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そして大宴会の音は街中に轟く

挿絵(By みてみん)


火炎放射器を試したいというユキが、騒ぎながら敷地に出た。

止めるのも聞かずに、彼女は消火器を背負ってノズルを天に掲げた。

一体何をするつもりだ?


ノズルは倍の長さに延長してある。

暗いのと遠い(僕は二階から見ている)のでよく見えないが、取手に変なものが括りつけられていた。

ユキが操作すると、変なものから青い炎が出た。

ガスバーナーだ。


炎が天高く舞い上がる!

中身を詰め替えていたらしい。

イワンも危なっかしいと思ったのか、ユキの後ろからノズルを支えて向きを変えさせた。


消火器の中身を変えるなんて信じられない。

それにしても、ユキは飲んでもいないのにどうしてあれだけはしゃげるんだ。


「危ないから離れたところでやれ!」

僕は二階から叫んだ。


炎の高さは僕たちのいる二階よりも更に高い位置にまで上がっていく。

落ちたら消火しづらい添加物入りの炎だ。

もし工場に燃え移ったら洒落ではすまなくなる。


「たまやー!」


炎の光に気づいたマミが、窓際に来て掛け声をかける。


「かぎやー!」


それに釣られたかのように、他の面々も叫ぶ。

「花火じゃないんだぞ……」

真っ暗闇に炎の柱。

目立つなんてもんじゃない。

周囲にいるゾンビを誘いだしているようなものだ。


僕は庭に走った。

いくらなんでもやりすぎだ。

酔っているとはいえ分別をなくすのはいただけない。


「おい、イワン。ユキを止めるんだ」


炎と叫び声で、近づかなければ聞こえないようだ。

僕が離れろと言ったので、彼らは敷地のギリギリで道側に炎を撒き散らしている。


「フォーゥ!」


イワンが裏声で叫び、腰からMP-443を抜いて頭上に発砲した。

突然の事だったのであっけにとられる。

9発ほど撃った後、彼は拳銃をしまって、真顔でこちらを見た。


「今なんで撃った」

「酔った。Извините(イズヴィニーチェ)

「謝っても遅いわい」


耳を澄ませると、羽音が四方八方から聞こえる。

近頃ご無沙汰だった翅型ゾンビの大投入というわけか。


「イワン、ハンヴィーで裏にまわってくれ。重機関銃で敵を一掃しろ」


真面目な表情になったイワンが、ユキを連れてハンヴィーに駆ける。

僕もすぐさま工場内に戻って、正面から来る敵を迎撃するために重機関銃を準備する。


「鈴木、みんなを一階に避難させて護衛につけ。阿澄とマミは軽機関銃で迎撃」

「アイアイサー」


敵は全方向からやってくる。

そのとき、工場の周囲が一挙にパッと明るくなった。

視線を上げると、空中に火の玉が浮いている。


「イワンのやつ照明弾を撃ちやがった」

事態は悪くなる一方だ。


指示を待たずに射撃を開始したマミと阿澄。

敵はすぐ側まで迫っている。

僕も重機関銃の引き金を引く。


工場の後ろに向かわせたハンヴィーからも、重機関銃を乱射する音が聞こえる。

時折ゴーッと音がしているのは、ユキが火炎放射器を使っているのだろう。

使うなと言ったのに、話を聞かない奴だ。


日中の戦闘とは違い、暗視装置ごしに撃つ夜間の戦闘は現実感がない。

ゲームでもしているかのような感覚だ。


「マミ! マミ!」


隣の窓から射撃しているマミに声をかける。

戦闘中なので必然的に大声での会話になる。


「マミ! カリフラワーの乗ったクラッカー美味かったよ!」

「なんて言った? 聞こえない! 再装填リロード!」

「クラッカーが美味かったって言った!」


マミは銃弾をガシャガシャやっている。

「クラッカーは買ったやつでしょ!」


「違う! マミが作ったクラッカーが良い味だったって!」

再装填リロードを終えたマミが再び撃ちまくる。

「デベロッパーがどうしたって?」


「クラッカー! クラッカーが、美味かったよ!」


その日の戦闘が終わってから、僕は高校生たちからあまり話しかけられなくなった。

彼らの間で僕は密かに“クラッカーの人”と呼ばれているらしい。

僕も酔っていたのだ。

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