表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かけもちの勇者様!!  作者: 禎式 笛火
1章 Start Another Heroes
10/58

勇者×英雄殺し



「その女が起きる前にさっさと縛り上げてぇし、すぐにくたばってもらうぜ!

 さぁ、焼き殺されるか、雷に貫かれて殺されるか、好きな方を選びな!!“フラマ・ジュール・スリルトン”!!」


 アッシュとモイラから大気が歪むほどの熱気を帯びた火柱とそれに渦巻くように荒れ狂う雷が帝里目がけて容赦なく放たれる。イブとの逃亡時に使ってきた共同魔法と全く同じものだ。


「ふん、ちょうどいい。勇者の実力ってやつを見せてやるよッ!

 “エイノス・コアトム”!!」


 帝里が自分の前で剣をクルリと一回転させると、結晶片が帝里を守るように前方8方向に飛び散る。そして、全ての結晶片が白色に瞬いて、お互いが光の線で結ばれていくと、その線内を埋めるように、帝里の前に白く半透明な分厚い障壁が現れる。


 そんな帝里に躊躇うことなく、帝里を覆い尽くすほどの炎と雷が押し迫り、その障壁に激しくぶつかるが、障壁を前に体当たりを繰り返すだけで、障壁を超えることが出来ず、すべて大気に散っていく。


「なっ、光属性!!?なんでそんなので守れるんだよッ!!??」


「悪ぃな、俺はそう簡単にやられねぇよ。」


 自分達の魔法を打ち破いた障壁の存在に驚くアッシュを見て、帝里はざまぁみろと、ニヤリと笑ってみせる。

 水属性の盾だと火属性に強いが、雷属性に弱いので、無難に光属性の盾で受け止めたのだが、それでも火属性や雷属性に有利属性でもない光属性で受け止めれるほど共同魔法は弱い威力でもないのだ。


 そんな共同魔法を一人で止められるほどの力、これが帝里の“ブレーヴ・オクスタル”のもうひとつの強さなのである。


 帝里は根源マナを体外で完全に別々に分けられたことにより、根源マナ自体の属性を別の属性に塗り替えることが出来るようになったのだ。


「ま、つまり単純に~、その属性を8倍の力で出せるってわけだな」


「そ、そんなのチートじゃねぇか!!!!」


「チ、チートいうな!!これくらいじゃないと魔王とか倒せねぇし、なによりこれのために、こっちだって沢山苦労したんだよ!!妥当な努力の結果だよ!!」


 帝里は裏で頑張ってコツコツと努力したものを、才能とかの一言で片付けられるのが大嫌いだ。努力は見せるものじゃないというが、不当に評価されるものでもない。

 しかも、この魔法を使えるようになったのも、レイルやクラウディオスといった人々の協力があってこそのものであり、その皆の協力まで、チートで片付けられては黙ってはいられない。


 悲鳴を上げるようにチート呼ばわりするモイラの方を睨みつけながら、帝里が左手を掲げると、散らばっていた結晶片が左手に集まり、手の周りを回り始める。


「好き勝手言いやがってッ…!!こっちも本気でいくからな!!“アグート・アテディン”!!」


 呪文に全ての結晶片が反応し、次は赤に染まり輝くと、帝里の手からアッシュよりも遥かに火力の高い炎が放たれる。業火は熱く燃え上がり、空を赤く照りつけ、唸りをあげてアッシュ達に襲いかかる。


 しかし、こちらの炎の先端も何かとぶつかり、凄まじい音と共に大量の煙があがる。

 ただ、これは帝里にとって想定内のことで、おそらく相手も盾を張ってくるので、その盾を破って相手に大ダメージの計算だ。


 帝里が左手から放たれていた炎を止めて暫くすると、立ち上った粉塵も少しずつ晴れていき、徐々に二人の姿が現れる。

 帝里の予想に反し、顔に少し煤がついているものの、二人とも無傷のようで、帝里と二人の間に青白い結晶のような盾が浮かび上がっているのが見える。その結晶は以前の水の盾よりも、はっきりと形を留め、帝里を威嚇するかのように、不気味な白いもやを滲み出ている。


「氷……水属性の上位変換か…!?マナ量が一定を越えないと出来ないはずだけど……」


 とっさに帝里が二人の左中指に目をやると、帝里の予想に応えるように、指の付け根が怪しく光る。あの二人もあの魔力増幅指輪をはめていたのだ。

 イブの話では数倍にマナが膨れ上がっているはずで、二人のマナを足し合わせることで、氷属性が使えるようである。


 水属性の上位互換の氷属性は、火属性がさらに通りにくくなるだけでなく、水属性のマナが強くなればなるほど使える水の純度も上がっていき、氷属性になると雷を通さなくなるので雷属性も効かなくなる。

 このように、上位属性は、元の属性より魔力だけでなく、特性もはるかに強力なものになるのである。


「けっ、その指輪の方がチートだっつーの。

 てか…あれ?俺も氷属性の盾を使えばよかったんじゃね?」


 クリスタルを使うことで各属性を8倍強化することが出来るのだから、一応帝里は全属性の上位変換を使うことができる。


 あえて光属性の盾を使うことで、自分の実力を見せつける作戦、と自分に言い訳していると、二人が突然、盾にしていたその氷の塊を帝里に飛ばしてくる。

 帝里も慌てず、手にしていた剣を上げ、氷塊目掛けて真っ直ぐ振り下ろすと、真っ二つに割れ、ゴトッと鈍い音を立てて地面に転がる。


 一筋縄ではいかない。そう感じ、こちらの世界での初戦を圧勝で終わらせるつもりだった帝里は少し悔しそうに、だらりと額を垂れる汗を拭う。

 ただ、それは相手も同じようで、始めの余裕ぶった表情は消え去っており、どこら緊張した空気に両者とも押し黙る。


「そう、やすやすとはぁ死んでくれねぇか。まぁいい、モイラ!」


 睨み合いに飽きた、とでも言いたげに、アッシュがモイラに呼びかけると、モイラは静かに再びあのロボットを一体取り出す。前と同様、片手に剣を持っているのに加え、もう片方に杖を携え、なかなか厄介な改造を施されている。

 ここからが本当の始まりだ。アッシュが首を鳴らし、モイラが眼鏡をかけ直す。帝里も剣を構え直すと、8つの結晶片が剣を離れ、帝里を守るように周りを舞う。


「さぁて、本番といこうぜ!!」


====================================


 そこからは一進一退の攻防が続いた。


 帝里は8つの結晶片のうち6つを使って、三角形の防御障壁を2つ生成して、それで攻撃を防ぎつつ、残りの2つは牽制用として、奥にいるモイラとアッシュの方を攻撃させながら、帝里自身は目の前の剣ロボットと剣を合わせる。


 相手側も負けじと、モイラが二人を守る防御を張りながらロボットを操作し、アッシュがその防御の援助をしながら、帝里に攻撃を仕掛け、応戦するといった状況が、かれこれ20分以上続いていた。


「ハァハァ、これじゃあ、きりがないな」


 先程から全く攻め入ることが出来ない帝里は肩で息をしながら、苛立たしそうに呟く。

 無マナを属性マナに変換させるのに体力を消費するので、使える魔力には限度があり、本調子でない帝里としては、いつまでもグダグダと戦っていられないのだ。


 しかし、剣ロボットが進路を阻んでくるせいで二人に近づけず、かといって、ロボットから倒そうと死角に回り込んでも、操作しているモイラがしっかりと帝里の行動を見ているので簡単に躱されてしまい、なかなか突破することが出来ない。


 それでも、まずロボットを倒すべきだと判断した帝里は、攻撃用の結晶片を赤と青に変化させると、それぞれが炎と水を線状にして二人に放ち、アッシュ達の目の前で交差させ爆発を起こすことで、白煙を発生させる。イブが逃亡時に使ったのと同じ手だ。


 煙の出現で二人の一時的に攻撃が休み、モイラとロボットの視界が遮断される。それに伴い、ロボットの動きが急に鈍くなり、隙だらけの状態になったロボットに帝里は、すかさず駆け寄り、力一杯に薙ぎ払った帝里の刃がロボットの胴へ迫る。

 しかし…


「…チッ、さすが未来…。やっぱりAIとかついてんのか?」


 ロボットの目が突然赤く光り出し、後ろに飛んで帝里の刃を避けると、空中で杖を突きだし、至近距離で帝里目がけて、魔法を打ち込んでくる。すかさず帝里も三角障壁で防ぐが、モイラ自身が魔法を使ってない分激しくなったその攻撃に、帝里は防ぐのが一杯で、なかなかその後の追撃に移れない。


 さらに視界が晴れた二人の攻撃がすぐに再開され、いよいよ追撃も断念せざるを得なくなり、戦況は元に戻る。


「なかなか良い線いってたが、惜しかったな!!そいつは独自で動いて、さらになんと、自分で学習していくモイラ自慢の優秀なロボットだぜ!」 


 無事であったロボットの様子を見て、なぜかアッシュの方が誇らしげに語る。

 だからそれをAIと呼ぶのではと帝里は心の中で思いつつ、そうであるのならば、これから仕掛ける攻撃もどんどん対策されていくので、長期戦はさらに不利になってくる、と焦る気持ちがさらに大きくなる。


「わりとまじでヤバい状態だな…だけど!」


 何かを決意した帝里は、めげずにもう一度、2つの結晶片の色を赤と青に変えると、全く同じように光線を交差させ白煙を発生させる。


「だから無駄だっていってんだろうが!!」


 霧の中から腹立たしそうに吠えるアッシュの声が聞こえるが、帝里は構わずロボットに迫り、さっきと全く同じように胴を斬り払おうと剣を振るが、やはり同じように後ろに飛んで簡単に躱され、虚しく剣が空を斬る。が、


「人間だって学ぶんだよ!!」


 次の瞬間、先程の2つの結晶片が剣のリーチを補うように横から飛来し、ロボットの胴を貫く。この結晶片、物理攻撃も出来るのだ。

 全く同じ行動に対してロボットは成功した同じ対応する。そう予想した帝里は敢えて同じ行動を取ることで、逆に相手の行動を予測し、次は死角から2つの結晶片に攻撃させたのである。


 結晶片が勢いよく突き抜けると、ロボットの胴体に大きな風穴が2つ空き、火花を散らしたロボットが瞬く間に爆発を起こす。

 その爆煙を帝里は手で防ぎながら飛び越えると、この隙に二人との距離を一気に詰める。


「まったくしつこいやつだぜ…っうぉッ!!?」 


 煙を鬱陶しそうに払っていた二人であったが、いつの間にか目前に迫る帝里の存在に、あわてて攻撃を繰り出すものの、全く息が合っておらず、帝里は次々と避けていく。

 そして帝里の剣の間合いに入る直前で、攻撃を諦めたモイラが防御に切り替え、盾を張り始めるが、今なら横からクリスタルを滑り込ませれば、少しは攻撃が届くかもしれない。


「“エレルナ”!!」


 しかし、ここで帝里が唱えたのは召喚魔法であった。

 掛け声に反応し、ひとかかえほどある大きな壺が2つ、アッシュとモイラの目の前に突如現れる。二人は何が起こったか分からず、障壁の生成も一瞬止まり、ただ呆然と口を開けて壺を見つめており、意表が突けたようで小気味が良い。


「いっけえぇぇぇ!!!」


 帝里がそのまま勢いよく壺を蹴飛ばすと、壺はモイラの作りかけの障壁に衝突して激しく割れ、飛び出た中身が盾の上を越えて、二人に降り注ぐ。


「ぶぶぇぇぇ、なんだこりゃあぁ!??あ、油ッ!!?」


 ろくな体勢も取れないまま、アッシュとモイラは、壺にたっぷり入っていた灯り用の油をそのまま頭から被り、体全身が油まみれになる。

 それを確認した帝里は手を休めることなく、次は足の裏に風のマナを溜めると、地面を蹴りつけ、空に飛び上がる。


「ベぇッベぇッ!てめぇ一体何しやがる!!!」


 口の中までデロッとした油が入り込み、激昂したアッシュが帝里の姿を追って、上を睨むが、すぐに顔が恐怖で歪む。

 なんと自分たちの頭上では、帝里が構えた剣に赤く光る結晶片が回りっており、剣はすでに炎を纏い始めているのだ。


「あ、あいつ、引火をねらってッッ!!おいモイラ!!盾だ!最大限の大きさで死ぬ気で守れ!!!」


 あわてて氷の盾を生成するモイラに自分のマナを全て渡しながら、アッシュは自身の周りに飛び散った油を急いで処理していく。少しでも油に引火すれば一気に燃え広がり、体に油がついた自分達も一瞬で炎に飲まれてしまう。勇者とか言いながら全く恐ろしいことを考える野郎だ。


「でもお前は飛行装置がねぇ。調子乗って飛び上がったのが運の尽きだったな」


 氷の盾もほとんど完成し、飛び散った油も回収し終わりつつある。あの攻撃を防いだ後、こんな目に遭わせてくれた、空中で逃げ場のない敵をどうなぶり殺そうか考え、アッシュの口がにたつく。

 そのときだった。左手に何が触れる違和感を覚えるが、油だろうと放っておこうと思った瞬間、その違和感が一膨れ上がり、指先に鋭い痛みを感じる。


「いっつッ!!?次はなん――ぁ……ゆ、指輪がッ……!?」


 二人の目の前に自分たちの指輪が浮かんでいる。もちろん、そんな機能はない。指輪を下から何が持ち上げているのだ。指輪と同じ色で同化しようとしているそれは、指輪より輝いているせいであまり同化出来ておらず、正八面体を縦に伸ばしたような形を堂々と見せつけてくる。それは、


「あいつのクリスタル!!??まずいよ!!」


 モイラが事態の深刻さに気づき、すぐに見上げるがすでに遅い。自分たちを覆い尽くしていた氷の盾が指輪を失ったことによる急激なマナ低下に伴い、水に戻ってしまい、更に収縮しつつある。


「へへ、ちゃんとクリスタルの数は数えるべきだぜ?」


 6つの結晶片を剣に纏った帝里は、目の前を防ぐ氷が消えたことで自分の目論見が成功したことを確認し、勝ち誇ったように帝里の口元が綻ぶ。


 イブの話ではどういう仕組みなのかは分からなかったが、あの指輪がマナの量を引き上げていることは確かであった。

 ならば、あの指輪を外せば、二入のマナの量は格段に落ち、今の自分でも倒すことが出来る。そう判断した帝里は、油を浴びせることによって指輪と指の摩擦を減らし、帝里自身は高く飛ぶことで二人の意識を上に持っていき、下から結晶片に指輪をはずさせたのだ。

 2つ結晶片が戻ってきて結晶片が8つ揃い、剣に纏う炎がさらに大きく膨れ上がる。この火力ならあの防壁ごと貫通出来る。


「次はお前らの罪でも数えとけ!!

 これで終わりだ、“アグート・アテディン”!!!」


 帝里の剣から二人目がけて一直線に炎が放たれると、邪魔する水の盾を喰らい尽くすように一瞬で蒸発させ、二人を上から襲い狂う。


「「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」」


 炎が地を這うと同時に辺り一面が爆炎に包まれ、二人の暗殺者の絶叫が夜の闇に響き渡った。


 


 

「これで終了っと!ってうおっ!?」


 爆発が静まった地面に降り立った帝里だったが、着地するや否や、膝から崩れ落ち、無様に座り込んでしまう。帝里自身も、もうほとんど力が残っていないのだ。


「ふぅ~、なんとか最後までもってくれてよかったけど、マナ使いすぎた~……もう少しでも使ったらぶっ倒れる…」


 戻ってきたマナは少なかったものの、なんだかんだ、最後まで力を貸してくれるとは、魔法というものも案外甘っちょろいやつだと、帝里はクリスタルを嬉しそうに引き寄せながら、辺りを見渡す。


近くには残り火がそこら中に散らばっており、騒ぎになる前に片付けなければならないのが少し憂鬱だが、その奥で穏やかに眠るイブには被害が一切なかったのを確認し、一安心する。


「あ…」


 帝里は左右それぞれに一つずつ、一際大きく燃えている塊を見つける。アッシュとモイラだ。

どうやら爆風である程度の油は飛ばされたものの、まだ体についていた油に引火してしまったようである。

帝里の攻撃では死なない計算であったが、先程のアッシュの予想は大きく外れ、帝里にとって、油が引火するのは計算外というか、引火することすら忘れてしまっていた。このままでは二人は焼け死んでしまうだろう。


「………」


 当然の報いだ。英雄と呼ばれた人々を殺してまわり、その人生を奪い去っていった奴等にはふさわしい処罰である。それだけでなく、きっとイブのような何の関係もない人々も沢山殺してきたのだろう。…制裁だ。正義の鉄槌が下ったのだ。…だから放っておけばよい。放っておけば…


「……“ミスルズ”」


 二人の上に青に光る結晶片たちが集まると大量の水がクリスタルから溢れ出て、燃え盛る二人に降り注ぐ。

 ジュワッと音を立てて、炎がしつこく抵抗するが、大量の水とその勢いに負け、流されるように消火される。


 二人の生存を帝里は見届けると、今度こそマナを使いきって、その場に倒れ伏し、そのまま気を失ってしまう。


 結局、自分自身も甘っちょろかった帝里の優しさを褒めるように、8つのクリスタルが帝里の周りを暖かく照らしながら回り、見守っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ