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雰囲気が暗いので歓迎会を催す

理想郷を目指していた夢が敗れてしまったという気持ちはわかるが、これから協力していく以上、いつまでも暗い雰囲気を引きずっているわけにはいかない。

日野市役所からやってきた中島たちとは違い、年齢の若いカズヤたちだ。

数日すれば気を取り直してくれると期待していたが、彼らは依然として暗いままだった。


なんとか元気になってもらおうと、僕はマミと相談して、歓迎会を催すことにした。

歓迎会といっても大層なものは出来ないけれど、賑やかなのはいいことだ。


たまに劇薬なみの料理を作るが、基本的には料理上手なマミは、材料を書いた紙を渡して、これを持ってくるようにと言った。

歓迎会で振る舞うための料理に使う材料である。

メモにはこう書いてある。


・クラッカー

・乾燥パスタ

・エビのオリーブオイル漬け缶詰

・オリーブオイル・サーディン缶詰

・ムール貝のオリーブオイル漬け缶詰

・オリーブオイル×3

・牡蠣のアヒージョ缶詰


「駅前のスーパーあるでしょ。あそこの売り場じゃない、バックヤードの隅に箱で積んであったのを見たから。そこから持ってきてちょうだい」


「ちょっと見過ごせない部分が多々あるんだけど」

「なに? 不満でもあるの?」

「不満というわけじゃないんだけど、このオリーブオイル率の高さは何だい?」


これじゃまるでモコズキッチンである。

もしやと思って尋ねてみたのだが、案の定


「MOCO'Sキッチンで見たのよ。オリーブオイルはお腹にいいから、どれだけ食べてもお腹壊さないわよ。あなたもお腹いっぱい食べられるってこと。感謝してよね」


そりゃあ少しなら腹に良いのかもしれないが、こんなにドバドバオイルまみれになった暁には……いや、想像するのはやめておこう。

最悪クラッカーだけを食べていればいい。


「既にオリーブオイルが入ってる缶詰を使うのに、まだ三本もオリーブオイルが要るのか?」

「追いオリーブオイルに使うのよ。茹でたパスタと野菜をあえるときにも必要でしょ。クラッカーの味付けにもなるし」


歓迎会はオリーブオイル・パーティーではないのだが、マミはどうしてもオリーブオイルを摂取したいようだ。

なるべく傷んでおらず、賞味期限が長いやつを見繕ってこよう。


「夕方には戻る。マリナと鈴木を連れて行くよ」

「気をつけていってらっしゃい」



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



いつものスーパーの裏口に乗り付ける。

見張り役に田中を銃座に残して、僕たち三人はスーパーに入った。

今回の目当てはバックヤードに集中しているので、裏口から入ったほうが手っ取り早い。


薄暗い店内はいつ見ても不気味だ。

物陰からいつゾンビが飛び出してくるかわかったものじゃない。

マリナを最後尾にして、僕と鈴木が索敵しながら進んでいく。


弾丸を節約する意識の高まった僕らは、こういう単純な任務の際はベレッタ92を使用するようになっていた。

通常のゾンビであれば、9x19mmパラベラム弾でも無力化できる。

唯一の問題は命中率だったが、20m内であれば15cmの的に1マガジン当てられる腕前になるまで、イワンの特訓を受けた。


「台車はどこにやった。前来たときには誰が使った」

僕が尋ねた。

「くそっ、田中が雑誌コーナーに持ってったんだ。小学生が読むような付録つきの少女漫画を大量に運ぶって」


「それじゃあ正面玄関の方にあるのか」

「いや、そんなもの読むなんて馬鹿じゃないの、ってユキに言われて、雑誌コーナーに置きっぱなしだ」

「使ったら戻しとけよな」


やむを得ず、レジ横にある雑誌コーナーに歩みを進める。

せっかく裏口から入ったのに二度手間である。

マリナにカゴを持たせて、パスタやクラッカーを先に回収することにした。


棚と棚のあいだをクリアリングしながらレジ横を目指す。

毎度のことながら、気の遠くなる作業である。

以前イワンと一緒に食料調達に来た際、彼はまるで普通に買い物するようにクリアリングしていた。

あんな芸当は特殊部隊にでもいない限り無理だ。


イワンに発見された可哀想なゾンビは、瞬間的に組み伏せられ、驚異的に発達した上腕二頭筋の捻りによって首を折られた。

普通のゾンビには弾丸を使うまでもないというわけか。


レジ横に行くには、洗剤コーナーの前を通らなければならない。

イワンがゾンビの首をへし折った場所だ。

通りかかるとき、拳銃を握る手に力が入る。


首をへし折られたゾンビの死体の横で、新たなゾンビが洗剤を漁っていた。

僕からするとゾンビの体は横向きになっているので、咄嗟に発砲するも弾丸は横隔膜と十二指腸のあるあたりに命中した。

突如、ゾンビの腹が何倍ものサイズに膨れ上がり、その場で爆散した。


体内で発生したメタンガスかなにかのせいだろう。

滅多にあることではないので、僕は驚いて後方に飛び退いた拍子に、背中をマリナの頭にぶつけた。


「ここまでくると、こいつらがどうやって動いてるのか疑問だな」

僕はため息混じりに言った。

「違いねえ」

鈴木が相槌をうつ。


食料調達では、発砲が電撃戦の合図だ。

音を聞きつけたゾンビが集まってくるので、発泡した後はクリアリングをすっ飛ばして、目的の品を最短時間で確保できるよう迅速に行動する。

小走りで雑誌コーナーに行き、台車をかっさらうと、菓子と油コーナーを経由して、バックヤードに戻った。


台車に缶詰を積んでハンヴィーまで押していくと、呑気な田中は銃座で口笛を吹いていた。

これは後で正座させる必要がありそうだ。

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