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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
3章 思い描いた大学生活は程遠くて…
27/58

修羅場

※前回のあらすじ

何とか玲奈と情音、羅瑠(?)とデートを終わらせた帝里。

多忙の3日を終え、ほっと一息をつきながら、羅瑠とたまたま二人だけでくつろいでいたら、そこに剛堂さんが現れて……



「テリーくんと羅瑠ちゃん…一体どういうことなの…?」


「ご、剛堂さん…!?」


 急に表れた剛堂さんに仰天しながらも、慌てて事情を説明しようと帝里は立ち上がるが、情音は顔を青ざめながら後退りする。


「二人で仲良く肩を寄せあって……もしかして―!」


「違うよ!剛堂さん!!」


 情音の言葉を掻き消すように、帝里は大声をあげる。

 その勘違いを絶対に口に出させてはいけない。そう思ってすぐに否定した帝里だが、何から話せば良いのか分からなくて、ただ口が動くだけで次の言葉が出てこない。


「テリーくん…!?」


「待って!違うくて…そのっ!」


「落ち着け二人とも。今日は双治郎と合わせて三人で遊んでいただけだ」


「羅瑠先輩…?」


「さっきのは入多奈をからかっていただけだ。それぐらいでいちいち反応するな、よっ!」


「きゃっ!?」


 羅瑠が情音の目の前に立ったかと思うと、急に羅瑠が情音のおでこを指で突き飛ばす。

 羅瑠の突発的な行動に情音はおでこを押さえながら目をパチクリさせるが、そのおかげか興奮が収まったようだ。


「…じゃあ二人でデートしていたわけじゃないのね…?」


「あぁ双治郎は今飲み物を買いに行っているだけだ」


「なるほど…というか、私誘われてないんだけど~?」


「え、いや!?ほら!二日連続で出かけるのもしんどいかなって!!」


「テリーくんは来ているのに?ずるいよー」


「まぁまぁそう入多奈をいじめてやるな、昨日は二人で楽しんだんだろう?」


「「…あ…!」」


 羅瑠の話で帝里と情音は昨日この場所であった出来事を思い出し、二人とも顔を赤らめて俯いてしまう。

 改めて見ると、剛堂さんが来ている服装は昨日帝里が選んだもので、昨日の出来事や会話が鮮明に蘇る。

 剛堂さん髪の色を元に戻しているということは、昨日のことを覚えているということであり、帝里は恥ずかしさで情音の顔が直視できない。


「フッ、やはり昨日何かあったようだな」


「うるさいっ!…ていうか何か意外だな。羅瑠先輩ならもっとこう、デートしてたーとか言って修羅場っぽくしてくると思った」


「ふん、私だって時と場合は選ぶ。私にとっても大事な存在の情音が傷つくようなことなど絶対せん」


「そんな大事にしていない存在なら面倒なことにするのかよ…」


 帝里はふと、それに該当しそうな人物を思い浮かび、慌てて消す。

 こういうのがフラグになってしまったらたまったものではない。今出てきてこられたら、話がややこしくなるに間違いないだろう。

まぁ、あの天性の引き籠りに限って、外出しているということがあるわけがないと思うのだが。

 と、帝里はそう考え、まずは落ち着こうと息を整えていたのだが…


「…帝里!!」


「…れ、玲奈…!?」


 その玲奈が家から出てきてしまったようである。


「え、な、なんで!?」


 帝里と同じように玲奈の登場に呆然とする情音と羅瑠には目もくれず、帝里のもとに息を切らせて駆け寄って来ると、いきなり帝里の肩に掴みかかってくる。


「…ハァハァ…あんた大丈夫!!?怪我はない!?」


「え、いや、双ちゃんに蹴飛ばされて気絶してたけど、一応元気だよ…?」


 帝里が戸惑いながら答えている間も玲奈は帝里の周りを回りながら、帝里の体を入念にジロジロと眺める。


「……うん、何とも無いようね!!いや~焦ったわ!京介に電話しても、あんたが近くに居ないって言うから、急いで探したんだからね!……ん?」


 帝里の無事を確認し、ほっとした表情でゆっくり帝里から離れる玲奈は初めて他の二人に気づいたようだで、羅瑠と目が合ったまま、固まる。


「あんたが…なんでここにいるのよ…?」


「ん?あぁ、今日は入多奈とデート!していた」


「ちょっおぉぉぉい!!?」


 剛堂さんの目の前で平然と言い放つ羅瑠の肩を揺さぶる。せっかく剛堂さんが納得しかけていたのに、これで台無しだ。


「剛堂さん、あのねっ、ほ、ほんとうに違うから!」


「あ、うん、もう分かったよ」


 落ち着いた返答で逆に不安になるが、どうやら羅瑠と長く付き合っているからか、羅瑠の扱いに慣れているようで、剛堂さんには全く動揺は見られず、しっかり理解したようだ。


「はぁぁ!!?な、なんであんたが!!?一番あり得ないわよ!!」


「いやぁ?今日だって帝里の服を選んでやったしなぁ」


「ちょ!?なんで下の名前で呼んでるの!?」


 一方、羅瑠の扱いに慣れてない玲奈はまんまと羅瑠に弄ばれる。

 しかし、帝里もまた事情を説明するのが面倒だし、こっちはこっちでいつもの光景なので放っておくことにする。



「…あれー?玲奈さんに情音ちゃん…?どうしたの??」


「…はぁ、少し私が目を離した隙に、どうして面倒そうなことになっているのですか…」


 そうこうしていると、飲み物を買ってきた双治郎とイブが帰ってくる。


「あんたたちまで…なんで全員集まっているの!?」


「いや、お前の弟忘れんな。だから今日は双ちゃんと羅瑠先輩と出かけていたんだよ」


「そういうことか!!羅瑠とデートとか、なんかおかしいと思ったわ!……あ、…そういえば、『双ちゃんがー』とかさっきあんた言ってたわね……」


 ようやく現状を把握した玲奈が、ぐったりとイスに座り込む。


「むっちゃ疲れた…なら、さっさと説明しなさいよ」


「一応言っていたことは事実だったし、どうせ双ちゃん来たら分かることだしな。まずお前が騒ぎすぎなんだよ」


「いや、いくらデートではないとはいえ、私と二人で出かけた後に他の奴と出かけられたら、さすがに腹立つわ!!」


「…え、ちょっと待って、どういうこと?…」


 情音が話を遮ってきて、ピタリと場の空気が止まる。…すごく嫌な予感がする。


「二人で出かけたってことは、まさか玲奈ちゃんも…!テリーくん…」

「も?……おい、ちょっと帝里!?…」

「「一体どういうこと!!!」」


「うぐ…その、すいません……」


 二人に詰め寄られて、思わずたじろぐ。さっきの嫌な予感が見事に的中しまい、頭を抱え込みたくなる。


「なんでこんなことになったのよ!?」


「いや皆が強引に決めてきたんだろ…」


「テリーくん!さすがにこれはひどいよ!!」


 二人に問い詰められて、帝里は救いを求めるように羅瑠の方を見る。


「ん?私は関係の無い第三者だぞ?二人にデート対象外と認められたし」


「ずるっ!!先輩の言うことなんか聞かず、始めから隠さなければ良かったんだよ!」


「おいおい勝手に人のせいにするなよ~」


 羅瑠に涼しそうな顔で知らん振りをして、この現状を楽しむつもりですらいるようである。


「ちょっとテリー!!」


 頬を膨らませて怒っている双治郎が帝里の前に立ちはだかる。


「情音ちゃんだけでなく玲奈さんとまでデートして!!節操がなさすぎるよ!!」


「そうだそうだ、やーい、女たらし!」


「羅瑠先輩まじで怒るよ!!?」


 目の前の双治郎に怒られているところに、その隣で羅瑠が今日の仕返しのつもりか、ここぞとばかりにちょっかいを出してきて、身動きがとれない。


「…ふ、ふーんだ!私なんかこの髪型の私が好きって昨日テリーくん言ってくれたもんね!」


「だーかーらー!私は帝里が好きとか、そんなこと言われたってお門違いだって言ってんだろ!!」


「ちょ、ちょっと落ち着いて!エ、エル様~…」


 向こうでは玲奈と情音が言い争い始めたようで、いよいよ全く収集がつかなくなっていく。


「おい入多奈、このままではサークル初の動画投稿をする前に解散するぞ。なんとかしろ」


「おまいうッ!!?もう!…じゃあ双ちゃんを丸投げしますからね!」


「…は!?」


「あっ!待てテリー!!…二人のところなら仕方がないか…

 それより先輩!!一体これはどういうこと!?知っていたんでしょ!?」


「あ、いやっ、落ち着け双治郎っ……」


 良い感じに双治郎の矛先が羅瑠に向き、羅瑠が狼狽しているのをよそ目に、帝里はイブ達のところに向かう。


「私なんか昨日デートしましたもんね!!玲奈ちゃんのはデートじゃないんでしょ!」


「うっさいわね!!男と女が二人っきりで出かけたら、もうそれはデートよ!!」


「いやそれは他人から言われるセリフだろ……

なぁ玲奈、俺のことどうでも良いって言うくせに、なんで剛堂さんと争うんだ?」


「別に争ってないわよ!ただこいつが突っかかってくるだけよ!」


「そんなことないよ!玲奈ちゃんだって謎の自慢をしてくるじゃない!」


「はぁ!?そんなこと言ってないし!!」


「…と、さっきからこのように…もういつも通り争っているんですよ…」


 イブが呆れたようにため息をつく。


「私だってテリーくんの好きな食べ物とか知っているもん!!」


「一緒に住んでいるんだからそれくらい知ってるわ!むしろ今のあんたは知らないことばかりなのよ!!実況とか秘密とか!」


「うぐぐ……」


 どうやら玲奈が優勢のようで、玲奈が得意げに胸を張る。

 止めないといけない立場の帝里なのだが、剛堂さんが負けた感じで終わるのもなんか嫌なので、二人には少し悪いが、もう少し観戦を続けることにする。


「テリーくんの好み!」


「メイドと幼女とハーフエルフ、その他諸々」


「ちょっとぉ!!?」


「あとフィギュア体型も追加しておいてください」


「イブまで!?」


「ふぇ!?…て、テリーくんの…テリーくんの…!」


「ふふん、どうやらもうネタ切れのようね!クスクスッ」


「べ、別にいいもん!大事なのは一緒に居た時間だもん!

 少し離れていたこともあったけど、私はテリーくんを4年前から知っているんだからね!!」


「ふん、そんなの私だって7年前から知っているからむしろあんたの方が…あっ」


「………7年前…??」


 玲奈の言葉に思わず帝里が首を傾げると、玲奈は気まずそうに顔を背ける。


「それってどういうことだよ…」


「…い、勢いで、て、適当に言っただけよ…」


 しかし目を泳がせて答える玲奈の様子はさっき本当のことを言っていたように帝里には思えてならない。

 ということは玲奈の話が本当だとすると、7年前に帝里は玲奈と会ったことがあるのだろうか。遡ると大体、小・中学生のころになるのだが、そのころのことを帝里は全く覚えていない。

 なにせ、帝里には異世界帰還の法則と勝手に名付けた、周りと5年のブランクがあるせいで、もう10年以上前のことに感じるのだ。


「そんなの、かなりインパクトのあることしてなきゃ-…ん?…あーーっ!!まさかっお前っ!!」


「…!…-ッ!!」


「っておいっ!?ちょっと待て!逃げるな!!」


 何かを思い出した帝里の顔を見た玲奈が一目散に逃げ出し、帝里が慌てて追いかける。


「ちょっとエル様!!?…はぁ、やっと気づきましたか…まぁ、あの話は二人きりで話し合った方が-って羅瑠様!!?」


 怒る双治郎をどうにかなだめて、さっきから玲奈達の争いを双治郎と静観していた羅瑠が何も言わずに、いきなり帝里と玲奈を追って走り出す。


「…羅瑠様が行くと話がややこしくなる予感がするのですが…向こうに任せましょう。さて、残された情音様と双治郎様には申し訳ないですが――きゃっ!?」


 話に収拾をつけようとした矢先、イブはいきなりその小さな体を強引に捕まえられて、軽い悲鳴を上げる。


「うぐっ…情音様…!?ちょっと…もう!今はふざけないで下さいよ…!」


「………」


「情音様…?」


 イブは情音から普段と違う異様な雰囲気を感じ、情音の顔をのぞき込んだ瞬間、情音が見たことのないような狂喜の表情を浮かべる。


「やっと…やっとやっと捕まえた!火力姫!!」



=======================================



「ちょっと待てって!玲奈!!」


 しかし玲奈は振り向きもせずに、必死に逃げる。


「はぁはぁ…逃げるなって…言ってるだろ!!」


 走りながら伸ばした手がようやく逃げる玲奈の腕を捉える。


「お前っ…ハァハァ…チーちゃんだろ!!?」


「………は???」


「だから…幼稚園のときに結婚の約束をした-」


「…誰だよ!?チーちゃんって一文字も合ってないわ!!?」


「いや、千恵羽だからチーちゃんかなって…」


「なぜ名字……はぁ、もういい…なんか走るだけ疲れて損したわ……」


 予想が見事に外れて、首を傾げる帝里を見て玲奈がため息をつく。


「第一、なんで幼稚園まで遡ってんのよ。7年前って言ったはずだけど」


「あ、確かに…でも7年前は認めるんだな。俺らどっかで会ったっけ?」


「……ううん、たいした事じゃないわ。別に覚えてないならどうでも良いわよ。…それより…」


 やっと息が整ってきた玲奈が真っ直ぐ帝里の目を見つめる。


「情音とどうするの?」


「どうするのって…?」


「だから…お互いに好きって言うことが分かってるじゃない。しかもさっき告白じみたことされたって情音も言ってたし。付き合うの?」


「……」


「…前から言ってるけど、私はあんたが誰と付き合おうが別にどうでも良いわ。むしろ今まで変なことに巻き込まれ過ぎてたぐらいから正常に戻れて良いんじゃない?」


「えらく親切にしてくれるんだな」


「別に…ただ私はあんたの行く末を知りたいだけよ。で、どうするの?」


 改めて問い質され、帝里は自分の気持ちについて考えてみる。好きだった剛堂さんからやっと好きだと言ってもらえた。


 なら付き合うのか?そんな単純に済む話なのか?世界を相手にするつもりである以上、剛堂さんを危険に巻き込んでしまうのではないのか。

 ならもう諦めて平凡に生きるのか?玲奈の言うように異世界に行っていたせいで非日常に慣れてしまっているだけで、こんな夢物語から目を覚ますべきなのかも知れない。

 でもそうなってくると、じゃあイブは……話がどんどん複雑になってこんがらがってくる。


「……分かんない。今の俺にはすぐに決められない。…でも今のままじゃなくなるだろうな…」


「…意気地なし。まぁそんなもんなのかねぇ…せいぜい頑張りなさいよ」


 答えが出ずに悩む帝里を見て玲奈は慰めるように少し笑ってみせる。


「じゃあ戻りますか」


「……ハァ…ハァハァ…あ、いた!!」


 話に一段落がつき、放ったらかしにしてしまっている情音達のところに帰ろうと歩き出したところ、向こう羅瑠が走ってやってくる。


「げっ、面倒なのが来た…帝里、行くわよ」


「おい、待てって!?…ふぅ、やっと追いついた…で、入多奈、玲奈のは分かったのか?」


「え?いや別に…」


「何で聞かない!!?こういうのは後々面倒になるぞ!?」


「ならないわよ!!部外者は黙ってろ!」


 玲奈は吐き捨てるように言うと、くるりと背を向けて歩き出す。どうやら本当に話したくないらしく、そのことを全く思い出せないのが少し申し訳ない。


「それを言うなら入多奈と情音のことはお前も部外者だろ?なぜ情音に噛みつく?」


「あんたはどうやっても私が帝里のことを好きってことにしたいようね…あんた情音の味方じゃないの?」


「あぁ、こんな男に情音は渡さん。情音がいつか不幸になる」


「そっち!?…やっぱそうなのかな…」


 さっき考えた様々な事を思い出してしまい、帝里は少し憂鬱になる。


「あんたは流されるな!羅瑠も帝里の邪魔をするな!」


「ほぅ、よく言うな。さっきまで幼なじみポジションを狙っていたくせに」


「だからっ…!ぬあぁ、腹立つ!帝里、前言撤回!こいつとだけは付き合うのは認めないわ!!」


「安心しろ、それはない。」


 しかし玲奈と羅瑠の言い合いは止まらず、ギャーギャー言いながら帝里の前を歩いていく。

 そんな二人を眺めながら、帝里達を待っているであろう剛堂さんのことを思い浮かべる。

 剛堂さんとどうなりたいか、そう玲奈に聞かれて色々考えてしまったせいで、どういう顔で剛堂さんと会えば良いか分からない。結局、帝里自身の気持ちも漠然としすぎて何も分からなくなってきている。



「…と言いつつも実は……ってさっきからなんか騒がしいな。なんかあったのか…?」


 玲奈とまだ言い合っていた羅瑠が急に話を中断したことで、考えに耽っていた帝里もようやくその喧騒さに気づく。


「……この声は…イブ…?」


 ガシャン、ガシャンと騒がしく金属がぶつかる音の中に、イブの声が混じっていることに気づき、帝里は眉をひそめる。

 事態は飲み込めないが、とにかくイブや情音に何かあったことには違いなく、帝里達は音のする方に駆け出す。


「くそっ!今日は一体どうなっているんだよ…ッ!」


 双治郎も魔法の使えるイブもいるので無事ではあると思いつつも、不安が拭いきれない。

 時間短縮のために道の脇の藪を一気に突っ切り、さっき居た辺りの場所に飛び出す。しかし視界が開けた瞬間、思わぬ光景が目に飛び込んでくる。


「…ハァハァ……剛堂さん…?」


 20mほど離れた所に3人はいた。そしてなぜか剛堂さんがイブを檻の中に入れて、嬉しそうに檻を眺めている。イブは檻から出ようと必死に檻を揺らしており、双治郎はただオロオロと二人の様子に戸惑っている。


「これは一体………剛堂さん…なんでイブを檻の中に入れてるの…?」


「……もう戻ってきたのですか、エルクウェル」


 剛堂さんとは思えないほど無表情な声に帝里は思わずひるむ。一体何が起こっているのかさっぱり分からない。


「エル様!!こいつは情音様ではありません!!」


「いや、どっからどうみても…」


「情音様ではあります。多分誰かに操られているのです!!」


「…は?いやいや…」


 ここが異世界じゃあるまいし、操られているなんて話あるわけない。そう否定しようとしたとき、帝里の頭に嫌な予感が走る。


 剛堂さんが変わったというのはちょうど半年前だったはず。半年といえば、帝里がちょうど千恵羽家にお世話になり始めたときで、確かそのとき……


「いや、まさか…あいつは諦めて未来に…」


「ちゃんと話すべきでした…ここまで私に執着してくるとは…」


「いや、剛堂さんから魔力は全く感じら――」


 そう呟いた瞬間、情音のそばの茂みがガサリと鳴る。そして出てきたのは、真っ黒な装束能に黒い布で顔を覆い隠した人物。


「剛堂さんの執事…なんでここに…」


「……まぁそうなりますよね。はやくここから出しなさい!!」


「それは困りますよ、火力姫。あなたを捕まえるために半年も費やしたのですから」


 檻を叩いて威嚇するイブをあざ笑うかのように言い放つと、情音の横に立ち、ハラリと顔の前の布を取る。


「自己紹介はまだしていませんでしたね、かの英雄エルクウェル、」


 表れた顔は40代ぐらいの少し穏やかそうな顔つきの男。もちろん初めて見る顔なのだが、前に数度、しっかり会っていると体全身で感じる。


「わたしの名前は源蔵(ゲンゾー)、未来で魔法を取り纏める機関、魔法局に所属しております。

 このたびは世界平和のためにこの、メネラウシア=ティア=イブをいただきに参りました」


 源蔵という男はニタリと不敵に笑いながら、丁寧な口調で言い放ったのであった。


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