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かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
1章 Start Another Heroes
11/58

かけもちの勇者様!!

 帝里は目覚めた。


 あまりにも少し味気なさ過ぎる表現だが、目が開き、急に意識が覚醒したのだから、こうとしか言えず、出来たことといえば、目を開けるぐらいのことだけであり、他の身体中の感覚は全く何も戻ってきていない。


 仕方がなく帝里は、唯一動かせる目に意識を向けると、真っ直ぐにこちらを見つめるイブの顔が逆さまに映っている。突然目を開けた帝里に驚いている様子だったが、すぐに嬉しそうな笑顔に戻り、帝里の髪を優しく撫でる。


 そんな先程と違う、和やかな時間が経つにつれ、少しずつ体から意識が伝達され、脳内が整理されていく。体に異常を感じるほどの怪我はないようだが、マナを使いすぎたせいか、どこか懐かしい倦怠感と筋肉痛が全身にずしりとのし掛かってくる。

 髪を撫でられている感覚も戻ってきて、その心地よさに疲労も相まって、再び泥のように眠りたい衝動に陥り、ゆっくりと目を閉じる。

また、ようやく自分が何かに乗せられているのが分かってきた。自分の頭を乗せているものは、ほのかに暖かく、イブの立ち位置から判断すると、これは誰もが夢見る至高の…


「ひざまっぐあぁぁぁ!?痛い!痛い!痛い!?

…何であぐらなの!!?」


「あ、いえ、昔の男の人は足の上に寝かせてあげると喜ぶって聞いたもので…」


「それが膝枕だよ!!なのに何であぐらなんだよ!!?くるぶしが首筋を変に刺激してめっちゃ痛いよ!!」


「え!?この姿勢で膝に乗っけるって…」


「正座だよ!!基本姿勢、正座だよッ!!」


 首筋を押さえながら叫ぶ帝里に「いや…」とイブが申し訳なさそうに体を縮こめる。


「あの…恥ずかしながら、生まれてから正座というものをやったことがないのです…いつも座ろうとしたら勝手に椅子が出てきて座らせてくれるもので…」


「近代テクノロジー反対!!」


 科学者も便利を追求し過ぎて、男の夢を奪うなど男失格だ。そのせいか、あぐらすらも、きちんと足を入れられていない微妙なものが出来上がっている。


しかし、正座で更にその上に重い頭を乗せさせるのも、なんだか昔の拷問みたいで、求めるのも酷な話だと帝里も反省し、これ以上の言及するのを止め、大人しくイブの前に座る。


 痛みでじんわり熱くなった首を擦りながらも、おかげで意識が完全に覚醒した帝里はグルグルと、凄い速度で無駄に頭が回るっているのを感じつつ、倒れる前の記憶をぼんやりと辿っていく。


「今何時?」


「えっと…大体9時ぐらいだと思います」


「あ、予備校の授業が始まる…」


「急な現実逃避はやめてください。夜中の9時で授業はもうとっくの昔に終わっています」


 イブはぴしゃりと言い放つと、座り心地悪かったのか、ゴソゴソと組んだ足を崩して、座り直す。

 帝里も一旦落ち着くため周りを見渡してみると、倒れる前にあった残り火の処理はイブがやってくれたようで、辺りにはゆったりとした夜の静けさが漂っていた。


「あれ?あの二人は?」


「あの二人なら未来に送りつけておきました。生かしておきましたが、よろしかったでしょうか…?」


「あー…うん、もう別にいいや。ちゃんと逮捕?されるんだろ?」


「はいそうですね、さすがに未来でもそろそろ騒ぎになって、二人の時空渡航の経歴から全ての犯罪が分っていることでしょう。

それにしても、指輪なしであの二人を倒してしまうとは…さすがエル様です!!」


 イブからパチパチと拍手を受けて、帝里は久しぶりにほめられて、照れたように頭をかく。身体にあった気だるさも達成感に変わってきて気分が良い。

 一頻りのささやかな称賛が終わると、イブは服の埃を払いながら立ち上がる。そして、衣服の乱れを整えると、真面目な面持ちで帝里の方を向くと、ペコリと頭を下げる。


「歴史を変えるほどの大犯罪を止めていただき、そして、私の命まで救ってくださり、本当にありがとうございました!!」


「おぅよ!回復力8倍は伊達じゃないだろ?」


「はい!しかも汚れてた服まで綺麗にしてくれるなんて!」


 イブが服を見せつけるようにくるくるとその場で回ってはしゃぐ。背中の機械がいつの間にか消えてるが、壊したのか聞くのが恐いので触れないでおく。


「で…」


 ゆっくりと回転を止めたイブが、スカートの裾をはためかせながら、再びこちらに向き直ると、前屈みになって帝里を覗き込む。


「これからどうします?」


「いや、どうするって?」


「私のこととかですよ!

 もう!!しっかりしてくださいよ、私の勇者様♪」


「え?…はっ!!?ちょ、おまっ…いつから聞いていた!!!??」


「う~ん…『イブ、お前の勇者にもなってやる』あたりですかね?」


「ほぼ最初じゃねぇか!!その後も全部…?」


「いえ…すでに意識が朦朧としていて、治療してもらった後にすぐ気を失ってしまったので、他は何も…

…その後の戦闘に加わることが出来ず、すいません…」


 イブが申し訳なさそうに縮こまる。治療する前までの話しか聞かれてないようだが、思い返して見てみると、我ながらすごく恥ずかしいことを言っていて、今にも暴れだしたくなる。

 俺はこの世界を救うんだとか、自分を勇者、勇者と連呼していたのを、軽く聞き流してくれたアッシュとモイラには本当に感謝したい。まったく、過去というものは、ほんとろくなものでない。


 それはさておき、問題はイブの勇者として何をするかである。


 『イブが未来に帰った後、帝里はこっちの時代でイブと約束した平和を目指して、見事、未来を変えることができました。

そして、未来が変わったことにより、イブがこちらの時代に来る必要がなくなり、イブの記憶もなくなって、イブはただ何も知らずに、未来で平和に、そして幸せに暮らしましたとさ。』


と、いった感じの話が、帝里的にはとてもロマンチックなエンドで好きなのだが、その当の本人であるイブは全く帰る気がない。


 それに、帝里が平和を目指すのは元々するつもりのことであったので、帝里一人でやると、結局、全く同じ未来を辿りそうであり、未来を変えるきっかけとしてもイブにはこの時代に留まってもらう方がいいのかもしれない。


「でもさ、あの二人がお前のことを話して、結局、お前も連れて帰られるんじゃないのか?」


「それはご心配なく!!きちんと彼らの記憶から私たちのことは消しておきました!物理的に!!」


 イブは手から雷をほとばしらせながら胸を張って答える。雷でどうこう出来るのかという疑問は置いておいて、あの二人からイブのことがばれることはないようで、残る問題は、先程からずっと触れていなかった、イブの違和感の原因、‘世界の警告’である。


「…やっぱりそれは残してたらまずいの?」


「はい…確か、この‘世界の警告’を探知する装置があったはずなので、残していたらすぐにここにいるのがばれちゃいますね…」


「で、お前は“認識順応”?を使えないんだったよな?」


「いやいや、少し使えるんですよ!?ほら!片腕分ぐらいならッ!!」


「やめろやめろ!?…腕がなくなったみたいで怖い」


 やたら目立つものの中で、急に一つだけ普通に戻られるとそこだけ存在が薄くなったように見えるように、“認識順応”をかけた方の腕が消えたように見え、とても不気味に感じ、慌ててイブに止めさせる。そして今さらであるが、“認識順応”は魔法であったようだ。


「実は私、回復呪文とか、補助系の魔法が苦手で全く使えなくて…特に“認識順応”は、全然出来なくて、ほんとにこれが限界なんです…」


 どうやらイブは回復、防御なしの圧倒的火力で倒していく、超アタッカータイプのようで、火力姫というあだ名の由来が少し分かった気がしたが、この“認識順応”をイブの全身に、どうにかしてかける以外に解決策はない。


「…たしか、その“認識順応”さえ使えば、どんな姿であっても、怪しまれないんだよな??」


「はい、そうですが…それが?」


 なぜそんなことをわざわざ聞くのかというように不思議そうに首を傾げるイブに対し、聞きたかったことが聞けた帝里は満足そうに頷くと、勢いよく立ち上がる。


「なら小さくしよう!!小さくなったら全身に“認識順応”をかけられるよな?」


「小さくする…私を、ですか…!?

 確かにかけられると思いますが、まずそんなこと出来るはずが……」


「出来る!理論上はね」


 未来でも聞いたことのないような魔法を嫌がり、怯えるようにイブが、激しく首を振るが、やった方がはやいと判断した帝里は魔導石とメモを召喚し、その魔導石を使って、イブを中心にメモに書かれた通りに魔方陣を地面に描いておく。


 魔法の発動は言ってしまえば、イメージ論である。なので、例え、魔法を使ったことがない人でも、他人の補助や魔導石や杖といった、魔法の発動を補助するものを使い、ちゃんと魔法の結果を具体的にイメージすることが出来れば、魔法を使えることだってあるのだ。


 ただ、実際にイメージだけで魔法が使えるようになるのは稀のことであり、異世界では大抵の場合、魔法を覚えるときは、古代から決まった長い呪文を詠唱することで基本的に誰でもその魔法を使うことが出来る。

 どうやら、その呪文を唱えることで無意識にその魔法がイメージ出来ているらしい。言葉って凄いね。


 そして使う回数が増えていくごとにそのときの感覚やイメージがだんだん身についていき、技名を唱えるだけで発動できたり、簡単なものになれば詠唱なしで発動できるようになったりするのだ。

 なので、イメージがしやすいように途中から呪文を変える、ということも出来る。


 実際、帝里も、“洗濯”や“乾燥”といったよく使う魔法は、目的を言うだけで発動したり、同じくよく使う回復呪文を、定番の名前“ヒール”に変えたりしているのだが、大抵は始めに習ったときの呼び方がしっくりくるので、そのままにしている。


 そうこうしているうちに、帝里は地面に、今居る路地裏の道幅一杯に魔方陣を書き終え、呪文詠唱の準備を整える。魔導石の補助が必要なのは、今から使う魔法は帝里も一度しか使ったことがなく、全く使い慣れていないからだ。


「まずは、“ブレーヴ・オクスタル”!!!」


 マナを安定させるために、帝里は8つのクリスタルを出現させる。今回の魔法は扱うのが難しい無属性の中でもかなり高度な魔法だ。そのため、クリスタルを全て黒色に塗り替え、イブの周りにクリスタルを全て配置する。


「よし…いくぞッ!!

ブラギドナ オシクス マアラン―……―アナ “ルコナンス”!!! 」


 不安そうにこちらを見つめるイブを安心させるように帝里は頷くと、帝里はゆっくりと丁寧に魔法を順番に読み上げていく。


 すると、帝里の唱える呪文に呼応するように、地面に描かれた魔方陣が輝き出すと、魔方陣から光が染み込むようにイブの全身を包み込み、魔方陣の上にイブの輪郭だけが光り浮かび上がる。


 書かれた魔方陣が地面から剥がれるように空中に浮き上がると、不思議な文字列に変わり、イブの周りを取り巻いていく。


 その文字列の回転が激しくなるにつれ、イブの輪郭はどんどん小さくなっていき、30cmほどの大きさにまで縮小すると、包み込んでいた光や文字列、そしてクリスタルが消え、小さくなったイブの姿が現れる。


 体内で溜めたマナがごっそりもっていかれた疲労感に苛まれながらも、魔法が成功したのを確認した帝里は、ホッと肩の力を抜いて、イブに歩み寄る。

 こちらを茫然と見上げるイブの近くまで行くと、帝里はゆっくりと跪き、小さくなったイブを拾い上げ、手のひらに乗せてやる。


 …先に言っておくが、“ルコナンス”は魔方陣内の空間をそのまま小さくしており、服ごと小さく出来るので、ここで、イブの着る服だけ元の大きさのまま、地面に残ってイブが裸になる、とかそんなラノベ的展開はない。


「な、小さくなっただろ?」


「ふおぉ…!こ、これはすごいです…!!…エル様が大きく見えます…まるで私、お人形さんみたい!!」


「フィギュアの方が近いと思うけど…」


「でも、これなら…うん!全身にかけれそうです!“認識順応”!!」


 呪文を唱えると、イブから発せられる違和感が徐々に消えていき、存在が完全にこの世界に馴染む。これで不格好ながら‘世界の警告’の問題は解決だ。


「でもその格好で大丈夫か?かなり不便だぞ?」


「まあ確かにそうでしょうが…ってエル様も使われたことが?」


「え!?い、いや!た、大したことはしてないよ??竹の壁が高くなりすぎて登れなかったし、そもそも湯煙がさらに濃くなるから結局何も見えなかったし、べ、別に変なことなんかに使って――」


「……。まあ、それは触れないでおきますが…私の場合は飛べるので全然大丈夫ですよ!…ってあれ?装置が壊れてる…」


「あぁ…!?…イブ、ごめん!!実は…イブの服を洗うとき一緒に洗っちゃった…」


「いえ、洗う程度なら壊れないんですが…あぁ、あの攻撃を受けたときに一緒に貫通して壊れたのですね。まあでも…!」


 自分が壊したのではないと分かって、帝里が胸をなで下ろした瞬間、イブの背中から薄透明色の羽が生えて、イブの体が宙に舞い上がる。


「えぇ!?なに、未来人って羽が生えるように進化してるの!!?」


「いえ、あの装置は空を飛ぶための媒介みたいなものなので、形は様々なものがあって、この羽も、一つのファッションみたいなものです」


「ややこしいわ!!」


「えぇ…でも、これ可愛くないですか…?

 それよりも!この大きさで飛ぶというのも、なかなかの迫力があって、楽しいですね!!」


 イブはタンッと宙を蹴り、飛び立つと、帝里に近づいたり離れたりと、思い思いの場所を楽しそうに飛び回る。傍から見るとなんだか妖精と勇者みたいな組み合わせのようで、ファンタジックな光景に見えるかもしれない。


「でも、そのサイズがビュンビュンと顔の周りを飛び回ってるのも、結構怖いな…」


「まぁそれも慣れですよ!!それよりも…この魔法を使ってからエル様の魔力が…」


「あぁ、ずっとこの魔法を使い続けることになるから俺のマナは…って、マナや魔力って呼び方ややこしいから、全て魔力に揃えるか。

 じゃあ、俺の魔力はほぼ0。逆戻りだ」


 生物の大きさを変えるなんて大魔法を使っている間、帝里はほぼ全ての魔力を使い続ける必要があり、“ブレーヴ・オクスタル”は使えない。

 というより、イブを小さくしているこの魔法“ルコナンス”に帝里が慣れない限り、当分どんな魔法も使えないだろう。


 ただ、その代わりにイブが魔法を使えるし、この世界で魔法を使う場面などほとんどないと思うので、帝里はそこまで気にしておらず、これで当面の問題はなんとか全て解決できただろう。

 飛行を楽しんだイブが再び帝里の掌の上に止まり、姿勢を正すと、カーテシーのようにスカートの裾を摘まみ、頭を下げる。


「改めてまして、エル様。エル様の目的を叶えるため、微力ながら協力させていただきます、イブです!!

 不束者ではございますが、よろしくお願いいたします。」


「おう、よろしく頼むぜ、火力姫」


「ぬあぁ!?な、なんでその名前を!!??」


 さっきの盗み聞きの仕返しに、あの二人が言っていたあだ名で応えるが、思った以上慌てるイブの様子を見て、つい帝里は吹き出してしまう。


 笑う帝里に怒るように抗議するイブと帝里が遊んでいると、ふと帝里とイブの目が合う。しばらくそのまま見つめ合っていると、自然と二人からやる気に満ちた笑みがこぼれる。


 今日一日だけでも、未来人や魔法と、想像も出来ないことがたくさんのことがあった。

 まだまだ知らない、分からないことだらけの不安な未来に一度は挫折しそうになったものの、イブの勇者となった今、ここから、次こそ本当に始まるのだ。そう、それは…


「じゃあいくか、俺と…」


「私の…」


「「夢を叶えるために!!」」


 こうしてまた一つ、別の勇者譚が始まったのであった。



これで1章は終わりです。お読みいただき、ありがとうございました!!

相変わらず、締めが下手くそで、

なんか、俺たちの戦いはこれからだエンドに、タイトル回収までして、今にも終わりそうな雰囲気ですが、まだまだ続きます…笑

まだまだ表現未熟で至らない所がありますが、よろしくお願いしますm(_ _)m

それでは、また2章で!

「ご視聴ありがとうございました!!」

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