ、久しぶりのイブの登場です!
遠くから微かに歓声が聞こえる中、帝里はゆっくりと刀を鞘に戻しながら、背後の源蔵の気配を窺う。
そして、源蔵がドサリと倒れた音を聞いて、ようやく帝里も警戒を解く。
「ふー、やっと終わった…しつこかったな…」
帝里が肩の力を抜きながら刀から手を離すと、グルンと勢いよく鞘が半回転し、本来の位置に戻る。
帝里が右手で刀を収めようと、もともと左側にあった鯉口、鞘の口の部分を腰に付けたまま強引にひねって右側に持ってきており、その反動で戻ったのだ。
「……ったく、ほんとそれダサいわよ」
コンテナの影から声が聞こえ、帝里が振り向くと玲奈がため息交じりに現われる。
「うるせぇ、こういう仕様なんだよ
それより双ちゃんになに無茶やらせているんだよ!?むっちゃ危険だったし、お前はガンガン魔法ぶっ放しているし」
「うっ…アクシデントは付きものよ!結果的にこいつを倒せたんだからいーじゃない!!」
玲奈が少し不機嫌そうな表情を浮かべながらこちらに近づいて来ようとした途端、急に血相を変えると後ろに飛び下がる。
「げっ!?源蔵生きているじゃない!!?」
「まぁな、もし剛堂さんの魔法が本当に解けてなかったとき、こいつが生きてなかったら不味いだろ?」
「確かにそうね…こいつに家とか散々な目に遭ったけど…別に私への被害は特にないし、許してあげますか」
玲奈が納得したように頷く。情音の魔法が解けたのは上空での出来事であり、知っているのは双治郎だけで、まだ二人は知らないのだ。
「あっ、イブにも伝えないと!
あーイブ?こっちは片付いたから、もうそっちも終わっていいぞ!お疲れ様」
“はい!ちょうど歌が終わったところですので、適当に挨拶を済ませて、そちらに合流しますね!!”
イブの方も上手くいったようで、通信機を通さずとも直接、盛大な歓声が帝里達のもとに聞こえてくる。
「ふー、なんかやっと終わった感じがするよ…俺もイブの歌、もうちょい聞きたかったな」
「なに呑気なこと言ってんの?あの大盛況のイブの次は私たちが何かしないといけないのよ」
「あぁー!!やべぇ、完全に忘れていた!!どうしよう!!?」
源蔵を倒してめでたしめでたし、と思っていた帝里はだいぶ前から悩んでいた問題をようやく思い出し、再び慌て始める。
「もう…私も何も思いつかないからどうしようもないけど、イブに負けるのはなんか嫌だから頑張るわよ!!」
「やる気だけは十分なのな…
とりあえず、羅瑠先輩と合流して打ち合わせをするのが先か。羅瑠先輩は?」
「あれ?後ろついてきてると思っていたけど、遅いわね。はぁ、一体どこほっつき歩いてんだか」
「貴様が好き勝手しまくった尻拭いを京介としていただけだが!!??」
急に羅瑠の怒声が聞こえ、帝里と玲奈が振り返ると、ずぶ濡れになった双治郎が羅瑠と京介に支えられながら、情音を抱きかかえている。
「ったく、いくら双治郎が頑丈だといっても当たり所悪かったら死んでたからな!!?」
「ふん、安全面は対策してたから大丈夫よ。でも、その…無茶させてごめんね。ああするしかなかったのよ…」
「ううん、結果的に僕も情音ちゃんも無事だったし気にしないで!でも…ちょっと寒いかな…」
少し落ち込んだ様子の玲奈に双治郎が一点の曇りもない笑顔で答えるが、ブルッと身を震わす。何度も言うが、今日はゴールデンウィーク最終日、まだ5月の上旬で、この時期の海がいかに冷たいかを帝里は身をもって知っており、慌てて双治郎に近寄る。
「待ってろ双ちゃん!すぐに温めてやるからな!!“ブレーヴ・オクスタル・アグート”!」
帝里のかけ声と共に8つの赤いクリスタルが出現し双治郎を取り囲むと、熱を発し始め、双治郎と情音の体を温めながら、徐々に服も乾かしていく。
「はい、完了!」
「うん、テリーありがとう!」
「うむ、これで情音の執事?も倒したし一件落-…」
羅瑠が満足そうに話していたかと思うと、急に驚いたように体を仰け反らせて、後退りする。
「おい、こいつ生きてないか!!?」
「またその話か…まず致命傷すら与えてねえよ」
「はぁ!?異世界で斬りまくっていたくせになぜ今更殺すのに戸惑ってる!?」
「て、適当に人聞き悪いこと言わないで!!?まず異世界でも出来るだけ殺生は避けていましたからね!?
だーかーら、もし剛堂さんの魔法が解けてなかったら…」
「あ!それならもう解けていたよ!!海に落ちた時の衝撃でまた気を失ってるけど…」
「まじか」
双治郎にあっさりと教えられて、帝里は思わず絶句する。こうなっては源蔵を生かしておく理由もなく、玲奈や羅瑠に見つめられて自ずと帝里の視線が彷徨う。
「まぁ…確かにこっちの世界ではなんか急に法律とか気になって、殺しにくいのもあるけどさ…
あぁもう!全部イブに任せる!!」
「あ、全部丸投げしやがった」
呆れる玲奈と羅瑠から顔を背けると、ふと自分がまだ戦闘用の装備を着ていることに気づいて、イブが視聴者を連れて来ないうちに急いで元の服装に戻る。
これも帝里が異世界にいたことを周りがあっさり受け入れているせいであり、嬉しい反面、もう少し貴重に扱って欲しい気分になる。
「エールーさーまー!!」
源蔵が目覚めたときのことを考えて、皆で源蔵を縄で縛っていると、イブが視聴者より一足先に帝里達のところに駆け寄ってくる。
「エル様、お疲れさまでした!!で、源蔵はどうなりました?」
「あぁ、それが一応生きてるけど…やっぱ殺さないとダメ?」
「いや、エル様の好きにすればいいと思いますが…なら未来に連れて帰らないといけないですね…」
イブが少し嫌そうに呟く。イブ自身も勝手に時空を移動している立場であり、未来に帰るのはあまり気が乗らないのだろう。
「そういや、源蔵の口ぶりからしてお前って未来では結構有名人じゃないのか?歌手とか、なんか国とも関わりがあるみたいだし。ずっとこっちにいるけど、大丈夫なのか??」
帝里がふと思い出したようにイブに尋ねる。思い返せば、イブは未来人という印象が強すぎて、イブ自身のことを全く知らず、急に未来でのイブのことが気になったのだ。
「あっ、いやっ、別に騙すとかそんなつもりなかったですよ!わざわざ言う必要もないかなって…
……はぁ、確かに面倒くさいことになってそうですが、一旦未来に帰った方が良いかもしれないですね…こいつのしたことを隣国に謝らないといけなさそうですし」
イブは決意を固めるように首を何度も縦に振ると、背筋を真っ直ぐのばして、帝里の前に立つ。
「私は未来に帰ることにします。でもすぐ!すぐに!帰ってくるので安心してくださいね!!あと…今回のことは私が原因ですし、帰ってきたらちゃんと私のことも話します」
「おう、たくさん聞かせてくれ。もう機密事項とか禁則事項とかなしだからな?」
イブはコクリと頷くと、帝里に一礼して源蔵のもとに近づき縛られている源蔵を掴むと、イブの横に、前に玲奈の家で見たものと同じ虹色の穴が出現する。
イブが再び帝里を見つめて頷くと、源蔵を引きずるようにして引っ張りながら、その虹色の穴に入っていく。そして、二人の姿が完全に穴に入ると同時に穴が萎んでいき、まるでそこには何もなかったように消えていった。
「す、すごい…これが未来か…
それより入多奈、なにが『もう機密事項とか禁則事項とかなしだからな?』だ。お前も私たちに隠していたんだからなぁ?」
「わ、わかってますよ!俺もちゃんと話しますから!てか羅瑠先輩は大体分かっているんじゃないですか?」
「一応来るまでに玲奈や京介から少し聞いてたからな。まぁでも、色々聞きたいこともあるし………今はそれも後にしないといけないようだがな」
話しながら羅瑠が向いた方向に帝里もつられるように目をやると、いつの間にか視聴者が帝里達のもとまでやって来ている。イブが歌っている間にも人が増えていったようで、さっき見たときより倍近くにまで視聴者が膨れ上がっている。
「お、実況サークルのメンバーがここにいたぞ!!」
「探したぁ…急にどこに行ったんだよー」
「うわぁ!あれ日本代表の大海双治郎じゃね!?本物だぁ」
「あれがエルクウェルかな?」
「さっき歌ってた人は??」
「情音って子、なんか抱えられているけど大丈夫か!?」
挨拶を済ませた後、イブはさっさと視聴者の目の前から消えたようで、帝里達を探していた視聴者が帝里達を取り囲んでいく。
「ん…」
「あ、剛堂さん…!…っ…」
急に騒がしくなったせいか、双治郎の腕の中から声が聞こえ、帝里が嬉しそうな声を漏らす。が、異世界に旅立ってから、実質これが初の再会であることをすぐに思い出すと、途端に緊張してしまい、上手く言葉が出てこない。
「あれ……私空を飛んで……ッ!!?」
「あっ!ごめん、情音ちゃんッ!」
目を覚ました情音がまた双治郎に抱きかかえられていることに気づいた瞬間、双治郎が慌てて情音を降ろす。
しかし、急には一人で立てないようで、結局、少し気まずそうに二人とも顔を赤らめながら、双治郎の手を借りて、情音が立ち上がる。
「…テリー、なに羨ましそうに見てるの。まず、すぐに僕と代わるって言うべきだったでしょ!!」
「いや、そういうつもりじゃないから!!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶ双治郎に帝里が慌てて手を前に突き出して首を振る。昔は女に全く興味を示さなかった双治郎がそんな反応をみせるとは思わず、2年の親友の変化に驚きながら、つい少し感心してしまったのである。
「あ、テリー…くん…?」
「あ。その…久しぶり…だね」
信じられないといった顔つきの情音に対して、帝里は少し照れくさそうに答える。
2年前の帝里とはきっと雰囲気すらも変わっており、異世界のことや情音に起きたことなど、何から話したら良いか分からず、帝里は混乱するが、やはり2年の時を経て、こうして対面できた喜びが一番大きい。
「感動の再会のところ悪いが、今はそれどころじゃないぞ」
「…分かってますよ」
人が再会を果たしていることなど、外野の視聴者には全く関係なく、すでに自分の場所を決めて、今から何が始まるのかと期待の目が帝里達に注がれている。
「え…なにこの人たち…」
「まー、あんたは知らないでしょうね。…んん?」
自分達を取り囲む視聴者の存在に戸惑う情音に玲奈が笑いかけたかと思うと、急に情音に近づいていく。
「あんたの服…私のとそっくりね」
「まぁ、両方入多奈が選んだもんな」
「羅瑠先輩少し黙って!!」
「ふーん、…あ、いいこと思いついた!ねぇ、あんた私と一緒に歌わない!?服も一緒だしユニットみたいでしょ!!」
「う、歌!?でも、急にそんな…」
「いーからいーから!もしかしたらイブが機材残しているかも知れないし!!どうせだからやるわよ!!」
まだ現状も何なら玲奈のことすらあまりよく分かっていないはずの情音に向かって、また新しいことを思いついた玲奈が目を輝かせながら詰め寄っていく。
「ねぇどうどう!?私、演奏も出来るし面白そうじゃない!?歌うのは出来るのね?」
「ちょっとなら…」
「なら決定ね!!あっちのイブの置いていった物を見て、何をするか決めましょ!!」
「おいおい、待て待て!まずは私が実況サークル会長として挨拶をだな…」
戸惑いながらも反応を見せる情音を玲奈が満足そうに連れて行こうとするのを慌てて羅瑠が止める。
そして、玲奈と羅瑠が言い争いながら移動し始め、それにつられるように視聴者もついていき、その光景を見て、帝里は思わずクスリと笑う。
「テリー?」
「あ、いやな、2年前なら考えられないような光景だと思って
あのときは普通の高校生活を送って普通に大学に行く、って思っていたけど、なんか異世界に飛ばされるわ、帰ってきたら死んだことになってるわ、でしかも浪人もしたし、全然思ってた通りに進まなくて…」
「………」
「でも、こうして双ちゃんや剛堂さんとも会うことも出来たし、浪人中も玲奈や京介、大学では羅瑠先輩にあって、そして、そんな人達と今は実況サークルなんか作って…
うん、あのとき思い描いた大学生活とは程遠いけど……これはこれで最高だな!!!」
「……うんっ!!!」
満面の笑みを見せる帝里に双治郎が嬉しそうに首を縦に振りながら帝里に負けないような笑顔で答える。
「ねぇ、テリー!!僕たちは模擬戦なんてどうかな!!」
「ほんと双ちゃんは戦うのが好きだなぁ…言っとくけど、今の俺はパワー全開だから手加減出来るか分からないぞ?」
「むむむ!言ってくれるじゃないか!!異世界に行ってたか知らないけど、テリーになんか負けないからね!!」
「おぉ…僕はもう裏方でいいですかね…?羅瑠さんと何かやるのも僕には無理そうですし」
「お、京介いたんだ」
「ずっと居ましたからね!!!?ちょっと異世界に居たからって主人公ぶって!!あー、もう今日は僕も何かやってやりますからね!!」
「いいねいいね!一生にテリーをやっつけようよ!」
残されていた帝里と双治郎と京介もワイワイ楽しそうに騒ぎながら、記念すべき実況サークル第一回企画の輪の中に入っていくのであった。
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「ふむふむ…『エルクウェルは活動開始から1年ほど経った5月頃、自身の友人と共に実況サークルという実況グループを創立し活動を開始する。』…ですか…」
時空移動装置、タイムトラベメルの室内で椅子に腰掛けたイブが眉を曇らせながら呟く。
「源蔵がちょっかいを出してきたことで未来が少しは変わると思ったのですが…全く変わってないようですね…」
イブはため息をつきながら、持っていた本を投げ捨て椅子の背もたれに倒れ込む。投げ出された本は空中をひらひらと舞いながらも、無情に地面に叩きつけられ、無残な姿で横たわっており、表紙には「伝記:エルクウェル」と赤い文字で大きく書かれている。
「まぁ、タイムスリップして歴史的有名人になったお話でも、結局歴史通りに歩むのがセオリーですし、そう簡単にいきませんか…
でも…絶対にエル様の未来を変えないと…そのために私は…」
上に向かって突き出した右手を広げて、ぼんやり眺めていたイブだったが、「よしっ!」と気合いを入れると、勢いよく椅子から立ち上がり、やる気十分な面持ちで前を真っ直ぐに見つめる。
「絶っっ対に未来なんて変えてやる!!待っていてくださいね、私の勇者様!!」
これで3章は終わりです…!ご視聴ありがとうございました!!
この章は一言で言ったら…まぁ長かったですね(投稿が)
何度もどこでも言いますが、これからは投稿ペースをあげていけるよう頑張るので、よろしくお願いしますm(_ _)m
改めて、ご視聴ありがとうございました!




