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個人経営のスーパーで一晩過ごす

連合離反から数日、若者たちは道路に停まったままの車を整理しながら移動したので、行程は遅々として進まず、数日かけてやっと三鷹駅周辺に到達したところだった。

彼らの読みでは、理想郷は多摩川を越えた先にあった。

最悪でも高尾かそのあたりにあり、それ以上先の山には何もないと考えていた。


ヘリコプターからの音信が途絶えたのもちょうど高尾上空だったので、あながちハズレとも言えない読みだった。

三台のライトバンで走行するのは至難だ。

とくに都心から離れるにつれ道の状態が悪くなり、狭いところに大量の車が捨ててあるため、18人で協力してもなかなか道をあけられなかった。


晩になると、休憩がてらゾンビが寄り付かなそうな建物を勘で選び、食料調達もかねて寝泊まりした。

運転手を優先的に休ませなければならないため、離反言い出しっぺの三人は率先して警備にあたった。

自治区にいる頃は嫌がって警備などしなかったのに、自分たちの生命がかかっているとなれば、嫌だとも言っていられない。


マリナ、トモヤ、カズヤの三人は暗がりの中、仲間たちが寝静まるのを待って会話し始めた。

こうして三人で話せるのは、今となってはこういう時間しかない。


「荒らされた形跡がまったく無い。やっぱりこっちには生き残ってる人はいないのかしら」

「そんなことはない。今に多摩川を越えればたくさんいるさ」

不安がるマリナをトモヤが励ます。


「こっちは静かなもんだ。ゾンビの数も都心より断然少ない」

カズヤが言う。


「嵐の前の静けさと言うわ。渋谷駅分隊からの報告、聞いたでしょ。変なゾンビに襲われたって。詳しくは聞かなかったけれど、大丈夫かしら。心配だわ……」

「どんなゾンビだろうとあの人数がいれば大丈夫さ。アルミ材だって渋谷駅が一番持ってたろ」

トモヤは辛抱強く励ますが、マリナの不安は広がるばかりだ。


「ほんとに西に行けば理想郷があるんでしょうね」

「それを疑っちゃあオシマイだよ。なあに、今にアメリカ軍が出迎えてくれる。そうなったらマリナ、君の出番だ。英語がペラペラなのはマリナだけなんだから」

「私ペラペラじゃないわ。TOEICだって700点がいいところよ」


「俺なんか英語のテストで24点とったことあるぜ。700点なんてすげえじゃんか」

カズヤが場を和まそうと言う。


「それはそうと、カズヤ」

トモヤが声を低くして言う。

「走っているときに馬場さんが、西じゃなくて南に行ったらどうかと言ってたぞ。大島まで行けば本州と分断されてるからゾンビはいないだろうって」


「PARCOにいたときに決めたじゃんか。満場一致で西に向かうって。それを今更変更なんて、全員納得しないだろ」

「それがな、俺が乗った車にいた奴らは、それがいいって馬場さんの肩を持つんだ。馬場さん煙草吸ってるし、肩に刺青タトゥーあるから、恐がって逆らえないんだよ」


「刺青って別れた彼女の名前だろ? ビビることなんかない」

「彼女の名前でも刺青は刺青だ」


三人は指導役として三台の車にそれぞれわかれて乗っている。

意見をまとめやすくするための案だったが、こうして実際に意見が割れてくると、把握しているぶん厄介になる。

誰が何を考えているか、自分たちが連合を裏切ったように、裏切られるのではないか。


「心配なのはマリナだよ。女だから、抑えこまれたら抵抗できない」

トモヤが耳打ちをする。

「聞こえてるわよ。変なことされたら噛み付いてやるから平気だって」


「今ならまだ僕たちの言うことに従うはずだ。明日からは人員を入れ替えて、マリナは女子が多く乗ってる車に乗ってもらおう」

「馬場さんがまた文句言うぜ。女子が助手席に座らないと機嫌悪くなるから。カズヤ説得してくれよ」

「わかった。起きたら話してみる」


現状“さん”づけで呼んでいるよう、既に高校生は25歳の馬場雅功ばばまさとしに逆らえないでいる。

命令ではなくお願いする形で要求を伝える。

このような歪が集団の雰囲気を悪くしていた。

もしゾンビの襲撃にあっても、統率のとれた戦闘は不可能だろう。


彼らの頭のなかには、自治区で身につけた人海戦術しかない。

物資、人数ともに劣った環境で同じ戦術をとるのは無理である。

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