表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
3章 思い描いた大学生活は程遠くて…
28/58

未来からの追跡者



「…源蔵…未来からやってきただと…?」


 突然現れた男の正体に動揺を隠せない帝里に対し、源蔵は涼しげな表情でこちらに頭を下げてみせる。


「はい、主に魔法の開発、発展に努めていました。

 過去の英雄エルクウェル様にお会いできて光栄です。ええっと…おっちょこ勇者でしたっけ?」


 余裕からか、小馬鹿にしてくる態度に帝里はいらつきを覚え、そのおかげで困惑で動かなかった体に力が戻る。


「知るかよ!!イブを一体どうするつもりだよ!?剛堂さんに何したんだ!!?」


「ご安心を。イブ様の言うとおり、私が魔法で操っていただけなので、情音様には害はございません

 それに、もともとイブ様は時空渡航の違反者です。連れて帰るのに何の問題があるというのです?」


「うぐっ…」


 正論を突かれて帝里はたじろぐ。イブや情音を様付けで呼ぶくせに、全く敬意を感じないのが少し不気味だ。


「うるさいですね!!あなただって相当重要な立場の人間なはずですから、ここに来れるはずがないでしょうが!!あなたも違反しているのでしょう!!?」


「おや、バレましたか。まぁあんな腐ったところに残る意味なんてありませんからね。

 さあ、帰って私と一緒に素晴らしい平和な世界を作りましょう!」


「いやです!!誰があんたとなんか作るか!!」


「はぁ…まぁいいでしょう、最悪あなたも操ってしまえば良いですし。さて、そこら辺の話は未来に帰ってから…ゆっくりしましょうか」


「……待て」


 嫌がって抵抗するイブに気も止めず、イブの入った檻を情音から受け取り、未来に帰ろうとする源蔵を帝里が呼び止める。


「イブが嫌がっている以上、悪いがイブは置いていってもらうぞ!

 安心しろ、世界ならきっちりイブと良いものに変えてやる」


「……はぁ…この火力姫の本当の価値が分かっていない貴方に何が出来るというのです?」


「本当の価値…?」


「…いえ、もう知らなくても良いことです。イブ様にはなかなか手が出せなかったのですが、やっと捕まえられました。いやはや、自分からノコノコと出てくるとは。

 ではこれで。これまで保護しといてくれてありがとうございました」


 帝里に深々と頭下げたかと思うと、源蔵のそばに車が急に現われる。形は車だが、おそらく、形状を好きに変えられるという時空移動機、タイムトラベメルだろう。


「エル様!!」


 イブの叫び声に帝里は反射的に走り出す。あれに乗られたら最後、未来に帰られ、もう追いかけることは出来ない。


「力ずくで取り返そうという訳ですか…残念ですがあなたとは戦う気は全くないので…“オスクロ・アサセリウス”!!」


「!!?…うっ…!これは闇属性魔法…!?」


 源蔵から放たれる魔力に思わず帝里は走る足を止めてひざまずく。

 放たれた闇属性魔法はおそらく相手を操るもので、帝里の体に干渉してこようとするのを帝里はとっさに闇に有効な光属性の魔力で対抗する。

 魔法は思っていたよりは弱いもので、魔力が低下している今の帝里でも難なく無事に逃れる。


「やはり効きませんか…でも本当の目的は他にありますから」


 源蔵の勝ち誇った声に帝里が慌てて顔を上げると、源蔵の近くの双治郎はうつろな目で突っ立っている。どうやらさっきの魔法にかかってしまったようであり、さっきの魔法が範囲攻撃で、味方の数を増やす作戦だったことに今更になって気づき、帝里は下唇を噛む。


 なら玲奈と羅瑠も…と恐る恐る振り返ると、まだ現状が飲み込めず呆然としているものの、玲奈も羅瑠も目はしっかりしており、どうやら魔法が効かなかったようで、一安心する。


「何…なぜ効かない!?範囲外だったのか…?まぁ一人でもいい!あのエルクウェルを攻撃しろ!!」


「……!!」


 源蔵の声に呼応して双治郎が走ってきたかと思うと、今日買った模造刀を抜き、いきなり斬りかかってくる。

 いくら斬れない模造刀とはいえ、双治郎並の攻撃とならば破壊力は凄まじく、まともに食らったらただでは済まない。帝里も慌ててよけるが、次から次へと双治郎が打ち込んでくるので、よけるのが精一杯で源蔵に全く近づけない。


「…“エレルナ”!…くそっ…」


「ほぉ…情音様に使っている魔法よりも簡単で、単純な命令しか出せないのですが…まさかここまでやるとは…さすがは聖剣戦日本代表と言ったところですか。

 それでは失礼します」


 帝里も召喚魔法で今日買った竹刀を召喚し、双治郎とつばぜり合いをしている様子を見て源蔵は感心したかのように呟くと、車にイブを放り込み、自身も乗り込む。

 絶対今源蔵を逃がしてはならない!!


「くっ…だから待てって…!言ってるだろっ!!」


 帝里は双治郎の隙を突き、竹刀を持ち替えると、ありったけの魔力を竹刀に込め、源蔵の乗る車めがけて全力で投げる。投げられた竹刀は唸りをあげて飛んでいくと、ぐんぐん車との距離を詰めていき、車のリアの給油口辺りに深々と突き刺さる。


「ぅぐわっ!!?なっ、何が起こった!!?…ん!?…くそ!時空移動装置がやられた…っ!」


 無理な姿勢で投げたので源蔵には当たらなかったものの、時空装置に命中し、時空を飛ばれることは阻止できたようで、帝里はニヤリと口元がほころぶ。


「くっ、修理しなくてはいけないが…まずは逃げるのが先だ!

 …おい!こうなったらもうついてこい!!」


「おい!?剛堂さんをどうするつもりだ!!?」


 剛堂さんを補助席に乗せる源蔵を追いかけようとするが、双治郎が斬り込んできて、もう得物を持っていない帝里は双治郎の攻撃をただよけるしかない。


 竹刀は深々と刺さったのだが、竹刀によるダメージは車の運転には影響が出なかったようで、車からエンジンの音が響き出す。

 その音でようやく正気に戻った玲奈と羅瑠が帝里の横を抜けて車に駆け寄るが、それよりも車が先に発進し、あと少しのところで去って行ってしまった。


「チッ、逃げられたか…ってうおぉい!?双ちゃんの魔法はまだ解けてないの!?」


 逃げていく車を悔しげに眺める帝里にまだ魔法で操られている双治郎が襲いかかってきて、帝里は慌てて逃げ回る。

 

「一度かけたらずっと続く系かよ…しかも超単純な魔法だから、双ちゃんが魔力を使えたら防げたのに……ん?」

 

 怜奈や羅瑠に矛先が向かないように走って逃げていた帝里だが、あることに気づき、ふと立ち止まる。

 そんな帝里に追い付いた双治郎は操られているせいか、無表情のまま刀を振りかぶると、帝里の頭に向かって真っ直ぐ振り落とす。

 

「……“エレルナ”ッ!!」

 

 振り下ろされた刀が帝里の額に触れた瞬間、双治郎の持っていた刀が一瞬のうちに消える。

 

「!!?」

 

「んー、やっぱりそうか。これは盲点だった」

 

 刀が無くなって勢いが殺せずにそのままつんのめってきた双治郎をよけながら、帝里は感嘆の声をあげる。

 

 そう、帝里は刀が当たった瞬間、召喚魔法で双治郎の刀を自分の空間に収納したのである。


 いつもの双治郎が本気を出して、魔力の素が溢れているならいざ知らず、今の双治郎はただ操られている状態で魔力が全く感じられず、それならば帝里が“エレルナ”を使って刀を没収することが出来たのだ。

 普段の戦闘なら相手の魔力が持ち物に宿るので干渉出来ず、こんな呆気ない勝ち方は不可能である。そのせいで帝里は全く気づかなかったのだ。

 

「普通なら魔法で解除してやりたいけど…今、俺の魔力が尽きてしまってるから、こんなのでごめん…なっ!」

 

 帝里は双治郎の横に回ると、双治郎を思いっきり蹴飛ばす。強引な方法だが、この程度の魔法ならこれで解除されるだろう。

 

「うぎゃ!?いたたた…ふぇ!?もう、一体どうなってるの!?」

 

 ぶっ飛ばされた双治郎は近くの茂みに突っ込み、魔法から解放されて素っ頓狂な声をあげる。

 

「なんで僕が藪の中に…あれ?情音ちゃんとイブちゃんは!?」

 

「…連れていかれてしまったよ…さてどうするか…」

 

 追いかける方法を考えていると、車を止められなかったのに負い目を感じてるのか、怜奈と羅瑠が暗い表情で近づいて来る。

 

「あれは仕方がなかったって!車に追い付けるはずないし…」

 

「「いや、そうなんだけど……」」

 

 口ごもりながら怜奈と羅瑠は全く同じ台詞を言ったかと思うと、お互いがキッと相手を睨み付ける。

 

「なんであんたはボーっとしてたのよ!?」

 

「し、知るか!貴様こそなんですぐ動かなかった!?」

 

「いや…その…!う、うるさいわね!!…自分でも分かってるわよ!…」

 

 プイッとお互いが顔を背けて黙り込んでしまい、険悪な雰囲気に包まれる。

 

「と、とにかく今はあいつらの追跡が先だって!!」

 

「ねぇテリー!未来から来たとかってどういうこと!?それに僕、あの後から記憶がないんだけど…」

 

「それはそのっ…きっと双ちゃんが混乱しすぎて覚えてないんだよ!未来は…聞き間違いじゃないのかな…?」

 

 帝里はしどろもどろに苦しい説明をするが、実際に混乱しきっている双治郎はそんな説明でも納得のいっていない顔をしながらもひとまず頷く。

 一方、羅瑠は絶対に覚えており、きっと疑問に思っているのだろうが、口をはさむことなく黙っており、こういう重要なときに空気を読んでくれる羅瑠の賢さに感謝する。

 

「取り敢えず現状をまとめると、あの源蔵って男に剛堂さんとイブがさらわれたってことだ

 …で、こっからどうするかって話だけど……まずはどこにいるか分からないし、相手は車を使ってるという……まず詰んでいる状況なんだよなぁ…」

 

 どうにか話が進んだものの、いきなり打つ手なしで帝里の顔が暗くなる。このままでは時空移動装置が直され、未来に帰られるのも時間の問題だ。

 

「…その車を追いかけるって方法なら、私に考えがあるわよ」

 

「え!?怜奈、本当に出来るのか!?」

 

「…はぁ、あんたが忘れるなって言ったじゃないの……って話をしてたら来たわね」

 

「……ふぅ、遅くなりました~…ってやっぱり姉上も一緒なのですね」

 

「お帰り、京介。超ナイスタイミングね」

 

「ん?僕の話をしてました…?

 それよりあそこの車を見てくださいよ!!とうとう買ったんですよ~!!…ってそういえばイブさんは??」

 

「お前…まじ天才的なタイミングで完璧な奴だな!!!」

 

「ちょ、いきなりなんです!?帝里さんに急に褒められるとか怖いんですけど!?」

 

 京介の車があれば源蔵の車も追うことが出来る。帝里は追跡手段が見つかったことに軽く興奮しながら、ただ狼狽える京介に簡単に状況を説明する。

 

「なるほど…あのゲンゾー、源蔵がイブさんと情音さんをさらっていったんですね……なんで情音さんも居たのか分かりませんが、とりあえず僕は僕の車でその男を追えばいいんですね!

 …フフフ、僕の愛車の初運転がカーチェイスとはテンション上がりますね!!」

 

「初心者マーク貼ってるんだから安全にな!!?」

 

 一応、羅瑠も双治郎も免許を持っているそうなので、最悪の場合、運転を代わってもらうとして、これで追跡手段は確保できた。

 

「あとは源蔵の居場所だけ分かれば、すぐに行けるんだが……まじでどこにいるか分からないんだよな…」

 

「…それについては、今度は私が解決してやろう」

 

 帝里が頭を抱えていたところに、羅瑠が手を挙げ、皆の注目が集まる。

 

「…まさかっ…剛堂さんにGPSでも付けてるんじゃないよね!?」

 

「誰も付けてないわ!ちゃんと今、閃いた妙策だ!!

 …というか、お前こそイブに付けてないのか…?」

 

「そんなの付けませんよ……怜奈、付けてないからね!?」

 

 羅瑠の話を聞いて、とっさに胸につけたペンダントを握った怜奈に念を押しておく。

 

「…じゃあ一体どうすんですか…??」


 羅瑠が何を考えているのかさっぱり分からず、だた首を傾げるだけの帝里に羅瑠がニタリと笑う。

 

「ふふふ、お前が忘れるなと言ったんじゃないか、と私も言っておこうかな。

 さて入多奈、やっと始めようか!

 実況サークルの実況スタートだ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ