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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
3章 思い描いた大学生活は程遠くて…
22/58

実況サークル!!


 

「あ、あの、剛堂さん、だよ…ね??」

 

「うん、情音だよー♪」

 

 自分に言い聞かせるように帝里が尋ねるが、見たことがないほど表情豊かな笑顔とピースで答えられ、その姿を見た帝里はさらに信じられなくなり、何度も顔を確認する。


 しかし、髪型や化粧が変わっているとはいえ、その女性はやはり剛堂情音であり、それは帝里の中でもだんだんと実感しつつあった。双治郎では何も感じなかったのに、この子に抱きつかれて跳ね上がっているこの心臓の鼓動がなによりの証拠だ。

 

「…あ!テリー、情音ちゃんと会えたんだね!良かった良かった」

 

「いや、どゆこと!?」

 

 帝里と情音を見つけて嬉しそうに走り寄って来た双治郎に、何も聞かされていなかった帝里は襟を掴みかからん勢いで詰め寄って問いただす。

 

「えっと…うん、情音ちゃんだよ?」

 

「知ってるよ!つい確認しちゃったよ!!なんでこんなことになってんだ!?」

 

「僕だって分からないよ…半年前からずっとこの調子なんだもん…」


 半年という期間を聞いて思わず呆けてしまった帝里に、困ったように双治郎は俯く。

 

「いや、双ちゃんがついていながら…」

 

「それは、もともとテリーが居なくなったのが悪いと思うよ!!それで情音ちゃんが変わったって方が可能性あると僕は思うけどぉ!?」

 

 自分は悪くないと言わないばかりに双治郎がジト目でキッと睨んできて、帝里は一瞬怯む。自分が異世界に行ったせいなのだろうか…?

 

「エ、エル様…?」

 

 まさか異世界干渉…いや、それは絶対ない気がする…と帝里が悩んでいた最中、横から声が聞こえ、ハッとして振り返ると、イブや玲奈達も困惑した表情でこちらを見ており、その視線の先を見て、帝里は現状を思い出す。

 

「ご、剛堂さん、離れて!!」

 

「むぅ、久しぶりなのに冷たいなぁ…もうどっか行かないように離さないよ!」

 

「その台詞ずるいよ!?」

 

 姿、言動が変わろうと、剛堂さんは剛堂さん、これ以上くっつかれては帝里の心臓が持ちそうになく、少し惜しいが帝里は無理矢理、情音を引き離す。

 

「それが情音って子…?」

 

 双治郎のとき同様、イブと玲奈が情音に突っかかってくるかと思いきや、むしろ様子見するかのように不審げに帝里に尋ねてくる。無理もない、聞いていた情音と様子が全く違うのだ。

 

「あ、玲奈ちゃん久し振り!」

 

「……なんで私の名前知ってるのよ?」

 

「だって、千恵羽家の玲奈ちゃんでしょ?昔、パーティーで会ったじゃない♪」

 

「そんなの分かるわけないわ!!あと帝里から離れろ!!」

 

 気づけば剛堂さんに腕を絡められていて、玲奈から指摘された帝里は慌てて逃げる。姿、言動が変わろうと剛堂さんは剛堂さん、だからやばいんだってば!

 

「昔は大人しかったのに、怖くなったなぁ…。あ、ならその後ろの男の子は京介くんだね!?あの首席合格の!」

 

「え!?まぁ、そうですが…」

 

「すごいねぇ~!!テリーくんも賢かったけど……ねぇねぇ!どういう勉強したの!?」

 

「えっと…ふ、普通ですよ…?……て、帝里さーん…」

 

 ぐいぐい寄ってくる情音の圧に耐えられなくなったのか、京介が情けない声を上げながら帝里の後ろに逃げてくる。いつも冷静そうなわりに、京介は押しの強い子に弱いらしい。

 

「はい、ストップ!!!

 珍しく玲奈の言う通りです!剛堂様!エル様にちょっかいを出さないでください!!」

 

 その京介を追って、さらっとまた帝里に近づこうとした情音の前に突如イブが立ちはだかり、これには剛堂さんも驚いたようで目を丸くして、立ち止まる。

 

「いいですか?昔はどうだったかは知りませんが、今はもう私の勇者様であり、これからは――って、きゃ!?」

 

 言い聞かせるようにイブが偉そうに胸を張った瞬間、突然剛堂さんがイブを捕まえようと手を伸ばし、慌ててイブがそれを避ける。


 が、剛堂さんは諦めず、何かに取り憑かれたように、イブを捕まえようと追いかけ回す。姿、言動が変わろうと剛堂さんは剛堂さん、必死に追いかける様子も可愛い。

 

「ちょ、ちょっと!?何するんですか!!?」

 

 たまらずイブが悲鳴をあげ、さすがに双治郎が慌てて情音を取り押さえ、なんとか難を逃れられたイブが疲れたようにため息をつく。こういった時、双治郎の見た目が女の子っぽいおかげで、双治郎の行動に帝里もあまり嫉妬しなくて済むのがありがたい。

 

「いや、ひらひらしてたからなんか捕まえたくなって…!」

 

「私は蝶か!?なんて身勝手な……なんか玲奈みたいですね…」


「はぁ!?こんなのと一緒にするな!!」

 

「そうだぞ、姿、言動が変わろうと剛堂さんは剛―……あぁぁッ!!やっぱ無理!!ねぇ剛堂さん!一体どうしちゃったの!?」

 

 必死に自分に言い聞かせていた帝里もとうとう我慢できずに、情音に嘆くように問い詰める。姿、言動は変わっていると先程から言っていたがそれだけではなく、今の剛堂さんは人柄ごと変わってしまったように感じてならないのだ。

 

「どうもしてないよ?テリーくんのことはもともと好きだったし、積極的になっただけ!」

 

「なっ!?」

 

「ふんっ、言っとけ。こういう、後から現れて、好き好きって押しまくってくるやつって、アニメでは大体病弱とかで、勝手にフェードアウトしていくのよ」

 

「ざんねーん、健康診断オールAです♪」

 

「意味分かんないうえになんか腹立つ!!」

 

 腹立たしそうな声をあげて玲奈がキッと睨み付けるが、情音は気にせず楽しそうに笑いながら玲奈に近寄っていき、それが一層玲奈を刺激する。

 確かにこうやって隣に並ぶと、帝里も玲奈と今の剛堂さんは雰囲気が少し似ている気がしてくる。むしろ剛堂さんが玲奈に寄せているといった方が近いかもしれない。

 

「ふんっ……今日は久々に動いたし、なんか疲れたわ

 帝里、さっさと帰るわよ!」

 

「さ、賛成です!帝里さん、今すぐ帰りましょう」

 

 京介も情音が苦手なのか、賛同するように何度も大きく頷き、この場から立ち去ろうと帝里の腕を引っ張ってくる。

 

「…ちょっと待って!?一緒に帰るって…皆、テリーくんと一緒に暮らしているの!?」

 

「ええ、そうよ!!帝里と私達はお・な・じ家で暮らしているのよ!!」

 

「えぇ!?…なんで?てか、なにやってるの」

 

 慌てて呼び止める情音に勝ち誇ったように振り向きながら玲奈が答えると、これには双治郎も驚いたようで、帝里を非難するように軽く睨み付けてくる。

 

「いや…ちょっとね……その、借金を…ね…しちゃって…」

 

「「借金…??」」

 

 想定外の理由に呆気に取られたのか、情音と双治郎にポカーンとした表情で聞き返され、帝里とイブは気まずそうに視線を逸らす。

 

「そうよ。それをわたしが建て替えてあげて、さらに私の家に住ませてあげてるってわけ」

 

「僕の家でもありますけどね」


「…じゃあ、私が建て替えたら、テリーくんは私の家に来てくれるの?」

 

「……へ!?」

 

 玲奈の説明を黙って聞いていた情音がぽつりと呟き、その突然の申し出に全員が驚く。

 

「テリーくん、千恵羽家でのお給料はいくらぐらいなの?」

 

「いや、玲奈達からは特に何も貰ってないけど…

 家事を手伝いするけど、諸々のお礼変わりでやってるだけだし…」

 

「なら私の方がいいよ!!

 お給料もちゃんと出すから、返金もちゃんと出来るし、返金分を引いても、そんなお人形をたくさん買えるような、お小遣いも残るようにするよ?

 だから、そのお人形さんと一緒においでよ!!その…私もお人形で遊びたいし」

 

「だから私は人形じゃないですってば!!」

 

 以前、玲奈に散々玩ばれたことを思い出したイブが反発するが、この申し出は悪くない。むしろ良すぎて疑うレベルだ。しかも、

 

「剛堂さんと…同居…!!」


「エ~ル~さ~ま~?」

 

 その事だけでも帝里はどぎまぎしてしまう。今日は本当に心臓に悪い日だ。

 

「ねぇ、どう…かな…?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!…てかそこ!私のときは平然としていたくせに、なにデレデレしてるのよ!?」

 

「いやっ!別にデレデレなんてしてないし!?ほら、あのときは…申し訳なさで一杯だったんだよ!?

 でも…玲奈達の家の方がいい…かな…?」

 

 せっかくの提案なのだが、帝里は伏し目がちに謝り、断られると思っていなかった情音は目を丸くして言葉を詰まらせる。

 

「ッ!?テリーくんは私よりその女を選ぶの!!?」

 

「その台詞もずるいよ!!

 実は…その、他にも色々とややこしいことになってるから、このままの方がいいかなって…」

 

 千恵羽家にお世話になった日の翌朝に、さっそく魔法がバレたほどだ。剛堂家に行っても、きっとすぐに見つかってしまい、魔法を知る人がまた増えてしまうのは帝里としては避けたいのだ。

 

 それに、ゲンゾーとかいう、前に千恵羽邸を襲撃してきた未来人の問題もまだ残っており、もし仕掛けてきたときに剛堂家では、剛堂さんが危険に晒されてしまう。

 一方、千恵羽邸の方は、玲奈も魔導石で魔法を使えることも考慮すると、帝里にとって剛堂家よりはるかに安全なのだ。

 

 なので、剛堂さんの申し出はとても嬉しかったが、帝里は仕方がなく断ることにしたのである。

 

「これで分かったでしょ!別に返金もMOWAから実況で給料貰ってるから滞りなく進んでるのよ。残念だったわね」

 

「「実況…?」」

 

 すっかり気を良くした玲奈の言葉に再び双治郎と情音が揃って首を傾げるのを見て、玲奈は楽しくて堪らないといったような満悦の笑みを浮かべる。

 

「あれれー?情音さんったらそんなことも知らないのー?

 帝里はエルクウェルっていう実況者なのよ!」

 

「だから、言うなっていってるだろ!!」

 

 あっ、と玲奈が気づいて口を押さえるのを見て、帝里はため息をつく。


 エルクウェルであることは隠してはいないが、そんなに有名実況者というわけでもなく、教えられてもお互い反応に困るだけなので、わざわざ言う必要はないと帝里は思っていたのだ。

 

 しかし、その反応は想定外の方向からやってきた。

 

 

「エルクウェル…だと…!?」

 

 その声は双治郎でも情音でもなく、帝里の後ろから聞こえてきて、帝里は驚いて後ろを振り向くと、全く知らない女性が呆然とこちらを見つめていた。


 しかし、剛堂さんの例もある。もしかしたら知り合いかも知れないと、帝里は注意深く観察してみるが、やはり見覚えがない。

 

 そんな帝里の様子なんてお構い無しに、その女性は少し顔を青ざめながら、つかつかと帝里のもとに迫って来ると、帝里の両肩を掴む。

 

「お、お前がエルクウェルか…!?」

 

「え、あ、はい一応…」

 

「え、…これが…なんて貧弱な…」

 

 その女性は愕然とした様子で帝里の身体中を眺めまわしてくるので、その少し失礼な態度に帝里は顔をしかめる。

 そうして、その女性は茫然と帝里を見ていたが、しばらくして周りの存在に気がついたようで、ハッと辺りを見渡し、帝里の次に目が合った玲奈をじっと見つめる。

 

「……じゃあ…お前がクラウディオスなのか…?」

 

「ふぇッ!?そ、そ、そんなわけないじゃない!クラウディオスは私じゃなくて、こっち!!」

 

「そっちは本当に言っちゃいけない方だから!!」

 

 突然詰め寄られて、驚いたのか、うっかりと玲奈が口を滑らせてしまい、次は本気で玲奈の口を押さえ込み、これ以上余計なことを言わないように玲奈を羽交い締めにする。

 

 しかし、これまでのやりとりの中で、この女性がどうしてエルクウェルを知っているのか、帝里は分かった。


 きっと帝里の実況を見たのだろう。


 ならば、これまで言っていたことも納得がいく。顔も声も出していないからといって、勝手にエルクウェルの理想像を作り上げ、実際の帝里を見て失望されるのは嫌なものだが。


 それにその証拠に、

 

「エルクウェルがクラウディオス…?いや、確かに二人で……え?じゃあ貴様は…は??」

 

 と、おそらくここの学生であろうこの女性は、おろおろと帝里と玲奈を交互に見て、完全に困惑している。エルクウェルとクラウディオス別人作戦は、玲奈にはすぐにバレたものの、どうやら他の人には効果覿面だったようだ。

 

「こいつはたまに変なことを言うので気にしないで下さい。一応、俺がエルクウェルですが、クラウディオスは全くの別人です。」

 

「…この女がクラウディオスじゃないのか?」

 

「違いますよ!まず、コラボしたからっていつも一緒にいるわけではないでしょ……」

 

 呆れたように帝里が首を振ってみせるが、まだ納得がいっていないようで玲奈を訝しげにジロリと眺め回す女性に、帝里から解放された玲奈は珍しく何も言い返さず、顔を背けて、されるがままの時間が続く。…まさか今さら人見知り?

 

「…まぁ、どっちでもいい。お前がエルクウェルか…まさかこんな所で会うとはな…」

 

 どうにか納得したようで、その女性は改めて帝里の方へ向き直って、ジッと顔を見つめてくる。久し振りの視聴者の登場とその視線に何か含みを感じ、帝里は緊張して思わず背筋が少し伸びる。

 

「…あの~、テリーも先輩もちょっといいかな…?」

 

 二人の間に何とも言えない不穏な空気が流れ、イブと玲奈も身構えたところに、双治郎が気まずそうに間に割って入る。

 

「お、双治郎か!久し振りだな

 …えっ…まさか、こいつと知り合いなのか…?」

 

「はい!前に行方不明で1年前に見つかったって話していた人ですよ!」

 

「あぁ、1年間本当に見つからなかったって奴か…なるほど、そうか…

 …その間何していたか、聞けたか?」

 

「ちょっと、先輩!…でも、2年間も顔見せなかったんだから、僕も聞きたいかな…!」

 

「それはお前らが会いに来なかっただけだろ…」


 不満そうな表情を浮かべる双治郎に、帝里は呆れたようにため息をつく。


 異世界から帰って来た帝里が発見され、双治郎と情音はすぐに駆けつけてくれたらしいが、残念ながら、そのとき帝里はまだ意識が戻っていなかったらしい。


 しかし、その後、大学が忙しくなったのか、それとも、少し落ち着いて浪人になるであろう帝里と会うのが急に気まずくなったのか、結局、今まで再会することはなかった。別にこちらとしては、何も気にしてないので、会いに来て欲しかったものである。

 

「はいはい!それ私も気になる~!私のグループも全力で探したけど、どこに居たの??」

 

「え、えっと……」

 

 先程まで腫れ物のように触れてこなかったのに、突然、秘密の核心とも言えることを三人に問い質されて、帝里は上手い言い訳が思いつかず、救いを求めるかのように、とっさに後ろの3人を見る。

 

「いせか―じゃなくて!えっと、その…そう!世界を見てきたのよ!」

「あれです!その、エル様はエル様してたんですよっ!」

「て、帝里さんは…ほら!アニメと実況で引きこもってたんですよ!!」

 

 3人とも、わたわたと答えてくれるが、同時にバラバラのことを言ってしまい、帝里も双治郎達に苦笑いを浮かべるしかない。

 

「言えないのか、それとも…記憶でも失ったか?」

 

「…そんなところですかね…?」

 

 三人ともあまり納得していないようだが、それ以上は追及してこず、なんとか誤魔化しきったようで、心の中でほっと息をつく。

 

「じゃあ、さっきから言ってるテリクウェルって―」

 

「惜しい、エルクウェル。俺がよくゲームで使っていた名前なんだ」

 

「へぇ…で、テリーがそのエルクウェルって実況者ってどういうこと?先輩はエルクウェルってのを知ってるんだよね?」

 

「極悪非道のクズ」

 

「まさかのアンチ!?」


 確かに駆け出しの頃は色々と必死で、あまり褒められないようなこともしてしまっていたが、ここまではっきりと言われると少し心に来るものがある。


 しかし、実況のことは玲奈も口走ってしまったし、双治郎の先輩なるこの女性も知ってるようなので、観念した帝里はエルクウェルのアカウントの方だけを明かし、事情を説明する。

 

「エ、ル、ク、ウェ、ル、っと!あっ出てきた!

 へぇ~…テリーくん、思ったより登録者少ないね!」

 

「それは言わないで!!!」

 

 帝里のチャンネルを見た剛堂さんに一番言われたくないことをストレートに面と向かって言われ、帝里は堪らず悲鳴をあげる。

 まさかさっそく調べられて、目の前で動画を見始められるとは思わず、恥ずかしすぎて、今すぐ帰りたい。

 

「ほぅ…思ったより面白いじゃないか」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 さっきはディスられた気もしたが、今は割りと好評が得られて、帝里は戸惑いながらも、とりあえず双治郎の先輩にお礼を言っておく。

 

「ところで、この女性は誰なの?双ちゃんの先輩なのは分かるけど…」

 

「あぁ、この人は道智寺(どうちでら) 羅瑠(らる)先輩!僕らが去年、入学式で困ってるところを助けてくれて、そっから仲良くなったんだ~!」

 

「あぁ、始めは女の子と思ってたら、男で双治郎って名前だからびっくりしたよ!」

 

 そのときを思い出したのか、双治郎と羅瑠という先輩が仲良く笑い合う。双ちゃんは昔から人とすぐ仲良くなれるタイプで、少し羨ましい。

 

「で、お前はテリー…だったか?ハーフ…ではないだろ?」

 

「アダ名ですよ。入田奈帝里って言います。」

 

「テリーとは中学校から一緒で、一番の親友なんだよ!ね♪」

 

 双治郎が肩を組んできて、情音も帝里の腕に巻きついて、3人とも仲良さげに笑うと、なぜか少し悲しそうに羅瑠の顔が曇る。

 

「その、道智寺先輩?は俺になんか用ですか?」


「いやっ、急にエルクウェルと聞こえたからびっくりしただけで…!その、…お?」


 少し考え込んでいたのか、羅瑠は帝里の声で現実に戻ってきた羅瑠が慌ててしどろもどろに答えていると、キョロキョロとさせていた視線が急に一人に止まる。


「君は…千恵羽京介、じゃないか?あの首席合格の」


「は、はい、そうですが…

 そんなに首席が誰かって気になります??なんか僕、知られ過ぎていると思うんですけど…」


「京介くん、知らないの?この宝大では、首席合格の人が入る部活、サークルは大学が援助してくれるんだ~」


「いや、それはもう部活なのでは…?」


「さ、さぁ…ほ、ほら、サークル呼びの方が大学生感あるからじゃないかな…?

 で、皆、新入生が欲しいってのもあるけど、特に京介くんを狙ってるんだよ。あっ、僕は違うからね!?」


「まー、聖剣部は双ちゃんのおかげで援助されまくってそうだしな。玲奈、首席じゃなくて良かったな!」


「それどういう意味よ!?」


 帝里にからかわれてキッと睨む玲奈にイブと京介も吹き出してしまい、玲奈がさらにむくれる。とはいえ、玲奈が首席だったら、多くの人に声をかけられても人見知りのせいで逃げ回っていたに違いない。


「私ももうどこにも所属してないからどうでもいいんだが…そうだ!」


 感心するように京介を眺めていた羅瑠であったが、突然何か思いついたのかニヤリと悪戯っぽく笑う。


「なら、ここにいるメンバーでサークルを作ろう!!」


「「「「「「は???」」」」」」


「ここにいる人数なら、宝大から援助がもらえる条件の、メンバーが5人以上というのもクリアしてるから作れる。

サークルなんて探すより作った方が自由で好きなことしやすいし、何より千恵羽京介がいるから他のサークルより良い環境で活動できるぞ!」


「いやいやいや…まず、俺さっきもう、双ちゃんと同じ部活に入ったんですけど…」


「そんなのかけもちしろ」


「無茶苦茶ですよ!!まず何をするんですか…」


「そうだな…うーん、じゃあ…世界を…大いに盛り上げ―」


「それ以上は言わせませんよ!?」


 魔法という超能力も使えるし、未来人のイブもいて、おまけに異世界人の帝里もいるが、残念ながら宇宙人が居ない。…いないよね?


「まぁ落ち着け入田奈。世界を大いに盛り上げているもの、それは実況だ!!ちょうど貴様も実況してるんだし、『実況サークル』なんてどうだろう!?」


「実況サークル…」


 目を輝かせた羅瑠の提案に全員、目を合わせながら戸惑ってしまう。帝里すらサークルで実況をやろうと全く考えていなかったのだ。


「どうだ?どうだ?」


「ふん、論外ね!まず別に帝里以外誰も実況をしたいと思ってないし、帝里だってサークルまで実況をしたくないでしょうよ!!」


 そんな沈黙を切り裂き、真っ先に玲奈が反対する。驚くことに、すごく正論だ。


「じゃあ入田奈、サークルでの動画はお前のチャンネルに提供してもいいぞ」


「なんだって!!?」


 動画のネタと聞かされて、1年経ってもまだまだ駆け出しの実況者エルクウェルはつい反応してしまう。


「落ち着け!あんたまず顔出ししてないでしょ!?あまり素性明かしたくないんでしょ!!」


「なら、サークルメンバーで実況アカウントを作って、そこにエルクウェルとして参加したらどうだ?

 これなら顔出ししてる動画としてない動画も分けられるぞ」


「むむむ…確かに…」


 まるで天使と悪魔の囁きのように、玲奈と羅瑠から説得され、帝里の心が揺らぐ。正直な話、最近の動画はマンネリ化してきた気がして、何か物足りず、新しい刺激も欲しかったのだ。


 ただ1つ気がかりがあるとすると、


「…イブ」


「うーん…実況の方針は全てエル様にお任せしますが……うーん、その女性はエル様狙いってわけじゃなさそうですし、私はどちらでもOKです!」


「よし、じゃあ…やって…みてようかな?」


「ちょっと!?」


「あ!テリーくんがやるなら、私もやる~!」

 

 情音がピョンピョン飛び跳ねながら手をあげ、また帝里に近寄ろうとするが、すかさずイブが間に割って入って情音を威嚇する。


「ほほぅ、半年前から雰囲気変わったと思っていたが、あの情音が乗り気とはな…まぁいいことだ!双治郎もどうだ!?」


「えぇ…僕、部長なんだけど…聖剣戦も近いし…」


「なるほどな…なら、都合の良いときだけ来てくれればいいから、な?な?」


 双治郎はそのあとも少し躊躇っていたものの、羅瑠に強引に押しきられ、結局、双治郎もしぶしぶ首を縦に振る。


「…あの、勧誘する順番おかしくないですか?普通、僕が最初でしょ!?」


「まぁ京介はどうせやってくれるだろうと」


「なんか雑!?確かに、帝里さんの実況見て、ちょ~っとだけやってみたいかな~って思ってましたけど!そんないつも簡単に流されると思わないでください!!

 まず…僕はそんなにテンションあげて喋り続けられませんし」


「そんなこと言うなよ~俺は京介は良い人材だと思ってるぞ?」


 自分を置いて話を進める帝里達に拗ねるようにプイッと顔を背ける京介に、帝里は頼み込むように肩に手を置く。


 確かに、今は首席合格者として目立っているが、本来京介はあまり目立ちたがらないタイプであり、実況に少し向いていないかもしれない。


 しかし、京介は人数合わせや首席特典ではなく、本当に必要だと帝里は思っている。帝里的には、一人は常に冷静でいられるキャラが欲しいのだ。


 しかし、一向に首を縦に振ってくれなく、仕方がないので帝里は京介の耳元に口を持っていき、ある秘策を囁く。


「おい、魔法…とまではいかないけど、双ちゃんの身体能力アップの方法ぐらいまでなら教えてもいいぞ」


「ほんとに!!?」

 

 魔法という言葉を聞いた途端、京介がキラキラと目を輝かせてバッと皆の前に立ち、その京介の様子から事情を察したイブがこちらを睨んできて、帝里は首をすくめる。

 

「エル様…本当にいいんですか?」

 

「まー、京介自体、運動神経はそんなに良くないから、双ちゃんと同じくらい魔法使っても一般人レベル越えないだろ。あと、もう一人ぐらい魔法使える奴が居たら便利かなって

 それに…あれ見てると、もう取り消せねぇわ…」

 

 とても嬉しそうな京介の満面の笑みを見て、イブは諦めたようにため息をつく。

 

「コホンっ!ま、まぁ僕が居ないと大学からの援助が貰えませんし?文化部っぽいので僕にも合ってそうですし?他のサークルの人に追いかけられるのも嫌なので、僕も実況サークルに入ってあげます!裏方とかの仕事もあるでしょうし!!」

 

「ちょっと京介まで!?」

 

 最初は反対の空気だった皆が次々と寝返っていき、玲奈が唖然とした表情で京介を見つめる。そういや、京介は必要とされると弱いのだったっけ。

 

「うんうん!これで万事解決だ!!さぁ、サークル申請に行こうか」

 

「ちょっと待ちなさい!!私はまだ納得してないわよ!!」

 

「なんだ小娘、ほらメンバーはお前抜いても、ちゃんと6人いるだろ?」

 

「フィギュアを頭数に入れるな!!…帝里、そんなんでいいの?」

 

「んー…むしろエルクウェルの動画の方の編集とかの負担が減っていいかなって?」


 実のところ、最近、二つのチャンネルを両立させるのに限界を感じており、当分はエルクウェルの動画は、このサークル活動と一括にしてもらって、ひとまず投稿ペースが落ちているクラウディオスに力を入れたいのだ。

 

「うぅ……ハァ、分かったわ。でも、サボっていいわけじゃないからね?」

 

「まてまて、なに勝手に話を進めてるんだ」


「なによ、まだなんかあるの?」

 

 話を止められて、怪訝そうに羅瑠を睨む玲奈に、羅瑠がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「いや、貴様はまだ部員じゃないだろ」


「は?なんで!?」


「逆にあんだけ散々ぼろくそに罵っておいて、じゃあ入ります、なんて甘すぎる話があるわけないだろ」


「うぐぐ…」


 玲奈が恨めしそうに羅瑠を睨むが、今度は羅瑠の言い分が正しいので、羅瑠は余裕の表情である。

 

「私が頼む番は終わったんだ。いいか、『入部させてください、お願いします』だ。」

 

「先輩…さすがにちょっと…」

 

「いいや、ダメだな。まず、私に対する敬意が足りない。というか、むしろ敵意むき出し過ぎだ」

 

「それはあんたがなんか嫌だからよ!!あんた帝里に何したいの!?何を狙ってるの!?」

 

「それはこっちの方に聞きたいですけどね!」

 

 まだ情音と睨み合っているイブが口をはさむ。時々、情音がイブ自体を捕まえようと手を伸ばすが、もうイブはもう読めているようでスルッとかわし、更に威嚇を続ける。

 

「別に面白そうだと、ふと思っただけだが……それに、部長としての威厳をここで示しておく必要がある」

 

「え、テリーじゃなくて先輩が部長やるの!?」

 

「まぁ言い出した本人だから、面倒くさそうなのは引き受けるべきかなって。それにその方が私の好き勝手にしやすいし。入田奈もいいだろ?」

 

 少し台詞の後半に引っかかるところがあるが、帝里も異存はないので頷く。羅瑠の好きに出来るのは少し怖いが、部長なんて動画以外の負担になることはしたくない。

 

「ということで、私が部長だ!!

 ほれほれ、小娘、はよはよ!『入部させてください、お願いします』って入りたいなら、早く私に!言うのだ」

 

「小娘言うな!!うぅぅ…」

 

 羅瑠が意地悪そうに笑いながら、悔しそうに下唇を噛んでいる玲奈の頭を突っつく。


「べ、別に玲奈まで無理して入らなくてもいいんだぞ?」


「嫌よ!あんたと京介が家で楽しそうにサークルの話してるときに、私だけ除け者なんて堪えられるか!!」


「お前ら一緒に住んでるのか…?っていうか、そもそもこいつは誰なんだ??」


「その子は千恵羽玲奈といって京介様のひとつ上の姉ですね。ついでに私はイブという名前で、エル様のお手伝いをして、一緒の部屋で、暮らしているものです」


「ほうほう…ほぉ、ひとつ上の姉ねぇ」


 羅瑠がニタァと笑うのを見て、玲奈はしまったと顔を歪める。玲奈にとって、一番知られたくなかったことなのだ。


「千恵羽と言えば名家だが、そのお嬢様がひとつ下の!首席合格の!弟と同時に!入学なさってるのはどういうことかなぁ?」


「う、うっさいわね!人の人生にも色々あるのよ!!」


 案の定、一番痛いところを突かれて、玲奈は顔を真っ赤に叫ぶ。どうやら今日は玲奈にとって厄日だったらしく、朝から散々である。


「ほらほら、早くしないと事務が閉まるんだけどなぁ?ほら言ってみ?言ってみ?」


「……その……入部…させて…ください……おねが、い…します…」


「んん?よく聞こえないなぁ」


「くっ…そっ…!もう!入部させてくださいお願いします!!!ほら言った!これでいいでしょ!!」


「…え?あぁ、そうだな…

 …こういうのって、『あんた達なんてもう知らないっ!帝里のバカッ!!』って言って、顔真っ赤にしながら逃げていくものじゃないのか?」


「いや、なんで俺…」


 拍子抜けしたようにつまらなさそうに呟く羅瑠に少し引きつつも、これで玲奈も入部が認められたので、一安心する。


「毎回噛みついてきそうで、めんどうだったのだが…まぁ、いいや。まとまってた方がいいかもしれんな

 さて、6人になったし、さっさと登録を済ませるか」


「オッケー!!じゃあレッツゴーーー…お?」


 羅瑠の掛け声にノリノリで両手をあげた情音が何か思い出したのか、ピタリと動きを止める。

 突然大人しくなった情音に帝里達が不審に思い、声を掛けようとした瞬間、情音の後ろに黒い影が1つ、スゥと現れる。


「ぬぉっ!?剛堂さん後ろ後ろ!!」


「…ん?この人は私の執事さんだよ?ハハ、驚かせちゃった?」


 思わず皆が身構える中、情音が笑いながら説明してくれた執事は、スーツ姿にまるで歌舞伎の黒子のように顔を布で隠していて、よく顔が分からない。


「いや、だって急に…剛堂さんって執事いたっけ?」


「ううん、いなかったけど、この頃つけるようにしたんだ~お嬢様の品格ってやつ?」


 情音がピースを決めるが、執事はピタリとも直立を維持し、格好はともかく、威圧を感じるほどしっかりしており、今は形式上執事である帝里も謎の競争心を覚える。


「なんで、その執事は顔隠してるのよ」


「こういうご時世だし~?」


「いや、別の世界線の事情を持ち込むな!?」


「ハハハ…やっぱり執事足るもの後ろで目立たないようにするべきだからかな?」


「いや、むしろ目立ってるよ…」


 そんな帝里の突っ込みなんてお構い無しに、その執事は情音の耳元に口を持っていくと、なにか用件を呟く。


「ふんふん、分かった。じゃあ私帰るからテリーくん達またね。」


「え!?サークル申請は!?」


「てきとーにやっていてー」


 さっきまでの剛堂さんはどこにいったのか、急に素っ気なく返事をすると、唖然とする帝里達を置いて、情音はスタスタと執事と共に去っていってしまった。


「えぇ…さっきまでベタベタしてくれてたのに…」


「エル様…。…で、道智寺様、どうします?」


「まぁ代表さえいれば大丈夫だったはずが…まぁ今日はここまででいっか。双治郎も忙しい言ってたしな

 じゃあ、私が一人で行ってくるからここでお開きにしよう」


「はあ…なら後は道智寺先輩に任せていいっすか?」


「あぁ任せろ!

 それと道智寺って言いにくいだろ?もうサークル仲間だし、もっと気楽に呼んでくれ!

 情音は『羅瑠ちゃん』だったし、それでもいいぞ!」


「じゃあ、羅瑠先輩で」

「私は羅瑠様ですね」

「羅瑠」

「ちょっと姉上…じゃあ僕も羅瑠先輩で」


「ちぇ、堅苦しいなぁ…まぁいいか、なら私は行ってる。

 じゃあ、これからもよろしくな!!」


「はい、よろしくお願いします!!!」


 帝里が頭を下げると、羅瑠は手を振って歩いていった。


「なんかサークルまでかけもちすることになっちゃったけど…テリーとまた仲良くやれるね!!」


「おう双ちゃん!大学生活楽しもうぜ!!」


 双ちゃんが手を差し出してきたので、帝里はがっちりと握手する。


「じゃあ僕も聖剣部戻るね。

 …っとっと!忘れるところだった!はい、これ、僕の変わった連絡先!後で先輩のも伝えるね!」


 そういって、帝里と双治郎は連絡先を交換し終えると、双治郎も部に戻っていく。


「じゃあ俺らも帰るか

 なんか色々あったが、剛堂さんと会えたし、まずは順調!玲奈も入るサークルあって良かったな!!」


「いや散々よ、もう!!やっと帰れる!」


 玲奈が悔しそうに怒っているのを京介と帝里は笑って見ながら、大学生活初日を終えていくのであった。



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