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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
3章 思い描いた大学生活は程遠くて…
33/58

源蔵 × 実況サークル

んー?(ーー;)

なかなか納得がいかなくて試行錯誤してたらこんなに間隔が…

ほんと戦闘シーンの発想とか描写が苦手…この世から争いがなくなればいいのに…


※前回までのあらすじ

 源蔵と対峙した帝里であったが、源蔵の攻撃になかなか攻め入ることが出来ず、苦戦を強いられる。

 さらには情音まで使い始め、全く手が出せなくなった帝里にようやく到着した玲奈が作戦があると言って、帝里に提案する…



「ゴニョゴニョ…分かった?」


「分かったけど…それ、作戦って言うのか…?」


「これでいーのよ!ところであんた、私があげたネックレスちゃんと持ってる?」


「あぁ、はいはい、持ってないとお前絶対うるさいからな

 はい。でもこんなの何で要るんだ?」


「いいからいいから、ただのお守りよ」


 不思議そうにネックレスを差し出す帝里から玲奈は無造作に受け取ると、さっさと行動を始める。


「……さて、作戦会議は終わりましたか?」


 帝里に軽く耳打ちで作戦を伝えた玲奈が離れていくのを見て、源蔵が待ちくたびれたように身構える。


「…終わるまで待ってくれるのな。戦隊ものの変身シーンかよ」


「まぁ千恵羽玲奈には一回負けているので、焦らずに魔力回復がてら後手に回ろうと思っただけですよ。今日はその方が調子良いみたいですし」


「……けっ、言ってくれるじゃねぇか!!」


 素早く剣を構えた帝里はいきなり源蔵に向かって走り出す。剛堂さんの姿は源蔵に変えたままだが、魔力節約のためか、まだ幻影を作り出していないので、速攻で作り出す暇を与えない作戦だ。


「…?千恵羽玲奈が近くに居ない…?一体どういうことだ?」


 帝里が迫っているのに、違うことに意識をそらす源蔵に少しむっとしながら、帝里は話している方の源蔵に剣を振り下ろす。

 そう、玲奈は戦闘に参加しない。考えた作戦を実行するために京介達のところに戻ったのだ。


「ふん、玲奈がいなくとも俺だけで倒してやるよ」


「そうですか…なら思い切りやらせていただきますよ!」


 玲奈の行動にまだ疑問を抱きつつも気を切り替えて、ようやく帝里と向かい合った源蔵は帝里の剣を腕に付けた装甲で受け止める。


「あぁ、あとなにも作戦を考えたのはあなた方だけではないんですよ?」


 次の瞬間、もう一方の源蔵が素早く帝里の背後に回り込み、いつの間にか仕込んでいた剣で攻撃を仕掛ける。もう一切帝里に手加減はしないようだ。

 それを帝里はクリスタルを数個召喚して受け止めると、残りクリスタルで二人を側面から同時に攻撃を行う。


 しかし、二人はまるでシンクロするかのように同時に後ろに飛んでクリスタルを避けると、一旦攻撃を止め、帝里を中心に常に反対側にいるように距離を取り、隙を窺い始める。


挟み撃ち。

 それは二人いれば誰もが考える、当然の作戦であり、これは帝里も予想していたことで、自分の周りを回っている二人を見て、帝里はニヤリと笑う。

 もちろん帝里が不利な状況であるのは確かなのではあるが、実は帝里はこれを待ち望んでいたのだ。


 片方が帝里の死角に入るように動きながら源蔵は間合いを詰めると、次は二人同時に剣で帝里に斬りかかる。


 これを落ち着いて帝里は受け止め、さらに迫る息の合った連携の追撃に帝里は反撃せず、ただひたすらに次々と躱していく。

 先ほどまではあれほど沢山いた幻影の攻撃を対処していたのだ。今更、二人で挟み撃ちぐらいなら帝里も楽々とよけることが出来る。


 しかし、相変わらずどちらが源蔵であるかは分からないので、手の出しようがないのだが、帝里は気にせず攻撃を避けることに専念する。


 帝里が余裕の表情で延々と攻撃を受け止めているうちに、攻めているはずの源蔵に焦りが見え始める。源蔵からすれば、玲奈達が到着したので早く決着を付けたいはずであるし、その玲奈達の動向も気になって仕方がないはずだ。


 だが、一向に帝里を倒せる様子はない。長引くほどに不利になるのは源蔵の方であり、こうなってくると源蔵は何か手を打たないといけなくなるのである。


 そして、帝里の読み通り、源蔵がある行動に起こす。


 帝里に攻撃を続けていた源蔵の一人が帝里の背後にまわり、手元を赤く光らせたかと思うと、帝里に向かって炎の塊を放つ。


「きたッ!!!」


 帝里は待ってましたとばかりに身を翻すと、炎の塊に目がけて走り出す。そう、源蔵が魔法を使うのを待っていたのだ。


 物理攻撃に手詰まった源蔵には魔法攻撃しか残されていない。これが玲奈の作戦とは別に考えた、帝里の狙い目であった。

 もともと剛堂さんは魔法が使えないので、魔法を使えるのは源蔵本体しか残されておらず、魔法を使った瞬間だけ、どちらが本物なのか判別出来るという作戦だったのである。仮に幻影で人数を増やそうとしてきても、魔力を使うので、判別が可能だ。


 というわけで、火属性の魔法を使った源蔵が本物であり、帝里は飛んできた炎の玉を剣ではじくと、地面を蹴り、源蔵に飛びかかる。

 背後向いていたはずの帝里の速攻には、源蔵も対応が遅れたようで、帝里の攻撃からは逃れられない。空中で剣を構え直した帝里が剣に魔力を込め、渾身の一撃を振り下ろす。


 しかし、


「え…?」


 突如、帝里の背後で黒い光が瞬き、さっきの火属性よりも強大な魔力の気配を感じる。

 何が起きているか、全く分からない帝里は、攻撃の途中にも関わらず、思わず振り返ると、もう一人の魔法の使えないはず源蔵の右手から黒いオーラで、まるで魔力で作られた巨大な手のようなものが禍々しく浮かび上がっている。

 そして、その黒い塊は拳を握るかのように丸く固まると、帝里の側面から殴りかかる。


 あまりの想定外の出来事に、帝里は為す術がなく、空中でまともな防御の姿勢も取れずに、源蔵の攻撃をもろに受けてしまう。

 魔力の拳を全身で受けた帝里は鞠のように跳ね飛ばされ、コンテナに叩きつけられると、ドサリと地面に崩れ落ちる。


 相当なダメージが帝里に入り、体に力を入れても言うことを聞かず、帝里もすぐに立ち上がれない。

 が、そんなことはどうでもいい。それよりも確かめなければならないことが帝里の頭を支配し、強引に首だけを持ち上げる。


「源蔵…ッ!!てめぇッ!!」


 ようやく事態が飲み込む事ができ、激昂した帝里から源蔵を詰る声が漏れる。

 火属性魔法を放った源蔵に迫ったはずなのに、もう一方の源蔵に魔法で攻撃された。片方しか使えないと思っていた魔法が両方使えるということであり、つまり…


「貴様、剛堂さんに強制的に魔法をッ…!!」


「どうです?奥の手でしたが良い案でしょ」


「ふざけるな!!そんなことしたら剛堂さんに負担がかかるだろうが!!!!」


 本来、魔法は使っていくうちに成長していくものであり、魔法の使えないはずの剛堂さんはまだ魔力を作ることに体が順応出来ておらず、そんな状態で行使されたら、体の正常なバランスが崩れ、最悪、命の危険に晒されるのだ。


「ふん、なんとでも言ってくれて構いませんよ。私は世界を支配するためなら、もう悪魔と呼ばれても気にしませんから。

 フフ、ならいっそ魔王と名乗っても良いかもしれませんね」


「……」


 気が狂ったような笑顔を浮かべる源蔵の言葉を聞いた帝里は無言で立ち上がると、源蔵を睨み付ける。クリスタルが剣先に集まると、刀身が白く輝き始め、怒りに満ちた帝里は剣を真っ直ぐ構えると走り始める。


 走り迫る帝里に源蔵は魔力の拳を再び振り下ろすが、帝里の剣がキラリと輝くと、拳をいともたやすく、真っ二つに切り捨てる。

 そして、もう一度剣に魔力を宿らせると、魔力の拳を作り出していた方の源蔵に斬りかかる。持つ剣で帝里の剣を受け止めようともう一方の源蔵が間に割り込もうとするが間に合わない。


 再び片方の源蔵と対面し、気が立っている帝里は何も考えずにそのまま押し切ろうと、剣を握る手に力を入れた瞬間であった。


“帝里!!準備OKよ!!”


「-!!!」


 玲奈の声が帝里の耳の中で響き渡り、急に冷水を浴びせられたように冷静を取り戻した帝里はすぐに剣の魔力を解除する。


「-っあっぶね!まだ強い攻撃をした方が本体って決まったわけじゃないのに、斬りかかるところだった!!でも、」


 帝里が攻撃を中止したことで、間に割り込むことが出来た源蔵が剣を横に薙ぎ払うのを帝里はしゃがんで躱す。


「わざわざ割り込んで盾になりに来たってことは、どうせこっちが剛堂さんだろ!!“ブレーヴ・オクスタル”!!」


 帝里はクリスタルを召喚すると、正体が情音と予測する目の前の源蔵の足下に全て潜り込ませる。


「見てろよ、この人でなし!吹っ飛べ!!“サーラ”!!!!」


 クリスタルが緑色に輝くと、暴風を巻き起こし、奥の源蔵ではなく、なんとを目の前の源蔵を上空目がけて吹き飛ばす。

 これには源蔵もただただ驚くのみで、何も出来ずに、打ち上げられた源蔵を愕然と眺める。


 全力の力で吹き飛ばされた源蔵はロケットのようにぐんぐん高度が上げ、上空約25mを超えた瞬間、まるでベールが剥がされるように、変身の魔法が解け、本来の姿を取り戻した少女が空に舞う。


「おっしゃぁあ!ビンゴ!!あとは頼んだぞ、玲奈!!」


“ふふん、ここからは私達に任せなさーい!!”


 耳につけた通信機から張り切った玲奈の声が聞こえ、帝里は玲奈に言われたとおり、源蔵から少し距離を取る。玲奈には出来るだけ高く打ち上げろ、と伝えられただけで、ここからは何が起きるかは実は帝里も知らない。



 そして場所は少し変わり、帝里達から少し離れ、港に幾つも立ち並ぶクレーンの1台の操縦席の上によじ登った玲奈がすくっと立ち上がる。


「さぁ、始めるわよ!」


「本当にやるんですかぁ…姉上…」


 皆に指示を与える玲奈に向かって京介が少し泣きそうな顔を操縦席からのぞかせる。


「もう、いつまで愚図っているの。さっさとあんたも腹を括る!!こんなの滅多に操縦なんて出来ないわよ!?」


「でもぉ…僕が取ったのはただの普通免許ですし…クレーンの操縦なんてさっぱり分からないですよ…」


「それなら私が父の武器輸入でクレーンを使っているのが面白そうで習ったことがあるから大丈夫だ。京介は補助とタイミングを頑張れ」


 未だに不安が拭えない様子の京介に、隣で操縦席に座り、うきうきとした表情でレバーを握っている羅瑠が親指を立てる。


「そのタイミングが重要なんですよ!!少しでもミスったら情音さんが落っこちちゃうんですからね!!?」


「そんなの計算でなんとかしろ、主席合格だろ?それにお前より酷い被害者だっているんだぞ」


「何が被害者よ!失礼な!光栄な役よ!!

それに、そのためにこの機体を少し改造したんだし、もう後に引けないわよ!」


「あぁもう!好き勝手言って…!どうなっても知りませんからね!」


 半ばやけになりながらも、ようやく覚悟を決めた京介が操縦席の窓から身を乗り出す。


「情音が落ちてくるわよ!京介見えてる!!?」


「見えてますよ!!皆さん備えてください!!!」


 さらに身を乗り出し、目を凝らして遠くに見える情音の姿を捉えた京介が心の中で一生懸命タイミングを計る。


「羅瑠先輩、始めて!!」


「よし!皆しっかり掴まっておけよ!!!」


 京介の合図とともに羅瑠がアーム部分を全力で急旋回させ始め、どんどん回転速度が上がっていく。

 そして、本来の回転速度の限界を突破し始めたあたりで、先端のワイヤー部分がその回転に引っ張られるように少しずつ地面から距離を離していき、地面と平行に近づいていく。


「もう少しワイヤーを伸ばして!! 」

「おけ」

「あぁ!伸ばしすぎ!!」

「おけぃ!」


 ともに回転する操縦席から京介が微調整の指示を羅瑠に繰り返していき、とうとうワイヤーの先端部分に取り付けられたフックが情音の落下位置と重なる。


「まさかフックを剛堂さんにかけるつもりか…?いやサイズ…」


 今は遠近法で小さく見えているだけで、本当はあの先端のフックは剛堂さんぐらい大きさがあるはずであり、思わず帝里は眉をひそめる。


「ふふん、そんなの分かってるわよ!

 さぁ、出番よ!!バシッと決めちゃって!!」


 帝里の声を聞き取ったのか、自信満々で答える玲奈が右手を突き上げ、かけ声を出すと、それに反応して、フックの先端で何かがモゾモゾと動き始める。


「……ぅぅぅぅぅううぎゃああぁぁぁぁぁ!!!!」


「双ちゃん!!!???」


 顔面蒼白で今にも泣き出しそうになりながら、フックの曲部の上に立ち、フックに必死にしがみついている双治郎の姿に帝里はもちろん、源蔵までもが唖然とする。


「ほら京介、今回の一番の被害者だろ?」


「だから言い方!こうするしかなかったんだし、仕方がないじゃない!ほら、遊園地にあるグルグル回るやつと同じよ!!」


「さすがに一緒にしたら双治郎さんも怒りますよ、姉上…」


 玲奈に京介達が呆れる一方で、それどころでない双治郎は少しでも手を離したら一瞬で吹き飛ばされそうな状況に、恐怖でしがみつく腕に力が入る。


「うぅ…しかも風が凄くて目が…でも」


 覚悟を決めた双治郎は容赦なく風が顔を殴りつけてくる中、片目を開け、落下する情音から目を離さない。


「…僕だって、ちゃんとした情音ちゃんと一緒にテリーに会うって約束したんだ!!情音ちゃんは返してもらうよ!!」


 情音と双治郎が空中で交差する瞬間、意を決した双治郎はクレーンから右手で離し、情音に向かって目一杯手を伸ばす。

 情音が吸い込まれるように双治郎の腕の中に落ちてくると、双治郎は体が後ろに引きずり込まれそうになるのを耐えながら、しっかりと情音を受け止める。


「おぉぉ!!よし!双治郎よくやったぞ!!」


「あぁ!!回転を止めたらダメ!!!」


「え…あっ!?」


 双治郎が受け止めたのを見て、羅瑠が喜びのあまり操縦レバーから手を離してしまったことを京介が慌てて注意するが、すでに遅い。

 レバーを離したことで、それまで回転を続けていたクレーン本体の動きが急に止まり、双治郎を乗せた先端のワイヤーだけが回転する振り子のようにその場で回り始める。


「うわわああわわわわあわぁぁぁ!!??」


 いきなり速度が変わり、振り落とされそうになった双治郎が慌ててフックにしがみつく。


「んっ……あれ、双ちゃん…?私は……」


「ぁぁぁあ!…あ、情音ちゃん目が覚めたんだね!!」


 今の衝撃で目を覚ました情音がうっすらと目を開ける。距離が離れたことで本当に魔法が解けたのか、情音の様子は先ほどまでと打って変わって、以前の情音に戻っており、双治郎が嬉しそうな声をあげる。


「……ッ!?な、なんで私、双ちゃんにッ…」


「ちょ、ちょっと情音ちゃん落ち着いて!!?落ちちゃうから!!」


「え…――ッ!!?」


 双治郎に抱きつかれていることに気づき、情音の顔がみるみると紅潮し、離れようとして暴れる。

 しかし、双治郎に促されて下をのぞき込み、遙か遠くに見える地面に、すぐに顔が真っ青に変わる。


「その、なんでこんなことになってるか、分からないと思うけど…安心して!!絶対に安全に下まで下ろしてみせるから!!」


 何が起きているかさっぱり分からず、ただ混乱し、恐怖する情音だが、双治郎の言葉に無言でコクリと頷く。


 一方、情音が意識を取り戻したことなどつゆ知らず、クレーン操縦室にいる京介達は予想外の出来事に慌てて対処に取りかかる。


「姉上ここからどうすればいいのですか!?」


「えっと……安全に下ろす?」


「まさかのノープラン!!?」


「と、とりあえず今は源蔵から情音を離すことが最優先よ!!また動かし始めても危険だから、今はこのまま回っててもらうわよ!!」


 玲奈の指示でフックの部分が下に落ちてこないように調整しながら、少しずつワイヤーを伸ばして、少しでも源蔵からの距離を稼ぐ。


「それが狙いかっ…!!」


 玲奈達の目的に気づいた源蔵がすぐに背中に飛行装置を召喚し、再度、情音に魔法をかけるために情音に近づこうと飛び立つ。

 しかし次の瞬間、いきなり2本の光線が飛来したかと思うと、源蔵の飛行装置に直撃し、そのダメージで装置が破壊され、一度浮いた源蔵が地面に叩きつけられる。


 膝をついて着地した源蔵が腹立たしそうに光線の飛んできた方向を見上げると、クレーンの操縦室の上から玲奈がしたり顔で2丁の銃口をこちらに向けている。


「ふふん、飛べたときの対策はちゃんとバッチリよ!!いくらやっても絶対に打ち落としてやるわ!!

 へいへい!これで情音には近づけないわね!さぁ、どうする♪」


「くっ……―“オスクロ”ッ!!!」


 玲奈の挑発に源蔵が忌々しそうに睨む。そして、再び情音を見上げると同時に、自分の周囲に無数の禍々しく黒い闇の球を作り出すと、遙か頭上の双治郎達目がけて放つ。


「なっ!?ちょっ、させるかーー!!!」


 クレーンを破壊し強引に情音を引きずり下ろそうとする源蔵に、玲奈が慌てて双銃から光線を乱射し、双治郎までの距離がある程度離れているのをものともせず、次々と的確に相殺していく。


「きゃあ!!?」


 その相殺された爆風と、幾らか防ぎ漏れた源蔵の攻撃が情音達の付近を飛来し、情音があまりの恐ろしさに目を閉じ、悲鳴を上げる。


「くっ…帝里には手を出すなって言ったけど、このままじゃ不味いわねッ…!

 早く二人を下ろさないと……あ!」


 玲奈は苦々しそうな顔を浮かべながら、銃を撃ち続けるが、なにか思いついたようで、急いで通信機の電源を入れる。


「聞こえる!?このままだといつか落とされるから、ちょっと危険だけど、下に落とすわよ!!情音をしっかり守って!!」


“…??う、うん!!情音ちゃんは絶対守るよ!!!”


「うん、良い返事ね。じゃあいくわよ!」


 玲奈は満足そうに頷くと、一旦射撃を止めて片目を瞑り、素早く一点に狙いを定める。


「姉上、一体何を…?」


 突然動きを止めた玲奈に京介が下から訝しげな表情を浮かべるが、玲奈は答えずに、集中力を高め、遠くの双治郎達を真っ直ぐ見つめる。


「…………今ッ!!!」


 よく狙いを定めた玲奈が引き金を引き、銃口から光線が双治郎達の方に目がけて放たれる。

 そして光線は唸りを上げて一直線に伸びていき、源蔵の攻撃をすり抜けていくと、見事玲奈の狙っていた物に命中する。


「……ふぇ?」


 先ほどまで、痛いくらいに自分の体にかかっていた力から急に解放されて、双治郎と情音が唖然とするのも束の間、その反動で二人の体が掴まっていたフックもろとも吹き飛ばされる。

 そう、玲奈はフックとクレーンを繋ぐワイヤーを撃ち切ったのだ。


「え…えぇ!!??」


 ハンマー投げのように勢いがついたフックは双治郎と情音を乗せ、緩やかな放物線を描きながら、みるみると遠くに飛んでいく。


「姉上!!?」


「大丈夫、ちゃんと考えてあるから!それにあの方角だと…」


 信じられないといった表情で姉を見つけている京介に、玲奈は自信満々に答えると双治郎達が飛んでいった方角を眺めながら楽しそうに笑う。


 しかし、飛ばされた双治郎には一体何が起きているか分からず、頭の中が真っ白で、思考が追いついてこない。

 確かワイヤーは玲奈が断ち切ったはずなので、何か考えがあってのことだろうが、もう地面が迫っており、そんなこと考える余裕はない。


 それでも、約束したとおり、情音をかばうように地面に自身の背を向けて情音を抱きかかえると、おそるおそる振り返る。

 すぐ真下に見える群青の地面に、その正体が分かった双治郎が声を上げたようするも、すぐそこまで地面が迫りきており、思わず双治郎が目を瞑る。

 双治郎が身を固めたとき、胸元で何か光った気がしたが、確かめる間もなく、双治郎は真っ青な地面と衝突する。

 その瞬間、地面が落ちてきた双治郎を優しく抱くように変形し、受け入れる。

 そして、双治郎は幾多の真っ白な泡を引き連れながら、下に下にと沈んでいった。



「…海…って…」


 彼方遠くで大きく上がった水飛沫を見て、京介が呆然としながら呟く。


「ね?あの子ならきっと大丈夫でしょう?

 さぁ、帝里!情音は居なくなったんだからさっさと源蔵をやっつけなさい!!」


“ったく、全然安全じゃなかったじゃないか!!でも、”


 双治郎達が飛んでいった方角を唖然と見続けていた源蔵が急に背後で声が聞こえ、ハッと振り返る。


「おかげでさっきのダメージも回復できたし、もうこれで何も気にせず、全力で攻撃できるしな!

さぁて、散々やってくれたな、源蔵!!覚悟しろよ」


「ッ!!」


 玲奈達が情音を取り返している間、参加するのをぐっと堪え、回復に努めた帝里はおかげで体力も魔力も全快し、ひきつった表情を浮かべる源蔵に不敵に片頬を動かす。


「次は格好良く決めさせてもらうぜ!“エレルナ”!!」


 帝里は手に持っていた剣を魔法で消すと、代わりに一本の太刀を腰の後ろに召喚し、鞘に手をかけ、居合いの構えをとる。


「くっ!」


 源蔵は防ぎきれないと判断したのか、再び魔力の拳を作り出すと、帝里に目がけて叩きつける。


「げっ!でも、もう無駄だ!」


 帝里がニヤリと笑ったかと思うと、刀身が鞘の中で白く光り、帝里の姿が消える。

 そして次の瞬間、帝里に襲いかかっていた拳に斜めに一直線の亀裂が入り、真っ二つに割れ、隙間から帝里が姿を見せる。


「次こそはこれで終わらせてもらうぜ、一刀流奥義-」


 帝里は素早く刀を鞘に戻し、地面に着地すると同時に再び魔力を溜め、同じ構えをとる。

 源蔵もとっさに幻影を作り出すが、もう見分け方が分かっているので、無意味だ。


 帝里は身体中の魔力を爆発させて前に飛ぶと、幾多の幻影の横をすり抜けて、真っ直ぐ本体の源蔵の目の前に現われる。


「“阿鼻無間”!!!!」


 源蔵が身動きを取る間もなく、帝里が刀を抜き、右手からキラリと一筋の閃光が瞬く。


 ここからの勝負は一瞬だった。




「……ぅ…」


 源蔵が声にならないうめき声を上げ、膝をつけると、そのまま体が地面に向かってゆっくり傾く。


「……誰が魔王だって?」


 いつの間にか源蔵の背後に移動した帝里が右手に持った刀をゆっくり、腰の後ろに下げた鞘に収めていく。


「ふん、勇者相手にそんな分っかりやすい倒されフラグ立ててんじゃねーよ!実況者なら失格だぜ?」


 キンッと音を立てて刀を収め、帝里が不敵な笑みを見せる。

 それと同時に源蔵が地面に倒れ、ようやく勝敗が決したのであった

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