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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
3章 思い描いた大学生活は程遠くて…
23/58

かけもちは慎重に



 大学生活初日の入学式、高校の同級生だった双治郎や情音と再会し、そこに羅瑠が加わって、実況サークルという全員で実況を始めることになった。


 そしてその後、羅瑠が事務課に申請を提出してそれが認められて無事、実況サークルが発足され、あとは実況を始めるだけだったのだが、いきなりそこで帝里達は躓いてしまっていた。


 というのも、何をすればいいのか誰も分からなかったのである。


 ほぼ全員が実況未経験者で、唯一の経験者である帝里も、もともと一人で、しかも顔を出さずに実況をしていたので、多人数では何をしたらいいのかさっぱり分からない。

 

 いくつかのグループに分けるなど様々な案が出たものの、いまいち決めきれず、とりあえず羅瑠が部長として何をするか企画を考えることとなり、当分は実況サークルとして動画をあげることはなさそうだ。



 そして3週間ほど経った4月の下旬、桜もすっかり散ってだんだんと新生活に慣れ始めた頃、そんな少し暖かくなってきた夜中に帝里は何をしていたかというと、千恵羽邸の自室で萎らしく正座していた。


「もうっ!エル様はほんとにッ…!!」

 

 帝里にそうさせている張本人であるイブはそれでも不満が抑えきれないのか、帝里の目の前を行ったり来たり飛び回って、怒りをまき散らしている。

 

「やって良いこととダメなことがあります!!」

 

「いや、あれは俺悪くないって…」


 叱咤するイブに帝里も気持ちばかりの釈明をしてみるが、イブは納得せず、ぷいっと拗ねて顔を背ける。


 こういった問答がさっきからずっと繰り返されており、怒られている側の帝里もそろそろ疲れてきて、がくりと肩を落とす。

 

「どうしてこうなったんだ…」

 

 帝里はため息をつきながら、そう頭を抱えるのであった…

 

 

「…って回想にいかせませんよ!ここでしっかりと反省してください!!」

 

「いかせて!?ほら、事実の確認を…ね!?

 ね?…時間もないし…」


「全部断ってきていたら、今頃、時間はたっぷりあると思うんですけどね!!」

 

 そうふて腐れつつ、チラリと時計を見たイブがハァと小さくため息をつく。


 実況サークルがまだ活動を開始していない現在、結局、帝里はエルクウェルやクラウディオスとしての動画をこれまで通り投稿し続けなければならず、今も今日投稿予定の動画の編集が残っているのだ。

 

「…んじゃ、もっかい話すぞ?…今日起きたことをありのまま話すぜ?」

 

「はいはい、分かりました…」

 

 諦めたように促すイブに、帝里は背筋を伸ばし直すと、イブに今日起きたことをもう一度説明し始めるのであった。

 


===============================


 

 その日のよく晴れたお昼時、すっかり大学にも慣れた帝里はせっかくなので屋外の椅子に腰かけて、ご飯を食べながら、日向ぼっこをしていた。

 

「久しぶりのテリーくんだね!」

 

「いや、数日休んだだけなんだけど…」

 

 べったりと帝里に絡みついてくる情音と一緒に。


 数週間経っても剛堂さんの積極性は衰えることがなく、こちらには未だ慣れない帝里も嬉しい気持ちの一方で、流石に以前と変わりすぎて最近はむしろ不気味にすら感じてしまっていた。


 そんな帝里に臆することなく、情音は帝里の精気を養うためにわざわざ作ってきてくれたお弁当を渡し、甲斐甲斐しく世話してくれる。


 というのも、帝里は例のごとく、季節の変わり目で風邪を引き、前日まで休んでいたのだ。因みに今回は前もって対策していたので、イブが巨大化することもなく、穏便に終えたのである。

 

「…あれ?今日はイブちゃんいないの?」

 

「ああ、イブは家で留守番してるよ」

 

「ふーん…確か今日は玲奈ちゃんも授業ないから家にいるんだっけ」

 

 帝里が風邪になったとき、イブは万が一を考え、帝里の傍に居た方が良いという結論に至り、その間に溜まってしまった洗濯などの家事を今、イブが家に残ってやってもらっているのだ。

 

 なので、情音は邪魔をしてくるイブが珍しく居ないということで、ここぞとばかりにくっついて来ており、帝里は早くもイブを置いて来てしまったことを後悔し始めている。

 

「…ねぇ、テリーくんはああいう、女の子向けお人形が好きなの?」

 

「え?…いやッ…フィ、フィギュア集めとかはしてないよ…!?ほんと興味ないし!!」

 

「そう…私も同じのが欲しくて探したんだけど、全然見つからなくて…

 …良かったら譲ってもらえないかな?大事にするから!!」


「えぇ…っと…」

 

 情音が上目遣いで帝里を見つめてきて、こちらにもまだ馴れてない帝里は思わず目を逸らして逃げ腰になってしまう。

 

 剛堂さんのお願いならば、何でも聞いてあげたいが、今回ばかりは無理な話だ。

 しかし、イブの正体を知らない情音に打ち明けることも出来ないため、上手い弁解が思い付かず、帝里は余計にあたふたしてしまう。

 

「…そ、そう!!あれは貰い物なんだっ!!視聴者さんから貰った特製の!!!

 だから、申し訳ないけど…ダメ…かな」


「むぅ、そっか……ところで、」


 帝里の苦しい説明に、情音はしょんぼりとしながらも帝里から離れ、帝里は諦めてくれたとホッと胸をなで下ろした矢先、すぐに顔を上げてまた帝里の顔を覗き込んできて、ドキリと帝里は思わず身構える。


「一緒にどこか出かけない?」

 

 情音の言葉に一瞬、帝里の頭の中は真っ白になり、何を言われたか分からず、きょとんとして暫くの間見つめ合う。

 

「…っっっっっ…!?…えっ…それって!…そのっ…デート!!?」

 

 時間差でようやく理解した帝里が狼狽する中、情音が嬉しそうにうんうん、と首を縦に振るを見て、帝里は再び口を開けたまま固まる。

 そりゃ帝里だって大学生になるのだから一度くらいは、と憧れてはいたが、こんな早くに、しかも相手が剛堂さんになるとは全く思っていなかったのだ。

 

「……ねぇどうかな?」

 

 突然の出来事に茫然としていると、焦れったそうに聞いてくる情音の声で帝里はやっと我に変える。

 

 実は高校時代、双治郎のおかげで剛堂さんとはデートっぽいことはしたことがある。

 しかし、今回は状況が違い、剛堂さんが積極的でお互いが意識した、ガチなやつで、帝里も嫌が上でも緊張してしまう。


 でも、帝里だって違う。異世界を経て大きく成長し、男らしく、格好良く、そして紳士的に、剛堂さんとのデートをこなすことができる…はずだ。


「うん…じゃあ行こうか!!」

 

 少し弱気になりそうな自分を吹っ切るように帝里が勢いよく頷くと、情音も嬉しそうに何度も頷き返す。家に帰ると、千恵羽邸に二人ほど怒りだしそうな存在がいるが、今は帝里も嬉しさでいっぱいだ。

 

「…――じゃあ、次の休日にね!」

 

 そして、デートの日取りを決め、今日はお稽古で帰るという情音を見送って、帝里のお昼は大満足で終わったのだった…。




 そして、話がずれていくのはここからである。




 情音と別れた後、普段通りに午後の授業が受け終わった帝里は、そのまま一人で実況サークルの部室に向かっていた。


 いくら会長である羅瑠が企画を考えると言い出したとはいえ、いきなり全てを投げつけるのは申し訳ないので、唯一実況経験がある帝里が補佐しようと思ったのだ。

 

「まず、撮影を…2人…?いや、機材を固定して、イブに頼めば…でも6人全員が出るのもなぁ……京介も目立つのが嫌っていってたし…」

 

 以前羅瑠と議論した内容を思い出すようにぶつぶつと帝里は呟きながら、午後の日差しを浴びて少し閑散とした廊下を歩いていく。


「…!」


 そのとき、帝里のスマホが重く振動し、慌ててポケットから取り出してみると、なんと相手は玲奈からの電話である。


『…もしもし帝里?』

 

「おう、何か用?」

 

『いや、えっと…今日は部室に行くの?晩ご飯は?』

 

「??…今から羅瑠先輩の手伝いをして、飯はいつも通り、家に帰って食べる予定だけど…」

 

『そ、そう…』

 

 なんとも煮え切らない玲奈の反応に帝里は首をかしげる。玲奈はメールですら面倒くさがるタイプなのに、珍しく電話してきたと思ったら、それこそメールでもいいような内容なのだ。


 もしかして剛堂さんとのデートをもう聞きつけたのでは、という考えが一瞬帝里の脳裏をよぎるが、それなら怒鳴り込んで来そうだと不思議がっていると、少し沈黙を置いて緊張した玲奈の声が再び聞こえる。

 

『と、ところでさ、』

 

「…ほい」

 

『私達、無事入学できたわけだし…大学合格と入学のお祝いを一緒にしない?』

 

「…いいんじゃね?」


 特に変なこともなく、帝里が二つ返事で賛成すると、玲奈がほっ、と安堵する声が電話越しに聞こえる。どうやら電話してきた理由はこの事のようだ。

 

「じゃあ、羅瑠先輩とかに伝えとこうか?」


『いや、受かった3人でやりたい!!まず羅瑠とかに祝われたくないし!』


 玲奈の拒絶に近い即答に帝里も思わず苦笑いを浮かべる。確かに羅瑠が玲奈を素直に祝ってくれるとは思えないし、受験した組だけの方が良いかもしれない。


「なら双ちゃんとかも誘えないか…まぁ、たまには3人もいいけど…それイブ含まれてないよね?」


『あっ…!…あ~…完全に忘れてた…

 うーん……たまには…ね?』

 

「…そうだな、色々サポートしてくれたイブには悪いけど、受かった奴だけってならこの際しっかりしとこ。誘えない剛堂さん達にも悪いし」

 

『そ、そうよね!私がなんとかしとくわ!

 じゃ、じゃあ、次の休日ね!!』

 

「え!?ちょ、ちょっと急―」

 

『思い立ったが吉日!!すぐ行きたいの!!絶対だから!!じゃあね!』

 

 帝里が何か言おうとする隙も与えず、玲奈は一方的に決めると、強引に電話を切ってしまった。

 

「いや、次の休日は剛堂さんと……はぁ、後でどうにか説得するか…」

 

 この時点でも少し話がややこしくなりそうだったが、このときの帝里はあまり気にも留めることもなく、部室にまた歩き出したのであった。

 

================================

 

 しかし…

 

「あっはははは!いやぁ、見事に玲奈に嵌められたなぁ!!」

 

「それは羅瑠先輩の考えすぎでしょ……」

 

「いやいや、これを見る限り確実だろう?」

 

 さっきから爆笑する羅瑠に帝里が腹立たしそうに反論するが、そんなことで羅瑠が怯むはずもなく、面白そうに壁に掛けられたカレンダーを指差す。


 そのカレンダーは皆がそれぞれの予定を書いたもので、皆がいつ集まれるのか分かりやすくするためのものだ。

 

 玲奈との電話の後、何事もなく部室に着いたのだが、扉を開けるなり、まだこちらが何も言っていないのに、京介がいきなり、「無理ッ!!」と少し怒ったように叫ぶと出ていったのである。

 

 そこでカレンダーの予定表を見てみると、どうやら車の免許取得があって入学祝いに参加出来ないらしく、そう言えば、京介は大学入試が終わって、すぐに教習所に通っていたのだ。

 

 しかし、ここで問題なのは、京介の用事があるのはその次の休日だけらしいということである。それならば一週間ぐらい待ってあげてもいいと思うし、第一、サークルとしての活動は始まってすらないから、誰も時間に困っていない。

 

「つまり、これは、その日にお前と玲奈だけでデートしたい、ってわけだな!」

 

 名推理とで言いたげに羅瑠がそう結論付けると楽しそうに椅子をクルクル回す。羅瑠の意見が正しいなら、どうやら合格祝いは建前だったようで、どうりで京介が少し不機嫌だったわけだ。

 

「いや、まず玲奈自体がそういうことしたがりますかね…?」

 

「まぁ、誘ったのがあの玲奈だし、絶対何も考えてなさそうだが……もしかしたら私や情音、双治郎と、お前の周りが増えたから寂しくなったのかもなぁ?」

 

 卑しい笑みを浮かべた羅瑠の予想に帝里は閉口する。もしそうならそうと言えばいいのに、努力の方向性を間違えて勘違いされるのが相変わらず玲奈らしい。


「ち、因みに…なんですけどっ…

 その、剛堂さんって、よく…デ、デートしたりするんですかね…?」


「……え、独占欲ですか、きも」


「違う!違うから!!

 ほら、なんか誘い方が慣れている気がしたから…ちょっと…ね?」


「……まぁ、双治郎とはよく出掛けていることはあったが、そういうのは聞いたことないな…

 そう考えると、情音も口で言う割に、双治郎や私を誘う感覚なのかもなっ!」


「えぇ…!?それは…ない…!!」


「ふふん、どうだかなー」


 つい変なことを聞いてしまったせいで違う悩みが生まれてしまい、恨めしそうに羅瑠を睨む。

 

「と、とりあえず玲奈には剛堂さんとの約束を説明して、日付を変更して…」

 

「いやぁ、止めといた方がいいぞー?

 きっと、それを聞いたらどちらも面倒な事になると思うなぁ。あくまで私の女の勘ってやつだが」

 

「………」


 キラリと目を光らせて忠告する羅瑠に、何か背中に冷たいものを感じた帝里は黙って手に持ったスマホを下ろす。

 

「まぁ、それで揉めるのも楽しいが…二人に必死に隠しながら、あがくお前を見てる方が楽しそう」

 

「結局そこか!!性格悪ッッ!!」


「おいおい、相談に乗ってあげているのにそれはないだろー」

 

 ニシシと羅瑠の他人事と言わんばかりに笑う態度に、からかわれ続けた帝里は疲れたようにため息をつく。

 

「羅瑠先輩は人を見て楽しんでる場合じゃないんですよ…まずは人に見せて楽しませる実況を考えて下さい」

 

「む……いやぁ、考えているんだがなぁー……どうもピンとこないんだよ…」

 

 帝里の鋭い切り返しに、羅瑠はうっ、と苦々しそうな表情を浮かべて、気難しそうな顔をしながら部屋を見渡す。

 

 大学にサークルと認められたわけだが、京介の首席合格のサークル優待制度のおかけで、部屋は5人にも関わらず、かなりだだ広い部屋を与えてもらったのである。

 そのため、何でもすることが出来そうだが、むしろ選択肢が多いせいで、羅瑠は悩んでいるのだ。

 

 羅瑠がそんな様子なので、部室は空き部屋同然となっていて、現在は双治郎の一人稽古するときのスペースになっており、今も双治郎が、さっきから帝里と羅瑠の会話に参加せず、熱心に剣を振っている。

 

「入田奈、実況経験者としてなんか考えてくれ!私が判断する」

 

「また俺ですか…あ!俺の作ったあのゲームを皆で実況するとかどうです!?」

 

「嫌だ、あれはつまらん」


「ひどい…」

 

 自分から案を出せと言ったくせに、ばっさりと切られるだけでなく、軽くディスられもして散々な帝里はさすがに少し落ち込む。

 

「視聴者には少し好評だったようだが…

 まず、話が所々適当すぎる。他が妙にリアルだから曖昧な部分が目立つんだよ。

 それに、話の終わり方がありきたりだ。ゲームならいっそ、魔王が勝って世界を滅ぼすくらいにしてほしかったな。」

 

「いや、それだと俺…今ここに立っていないんだよなぁ…」


 羅瑠の無茶苦茶な提案に帝里は呆れたようにため息をつく。とはいえ、羅瑠の指摘が痛いところを突いているのも事実だ。


 というのも、帝里の異世界生活をゲームにしようとしても、所々記憶が抜けているせいで、仕方がなく、羅瑠の言う通り適当に誤魔化しているのだ。

 記憶がないのは、きっと異世界干渉のせいに違いない。そのせいで、いまいち上手く作ることが出来ず、またもや異世界のことを伝えるのを阻止されたのである。

 

「じゃあ、どうするんですか…」

 

「うーん…お前の二人とのデートを裏で隠し撮りして流すとか?」

 

「またそれ…もう勘弁してくださいよ…」

 

「まぁ、また私が考えておくから…入田奈はそっちに集中しとけ!」

 

「そうやってまた誤魔化す……こちらも大変なんでいいですが…


 ハァァ~、二人とも休日って言ってたし、最悪土日に分ければ大丈夫だけど…連続で何したか、ごちゃごちゃになったらヤバいな…」

 

 二人との約束の日までまだ時間があるのに、今から頭を抱えてしまう。そういえば、浮気がばれる要因の一つに相手の名前を間違って呼ぶってのがあったっけ。浮気じゃないけど。

 

「…ん?何言っているんだ?

 次の休日はゴールデンウィークだろ?今年は…3日間だったか?」

 

「えっ!!?本当に!?」

 

「あぁ、だから間に1日余裕を……そうだ、」

 

 羅瑠が何か思い付いたらしく、ニヤリといたずらっぽく笑うのを見て、その笑顔を何度も見てきた帝里は嫌な予感が全身に走る。

 

「入田奈、私とデートしよう!次の休日に!!」

 

「はぁ!?いやいやいや、なんで!?」

 

「玲奈や情音とデートするから私も寂しくなっちゃった……」

 

「人の理由を使うな!!もう…面白がってるだけでしょ…」

 

「いやぁ?ちゃんとあんな小娘達とは違った、大人なデートをしてやるぞ?」

 

「ほとんど歳変わらないじゃないですか…話がややこしくなりそうなんで止めてください」

 

「やっぱダメかぁー、面白そうだったんだがなぁ~!」

 

 口では少し残念そうにしながらも、羅瑠は満足げな笑顔を浮かべて椅子の背もたれにもたれかかる。帝里もこれ以上の面倒事はお断りだ。


 それでもしつこくまだ誘ってくる羅瑠に遊ばれていると、練習が終わった双治郎が休憩がてら帝里達のところへ戻ってきた。


「テリーと先輩、どっか遊びに行くの!?なら僕も行きたいな!」

 

「そ、双治郎も来てくれるのか!!!?」

 

 ガタンッと大きな音をたてて立ち上がり、羅瑠が急に大声を出すので帝里も少し飛び上がる。

 

「そ、そうか…そうか、なら入田奈行くぞ!

 双治郎も来るんだ、ほら両手に花だぞ」

 

「俺じゃなくて羅瑠先輩が、だよね!?」

 

「まー、いいじゃないか!ダブルデート…ではないがマルチデートとでも思えば!」

 

「変な造語を作らないで下さいよ!?…なんか変にデートにこだわりすぎだし」

 

 急に食いつきが激しくなった羅瑠に少し戸惑うが、帝里はやはり安全策として行きたくない。

 

「えー、いいじゃん、テリーもいこうよ!」

 

「いや双ちゃん、今、双ちゃんの知らないところで色々起きてるのよ…

 それに超超久しぶりの俺のゴールデンウィークを奪わないで!!」

 

「ほぅ、それはどういう意味だ?」

 

 羅瑠の目がキラリと光り、帝里は慌てて口を閉じる。異世界でゴールデンウィークを現実では2回、体感では6回ほどすっ飛ばしてきた、なんて言えるわけがない。


「…ほら、受験でね?」

 

「…確かに…まぁいい、どうしても来ないというならば…これだ」

 

 渋り続ける帝里に痺れを切らした羅瑠がパソコンを取り出すと、パソコンの中のあるデータファイルを帝里に見せつけ、もう悪意しかない悪魔的な笑みを浮かべる。

 

「な、なんですそれは…?」

 

「ふふふ、これはな…お前の実況で視聴者から『は?』等のコメントを食らった恥ずかしいネタを集めて編集したのものだ!」

 

「―ッ!!?」

 

 羅瑠から衝撃的なものを提示され、ぶわっと帝里は全身から脂汗が吹き出るのを感じ、一瞬足下が覚束なくなる。不味い、あれはヤバい。

 

「もし来ないというなら、これを実況サークルの初めの動画にする!」

 

「ひ、人の動画を勝手に使っちゃダメなんですよ!」

 

「なーに、日本の投稿サイトMOWAの規約では、グループアカウントには、そのグループに所属する実況者の動画を使える権利があるんだぞ?」

 

「うっぐ……

 べ、別に~?お、俺だって実況者の端くれとして自分の動画に誇りを持ってますし?何を言われても俺は…」

 

「魔法大全 1章 魔法という―」

「やめろ」

 

 帝里が羅瑠の言葉を遮り、しばし睨み合いが続く。

 

「…魔法というものは、様々なことを可能とするものであるが、それゆえの危険性を持つものであり、これはそれを抑制する法律を述べる。まず―」

 

「やめてやめてやめて!!分かったから!!行きます行きます!!だから、やーめーてー!恥ずかしい!あぁ、もう!…」

 

 強引に読み上げ続ける羅瑠に帝里はたまらず悲鳴をあげると、恥ずかしくて、双治郎と羅瑠の顔を見れず、そのままうずくまってしまう。

 

 帝里もこれまで実況をやってきたわけだが、実況のネタを常に真面目に考えているわけもなく、中には編集に深夜のテンションで強引に仕上げてしまったものもある。

 これの質が悪いのは、その時は謎に満足して投稿するのだが、その多くが後で見返すと、動画を消したくなるほど恥ずかしくなるものばかりなのだ。

 

 そして、羅瑠が引っ張ってきた、この「魔法大全」というものは、帝里の中でも指折りの、もう黒歴史と呼んでいいほどの、特大級の恥ずかしいネタなのである。

 

 これは深夜に実況を編集しているときに、つい熱くなって、魔法について語ってしまったときのもので、イブから聞いていた未来の現状をもとに、その場のノリで法律も作ってしまったのだ。

 

 自分では割と完璧なものが出来たと大満足でそのまま投稿したのだが、そんな未来の現状を、しかも魔法が本当に存在することすら知らない現代人からしたら、帝里は魔法についてどや顔で語る、中二病のただの変人である。

 

 そのせいでコメント欄は「は?w」の文字で膨れ上がり、かなりネタにされてしまった。

 仕舞いには一部でネタ語録で弄られる始末で、そのおかげで、少し人気も出たのだが、今でも話にあがると背筋が痒くなる恥ずかしいネタである。

 

「よし、これで入田奈も来ることになったな!日付は次の休日だが…さすがに可哀想だし、どの日が良いかは入田奈が決めていいぞ」

 

「うぅ…もう全部やだ…」

 

 羅瑠がとても嬉しそうに珍しくテンションを上げてはしゃいでいるが、一方の帝里は悩みの種がさらに増えてしまい、頭をさらに抱える。

 

「て、テリー大丈夫…?あっ、せっかくだから情音ちゃんもー」

 

「剛堂さんには言わないで!!」

 

 帝里の気迫に押され、双治郎がうろたえながら頷く。いくら3人で遊ぶとはいえ、さっきの羅瑠の話を聞く限り、なんだか怖くなり、黙っておくことにする。

 

「行く場所は私が決めとくから、じゃあゴールデンウィークに集合だ!」

 

 上機嫌の羅瑠が高らかと告げると、結局、何を実況するか決まらないまま、サークル活動が終わっていくのであった。

 

 

===========================



 

 というわけで、帝里はまんまと3つのデート(?)の約束をしてきて、帰ってきてしまったのである。

 

「いくら何でもデートまで掛け持ちしなくてもいいんじゃないですかね!!」

 

「いや、したくてしたわけじゃ…」

 

「ハァ、珍しく玲奈が変に優しいと思ったら、こういうことですか…」

 

 イブがため息をつきながら、呆れたようにチケットをはためかせる。


 どうやら、昼間に玲奈から「たまにはゆっくりしておいで」と帝里と出掛ける日の温泉1日貸し切り券を玲奈がイブに押し付けたらしい。が、絶対に後で帝里から話を聞かされるはずであり、対応がガバガバである。

 

「しかも、羅瑠様までデートしてもらえるのに、私との時間はないという!」

 

「いや、要らないでしょ…ほら…一緒の部屋に住んでるし」

 

「…ハァ…もう分かりましたよ!これ以上困らせるわけにもいきませんからね!!」

 

 イブは不機嫌ながらも一応納得してくれるが、やるせない気持ちを紛らわせるようにまた飛び上がる。

 

「いいですか、エル様?絶対に!絶っ対に誰も落としてはいけませんからね!

 でも、全然ダメなデートも私の勇者様として情けないので駄目です!!」

 

「どっちだよ…

 あとそんな器用なこと、俺にはできねーよ…」

 

「もう…エル様がデートを掛け持ちするくらい全然ダメな男なのは、よく分かってますよ。だから、」

 

 イブが少し前屈みになったかと思うと、いつも付けている飾りの透明な薄い羽が、フサァと温かみのある白い羽に変わる。

 

「おぉ、クラウディオスみたい!!」

 

「知りませんよ、そんなの…

 一応、恋のキューピッドをイメージしたんですが…まぁいいでしょう」

 

 その羽をゆっくりとはためかせて、イブはふわりと舞うように帝里の前にくると、帝里に人差し指を突きつける。

 

「もしも!変なことしようとしたら私がその場で暴れますからね!」

 

「え、お前も来るの!?」

 

「当たり前です!!女心の分からないエル様のサポートをしてあげます!分かりました?」


「いや、俺には異世界で培ったー」


「分 か り ま し た ?」


「はい…」

 

 気迫が籠ったイブに詰め寄られ、帝里は文句も言えず、ただ首を縦に振る。

 

「目標は落とさぬよう、呆れられぬようです!!

 さぁ、私達の実況(デート)を始めましょう!」


 もはや、半ばやけになったイブがそう高らかに宣言し、さっそく二人でそれぞれのデートについてサーチと準備に取りかかる。


 こうして、超大忙しのゴールデンウィーク計画が幕を開けるのであった。




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