変わっていた友達
「…なあ、俺って実は、もと居た世界とよく似た異世界に来てしまったんじゃないか…?」
「ちょっと、勝手に僕のいる世界を異世界にしないでくださいよ…!ちゃんとここは現実世界です。…多分」
夢うつつに呟く帝里に、京介は困ったようにため息をつくと、、壁に刺さった木剣を少しフラつきながらもなんとか引き抜いて、渡してくれる。
「いや、だってあれ…」
「あ、そうそう、双治郎先輩って聖剣戦の日本代表でしたよ?」
「え???」
「まぁ……でも、さすが‘疾風’の異名を持つだけあって、速いですね…!!全く見えませんでした…」
「いやいや、それをはやく言え!!?」
「むしろ友達なのになんで知らないんですか…
それに、なんか帝里さんが調子に乗っていたので、面白いから黙っとこうかなと」
まぁあそこまで綺麗にやられるとは思いませんでしたが、と京介が肩をすくめるが、京介の指摘は全くその通りであり、自分の不甲斐なさに絶句する。
「だからこそ、聖剣部のために新しい道場を建てるぐらい、宝大が力を入れてるんです。あの双治郎先輩に宝大が、日本が期待しているんですから!」
「…しかし、あんな攻撃がこの世界の、この時代の人間に出来るとは思えないんだけど…」
「いえ、そんなことはないですよ。双治郎先輩のような方は限界突破や超人類と呼ばれていて、わりと世界に多くいます」
「なにそのゲームみたいなの…」
「文字通り、人間の限界を越えた力を引き出せる人が二年前くらいから現れたんですよ。聖剣戦、聖銃戦はそんな猛者が集まるから人気が出るんです!!」
「こんなのが世界中に溢れているのかよ…そんなのズルじゃ-…」
「……どうしました?」
茫然としていた帝里が我に返ったように急に口をつぐむと前に歩き始め、それを見た京介が不思議に帝里を見つめる。
帝里だって、異世界で成長したのは戦闘能力だけではない。あれほどの力が簡単に手に入れられるはずがなく、きっと2年間、必死に努力をして強くなったのだろう。
そんな双治郎が帝里を認めてくれたのに、帝里が双治郎の強さを、世界のせいやズルなんて言葉で片付けて良いはずがない。帝里は努力がちゃんと評価されないことが大嫌いなら、自分もちゃんと相手を評価するべきだ。
それに限界突破とやらの原因は大体判っている。魔法だ。
正確には、この前の玲奈のときのように魔力の素が双治郎の体の中で増大しており、それが双治郎の身体能力を引き上げている。本人は無意識のようで、まだ制御は出来ないようだが、それでも十分、脅威的な強さである。
そして、もしこれが全ての超人類で起きているなら、それはもう異世界干渉と決めつけてよいだろう。長年、異世界の洞穴はこの世界と繋がっていた、とレイルが言っていたので、おそらく、魔王軍に洞穴の宝石を外され、それを帝里が嵌め直してもう一度この世界と繋げたとき、なにかズレが生じ、それが異世界干渉となっているに違いない。
しかし今の帝里には、世界の仕組みなど、そんなことはどうでもよく、黙って双治郎の前に立つと、次は誠意を持って、戦い慣れた構えで剣を向ける。
「…荒っぽいことしてごめんね。テリーにだけは舐められたくなかったんだ」
「そう…ごめん」
我が儘な自分に困ったように双治郎が口元だけ笑い、帝里はこれまでそんな表情を見たことなく、少し戸惑いを覚えながらも、素直に答える。
「ううん、さっきも言ったけど僕が悪かったし…じゃあ仕切り直して始めよっか」
「…いや、仕切り直さなくていい。開始の合図は出てたし、油断してた俺が悪い」
別に1ポイントハンデをやろうとか、もうそんな余裕ぶれる状況ではない。ただ、久しぶりに強烈な一撃を入れられて、帝里のスイッチが入り、相手に情けをかけられたくなかっただけだ。
「いいんだね?…じゃあ、本気でいくよ」
ピクリと帝里の方を見た双治郎であったが、帝里の目からその意志を感じ取ったのか、静かに頷いて納得すると、再び剣を構える。先程と同じ構えなのにも関わらず、前に居ると体が重くなったように感じるほど威圧が凄まじく、双治郎も本気だということがひしひしと感じ取られた。
「…では……開始!!」
緊張した審判の掛け声を発すると、直ぐさま帝里はまた後ろに飛ぶ。やはり距離が帝里の間合いよりも少し近いのだ。
しかし、双治郎が見逃がしてくれるはずがなく、逃げる帝里との距離を一気に詰めてくると、竹刀を左斜めから帝里の頭目掛けて振り下ろす。
その脅威的な速度に、防ぐのが間に合わないと感じた帝里はとっさに身を反らし、なんとか寸前のところで双治郎の竹刀を避ける。
竹刀が空を切り、勢いのあまり竹刀が少し下がった双治郎に隙が出来るが、双治郎はその勢いのまましゃがみ込むと、手を返して、体勢を崩した帝里の足元を狙って横に斬り払う。
しかし、帝里は落ち着いて木剣を地面に押し当てると、それを支えに飛び上がって、足払いを避ける。双治郎は諦めず、帝里の剣を叩いてバランスを崩そうするが、すでに帝里は力を抜き、攻撃を受け流す。
そして、木剣を弾かれた勢いを借りて帝里は体をひねらせて一回転すると、自分の体で作った死角から、勢いのついた木剣で下から斬り上げるように、しゃがんだ双治郎の面を狙う。
「-ッ!!!」
これには、さすがの双治郎も対処できず、慌てて後ろに転ぶようにして避けると、一旦体勢を立て直すため、そのまま転び続けて距離を取ろうとする。
帝里もすぐに着地して、双治郎に追撃を仕掛ける、と誰もがそう思ったのだが、何故か帝里は空中でもう一回体を強引に回転させ、届くはずもないのに、剣を横に切り払う。
「ッ…?」
案の定、帝里の剣は空を切るだけの結果に終わり、さらに、無駄としかいえない一手を入れたせいで双治郎に態勢を立て直す時間を与えてしまい、帝里はせっかくの追撃するチャンスを逃す。
このことに帝里は悔しそうに舌打ちをすると、次は帝里が突進し、木剣を真っ直ぐ振り下ろす。
-ガシッ-!!-
双治郎がそれを竹刀で受け止め、道場内に竹刀と木剣のぶつかり合う鈍い音が響き渡る。そして、弾こうとする双治郎に帝里が無理矢理、力で押し込むことで、鍔迫り合いとなり、ガチガチと武器が擦れ合う。
少しは競ったものの、すぐに力負けすると悟った双治郎は逃げるように後ろへ飛び退くが、着地した瞬間にすぐに前に飛び出して速攻を仕掛け、休む間もなく、再び打ち合いが始まる。
「す…すごい…!…」
二人の試合を周りで見ていた他の部員や新入生達は、無名の帝里がなぜこんなにも強いのか疑問に抱くことも忘れてしまうほど、目の前の戦いに圧倒され、ただただ固唾を飲んで見守る。しかし、経験者達は少し引っ掛かるところがあるようで、
(なんか木剣の奴、無駄が多くね…?)
他は凄いのに、とそう不思議そうに思いながら首を傾げつつ、試合の行方を見守る。
そう、試合中の帝里の行動に少し問題があったのだ。
はじめの掛け合いでの謎の空振りを始めとして、そのあとも、双治郎の攻撃に不自然なほど、一瞬、帝里の対応が遅れるなど、荒削りと言えばよいのか、たまに不可解な行動を取っていた。本人も、それに何か不満があるようで、どんどん苛立ちを重ね、攻撃が粗っぽくなる。
「一体、どうしたんでしょう…?ふざけている、ようにも見えませんが…」
そんなこの場にいる全員の疑問を、京介が代わりにポツリとこぼす。京介も試合を見ているうちに興奮のあまり、つい前に出てきてしまったのだが、京介にも帝里の意図が分からなかった。
「…“ブレーヴ・オクスタル”のせいよ」
唐突に後ろから声が聞こえ、答えが返ってくると思っていなかった京介が驚いて振り返ると、玲奈が帝里達と同じ防具を抱え立っていた。
「あれ!?…帰ったのでは??」
「…そのつもりだったんだけど、入り口で女の子に呼び止められてちゃってね。4ポイント?の勝負を帝里と同じ条件で申し込まれたのよ」
「もう、姉上まで……確かに、護身術で剣道もやっていましたが、いくらなんでも危ないですよ!」
「それが女子は面と胴しかポイントが入らないらしくて、あそこの二人の試合ほど激しくも危なくもないみたいよ」
「いや、あの二人は異常ですよ…」
「まあ、断っても良かったんだけど、相手の子の名前が愛奈って私の名前と似てるっていうから受けることにした」
「なんて適当な理由…」
「いや、意外と大事なことよ?」
呆れる京介に玲奈は苦笑しながら横に座ると、少し楽しそうに防具を着け始める。
帝里達が着けている物とほとんど変わらないのだが、レガースなどの追加防具は本当にただ安全面での配慮のようで、女子はポイントが入らないらしい。
「で、姉上。“ブレーヴ・オクスタル”というのが、どうなんです…?」
「だから、あいつはクリスタルがいっぱい出てくる魔法使うじゃない?あれを使い慣れすぎているせいで、無意識に使おうとしているよ」
追加防具を物珍しそうに掲げながら、チラリと帝里と双治郎の試合に目をくれた玲奈が雑に答える。
とはいえ、玲奈の言うことは正しく、さっきから帝里の不可解な行動の原因は自身の固有魔法、“ブレーヴ・オクスタル“のせいであり、異世界で魔法を駆使しながら戦う方法を取っていた帝里はさっきから、とっさに魔法を使おうとしてしまっていたのである。
始めの空中の無駄に思えた追加攻撃も、本当はクリスタルを飛ばして、双治郎に攻撃をしようとしており、また、防御が少し遅れるのも、双治郎の竹刀をクリスタルで受け止めようとしていたのだ。
しかし、イブを小さくしている今、帝里がクリスタルを出現させるほどの魔力は残っておらず、どれも不発に終わり、その結果、周りから見れば謎の行動となってしまっていた。
「へぇ~…姉上詳しいですね」
「いや、あんなに帝里にせがんで見せてもらってたくせに、なんであんたが忘れてるのよ……」
「え!?あれ…そうでしたっけ…?
でも、そんなこと帝里も分かっているはずですよね?…っていうことは…」
「ええ、帝里は今、本気よ。無意識にクリスタルに守ってもらおうと思うぐらい余裕がないんでしょうね
あの双治郎って子、ほんと速いわ…」
ほぅと玲奈が感心したように呟く。京介も、いつも余裕ぶっている帝里がそれほど追い込まれているのか、と分かると、一層緊張した面持ちで試合を眺める。
「………」
ふと先程から静かなイブが気になり、京介は隣に目をやると、せっかく帝里が格好良く戦っている試合から目を離してイブは広げた自分の手のひらをじっと見つめていた。
「……イブ」
「…分かってますよ…ハァ…」
短く自分を呼ぶ玲奈の声に、イブがため息をつきながら嫌そうに答えると、少し上に飛び上がる。
「京介様、このままだと大怪我をする危険がありますので、ちょっと止めてきますね」
「よしッ…じゃあ、私もやってくるわ!まぁ、こっちはあそこまで見栄えは良くないと思うけど」
「え?あ、うん。いってらっしゃい」
次々と話を進めて動き出す二人に、いまいち何が起こっているのか呑み込めていない京介は気の抜けた返事をしてしまい、それぞれ別の方向に行った二人を見送る。
「…二人とも行っちゃった…
色々聞きたかったのですが……多分、魔法関係ですよね…?」
帝里達と半年過ごし、何となく魔法を感じ取れるようになった気がする京介は、一人でそう推論しながら、また試合を眺めるのだった。
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―…ガシッ!!―
もう何度目になるか分からない、剣のぶつかり合いの音が響く。
帝里と双治郎の試合はまだ続いており、さすがの両者も疲れが出てくるはずだが、激しさは一向に変わらない。
ただお互いが相手を倒そうと、全力で剣を振っており、もう相手に遠慮などして生半可な気持ちで攻撃を受け止めると、大怪我しかねないほど熾烈さを極めていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…ッ!…っ…!」
しかし、もう暫く戦闘から離れていた帝里はさすがに集中力に切れ始め、眉から溢れた汗が目に入り、一瞬怯む。
そこを突いた双治郎が、素早く帝里との間を詰め、焦った帝里が双治郎の面を狙って木剣を振り下ろすが、双治郎はそれをかわし、さらに木剣を上から竹刀で叩きつけると、その叩きつけた反動を使って、帝里の面に下から斬り上げる。
もう帝里には為す術がなく、とっさにクリスタルで防ごうとするが、やはり発動せず回避に移るも、一瞬遅れたせいで、避けきれずに双治郎の竹刀が帝里の面をかすめる。
「くそっ…ハァハァ…速ぇ…!!」
チッ、と帝里が舌打ちをしながら、首を振って汗を振り払うが、さっきから思うようにいかず、さらに苛つく。
というのも、確かに双治郎の速さは圧倒的なのだが、力は大して強くはなく、簡単に押し勝てることが分かったのだが、双治郎も分かっているらしく、なかなか力勝負に持ち込ませてくれない。
そして、どんな一撃でも同じポイントというシステムが、この双治郎の長所と合っており、魔法が使えないということも相まって、勝負はまだ互角なものの、どんどん帝里が不利に感じてしまっていた。
どうしかしなければ負けてしまう。そんな焦りが頭を駆け巡り、窮地に追い込まれた帝里は無意識にある決断をする。
帝里は木剣を立てて、防御の構えを取ると、一気に魔力を溜めることに集中し始めたのである。
その行動に、双治郎も一瞬動きが止まるが、相手から嫌な気配を感じ取り、すぐに敵に斬りかかるものの、帝里も攻撃を流すことに専念し、魔力を少しずつ貯めていく。
帝里の戦闘スタイルは中距離型である。魔法とクリスタルを駆使しながら、隙を見て、近距離攻撃したり、逆に遠距離攻撃で牽制して体勢を立て直したりなど、様々な戦術がとりやすいからだ。
しかし逆に、双治郎のように武器だけ使う近接タイプには弱く、クリスタルの操作に意識が削がれている間に距離をすぐに詰められるなど、苦戦を強いられることも多かった。
そこで、帝里はその対策として、もう一本、太刀を腰に引っ提げて、近距離の戦闘にも適応出来るようにしたのである。
ようやく魔力が溜め終わった帝里は後ろに大きく飛ぶと、腰を落として、刃の部分を逆手の状態にして左手で持ち、柄を右手で握り、居合の構えを取る。
何か仕掛けてくる、と直感的に感じた双治郎は阻止するために、無防備な帝里の頭目掛けて剣を全力で振り下ろす。
ここからの勝負は一瞬だった。
帝里の頭に竹刀が叩きつけられる直前、帝里は身体中の魔力を爆発させて前に飛び、双治郎の竹刀の軌道を外れると、そのまま双治郎の胴へ狙いを定める。
双治郎も辛うじて目で追うことは出来ているようだが、避けようにも速度が全然違い、速すぎて双治郎の動きがゆっくりにさえ見える。
木剣が帝里の腰できらりと光ったかと思うと、すでに双治郎の胴の前まで抜かれており、斬られるっと思った双治郎は思わず身を固める。
この速さが自慢の双治郎をも圧倒的な速度で上回る、帝里のもうひとつの専用奥義とも呼べる技。
「無の太刀、奥義“阿鼻無―」
「エル様!!!お止めください!!!」
「―ッ!??イブ!!?」
帝里が切り払おうと手に力を入れた刹那、両手を広げたイブが急に目の前に現れ、イブに驚いた帝里の剣の勢いが緩まる。
「―って危ない!!」
「えっ…!?」
しかし、すぐに血相を変えて叫ぶ帝里に、イブが後ろを振り返ると、なんとイブは双治郎の太刀筋に立っており、目の前に迫る大きな竹刀にイブは思わずその場で固まってしまう。
双治郎も慌てて止めようとするが、竹刀はすぐには止まらない。帝里も勢いが落ちたとはいえ、急に方向転換は出来ず、双治郎の竹刀を止めることは無理だ。
イブは恐怖で完全に固まっており、逃げられそうになく、このままではイブに竹刀が当たってしまう。イブはもちろん防具をつけておらず、あれを生身で受ければ、大怪我をしてしまうだろう。
「うぉぉりゃぁぁ!!」
イブに竹刀が当たる直前、帝里は残った魔力を手に集中させると、手首のスナップを利かせて、木剣を上に全力で投げ上げる。
投げられた木剣は凄い速度でイブを飛び越えて竹刀にぶつかると、大きな音をたてて竹刀を弾き飛ばし、剣と刀が宙を舞う。
その光景と音でイブもようやく我に返ると、さらなる災難を警戒して、慌てて帝里達から全力で離れる。
そして、投げられた木剣と弾き飛ばされた竹刀が他に被害を生むことなく、周りに甲高い音を立てて落ち、一瞬、静寂が訪れる。
「あ…ぶなぁぁ…」
どうやら皆、無事に済んだようで、全ての力を出し切った帝里と双治郎が同時にどさっと脱力してその場に崩れ落ちてしまう。
そんな相手を見て目が合った瞬間、二人は笑い出してしまい、暫くの間、二人の笑い声だけが道場内にこだました。
しかし…
「剣を投げたことにより、大海選手に1ポイント!よって大海選手の勝ち!!」
「え!?…えぇ!?」
場の空気を正そうと、審判が厳めしく告げた試合終了の合図に、ハッと帝里と双治郎は何をやっていたか思い出し、帝里は顔を上げる。
「いや、木剣離したけど、あれ絶対胴入ってたって!」
「???…いえ、私は、双治郎さんが面を入れようとしたのを、あなたが木剣を投げて防いだように見えましたが…?…」
帝里は口を尖らせて抗議するが、審判が困ったように首を傾げるのを見て、帝里と双治郎は顔を見合わせる。この審判は何が起こったか分かってなかったのだ。
「えっと、今のはね…」
「いや、双ちゃん。もういいよ」
代わりに双治郎が審判に説明しようとしてくれるが、帝里はそれを手で制して止める。
「え、でもテリー…!」
「見えてないなら言われても困るだけだろうし、さっきのでほぼ力使いきった
から、もう一度やれって言われても無理だわ…」
納得していないのか、不満そうな顔の双治郎に帝里は疲れたように笑ってみせる。正直、久々に魔力を使いすぎたせいで、本当に帝里はクタクタで動けないのだ。
「勝負は双ちゃんの勝ち。俺も部活に入るわ。俺もやってて入りたくなったし!」
「むぅ…なんかすっきりしないけど、帝里がそう言うなら……じゃあ、また試合やろうね!!」
なんとか頷いてくれた双治郎は帝里にそう約束すると、入部届けを取ってくると言って部室に入っていく。
「……くぅぅ…せっかく俺の必殺技“阿鼻無間”をこの世界での初お披露目だったのにぃ…!…」
「…それで危うく友達を斬りかけたんですからもう少し注意してくださいよ!!」
必殺技を決めきれなかったことを悔やんでいると、京介に抱えられたイブが口を尖らせて叱咤する声が聞こえてくる。
「それに、私を小さくしている魔法だって危うく、きれかけたんですよ!?大きくなったり小さくなったりを繰り返して!!」
「おっ、ちゃんとBキャンセルしたんだな」
「ふ ざ け な い で く だ さ い!!
私が“認識順応”の範囲より大きくなったら、周りにばれちゃうんですから!!もう少し気をつけて下さい!!」
「分かった…すまん…」
珍しく本気で怒るイブに今回は完全に自分が悪かった帝里は素直に謝る。
帝里の あの技は全身の魔力を使って身体能力を跳ね上げるもので、その魔力が木剣にまで宿ってしまっており、あのままだと、剣道の防具などいとも簡単に破壊し、双治郎を斬りつけてしまっていただろう。イブが途中で止めてくれたことに感謝している。
「にしても、お前、よく俺の速度についてこれたな…
技自体少し手を加えてるし、ここまで速くするのは至難の技だと思ってたんだけど…」
「え!?ま、まぁ未来の道具がありますし!?でも、エル様は自身の力だけ出来るんですから凄いですよ!!」
実はあの必殺技は教えてもらった技とはいえ、誰も追い付けないと密かに自負していたのだが、イブに易々と割り込まれてかなり落ち込む帝里に、イブは慌てて慰めるように帝里の周りをわたわた飛び回る。
「あの~二人とも…まずあの名前は何なんです?地獄の名前なんか取ってきて、全く勇者らしくないんですが。」
「そのときの成り行きってやつ?正直よく分からん!…てか、お前あんま興味なさそうだな」
「ええ、あんまり魔法っぽくないので。ビュッ!!って速攻な双治郎さんの方が格好いいです」
いつもなら目をキラキラさせながら尋ねてくる京介も本当に興味がないようで、さっきから帝里達の方すら見ずに、ずっと隣の試合場を眺めている。
どうやら帝里達が試合をしている途中に別の試合が始まったらしく、他の観客も途中からそちらに注目していたようだ。
おかげで最後のやり取りを誰にも見られなかったようだが、観客を取られて面白くない帝里はどんな奴らだと恨めしそうに眺めた、そのときだった。
「めーーん!!…って掛け声要らないんだったわね…」
「胴あり!千恵羽選手に2ポイント!!」
「あっ…掛け声すら違った…全部『めーん!』じゃなかったっけ…」
恥ずかしそうに開始位置に戻って剣を構えるその姿に、帝里は驚きのあまり口をぽかんと開ける。
「玲奈…?なんで!?」
「ええ、姉上は昔に剣道をやってたので。でも、あんなに強かったとは知りませんでした…」
玲奈が剣道もできるという意外な事実に驚く帝里に、京介も少し興奮しながら頷く。どうやら女性用の普通の試合と同じルールでやっているらしく、今、玲奈が2ポイント先取したらしい。
「…へぇ…京介くんのお姉さんの相手してる子は、この部で女性だと一番強いと思うんだけど…なかなかやるね…!
あ、テリー!はい、入部届け♪」
「ん、ありがと。あと拗ねるから玲奈って呼んであげて…」
帰って来た双治郎が興味深そうに目を細めて試合を眺めながら渡す入部届を、帝里は受け取りさっと目を通すが、記入事項が多いことに思わず顔をしかめる。面倒なので玲奈の試合を見終わった後にしよう。
「にしても双ちゃん、日本代表だったらしいな!!
昔からあんなに強かったっけ??」
「正確には補欠なんだけどね…
うーん、僕もよく覚えてないけど…高校の終わりぐらいからなんか力が漲ってきて、検査してもらったら超人類って判明したんだ」
「ふーん…」
他の人がどうなのかは分からないが、どうやら帝里が異世界から帰って来る前から‘超人類’は存在していたようで、異世界干渉と思い込んでいた帝里は当てが外れ、少し困ったように思案を巡らせるが、良い答えが見当たらず、考えるの止めて、玲奈の試合に集中する。
「では、開始!!」
帝里は入部届を隣に置いて試合に戻ると、ちょうど審判の開始の合図が響き渡り、皆が注目する中、玲奈達の試合が再開される。
先にポイントを取った余裕からなのか、玲奈は剣をクルクル回して挑発しているが、それでいて全く隙がない。
攻めあぐねて、後がない相手は焦って攻撃を繰り出してみるものの、玲奈が全て華麗にかわす。
相手の愛奈という子は、双治郎のように‘超人類’というものではないようだが、帝里の目から見ても十分強く、見ていてかなり気迫があるのだが、玲奈はそれをしっかりと丁寧に受け流していく。
反撃は剣を振るのが少し大振りのせいで、なかなか決まらないのだが、帝里とは違って一切無駄がなく、防御、回避は完璧で、愛奈の剣は玲奈にかすりもしない。
そんな攻めている側が苦しいという面白い展開に皆が熱中していき、調子づいた玲奈は、華麗に受け流し、避け、ときには剣を絡めて相手の姿勢を崩すなど、どんどん相手を圧倒していき、最後は、
「…めーーん!!よし、次はちゃんと面よ!!」
「面あり!!千恵羽選手2ポイント!よって千恵羽選手の勝利!!」
綺麗な面が入り、思わず拍手が道場中に沸くなか、勝利を収めた玲奈が満足そうにこちらへ帰ってくる。
「ふぅー、勝った勝った…ってちょっと、なんで入部届け持ってるのよ…?」
「いや、双ちゃんに負けたから入部するんだよ」
「は!?負けた!?あんたが!?あんた…あんなイキってたのに?」
「うぐっ!…う、うるせぇ!!色々あったんだよ!!」
「はぁ~?…もう…じゃあ、私は部活をどうしよ…」
「それこそ、ここに入部したら?むっちゃ強いんだし!
お前も異世界行ったら活躍できるぞ!!」
「えっ!?…ふ、ふーん、そう、ありがと…
まぁ、あの子も凄く強かったけど、私にかかればこんなもんよ」
試合は4対0と圧勝だったせいか、玲奈らしい強気な返事がさらりと返ってくる。きっと玲奈も相当自信があったのだろう。
「なら、私があんたに教えてあげようか?」
「いや、俺だって本当の力が出せてたら勝ってたし!!別に教わる必要なし!」
「本当~?こ~んなに強い私に習えるのよ?」
「別に俺に勝ったわけでもないくせに…
あ、そういえば、この前言ってたけど、胸が小さいおかげで、本当に防具の締まりがしっかり―」
「ッッッッ!!めーーーーん!!!」
顔を真っ赤にした玲奈が振り下ろした竹刀が余計なことを言い返した帝里の頭に見事的中し、
―パァァァァァァァーン―
と乾いた音がまた道場内に響き渡った。
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「おぅ…でっかいたんこぶ出来た…」
「…さすがに、さっきのはテリーのデリカシーがなかったと思うよ?」
「だってぇ~、玲奈が馬鹿にするからぁ…」
痛そうに頭をさする帝里に、横を歩く双治郎が呆れたように注意する。
「でも、本当に入部して良かったの?僕は全然、あの勝負なかったことにしていいんだけど…」
「あぁ、気にするな。さっきも言ったように、俺が入りたいから入るんだよ」
双治郎はまだあの勝負に納得がいってないようで、帝里の入部をまだ気にしているが、帝里は帝里の目的の上で、本当に入りたい理由を見つけたのだ。
帝里の目的、それは何度も言うように、世界平和、そして魔法が安全に使われる世の中である。なので、こちらの世界の人々が、今、どれほど魔法の存在に気づいているか、が重要になってくる。
そして、帝里が見たところ、双治郎のような限界突破と呼ばれる人々が魔法に一番近いと感じた。聖銃戦の方がどんな感じかは知らないが、きっとこの二つの競技から魔法は発展していくだろう。
そこで、帝里は聖剣部に入ることで、その2つの情勢を確認しようという考えに至り、入部を決意したわけである。
「…おーい、テリー?聞いてる?」
「…あっ、ごめん。聞いてなかった…なぁに?」
「もう、また情音ちゃんのこと考えてたでしょ~!」
「いや、そんなことは―って思い出した!!まだ剛堂さんに会ってない!!」
双治郎にからかわれてようやく剛堂さんのことを思い出し、帝里が大声を上げる。双治郎は帝里が剛堂さんを好きなのをよく知っているのだ。
「高校のときは、あれほど『剛堂さん、剛堂さん』ばっかり言ってたのに……」
「いやぁ、色々あったからさ~
…剛堂さんは…その、元気…?…あと、ほら?…ね?」
「げ、元気…だよ?あ、彼氏はいないはずだよ!!」
口籠もる帝里を察した双治郎から一番聞きたいことを教えてもらい、現状、剛堂さんがフリーなことにひとまず帝里は安心するが、なんというか、高校のときほどのドキドキ感が沸いてこない。
一浪して大人になったのだろうか、と帝里は不思議に思っていると、スマホを操作していた双治郎が嬉しそうにこちらを見る。
「情音ちゃん、今来てるって!!待ち合わせは……広場にしようか。
…うん、大丈夫だって!じゃあテリー、行こうか」
「え?は!!?…急だな!?」
突然、再会の場をセッティングされ、焦りながら慌てて詰め寄る帝里に、双治郎がてへっと悪戯っぽく舌を出す。
とはいえ、会いたいのは事実なので、異論はない。後ろのいたイブ、玲奈、京介も付いてくるということなので、皆で一緒に行くことにする。
「にしても会うの久しぶりだなぁ…きっと大学に入って、さらに綺麗になってるんだろうなぁ…!」
帝里はまだ見ぬ剛堂さんに7年ぶりの思いを馳せるが、そんな浮かれた帝里を見て、双治郎が何故か微妙そうな顔をして、視線を逸らす。
剛堂さん。それは帝里の初恋であり、高校の入学式で一目惚れだった。清楚さを強調するかのような美しい黒髪ストレートをなびかせ、上品でとても優しげな立ち振舞いに帝里は目を奪われたのである。
剛堂グループのご令嬢で、少し気後れしたものの、ちょっとずつ話す機会が増え、だんだんと仲良くなっていき、中学から帝里とずっと仲が良かった双治郎を加え、いつしか三人でよくいるようになった。
双治郎も帝里の恋に協力的で、よく気を利かしてくれたものだ。まぁ、帝里が台無しにすることが多かったのだが…
例えば、呼び方が良い例である。帝里、剛堂さん、双治郎のもともとのそれぞれの呼び方は「剛堂さん、双ちゃん」、「入田奈くん、大海くん」、「テリー、剛堂さん」といった感じで、呼び方になんとなく距離を感じ、悩んでいた帝里に、双治郎が皆、下の名前で呼ぼうと提案してくれたことがあった。
剛堂さんは何故か帝里の名前だけ、下で呼ぶことをとても恥ずかしがったが、なんとか「テリーくん」と、双治郎と同じあだ名呼びにすることにし、双治郎も帝里が呼びやすいように、剛堂さんを「情音ちゃん」と呼ぶことにしてくれたのだ。
しかし、ここで肝心のテリー本人がヘタレ過ぎて、結局、「剛堂さん」と元のまま呼び続け、「情音」と呼べなかった。
なので、結果だけ見ると、双治郎と剛堂さんが下の名前で呼び合うという、なぜかそこの二人の距離が近くなるという結果になってしまったのである。
と、こんなふうに帝里が残念な結果にすることが多く、そんなヘタレの意気地無しだからこそ、異世界に転移される羽目になったのかもしれない。
「そんなことあったねぇ~…テリーも、もうちょっと頑張らないと」
「分かってるって!この2年で俺は驚異的な変化を遂げたから大丈夫だ!!
うん!俺の異世界は剛堂さんのためにあったんだ!!」
「ちょっと、言ってること無茶苦茶だよ!?テリー、ほんとに大丈夫…?」
緊張でテンパってまた失敗しないかと心配する双治郎に帝里はドンと胸を張る。
そう、帝里は異世界勇者を経て、心身共に強くなって帰ってきたのだ。ラノベ展開?どんとこい!そんなの異世界で経験し尽くした!!
しかし、双治郎と、剛堂さんとの昔話で盛り上がる帝里を、さっきから後ろでずっと、明らかに不機嫌そうな顔で玲奈とイブが付いてきているのには全く気づかない。
「…まったく…帝里さんは、ほんとそういうところは、ちゃっかり異世界勇者の主人公っぽいんですから…」
そんな拗ねた二人の様子を、さらに後ろで眺めながら、困ったように苦笑する京介であった。
======================
「着いたよ!!ここ!!」
双治郎に連れられて着いた目的地は真ん中に大きなオブジェがある広場で、ここが大学で一番人気のスポットらしく、沢山の大学生で賑わっている。
「…ふん、私の家の庭の方が広いわよ!」
「いや、何と張り合ってるんだよ…
で、剛堂さんは!?」
「来ていると思うんだけど…ちょっと探そうか」
ぐるりと辺りを見渡して見るが、それらしき姿は見当たらず、仕方なく皆で、広場の周りを探してみることになる。
…やばい。少しずつ緊張してきた。さっきはあんな強気のことを言っていたが、忘れられていたらどうしようと、少しずつ不安が募っていく。
「いや、行方不明になった俺を一生懸命探してくれていたんだし、希望はまだあるはず…っ!大丈夫!大丈夫!大丈ー」
「あっ!!?テリーくーーん!!!」
後ろから可愛い声で名前を呼ばれて、帝里の心が跳ね上がる。この呼び方をする人物はこの世界で、一人しかおらず、胸がぎゅっと締め付けられる。
完全な不意討ちに帝里はその場で固まってしまい、振り向くことが出来ず、心臓はバクバク、緊張度はMAXと、魔王を討伐しに行ったときより緊張しているかもしれない。
「や、やぁ、ご、ご、剛堂サン、ひ、久しぶ―っ!?」
それでも頑張って、前もって決めていた台詞を絞りだそうとした瞬間、誰かに後ろから抱きつかれて、その衝撃で頭の中が真っ白になる。
…え?…
状況を考えると誰が抱きついてきたかは明白である。しかし、帝里は完全にパニック状態になって頭が働かず、振れ幅の激しかった感情も振り切れてしまったのか、ピタリと停止する。
理性と感情のネジが吹き飛んだ帝里の体が機械のようにゆっくり振り向き、頭が下がると、茶髪が見えてくる。
…………茶髪?
突然の知らない情報に、帝里は一瞬、意識を取り戻す。しかし、こちらを見上げる顔はやはり…
「テーリーくーん♪ひっさしぶりーー!!」
「だ、だ、誰!!??」
言葉遣いも全く変わり、黒だったはずの髪は茶髪に染め上げ、少し派手な服装に身を包んだ、帝里とは縁の無さそうな、陽気な見た目の女の子。しかし、その顔は紛れもなく、帝里の初恋の相手…
剛堂さんは派手な大学デビューを果たしていたのだった。
とうとう初の1万字越え…ッ!?
少し長くなってしまい、すいません…m(__)m




