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人魚姫  作者: 如月 雪
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後悔

海夜の過去が明らかになる。

海夜が部屋に帰ってくると、大学から来年度の手続き書類が届いていた。




そうか。


もう三年になるのか。お袋もそろそろ諦めて欲しいものだ。



大学に合格したまま一度も行っていない息子のために、お袋は学費を払い続けていた。



キット八年間払い続けるつもりなんだろう。






三年前の三月八日 国立大学前期試験の合格発表の日




T大 理三の合格者の欄に 俺の番号があった




お袋は、俺がT大に合格したことが余程嬉しかったのか、電話口で涙を流していた。


俺自身も一つの目標が達成出来たことが嬉しくて、回りの現実を見ることが出来なかった。



そう・・・あの時、もう少し冷静に物事を判断できていたら・・・俺は今も幸せな時間を過ごしていただろうか。









*******************************************





「翔! 翔!やったぞ!受かった!!」


「・・・・・・・・そうか・・・・・おめでとう・・・」


「何だよ?もっと喜んでくれよ? これからもお前と一緒に大学にいけるんだぞ? すっげー嬉しい!」





俺は 何も判っちゃいなかった・・・




何も 見えていなかった・・・







プツリと切れたその携帯は もう二度と繋がることは無かった









・・・その翌日 翔は高校の屋上から身を投げたのだ










翔は俺と同じT大の理三を受験していた。この国の最高大学で医学を学ぶことが、俺たち二人の最初の目標だった。


これまで、翔の方がずっと成績は良かったし、全国模試でも常にAランクを貰っていた。


だから、翔が不合格になることなど万が一にも有り得ないと思っていたし、俺の頭の中にはそんな考えは生まれもしなかったんだ。




何故、あの時、翔の声をきかなかったのか・・・




何故、あの時、もう少しでも冷静になれなかったのか・・・





何故・・・・何故・・・・何故・・・・







そうすれば、翔は死ななくて良かったんだ・・・・








俺が 翔を 死に追いやってしまった・・・・






俺が 翔の背中を押してしまった・・・・





















・・・・その後悔だけで、今まで生き長らえてきた



ただ、息をするだけの無意味な時間 



翔と一緒だった三年間と 翔がいなくなった三年間



地球では同じ時間が流れているのに、俺にとってその二つは余りにも違いすぎた









「もしもし 母さん。俺。元気にしてる?



うん。俺も元気だよ?今日 大学の書類が届いたんだけど、もう 良いから…


もう 無理しなくても良いから…


俺はもう戻れない」



絞り出すように伝えた言葉は、お袋に伝わっただろうか?



もう止した方が良い


戻る事の無い大学に学費を払い続けるなど 愚の骨頂だ。




その金で、少し贅沢すれば良いんだ




結局、お袋との会話は平行線のままで、今年も俺は大学に居座り続けるみたいた。







昼過ぎ、煙草を買いに近くのコンビニに足を運んだ。


この時間帯に来るのは初めてだ。



ついでに昼飯の弁当でも買うつもりだった。




「鳴瀬 じゃないか?海だろ? 俺だよ!古澤晃!覚えてるだろ?晃だよ」


ブルーのストライプの制服を着た店員が、ニコニコしながら声を掛けてきた






古澤晃




俺達の友達




「久しぶりだな?」目を逸らして 返事をした。


まともに顔を見ると、泣き出してしまいそうだったからだ。懐かしさと嬉しさと後ろめたさに心が壊れてしまいそうだった。




「近くに住んでいるのか?俺はこの上のマンションなんだ。あと 少しで置けるから寄って行かないか?


ううん。寄って行ってくれ。絶対にな」

晃の瞳が真剣な光を讃えている。



断ることを見越しているのか、頑として引き下がらないオーラがあった。




「判った。前の本屋にいるから終わったら声を掛けてくれ」


泣き出しそうな表情に変わった晃の顔を見つめて そう言わずにはおられなかった。










あの日






翔が亡くなった事を教えてくれたのは、晃だった。


寮の部屋で退寮の為の荷造りをしている所に、晃が泣きながら飛び込んで来た。


「かけるが・かけるが死んだ!」


突拍子もない話に 俺は冗談だろうと笑い飛ばした。



「悪い冗談だぞ!翔が怒ってくるぞ!」


「ほっ・・本当だって! 翔が屋上から飛び降りたんだ!」

泣きながら俺にすがりついた晃の身体は震えていた。




「嘘だ! そんな事 信じない!嘘だ!これからも同じ 大学に行くんだ!」


俺は必死で晃の話を打ち消そうとしていた。



「お前、知らなかったのか?翔は 落ちたんだ。合格確実と言われていたのに、あいつは不合格だったんだよ! だから…あいつは…


バカだよ!来年 受験すれば良いのに・・なんで・・なんで・・」晃の声は最後まで聞こえない







・・俺のせいだ・・




・・俺の言葉が翔を絶望に突き落としたんだ・・






身体中から血液が抜けていくみたいに 俺は意識を失った








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