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PPOー惑星開拓者ー  作者: 樫ノ樹
第二章 弱肉強食
12/15

Chapter2④

 4.1


 北側区画から都市中央部を繋ぐ大通りは、多数のプレイヤーで溢れ、活気に満ちていた。

 綺麗に舗装された石畳の大通りを歩く、タクマとサジ。


 昨夜の騒ぎから倉庫に一泊したタクマとサジは、朝から行動を開始していた。

 美波の話では、マールスの跡地の復興計画をギルドのメンバーに説明し、準備を整えるのに時間が欲しいとのこと。

 その間、タクマとサジはカロッツェから託された手紙を持って、〈バレンシアファミリー〉のギルドマスターを訪ねることにしたのだ。


「ギルド〈バレンシアファミリー〉の本部は、都市中央部の集会施設にあるみたいだよ」

「集会施設?」

 サジの話から、またも聞き覚えのない言葉にタクマは聞き返す。


「集会施設っていうのは、居住用建築物と違って多目的な利用ができるように、広大なホールで構築された建物だよ。主に大規模ギルドの本部や会議室として使われるね」

「へぇ、そんなのもあるのか。便利だな、プレイヤータウンは」


 タクマはサジの言葉を聞きながらも、それほど興味があったとは思えない返事だ。


「ケータ君のこと、気にしてるの?」

 サジは、そんなタクマの様子に気づき尋ねる。

「いや……本人が来ないって言ったんだから、それは別にいいだろ?」


 朝、倉庫を出る際にタクマたちはケータも誘ったのだが、ケータは街へ出ることを拒否していた。

 〈LoJ(ロジ)〉の連中に怯え、身を隠そうと一心になっているのだ。


「気になるのは『虐め問題(ブリーイング)』の方だよね?」

「まぁな。これだけ多くのプレイヤーがいるのに……」

 タクマはそこで言い淀む。言うべきではない、と感じたのだろう。


 サジもそれを察して、言葉に詰まる。

 タクマが言いたいことはわかっているのだ。


 これだけ多くのプレイヤーがいて……何故、見て見ぬ振りなのか……

 〈LoJ(ロジ)〉のようなギルド、悪質なプレイヤー、『虐め問題(ブリーイング)』が蔓延っているのは、周囲の人間が見て見ぬ振りをした結果だ。

 サジは、自身もその一人だったと自覚している。


 タクマは責める気はない。故にサジの前では言い淀む。

 サジからすれば、それが余計に辛く感じるのかもしれない。


 タクマは、沈黙から逃れるように別の話題を切り出す。

「なぁ、〈バレンシアファミリー〉のマスターってどんなやつだ?」


「え? あ、いや……実は僕も会ったことないんだ。βテスト時代、開発チームで話題にはなっていたんだけどね」

「そっか。まぁ二千人のギルドを束ねるぐらいなんだろ? 面白そうだな、そいつ」

 タクマは自然と笑みが零れた。



 4.2


 都市中央部に建ち並ぶ、五棟の集会施設。

 集会施設は石材を円柱状に組み上げた、砦のような建物だ。

 外観は、一階正面に扉が設えてあり、二階、三階部分には等間隔で窓が配置されている。

 五棟全てが共通の構造だが、唯一、違う点が存在した。

 それは、屋上から掲げられている垂れ幕。垂れ幕には、賃貸しているギルドの紋章(エンブレム)が描かれている。


 〈バレンシアファミリー〉は、その内の一棟『焔の館』と名付けられている集会施設にギルド本部を設営していた。

 無論、垂れ幕にはギルドの規模を自慢するかのように、大きな〈バレンシアファミリー〉の紋章(エンブレム)が見える。


 タクマたちは先程、この建物に到着し正面の扉を開けた。

 扉の先は、オフィスの受付ロビーのようになっており、三人の女性プレイヤーがカウンターで出迎える。

 その内の一人に、用件を伝え手紙を渡すサジ。

 手紙を受け取った女性は奥の部屋へと下がり、タクマたちは暫く待たされていた。


 五分程すると、奥の部屋から先程の女性が現れ、タクマたちに告げる。

「お待たせ致しました。マスターが直接お会いになるとのことですので、そちらの階段から二階のギルドホールにおあがり下さい」


 指示された右側の階段を昇り、二階のギルドホールへ進むと、今度は一人の男性プレイヤーが待ち受けていた。


「こちらだ」

 彼はそう言うと、タクマたちを先導するように前を歩き始める。


 広大なスペースを保有するギルドホールは、パーテーションで区切られ、利用目的に応じたブースとなっているようだ。

 各ブースには、天井から案内板が吊り下げられている。

『入団申請窓口』『店舗管理窓口』『遠征支援窓口』などなどと書かれた案内板。

 さながら現実世界の市役所のようだ。


 タクマたちが案内されたのは、そのギルドホールの奥、会議室と書かれたブース。ガラス張りのパーテーションで天井から床までを完全に仕切られている。

 その一角は、大勢のプレイヤーで賑わうホールの騒々しさを感じさせない、静かな部屋だった。



「ようこそ〈バレンシアファミリー〉本部へ」

 タクマたちをこの部屋まで誘った男性は、そう言うと自己紹介を始める。


「私はサブマスターの神无(カミナ)・バレンシア。こちらに座っているのが当ギルドのマスター、神梛(カンナ)・バレンシアだ」


【名:神无(カミナ)・バレンシア 職:武芸者(サムライ) LV:44】


 黒い長髪をなびかせ、その双眸は他者を睨みつけているかのように鋭い。タクマも目付きは悪いが、彼も同じ部類だ。

 鎖帷子(くさりかたびら)を身につけ、直立するその姿は武士そのものである。


 神无の後ろには、豪華な装飾を施した執務机が一つ。

 その奥には、妖艶な女性が笑顔で座っていた。


【名:神梛(カンナ)・バレンシア 職:遊撃戦士(スカーミッシャー) LV:45】


 彼女こそが〈バレンシアファミリー〉のギルドマスター、神梛だ。

 紅く煌めく美しい髪。透き通るような白い肌。そこに結ばれた艶のある赤い唇。そして、見る者を惹き付けるような黒い瞳。


 サジは一瞬、その美貌が放つ妖艶な空気に飲まれていた。

 言葉では表現できない。彼女はそれほどまでに魅力的なのだ。


「神梛よ、よろしくね」

 彼女は甘い声音で挨拶した。

 その容姿、声音、そして向けられた笑顔に、サジの心は早くも奪われかける。


「あ! あ、え……えっと……」

 慌てるサジに対し、タクマは気にする様子もなく言い放つ。

「緊張すんなよ、サジ」


「っていうか、手紙読んだんだろ? 神梛」

 タクマの不躾な質問に、執務机の前に立つ神无が答える。

「礼儀がなっていないな。初対面で呼び捨てとは」

 神无は苛立ちを隠すことなく、タクマに食ってかかった。


「よしなさい、神无。彼らはお客人よ」

「しかし!」

 神无は異議を唱えようとするが、神梛の表情を見て留まる。


「こちらも呼び捨てで構わないかしら? タクマ」

「ああ、それでいいぜ! よろしくな、神梛。神无」

 タクマをより一層、睨みつける神无を見て、サジは溜息をついた。



「で、カロッツェはあんたに会えって言ってたが……手紙の内容は理解してくれたか?」


 タクマは尋ねる。

 カロッツェの手紙には、タクマやサジが話した現実への帰還方法の仮説が記載されていたはずだ。

 それを理解しているなら、答えは出ているはず。

 だが、彼女の答えは全く違うものだった。


「あなた方に会わせたい人がいるわ。まずは、その人と話をしてからということで」

 彼女は妖艶な笑みでそう答えると、会議室に別のプレイヤーを呼びつけた。



「はいはい、なんでしょ?」

 会議室に呼ばれたのは、無精髭を生やした中年男性だ。

 ボサボサに伸びた髪を掻き毟りながら、部屋へと入ってくる。


「バン。こちらは、客人のタクマとサジよ」

 神梛は、簡素に紹介を済ませ話を続けた。


「サジはあなたと同じ境遇らしいわ。二人の話を聞かせて欲しいのよ」


 その言葉にタクマとサジは驚愕する。

 バンはサジと同じ境遇……つまりは、開発主要メンバーの一人ということだろう。

 サジは、彼の仕草やバンという名前から、すぐに思い当たる。


「バン……? 橎堂(ばんどう)さん!?」

「へ? おいおい、じゃあお前は?」

如月(きさらぎ)です! 如月 悟(きさらぎさとる)!」

「おー! 久しぶりだなぁ!」


 二人がお互いの本名を呼び合い確認してる最中、タクマは自身の記憶を探る。


 橎堂 義郎(ばんどうよしろう)。PPOの開発主要メンバーの一人で、主に仮想現実の体感映像(グラフィック)演出効果(エフェクト)を開発していた男だ。

 その男は今、現実での写真とさして変わらない風貌で、目の前のゲームキャラクターになっていた。


【名:バン 職:魔術士(マギ) LV:36】


 サジとバンは、懐かしい旧友に再会した気分で和気あいあいと話をしているが、タクマとしては用件を先に済ませたい。

 そこでタクマは声をかけ、サジから話を進めるよう促す。


 その様子を眺めている神梛と神无。

 タクマは、この状況を作った彼女たちが何をしたかったのか理解した。

 手紙に記載された事柄の信憑性を確かめるために、自分たちが与り知るバンとサジを引き合わせたのだろう。


 お客人と持て囃したわりに、ついさっきまで疑っていた。

 くえない女だ。タクマは胸中でそう呟く。



 4.3


 〈バレンシアファミリー〉本部の二階会議室では、タクマたち五人の会席が続いている。


「なるほどな! ってことは、俺も如月……じゃなかった、サジの考えと同意見だな」

「現実世界への帰還が可能だと?」

 バンの言葉に神梛は問いかける。


「ああ! 正直言うと、俺はメインサーバーの不具合だと思ってたんだよな。でもサジの話を聞いて、これが仕組まれたことだとわかった! パイオニアエンジンに囚われてんだよ、俺たちは」

 意気揚々と語るバン。


「根拠は何だ?」

「タクマ君の存在だね。僕も初めはバンさんと同じく不具合によってログインもログアウトもできないんだと思ってた」

 神无の質問に答えるのは、サジだ。


「でも、後からタクマ君がログインしてきたことによって、この仮想現実(ゲーム)が現実と繋がったままだと知った。

 入ることはできても、出ることができない。作為的に片方の道を閉ざしているのは、事故でも不具合でもなく……何かの意思によるものだと気づいたんだよ」

「それがパイオニアエンジンってわけだ。アレのスペックを考えれば充分あり得る話だ」



 サジとバンの考察を聞いて、神梛と神无も納得する。

 仮想現実(ゲーム)やメインサーバーの不具合であれば、現実世界との繋がりは断ち切られていたのだろう。

 しかし、そうではないとタクマの存在が証明したのだ。


 サジの話す通り、何かの意思が働き、作為的にログアウトの道を閉ざしているのなら、それを開けば良い。

 その意志がパイオニアエンジンだというのならば、それの願いを叶えてやれば良い。

 すなわち、ゲームを攻略し、パイオニアエンジンの道標(ガイド)を機能させるということ。


 二人は顔を見合わせ、再びタクマへと向き直る。

「タクマ、私たちはあなた方への協力を約束するわ」

 神梛は笑顔でそう言う。


「助かるわ。でも具体的に何をどうすりゃいいのか、わからねぇんだよ」

 タクマは肩を竦め答えると、サジへと視線を向けた。


「PPOには、ゲームを進行するためのストーリーが無いからね……。攻略と言ってもダンジョンは、βテスト時と変わらないアイテム入手のコンテンツだし……」

「ってことは……考えられるのは未開拓地方か」

 サジの言葉にバンが続く。


 バンの発した言葉に皆、聞き覚えがある。


 PPOの世界では、火星はテラフォーミングによって人類の居住域へと発展した。しかし、実際に惑星開拓者の始祖『マールス』とその一団が生活圏を築いたのは、火星のおよそ60%ほどである。

 残りの40%は、未だ前人未踏の未開拓地として設定されていた。


 タルシス地方から見る未開拓地は四つ。

 北西のアマゾニス紅海に浮かぶ、絶海の孤島『エリシウム島』。

 遥か南の地に穿たれた大穴『ヘラスクレーター』。

 その大穴の先に広がる樹海『シルティス大森林』。

 そして、名前だけが設定として存在する『イシディス』。

 これらが未開拓地方と呼ばれている。


「未開拓地方へ辿り着ければ、パイオニアエンジンは反応するかもな。そこで何をするのか、道標(ガイド)として何を示すのか? それがわかるかもしれないぞ」

 バンの考察を聞き、タクマたち四人も頷く。


「決まりね。目標は未開拓地方」

 ーー「会議中、失礼します!! 襲撃イベントの発生を確認しました!」


 神梛の言葉を遮るように会議室のドアが開き、一人のプレイヤーが伝達事項を告げる。


「どこだ?」

 物静かに尋ねる神无に焦りの色は無い。

 〈バレンシアファミリー〉は、その襲撃イベントに対処するため監視網を構築しているのだから。


「タルシス地方北東部! 伝令は三番隊、カロッツェからです!」

「発生規模は?」

「レベル4! 敵勢力は北東部より都市に向けて進行する部隊と、マールスの跡地方面へ進行する部隊が確認されています!」


 報告に来たプレイヤーと神无の会話を聞いていたタクマとサジに、緊張が走った。

 例の襲撃イベントが発生し、マールスの跡地も標的にされているのだ。


「タクマ君!」

 サジの表情は既に焦燥感を露わにしている。

「焦んな! アサミがいるんだ、あいつはそんな脆くねー」

 そう言い放つタクマは、この状況をどう打開するか思考を巡らした。



Chapter2④で初登場のバレンシアファミリー幹部。

ギルドマスターの神梛カンナ

サブマスターの神无カミナ

あえて二人の名前を似たものにしたんですが…わかりづらくてすいません(笑)


今後の主要キャラクターになると思います!

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