デート♪with帝里
※改稿について
脱字を修正しました。内容に変更はございません。
ゴールデンウィークも最終日。今日は雲一つない晴天で、最後の休日に多くの人が思い思いに過ごすなか、帝里は今日も今日とてデートである。
デートも今日で3日目、残る最後のデートは-
“エル様急いでください!!遅刻しますよ!!”
「そんなの分かってるから!…ゼェ…ゼェ…まじでその羽よこせ!…」
…慌ただしく始まるようである。
約束の時間の10時まであと1分。最後の角をインコースすれすれで曲がって、見えた待ち合わせ場所に我武者羅に走る。
「-ゴーール!!よし!約束まであと10秒、セーフ!!」
「セーフ、じゃないぞ!どれだけ私を待たせるのだ」
息絶え絶えに顔を上げると、こちらを睨む羅瑠が両腕を組んで突っ立っている。
「先に来ていたんですか」
「いやむしろデートなら約束の10秒前じゃなく、普通10分前には来いよ。まさか前の二人も待たせてないだろうな?」
「いや、昨日まではちゃんとそうしてましたよ!」
「なんだ、私だから遅れたというのか?…さすがに私泣くぞ」
「違いますって!双ちゃんも遅れるって言ってたし、それに…ちょっと昨日寝付けなくて寝坊して……」
昨日の晩、情音に言ったことを思い出しまい、悶々としてなかなか寝つけず、そのせいで寝坊したのである。ちなみに、今日は車を取りに行くという設定で一緒に出かけた京介は玄関を出てすぐに捨ててきた。
「その面白そうな話はまた後で聞くとして、今日はどこに行くんだ?」
「絶対に教えませんし、場所は羅瑠先輩達で決めて下さいよ。俺はデート3日目でネタがもうないんです!」
「また妙にメタイことを…せっかくの私とのデートなのだからしっかりしろよ!!」
「よく言いますよ。ほんとは双ちゃんと遊びたいだけのくせに」
「なっ!!?」
「え、ほんとに…じゃなくて、へへん!やっぱりか!!いつも双ちゃんには甘いし、それになにより、今回のデートも双ちゃんが来るって言った瞬間から妙に張り切っていたし、バレバレなんですよ!!」
狼狽える羅瑠に帝里は誇らしげに語っているが、帝里がそんなことに気づくほど恋愛に敏感なはずもなく、こちらも話は単純、ただイブが気づいただけである。
「貴様ッ…!もし双治郎に言ったらお前のことを情音に言うからな!?」
「ざんねーん!昨日もう言っちゃいました~!……あ」
「…へぇ、そんなことがあったのか」
慌てていた羅瑠がにやりと笑い、形勢が一気に逆転する。
「失恋話なら私が受け止めてあげるぞ!」
「よけいなお世話だよ!!!ったく、話そらさないで下さいよ!それに別に双ちゃんとかに言わないですから落ち着きましょ…」
やはり相手が悪いと判断した帝里はすぐさま手を引く。これも異世界で生き延びる処世術。
「ってことで俺目的じゃないですし、帰っていいですよね!動画の編集も残ってますし!ゴールデンウィークに一本も動画出さないのはまずいし!!じゃ、頑張って下さい!!」
「…………待て」
帝里なりに気を利かせて帰ろうとしたのだが、羅瑠に腕を引っ張られて止められる。
「…一応だがお前にも用はあった。それに…双治郎と二人きりとか…恥ずかくて、緊張して無理なの…頼むから残って…」
いつも強気な羅瑠が目を潤ませてすがってくる姿に帝里は不覚にもそのギャップにドキリとしてしまう。
「し、仕方がないですね!言っときますけど、俺全然フォローとか出来ませんからね!?」
“エル様、チョロい…”
「うっせぇ!……じゃあ、その双ちゃんもまだ来ないですし、俺に用って言ってたやつ、先に片付けますか
それって実況サークルの実況の内容でしょ?」
「ん?…あぁそんな感じだ」
「まだ双ちゃん来てないのにボーっとしないでくださいよ……で、どんな内容か決まったんですか!?」
「いや…何というか…実況を始めるには今更?って感じだし、やるならこう、誰もしていない、でかいことしないといけないし、そう考えると本当にやるのか?と思い始めた」
「言い出しっぺが何言ってるんですか!!?ちょっと!俺の実況を楽にするためにも頑張って下さいよ!!」
「ゲスイな…でも、結局は自分で動画投稿続けないといけないと思うぞ?」
「なんで!?」
「お前、玲奈に借金してるそうじゃないか。実況サークルの収入は実況サークルのサークル費に全部まわすから、バイトでも始めない限り、投稿して返金するしかなくなるぞ?」
「うぐぅ…まじか…」
羅瑠は帝里がもう1つアカウントを持っていることを知らないのだが、収入がないのに返金していてはきっと怪しまれるし、なにより玲奈は死ぬまでに返せば良いと言ってくれているものの、帝里だって早く返したい。
「しかし、玲奈とそんな経緯があったとはな
そうだ!!私が借金肩代わりしてやるからうちに来い!利子-5%にしてやろう!」
「まさかの減っていくの!?…って、玲奈にちょっかい出したいだけでしょ…まず、けっこう多額なんですよ?」
「あぁ知ってる。何をどうしたらあんな借金作るんだ…」
「それは聞かないで……っえ!?俺の借金の額知ってて払えるって、まさかっ羅瑠先輩…っ!?」
「あぁこう見えて私はイギリス人ハーフだぞ」
「金持ちの代名詞みたく言うなっ!!…ったく、羅瑠先輩もお嬢様かよ。てか全然ハーフに見えませんね」
「うむ、母の日本人の血が濃く受け継いだらしい」
思い返せば、部室にいつの間にか高価な実況機材が設置されていたが、あれは羅瑠が自費で買ってきたものだったらしい。
「なんか俺の周りだけ金持ち多くね?」
「なんだ、お前知らないのか?うちの大学は金持ちどもが嫁婿を見つけるため来るとわりと有名だぞ?」
「えぇそうなの!じゃあ俺みたいな庶民ってめっちゃレア!?庶民サンプルってやつか!!」
「いや双治郎がいるだろ…言い方は悪いが普通の人も普通にたくさんいるぞ?
それにこのくらいのレベルの大学なら、お前の言う庶民でも十分有能な人も多いから、会社を任せたり、逆に自分の子を支えたりしてほしいと考えている親も多いし、全然そんなの気にしなくても良いぞ」
「ふーん、そんなうまくいくものですかね」
「さあ?でも実例はここにあるじゃないか。2つも」
自分の好きな人が打ち明けられたからか、少し大胆に自分の気持ちを表してくる羅瑠を帝里は新鮮に感じながら、入学してほんと今更だが、他にも自分の大学について羅瑠から教えてもらう。
「おーい!!ハァハァ…待たせてごめんね!!」
そうこうしていると、双治郎が20分遅れてやってきた。
「いやいや今日は双ちゃんがいないと始まら-いたっい!」
羅瑠に足を思いっきり踏まれて、思わず帝里は声を上げる。いつもの仕返しに少しからかったつもりが羅瑠に本気で睨まれて、あまりの羅瑠の必死ぶりについ気圧される。
「…っと、確か聖剣部の朝練だったか。なんか忙しいのに誘って悪かったな。聖剣戦の日本代表決定戦も近いのだろ?」
「ううん、全然大丈夫ですよ!……むしろそこのテリーが練習に来ないのが問題ですけど
ちょっとテリー、サークルはともかく、部活はしっかり来てもらわないと困るのだけど!!」
「いや入ったら目的達成っていうか、聖剣戦にも出る気ないし」
「ええ!?僕とやろうよ、テリー!」
確かに理由があって入ったものの、実際に帝里が聖剣部員として練習に励むつもりは全くない。それでなくとも、双治郎に帝里の本当の強さがバレそうなので関わりたくない。
「そういえば、今日はイブちゃん連れてきていないんだね!」
「確かにそういえばそうだな……どうしたんだ?」
「え!?あぁ!今日は調子が悪かったから家に置いてきたの!!」
もうイブのことを双治郎と羅瑠に隠す必要はないと思うのだが、イブがかたくなに嫌がるので、仕方なく黙っていることにする。
「そう…イブちゃん何もないといいね!で先輩、今日はどこ行くの?」
「それがまだ決めてなくてだな…双治郎は行きたい所あるか?」
「ぼくは…一応あるけど、先輩は見ていて楽しくないと思うよ?」
「いや私も入多奈も場所が決まらなくて困ってたし、まずそこに行ってみよう。入多奈もそれでいいな?」
「ええ俺はどこでもいいですよ」
相変わらず双ちゃんには甘いなと帝里は笑いながら頷く。今日は羅瑠と双治郎のデートと思っているので、帝里は口を出す気は毛頭なく、のんびり楽しむつもりだ。
「まぁ双治郎だし変なところにも連れて行かないだろうし、今日はほんとにアシストに回りますか
イブもこんな感じだったのかな」
昨日、一昨日とはまた違ったデートに帝里は少しわくわくしながら、双治郎と羅瑠の後に着いていくのであった。
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「おぅ…まじか……」
連れてこられた場所で帝里が思わず声を上げる。
それもそのはず、双治郎に連れて来られた店がもはや店員と顔馴染みになりつつある、昨日一昨日と同じ洋服店なのである。
まさか男の双治郎がまたまたこの店を選ぶとは思わず、つい尻込みしてしまう。
「双ちゃん……いや、大学生だからむしろ普通なのか!?やっぱオシャレって大事なのか!?」
「テリーは一体どこ見て言ってるの??お店はお向かいのこっちだよ!」
「あれ?…あ、ごめん。つい先入観でこっちだと思ったわ」
「…なるほど、入多奈は二人とこの店に行ったんだな」
ニヤニヤとこちらを見てくる羅瑠を無視しながら、今度こそ双治郎の行きたい店の方を向く。
「あ……うん、双ちゃんらしいね」
店の店頭には大きな刀が立てかけられ、入り口に筆で書いたような字で「聖剣店」と大きく書かれた暖簾がかかったお店、そう、刀や防具など、様々なものが売られている聖剣戦専門店である。
「…やっぱり先輩は連れてこられても困るよね…」
「そ、そんなことないぞ!!さっそく入ってみよう!」
あまりにも得体の知れないお店に帝里でさえも躊躇しているなか、羅瑠が勇敢にも暖簾をくぐって中に入る。
「……ほぉ、刀がたくさんあるな。竹刀に…お、双治郎、これは真剣か?」
「違うよ、先輩!それは竹光。真剣はもっと店の奥側に売られているよ!!」
「おーい、二人で先々進むなよ、うおっ!すげえ刀の数」
遅れて入ってきた帝里も品数の多さに驚嘆の声を上げる。
前にも言ったように聖剣戦、聖銃戦という世界大会が出来たのと、日本政府が武器の所持を認めたのも相まってか、刀や銃が一躍大人気となり、今ではどこでも大繁盛らしい。
「でねでね先輩!!この袴、龍が織り込まれていて格好良くない!!?
あ、この刀新しく入ったものだ!見て先輩!ここが刃紋って言ってね-……」
双治郎が興奮しながら店を練り歩くのを、羅瑠が話を真面目に聞きながら付いていく二人の目を盗んで帝里はその場からこっそり立ち去る。
「いくらなんでも双ちゃんの刀トークに付き合わなくても…ほんと女の純情って素晴らしいな」
帝里は変なことに感心しながら、一人で店の中をうろつきながら、適当に聖剣戦に使うという道具を見ていく。
やる気はあまりないとはいえ、部長としての双治郎の面目もあるだろうし、そろそろ道具も借りっぱなしじゃなくて、自分の物を買うべきだろう。
それにきっと双治郎がここを選んだのは、もちろん自分が来たかったというのもあるだろうが、帝里に用具を買わせたかったに違いない。
「うーん、ちょっとこれだと明るい気がする……もっと落ち着いた色のないかな…」
「これとかお前に似合うんじゃないか?色が薄い気がするが」
「うおっ…って羅瑠先輩。双ちゃんと一緒に居たんじゃ…」
「いや貴様、いきなり二人っきりにするなよ!!気づいた時、緊張で心臓が止まるかと思ったぞ」
「いや、その方が良いかなって思ったんで…」
「そんな気遣い要らん…さて、お前の服は私が選んでやろう。どうせ二人の服を選んでばかりだったのだろう?」
せっかくの申し出なので素直に受け入れ、羅瑠に服を選んでもらう。
「へ~羅瑠先輩って黒っぽい感じのが好きなんですね……実は双ちゃんに着て欲しかったとか?」
「お前…言わないと言っていたくせに…」
「だって羅瑠先輩を弄れるなんて珍しいですもん、って痛い痛い!!」
怒った羅瑠に足を蹴られまくられて帝里は笑いながら逃げる。
「くそっ!……!…まぁいい、とりあえず私の選んだ服を試着してみろ」
「うぉ、ちょっ!急に引っ張らないで!」
羅瑠に引っ張られて、強引に試着室の前まで連れて来られる。
「そんなに似合ってるか気になります?」
「良いから着てみろって」
帝里の背中を押す羅瑠の顔がニヤニヤとしているのが気になるが、言われた通り試着しようと、試着室のカーテンを開ける。
「まさか、なんか服の中にでも仕込んでたりするの-」
「わぁ!て、て、テリー!!?」
カーテンを開けると、なんと着替え途中でパンツ一丁姿の双治郎がいて、双治郎も開けた帝里も驚く。
しかし、焦る必要はない。いくら女に見える双治郎とはいえ中身は男、別に上が隠れてなくてもなんの問題もない。相手が男だから、やましさもないし、双治郎の体を見ても何も感じない。しかし、聖剣戦日本代表のわりには腕が細く、体のラインもスラリと華奢でもし女だったら、なかなかの――
「ジロジロ見るなぁ!!」
顔を真っ赤にした双治郎が体を隠そうとすると同時に飛んできた双治郎の回し蹴りが帝里の腹部に直撃する。
…これはやばい
「げふぅぅ!!?--ぐはぁ!」
全力の回し蹴りを食らい、帝里は受け身もとれずにぶっ飛ばされる。回し蹴りには無意識に魔力が乗ったようで、全く手加減がなく、久しぶりの本気の攻撃に帝里は痛みで立ち上がれない。
「そ…双ちゃん…ゲホッ…なにも蹴飛ばさなくても……」
「だって何かテリーの目がいやらしかったもん!!そういう目で見られるにが嫌っていつも言ってるでしょ!!悪いのはテリーだからね、もう知らない!!!」
双治郎が怒ってカーテンを閉めるが、全くの正論に帝里は何も言い返せない。
「…うっ…やべ、意識が…」
帝里の魔力が弱い今、まともに双治郎の蹴りを食らってしまい、激痛でだんだん意識が薄れていく。
「ふふふ、けっこういいダメージが入ったようだな」
頭の上で声が聞こえて目を開けると、ご満悦そうな顔をした羅瑠が双治郎の靴を手にぶら下げながら立っている。
「私がやっても全然応えてなかったようだからな。日本代表様の力を借りて仕返ししてみた」
「にゃろぉ…はかりやがったな…」
「まぁそう睨むな。完璧なラノベ展開を体験出来たではないか!」
「相手が男とか…聞いてねえよ……うっ…」
「あ、気絶した」
羅瑠が帝里の顔をのぞき込むが、完全に伸びてしまっている。
外の騒動を聞いてさすがに気まずく感じたのか、試着室から双治郎も顔を出す。
「ちょっとやり過ぎたかな……」
「いやナイスな蹴りだったぞ。…さて、予想外だったが入多奈が無防備になったし、ちょうど良い…」
双治郎が心配するなか、羅瑠が不敵な笑みを浮かべながら、帝里に手を伸ばす。
「ッ!!!?」
羅瑠が帝里に触れた瞬間、何かに驚いた羅瑠が急に手を引っ込める。
「羅瑠先輩どうしたの!?」
「い、いや…その…なんか急に静電気が…」
「もう何やっているんですか!!もう僕が…」
「うおぉぉぉい!?まずは服を着ろ!!」
双治郎と羅瑠は慌てふためくばかりで、一向に帝里の対処が決まらない。
「す、すぐ着替え終わらせるからそれまで店員さんに…!!」
「二人とも落ち着いてください!!」
頭上で声がして二人が見上げると、腕を組んだイブが突っ立っている。
「イブ!?…やはりお前も居たんだな」
「ええ、まったくエル様は……ここは私がやっておくので、お二人はお買い物を済ませておいてください」
「う、うん、ありがとうイブちゃん…」
イブは二人の姿を見送ると、ハァとため息をつきながら帝里のもとに近寄る。
「周りに迷惑かけて…相変わらず調子に乗り過ぎるからこうなるんですよ!…もう、私の勇者ならもっとしっかりしてくださいよね」
むくれながらイブは帝里の頬をつつくが、イブの顔は笑っているようにも見えるのであった。
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「……んっ……つめたっ…」
目の上に冷たい物を感じ、帝里は目が覚める。
確か双治郎に蹴飛ばされて気絶したはずで、頭はガンガンと頭痛がし、腹部を蹴られたので吐きそうで、すごく気分が悪い。
「あ、エル様!やっと目が覚めましたか!」
目の上の濡れたタオルを取ると、眩しい蛍光灯の中でイブがちょこんと帝里の胸の上に座っている。
「テリー大丈夫?…ごめんちょっとやり過ぎたみたい…」
横を向くと羅瑠と双治郎が申し訳なさそうに縮こまっている。…あぁそうだ、デートについて来ている途中だった。
帝里は気絶した後さっきの聖剣店からすこし離れたデパートのソファーに寝かされていたらしい。二人の慌てぶりを見かねたイブが姿を現して看病してくれたようで、だいたい30分くらい気絶していたようだ。
「エル様!だからあれほど羅瑠様に言っては駄目って言ったじゃないですか!!女の子はとてもデリケートなんです!!!」
「はいはい、分かりました。…双ちゃんもなんかごめんな、あと別に俺、そっちの気ないからな?」
「ん…?よく分からないけど、とりあえず元気になって良かったよ!!
はいこれ!テリーの持ってた服と剣!この前木刀使ってたから、僕が良さそうなの選んでおいたよ!」
「おぉサンキュ!…双ちゃんは何買ったの?」
「模造刀!!前から欲しいのがあったんだけど、やっとお金が貯まったの!見て見て!ものすごく良いでしょ!?ほらこことか…」
「ちょっ!?街中で出さないで!!」
イブに水をもらって、双治郎の刀トークの相手をさせられていると、気分もすっきりと回復し、どうにか動けるようになる。
「さーて、それじゃあ気を取り直して行きますか!なんか腹減ったな…」
「お前の目覚め待ちだったというのにお前は……しかし昼ご飯なら私と双治郎はもうとったぞ」
「えぇ!!?」
「イブちゃんがテリーを看ていてくれるって言うから先に羅瑠先輩と食べてきちゃった。ほんと色々ごめんね…」
「いや、別にいいよ。あとで適当に食べるわ。それより次、どこ行く!?」
会話の中で、さりげなくイブが羅瑠と双治郎が二人きりで食事に行かせたことを聞き、イブの活躍ぶりに素直に感心する。さすがイブさん、まじパネェっす。
「テリーが寝ている間に、羅瑠先輩と相談していたんだけど、なかなか決まらなくてね…そしたらイブちゃんが…」
「海遊館!!海遊館に行きたいです!!」
「お前がリクエストするんかい!」
「しかし私たちも場所が決まらんし……せっかくイブも来たんだし、海遊館で良いんじゃないか?」
「羅瑠先輩が良いって言うならいいですけど…」
今日は羅瑠と双治郎のデートの補助と決め込んでいるので、どこに連れて行かれても良いが、二人が決めなくても良いのだろうか。確かに海遊館はデートで人気のスポットだろうが、少し狙いすぎている感が否めないし、双治郎だって気づくのではないだろうか。
「いや、むしろ双ちゃん鈍感そうだしそれぐらいの方が良いのかも知れないな…
よし!海遊館にいこう!!」
こうして、次の目的地が海遊館と決まり、移動し始めたのだが、帝里にはどうしても腑に落ちないことがある。
「なぁイブ、なんで海遊館なんだ??遊べる遊園地の方が盛り上がるし、同じ見物なら動物園だってデートの王道だろ」
「ああ、それはですね…」
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「うわぁー!!あの魚むっちゃきれい!!ほらほら!羅瑠先輩、あそこだよ!!」
「おぉほんとだな!……おい、入多奈は!!?」
「え…?あれ、いつの間にか居なくなってる!?…でも暗くてどこに居るか分かんないよ…」
「入多奈とイブめ…だから変な気を遣うなって言ってるだろッ…!!」
「と、こんな感じで上手くはぐれることが出来るからです!!」
「お前天才!?…はぐれるというか隠れるだけど」
キョロキョロと周りを探す羅瑠と双治郎の二人をイブと一緒に物陰に隠れながら見ている帝里がつぶやく。
「遊園地はエル様と双治郎様がはしゃいで台無しになりそうですし、動物園は今日みたいな晴天だと日差しが鬱陶しいですし。それに海遊館なら館内を暗くしていることが多いので良い雰囲気を作れますし、二人きり感が増しますからね!!」
「なんかお前、頭のきれるサブキャラ化してない!!?」
やたら論理的に得意顔で説明するイブに帝里がため息をつく。その理論でいけば、帝里が選んだ昨日の映画館は割と良い選択になるが…見る物が魚でなかったのが駄目だったのだろう。
「しかし海遊館も久しぶりだな…あ、そういえば異世界にも海遊館みたいなのがあってな!すげえ魚とか沢山いて、レイルとかと行ったんだけど、そのときさ…」
「なんか前の女の話をされているみたいで気分が悪いのでやめてください
でも普通に海遊館も良い場所ですねぇ…あ!あんな魚初めて見ました!絶滅したのかな?」
「反応に困るから止めてくれ…あの魚を見る目が変わる」
未来に海遊館が無いのか、それともイブが行かなかったのか、イブは物珍しそうに水槽を眺めている。
「お、双ちゃん達が動いたぞ!…羅瑠先輩、大丈夫かな…?」
追いかけたいのだが、これ以上ついていくと羅瑠に気づかれそうなので、ここで見送るしかない。
「まぁ行き先に困ったら館内でやっているイルカショーとかのイベントに行けばいいですし、大丈夫でしょう」
「で、二人が帰るタイミングで合流すればいいのか。よし、なら、それまで適当に時間潰すか」
「ですね。…えへへ、なんかこっちはこっちでデートみたいですね」
「いや、俺はフィギュアと海遊館デートするようなハイレベルな変態にはなりたくない」
「もう!せっかくムードを作ろうとしたのに…フィギュア体型で悪かったですね!」
「あ、その前にちょっと待って!!」
拗ねて先に行こうとするイブを呼び止める。
「なんです?」
「えっと、なんて言うかその…ありがとう!!」
「ふぇ!?ちょっと急にどうしたのですか!!?」
「いや、今日は羅瑠先輩のサポートをしていて大変さが分かったよ。昨日までお前はこんな感じだったんだなって。昼食だって一人で食べて、楽しくて明るい思い出になるように裏で一生懸命頑張ってくれて………本当にありがと!!!」
「……それは反則ですよ…妙なところに気づくんですから…」
少し涙声になったイブがそっぽを向く。こっそりいつものお礼の気持ちを込めたのだが、伝わっただろうか。
「ぐすん…さぁ、エル様行きますよ!!どうせお腹ペコペコなんでしょ?」
「…あ、あぁ!も~そうなんだよ!全然力が入らねえよ」
「もうエル様はまったく!…そういえば、あっちのカフェでエル様の好物の生ハムの入ったサンドイッチが売られていましたよ!!」
「まじか!?それは行くしかないな!」
「…羅瑠先輩~もう諦めようよ~!この中じゃ見つけられないよ」
「むぅ~しかしな…」
「まぁ良いじゃない!テリーだってたまにはイブちゃんと遊びたいんじゃないかな」
「何そのフィギュアと海遊館デートするようなハイレベルな変態」
「もう、そんなこと言わないの!!ほら先輩!僕たちは僕たちで楽しもうよ!!」
「うぉ!?ちょ、ちょっと待てって、双治郎!!」
こうして二人ずつに分かれた帝里と双治郎達はそれぞれの海遊館デートを楽しむのだった。
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「ふ~、久しぶりで楽しかったね!!テリー達はどこに居たの??」
「いや、もうはぐれちゃったし、別々で楽しむのもありかな~って。そうだ双ちゃん!出口らへんの変な魚見た!?」
「見た見た!なんであんな姿になっちゃったんだろうねぇ!」
海遊館を満喫した4人は水族館で見た魚の話で盛り上がりながら、また昨日と同じ公園に来ていた。
「ぐあぁ、もうだめ…」
双治郎と二人きりでずっと緊張し、双治郎に散々振り回されて疲れたのか、ヘナヘナと公園のイスに倒れ込む。
「羅瑠先輩大丈夫!?僕少しはしゃぎ過ぎちゃったかな…ちょっとみんなの飲み物でも買ってくるね!」
「あ、私も運ぶの手伝います!」
双治郎とイブが近くの自動販売機に飲み物を買いに行く姿を見届けた途端、羅瑠が帝里の方をキッと睨み付けてくる。
「おい!なんでまたお前急に居なくなるんだよッ!?」
「やだな~だからたまたまはぐれただけですよ~」
「嘘つけ!…ハァ、今日はお前をからかうつもりだったのに、なぜ私が遊ばれているのだ……」
「まぁいいじゃないですか!今日は双ちゃんと一緒に居られて嬉しかったでしょ?」
「…お前に言われるとほんとむかつくな!」
とは言っているものの、いつもは情音や帝里だったり聖剣部員など、双治郎の周りには人が多く、今日みたくずっと二人きりという機会はなかなか無かったはずで、今日は双治郎とデートぽいことが出来て嬉しいに違いない。
「もしかして実況サークルも双ちゃんと会うための口実だったりして」
「いや、それはお前が実況をしていると聞いて、ただふと思いついただけだ。
そういえばなんでお前は実況なんかやっているんだ?あれか、退屈な日常を変えたくて…ってやつか」
「勝手に人を中二病にしないで下さいよ……なんというか、その世界平和?のためです」
「また訳の分からんことを…そんなに正義のヒーロー様になりたいか」
「だからそんなんじゃないですって…ただ誰かの夢を叶える勇者でいたい…のかな」
「結局中二病じゃないか……はぁ、何ともつまらん理由だったな」
「なんですか、羅瑠先輩は平和を望まないというのですか。俺よりよっぽど中二病くさいですけどね!!」
「そんなんじゃない。まず私の父はこの時勢を利用し、日本で武器を売って巨額の富を得たからな。確かに平和になると没落して困るかもな」
「なんか父親外国人だから出来たって感じの商売だな…」
「つまり貴様の目指す平和というものは実際はみんなが幸せになるとも限らないということだ。…お前の勇者気取りの行動で苦しむ父のようにな」
「むむ…そればかりはどうしようもないですね…」
「まぁ娘ほったらかしで金を稼いでいた成金親父はどうでもいいが」
「なんだよ!?すごく申し訳なく思って損した!!……あー!!分かった!!双ちゃんか!平和になると聖剣戦がなくなって、双ちゃん困るもんな!!」
「はぁぁ!!?だ、誰が双治郎の話なんかした!?今関係ないだろ!!……それに双治郎はきっと素直に平和を喜ぶさ」
「まぁお熱い」
「お前今日まじでウザいな!!?」
「ワハハハ-ぐわっ!?ちょ、やめっ、苦しいから!」
羅瑠に後ろから首を絞められて、帝里は慌ててもがく。
「はぁぁ…ほんと最悪…そういやイブの話ではイブが気づいたようだが、イブはお前のロボだろ?AIか??…もう何も考えられん、疲れた…」
やっと帝里を解放してくれた羅瑠が倒れ込むように帝里の肩にもたれかかってくる。
「ちょっとー、双治郎に勘違いされますよー?」
帝里は笑いながら、羅瑠を引き剥がそうとしたそのときだった。
「……テリーくん…?」
急に後ろから双治郎ではない声が聞こえて帝里と羅瑠の動きがピタリと止まる。
そうしてしばらく硬直するが、さすがに羅瑠もまずいと感じたのか、帝里からゆっくりと離れる。
「それに…もしかして羅瑠ちゃん…?」
羅瑠がすごく気まずそうな顔になっているの見て、帝里も誰なのか確信しながら、恐る恐る振り向く。帝里のことをテリーと呼ぶ、もう一人の人物。
「二人とも肩寄せ合って…どういうこと…」
髪の色を戻した綺麗な黒髪をなびかせた、懐かしい剛堂さんの姿がそこにはあった。




