チェイス
※前回の超簡単なあらすじ※
イブと帝里は逃げる源蔵からイブの本当の力と源蔵の目的を聞かされる。そして、それを聞いた帝里は自分の信念を述べ、ついに源蔵達に追いつき、姿を現す…
そういえば、あと1ヶ月もしたら投稿して1年が経つんですよね。今これを入れても31話…もう笑うしかないw
「あれは、エルクウェル…ッ!?もう追いついたのか!?」
後ろで巻き起こった煙の中から現われた帝里の姿に、源蔵が慌てて車を加速させる。
「チッ、スピード上げやがったか…でも、もう見つけたから問題ねぇよ!!」
“問題ありまくりじゃアホぉぉぉぉ!!”
「うおっ!?れ、玲奈!?」
帝里の耳につけていた、もう一方の通信機から急に玲奈の怒声が轟き、帝里は思わず耳を押さえる。
「急に大声出すなよ!?」
“出したくもなるわ!あんたの行動はドローンで世界中に生配信されてるのよ、分かってるの!!?”
帝里が慌てて空を見上げるとドローンがこちらを向いて撮影しており、急いで顔を隠す。
どうやらドローンによる源蔵の車の追跡はまだ続いていたようで、帝里が上から強襲した瞬間もしっかり撮られており、そのせいでコメント欄は
“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”“!?”
の文字で溢れかえり、大混乱を来しているのだ。
“魔法がバレたくないって言ったのはあんたでしょうが!!もう少し考えて動け!”
「そ、それはすいません…」
“もう見つけちゃったんならドローンをぶち壊しちゃいなさいよ!”
「それが、どうやらあれのおかげで未来に行けないみたいだから、壊せないんだよ…」
“うぐぐ…”
映像の方は玲奈が慌てて非表示にし、視聴者からは見られないようにしたが、すでにドローンからの映像を違うサイトに転載する動きが始まっており、なかなか収拾がつきそうにない。
“くそっ…もう完全に押さえられないわね…あぁ帝里!もうこうなったらさっさと捕まえなさい!!”
「了解!!」
帝里は大きく頷くと、足に魔力を溜めると、一気に放出して、地面を蹴り進む。
帝里の走る速度がどんどん上がっていき、前を走る他の車を次々と追い抜いて、再び源蔵の車に徐々に追いついていく。
“ふぁ!?”
“すげぇ!!”
“!?!?”
“何かに乗ってるの?”
“CGかなんか…?”
“いや、本当に人が走ってる!”
“やべぇww”
“そうだ!きっとエルクウェルの魔法だよ!(棒)”
“!?”
“あれのせいであの車追えないんだけど…”
“↑エルさんを虐めてやるなw”
“は?ww”
“別にこれくらい俺だって出来るし”
“いやいやww”
“!?”
“この企画どうなってんの!?”
“人の限界越えてるよね…?”
“はやすぎー”
“どこにいったら見れる?”
“もう実況じゃなくて陸上やれよw”
“!?(定期)”
“これが限界突破とやらをした人か…同じ人類と思えないw”
“これがエルクウェル??”
“いけ~!”
“確かメンバーに聖剣戦の日本代表いなかった?”
“まじか”
“やばw”
“いや去年の日本代表はもっとこう、男の娘みたいなやつだったはず”
「だから僕は男だってば!!もう皆、匿名だからって好き勝手に言って…!それに僕だってさすがに帝里みたいな速度であんな長距離は走れないって…!」
「いや、少しならあの速度で走れるのだな…」
流れ続けるコメントに怒る双次郎を半分呆れながら羅瑠が宥める。
「でも…これならテリーも追いつけそうだね!!」
「そうね!帝里!そっちはそろそろ急カーブが連続であるから、そこでさっさと捕まえちゃいなさい!!」
「俺だって疲れるんだからな!?はぁ…はいはい、頑張りますよ!!!」
玲奈達に激励を飛ばされて、帝里はさらに足に魔力を込めて、追う速度をあげる。
しかし前を走る源蔵の車は全くスピードを落とす気配もなく、玲奈が言っていた急カーブでむしろ速度を上げながらも、すれすれのところをなんとか曲がっていく。
追う帝里も急カーブに差し掛かるが、そのままのスピードだと速すぎて曲がりきれず、どうしても速度を落とさなければならない。
「チッ…一度遅くなるくらいなら、こっちの方がましだよ!!」
帝里はそのままカーブに入ると、一切曲がろうとせずに、一直線に駆け抜けていく。
そのまま、速度を落とさないままでカーブを進み、脇のガードレールにぶつかる、という寸前で帝里は体を横に傾け、地面から足を離す。
そして体が地面と水平になったところで、ガードレールの側面に足を付けると、勢いに任せて一気にガードレールを走りきり、急カーブを突破する。
これには視聴者達からも歓声があがり、興奮のコメントで画面が溢れかえり、次々とカーブで繰り広げられる過激なチェイスにネットは熱気で満ち、どんどん視聴者が増えていく。
カーブのたびに少し距離を離されていたものの、じりじりと追い詰めていき、とうとう源蔵の車のすぐ後ろまで辿り着く。
「なっ!?エ、エルクウェル…ッ!おいエルクウェル!こっちにはお前の大事な剛堂情音がいるのだぞ!?」
「おー、なんか悪役っぽくなってきたな。でも残念ながら俺も人質を持ってるから無駄だよ!!」
「は…?今の私にはこの火力姫以外不要だぞ」
「はぁ…そんなことを言って、イブのことを見てないから気づかないんだよ。おい、イブに変わったことはないか?」
「…?いや…別に…魔法も普通に使えているし、小さくなっているが、むしろ捕まえやすくて…ッ!」
途中で何かに気づいたようで、源蔵はハッと目を見開き、よぎった考えに顔を歪めて下唇を噛む。
「ま、まさかっ…!小さくなると魔力が…」
「はーい、大正解♪比例して魔力が低下するんですよね~!」
嫌な予感がしたのであろう源蔵のくぐもった声に帝里が嬉しそうに続きを答える。
前に玲奈に説明しようとしたように、イブにかけている縮小魔法“ルコナンス”は、体の中にある魔力の素を風船の空気を抜くように、強制的に外に出させることで、しぼむように体小さくしているのだ。そのため、体に残る魔力の素は減り、結果的に使うことのできる魔力の量は低下する。
「つまり今のイブは大体10分の1くらいのサイズだから、魔力も10分の1倍って事だな」
「なっ…!?貴様なぜそんなことを!!?」
「いや、だから俺はイブの力には興味ないからな。そうでもなきゃ、こんな俺もイブも魔力が落ちる欠陥魔法なんて使わねえよ」
まさかイブの力が狙われるほど強力だったとは思いもしなかったが、この状況では偶然この魔法がとても役に立っており、使った本人である帝里もドヤ顔で語っているが完全に予想外である。
「因みに俺を倒す以外、その魔法は俺しか解除出来ないからな。いくらやっても無駄だぜ!」
「なっ…!ならこっちだってこの娘を…」
「おっと、剛堂さんをどうするつもりだ?剛堂さんに何かあったら‘未来が変わる’ぞ?」
「―!!」
通信機越しからでも分かる源蔵の反応が聞こえ、自分の考えがことごとく的中する現状に思わず帝里はほくそ笑む。
さっきの話を聞く限り、どうやら源蔵は別に世界を平和にしたいのではない。イブを使って、ただ世界を支配したいだけなのだ。
なので、未来が変わるということは源蔵にとって避けたいことである。未来が変わると支配したかった世界がなくなってしまうからだ。
「へへん、どうせ未来が変わる、なんて発想自体なかったんだろうけど、一度意識したらこっちのもんだよ!!」
「ふ、ふん、別に火力姫の力さえあれば、どんな世界だろうと支配できる!!」
「…ああ、そうかよ。なら…!」
通信機越しで話していたはずの帝里の声が急に大きく聞こえ、後ろの異様な気配を感じた源蔵が反射的に振り向くと、なんともう車の真横の左脇まで帝里が追いついている。会話に夢中になっている隙にまんまと差を縮められたのだ。
「両方とも返してもらうだけだよ!!!」
帝里は大きく腕を振りかぶると、拳に魔力を込め、車の後部座席の窓を叩き割る。
ガラスがけたたましい音と共に飛散する中、帝里は割れた窓に手を突っ込むと、後部座席にいたイブを檻ごと外に引きずり出す。
あとは剛堂さんも同じようにガラスを破ろうとまた拳に魔力を込めるが、それをさせまいとする源蔵が車を大きく右に切り、その勢いのせいで帝里は車から引き剥がされてしまい、また距離をつけられてしまう。
「さすがに両方は無理か…でも肝心のイブは取り戻せた!
おい源蔵!決着をつけてやる!俺はこの下にいるから剛堂さんを連れて来い!!いいか、剛堂さんに絶対手を出すなよ!?」
逃げる源蔵に帝里は大声で伝えると、高く飛び上がり、そのまま高速道路を飛び降りていった。
源蔵もすぐに車で下に降りようが、帝里が居なくなったことで、前まで追っていた視聴者の車とドローンが迫ってきて、身動きが取れない。
「くそっ…よくも…」
源蔵は悔しそうに下唇を噛みながら、後ろの車達を突き放すためにスピードをあげるのであった。
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「………着地っ!!っと!」
高速道路から飛び降りた下に地面があったので、帝里はそのまま落下し、地面に降り立つ。
「…港か。まぁ視聴者から隠れやすいし、良い場所だな」
辺りを見渡した帝里がポツリと呟く。
帝里達が降り立った場所はガントリークレーンが立ち並ぶ港湾で、至る所にコンテナが積み上げられており、視界を遮りやすい。幸いにも大型連休で人も居ないようである。
「さてと、源蔵が来るまでのんびり待つか。ずっと走りっぱなしでクタクタだし」
「あの、エル様、なぜわざわざ源蔵に居場所を教えたのですか?」
「まぁ、お互い逃げてても仕方がないしな。それに、玲奈んちを襲ったり、剛堂さんをあんなのにしたり、あいつは一発ぶっ飛ばさないと許せねえ!!」
「まったくもう…それより、そろそろ私をここから出してくださいよ!」
「ああ、そうだったな。ごめんごめん」
帝里は改めてイブの入った檻を調べてみるが、檻の開閉口には鍵穴のない南京錠がかけられており、どうやらこれを取り外すしかないようだ。
「てか本当にお前でもこの檻をぶち破れないのか?」
「あんなに自信満々でしたし無理でしょうね…その南京錠も破壊できなさそうですし
やっぱり源蔵を倒して開けさせるしかないようですね…」
「……いや…なるほどな。……よっと」
何かを理解した帝里が南京錠を触ると、ガチャンと大きな音を立てて錠が外れ、開閉口の扉が開く。そして手を入れ、中でぽかんと口を開け、目をしばたたかせているイブを優しく外に出し、掌に載せる。
「え…ど、どうやって…」
「魔属性魔法の呪いが檻にかけられてあったんだよ。だからそれを解除しただけ」
「また魔属性ですか…」
「基本、魔王とか魔物とか魔人とか、魔族が使える特別な属性なんだけど、あいつ闇墜ちでもしたのかね」
「さぁ…でもほんと見えないのが厄介ですね…エル様は見えているのですか?」
「まぁ異世界で魔族と戦いまくっていたから多少はね。別に闇属性の強化版みたいもんだから、対応は闇属性と全く一緒だぞ。って言っても、呪いとか状態系の魔法が苦手なお前には超有効だけどな」
「むぅ…なんか腹立ちますね!そんな忌々しい物、さっさと壊してください!!」
「はいはい。……いや、イブがなんか余計なことしたときのために取っとこ。“エレルナ”」
「エル様!!??」
怒るイブを宥めながら、コンテナの上に腰掛けて休憩していると、騒々しい音を立てながら多くの車を引き連れた源蔵の車がようやく追いつく。
「おいおい、他の車ぐらい巻いてこいよ。お互い見られるのはまずいってのに」
帝里がコンテナの上からひらりと飛び降りると、険しい顔をした源蔵が情音とともに車から降りてくる。
「…テリーくん!!イブちゃんを私に渡してくれないかな!!」
「てめぇ源蔵!剛堂さんを使ってキモいことするんじゃねえ!!」
「おや、やっぱりダメでしたか」
「当たり前だろ!!…うっ…これまでの剛堂さんのセリフをこいつが考えてたと思うと寒気がしてきた…」
「え?エル様の好きなアニメキャラのセリフを考えているのは―」
「おっとイブ、それ以上はいけない」
何か言いかけたイブの口を指で押さえつける。次、余計なこと言ったら檻に入れてやろうかとイブを睨み付ける。
「さて、どうするのです、エルクウェル?視聴者がいるなかでは下手に動けないでしょう?」
「うっ…まさかお前、それを見越して連れてきたのか…」
帝里は苦い顔をしながら周りを見渡す。さっきから、今から何が起きるのかと期待した目が帝里達に注がれているのである。
こうなってくると源蔵が断然有利になってくる。たとえお互い魔法が使えなくても、視聴者がいる前では、帝里は殺し合いどころか殴ることすら出来ないのだ。
まずはこの観客達のどうにかしなければならないのだが、源蔵がそんなことさせてくれるはずがないし、なにより何をすれば良いか全く思いつかず、考えれば考えるほど泥沼にはまり込んでいく感覚に陥る。
「あの…エル様、この人たちは誰です…?」
「あぁ、源蔵を追い詰めるために協力してもらった視聴者だよ
やべ!捕まえたときに何か出し物みたいなのするって言ったけど、何も考えてねぇ!!」
「もう…一体何をやっているのですか…」
更なる問題が見つかって頭を抱える帝里にイブが呆れたようにため息をつく。
どうやら観衆はその出し物を帝里と源蔵がするのではないかと思っているようだ。律儀に二人から少し離れたところで見守ってくれている。
そのせいで源蔵と帝里がずっと睨み合っていても、全く離れていく気配がなく、それどころかここで止まってしまったせいで、ここが終着点となり、出し物を見ようと人がどんどん増えていく一方で、帝里の背筋にじわりと脂汗が流れる。
もういっそプロジェクションマッピングとかイリュージョンとか言って魔法全開で戦ってしまおうか。いや、リスクがでかすぎる。第一、他のメンバーがいないのがすでに不自然なのに、これ以上余計なことは出来ない。それでなくとも、さっき走っていたのが世界中に配信させてしまっているのだ。慎重にかつ穏便に、そして何か良い手を…
“………はぁ、ほんとエル様は後先考えずに突っ走るから、いつも窮地に追い込まれるんですよ”
「…イブ…?」
突然、通信機からイブの声が響き、我に返った帝里が見渡すと、さっきまで傍にいたはずのイブの姿がいつの間にか消えており、帝里は慌てて探すが、源蔵のところにも、観衆の中にもいない。
“入学すぐに変なサークル作っちゃうし、複数の人とデートの約束をして、結局バレちゃうし。
でもまぁ、そんな真っ直ぐなところ、私は良いと思いますよ。それに今回は私が原因ですし、その…私と一緒に未来を作りたいと言ってくれた…だから、”
まだ辺りを探し続けていた帝里はやっと、観衆の背後にあるコンテナの上にちょこんと座り、こちらに手を振るイブを見つける。
“私もエル様のお手伝いをしたいです!
まだ何をすれば良いか全く分かりませんが、今は私の出来ることをします!!”
「イブ、一体何を…」
“あ、それと訂正です!別に私だって本気出せば、状態魔法を‘壊す’ぐらいなら出来ますからね!!
……んん…えいっ!”
イブが立ち上がって体に力を入れたかと思うと、イブの体が光りだし、もとの人間サイズの大きさまで戻っていく。帝里がかけた“ルコナンス”をイブが自分で解除したのだ。
“ほらね♪あとは“衣装変更”で…”
イブが魔法を唱えると、これまで着ていた服装がパッと変わり、綺麗なドレスに包まれ、頭と胸に可愛いリボンをつけたイブが現われる。
それと同時に、大きくなったせいで“認識順応”が解除され、‘世界の警告’のせいでイブから発せられる異様な気配を感じ取った観衆が次々とイブの方を振り向く。
「え!?あんな子いつの間に!?」
「衣装可愛いー!アイドル!!??」
「お姫様みたい!!」
「青髪の美少女じゃん!!」
「青髪?…もう何でもいいや」
「あんな子サークルメンバー表にいたか??」
「すげぇ目立ってんな。やっぱアイドルは雰囲気が違うわ~」
「さっきの人形と似てないか…?」
「え…好きな子の人形作るとかエルクウェルきも…」
‘世界の警告’のせいでより一層目立っているせいか、さっきまで見守っていた帝里と源蔵には目もくれず、イブに人々の注目が集まっていく。
「はーい、皆さんこんにちは!実況サークルでーす!本日は…えっと、ありがとうございました!
どうやら見つけた場所で出し物をする、ということだったので、さっそく第一弾!私が歌いたいと思います!!」
「「「おぉー!!」」」
イブは集まった人々にそう呼びかけると、待っていましたとばかりに歓声が上がる。
その様子にイブがニコリと笑いかけると、一歩後ろに下がる。イブの後ろには、いつの間にか大きなスピーカーなど様々な機械が置かれており、まるでコンテナの上が小さなステージのようだ。
イブはマイクスタンドを自分の前に持ってくると、コホンと一つ咳払いをする。
それと同時に、隣にあったスピーカーから音楽が流れ始め、イブが音楽に合わせて体を少し揺らしながら、口を開き、歌い始める。
「…え…?」
その歌声を聞いた帝里は動きを止め、信じられないといった顔つきで思わずイブの方を見る。
「…歌うま…」
「やばっ…!」
「綺麗な声~!」
「え?本当にアイドルなんじゃ…」
「この曲なんて名前?」
「しっ、聞こえないだろ!」
観衆達からは言葉にならない感嘆の声が溢れ、皆がイブの歌う姿に釘付けになる。
そう、イブの歌声はとても澄んで綺麗なものだった。帝里は時々イブが鼻歌を歌っているのを聞いたことがあったが、想像以上にイブの歌声は冴え渡っていて、周りの者を強く引き込んでいく。
もう‘世界の警告’など関係ない。イブは歌声一つで自分の魅力を存分に発揮しているのだ。
そんなイブの意外な一面を魅せられて、思わず帝里もイブの歌に聴き入り、見とれてしまう。
「……ってもうその手は食らわないからな!!」
突然飛んできた光の刃を帝里は剣を召喚して、はじき飛ばして、ゆっくり源蔵の方を向き直す。いつしか、イブを見て油断していたせいで、攻撃を食らいそうになったことがあったが、さすがに帝里も学んだのである。
「ほぅ、あの呪縛にかからないとはさすがは歴史上の偉人と言ったところでしょうか」
「呪縛って…あのイブの歌が??」
「ええ、あの歌声はもはや魔法なのです。聞いた者に自分の願いを聞かせる能力。別に魔力を使うわけではなく、ただ人の心を揺さぶるほど美しい歌声が理由だそうですが、もうある意味魔法でしょう。今は自分に注目して欲しいといったところでしょうか」
「いやいや……なんかもう何でもありだな…」
「本人はあまり自覚してないようですけどね。でも、あの能力のおかげで、火力姫を恐れる者達は居なくなった。ただ仲良くなりたいとかいう願いのせいでね。
そのせいで、あの姫は持つ本当の力を捨て、歌を歌って皆のご機嫌を取るようになった…そういえば、誰かが火力姫を文字って、こう呼んでましたね--」
「‘歌力姫’ってか?…未来人もしょうもないこと考えるのは同じなんだな…」
「まぁ、あの歌に価値がある事は確かです。皆を支配したいと願えばね!!」
急に体を魔力で覆い始めた源蔵に、帝里は素早く身構え、戦闘準備に入る。
「火力姫は未来に連れて帰らせてもらいます。それでも私の計画を邪魔する者は全て排除する!」
「だからさせないって言ってるだろ!!こっちだって剛堂さんを元に戻して、お前を未来に追い返してやるぜ!“エレルナ・ナル・エルクウェル”!!」
鎧を纏った帝里は剣を源蔵に向けて突きつける。お互いに戦う準備は万端だ。
「さーて、もう小細工は無しだ!どちらがイブと未来を作るのに相応しい勇者か、はっきりしようぜ!」




