男話
12月は憂鬱な時期だ。
12月が楽しかった時期は、僕の人生では一度もない。
小学生のときは、休み時間になると同級生が雪合戦をしようと言ってくるのが嫌だった。
中学生の頃は冬にある持久走が嫌で、仮病を使って保健室に隠れていた。
高校はサボった。
大学は、まあ大学生ともなるとさすがに分別がつくので、サボったりはしなくなったが嫌なものは嫌なのだ。
なぜ冬になると憂鬱になるのか。
セロトニンの分泌量が減るからか?
永遠の謎である。
この理論はどうやら女子には当てはまらないらしい。
女性陣は気温が低くなるにつれ饒舌になり、上戸になり、元気になった。
マミ、阿澄、梓、マリナの四人は、日中町内を案内してもらうとかで朝早く出て行った。
工場が手薄になってはいけないのでユキは残った。
彼女は元気の塊みたいな女だ。
そもそも夏でも元気だった。
あれは例外だ。
僕と田中、鈴木は三人でぼうっと外を眺めている。
どんな目つきかというと、老人が縁側に座って庭を眺めているようにだ。
「ああ、今日は何曜日だったけな?」と考えいるような表情。
元気のいい婆さんに「掃除をするからどけ」と言われて追っ払われる顔。
ユキは鼻歌まじりで自分の銃の手入れをしている。
「なあ、最近変じゃないか」
「わかる」
鈴木が返事をする。
「この前ゾンビを撃つときに、ちょっとかわいそうだなって思っちゃったよ」
「それ、わかる」
「昨日畑に水をやってるときに、自分って何なんだろうって考えたよお」
「めっちゃ、わかる」
「お前もそういうことを考えるようになったんだな」
僕は大あくびをした。
この時期は一日中眠い。
空をじっと眺めていると、スウッと意識が飛びそうになる。
「ゾンビってよお、あいつら何食ってんだろうなァ」
「そりゃあ、人間だろ」
「人間なんてどこにもいないじゃんか」
鈴木に言われてハッとした。
人間などどこにもいない。
ならばゾンビたちは何を食べて生きているのだろう。
死んでいるとはいえ栄養摂取せず動けるとは思えない。
「不思議だよなァ」
しかし田中の間の抜けた感想に、疑問を突き詰めて考えるのが馬鹿らしくなった。
これは後でマミがいるときに考えよう。
「あ、見ろよ。ゾンビだぜ。なんかやってる」
「マリナが撃った奴だ。ということはイワンはあの道を通らなかったんだな」
「結構距離があるなァ。マリナちゃんが仕留めたのか」
マリナが撃ったゾンビは、道の端に這って移動して、側溝に頭を突っ込んで動けなくなっていた。
あのまま放っておいて、いつまで生きているのか観察しても良さそうだ。
「そういやカズヤとトモヤは? 右雄もいないぞ」
鈴木が言う。
「あいつらなら中島んところだ。筋トレだよ」
「俺も鈍ってっからよお、筋トレしようかなァ」
マクドナルドでダラダラする男子高校生のような会話の調子だ。
このような空白の時間をいかに楽しむかに人生がかかっていると言っていい。
「夜飯なんだろうなァ」
「まだ昼飯も食ってないぞ」
「あ、忘れてた」
こんな調子で、僕たちは女性陣が帰ってくるまで話をした。




